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林野庁

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第 I 章 新たな森林管理システムの構築

1. 我が国の森林管理をめぐる課題

(1)森林の多面的機能の発揮に向けた望ましい姿の実現に向けて

○森林は地球温暖化防止や災害防止・国土保全、水源涵(かん)養、木材等の物質生産等の多面的機能を有しており、それぞれの森林に応じた望ましい姿に誘導され、健全な状態で維持されることによって、広く国民一人一人に対して機能を発揮。

○持続可能な森林の経営は国際社会においても共通の認識であり、間伐を繰り返し実施したり、主伐・再造林によって循環的に利用していくなど、林業の成長産業化を実現するとともに、森林の有する公益的機能を将来に向けて持続的に発揮させていくことが重要。

○私有林の人工林(約670万ha)の約3分の1は既に集積・集約化し経営管理されていると推計。新たな仕組みの導入により経営管理の集積・集約を促進し、林業経営に適した森林(約3分の1)は意欲と能力のある林業経営者により林業的利用を継続し、林業経営に適さない森林(約3分の1)は、市町村の管理により自然に近い森林に誘導。


(2)森林資源の充実とその利活用の状況

○我が国の森林面積は国土面積の約3分の2にあたる約2,500万haであり、このうち約1,000万haが人工林。人工林の約半数が10齢級以上となり、主伐期を迎えている状況。

○主伐期を迎えた人工林の直近5年間の平均成長量は、推計で年間4,800万m3であるが、主伐による原木の供給量は近年増加傾向にあるものの、平成27(2015)年は1,679万m3と平均成長量の4割以下の水準。

○このように、人工林資源はかつてないほど充実。人工林が本格的な利用期を迎えた今、「伐る、使う、植える、育てる」といった森林資源の循環利用を確立させながら、多様で健全な森林の整備及び保全の推進、効率的かつ安定的な林業経営に向けた施策を推進していく必要。



(3)我が国林業の構造的な課題

○我が国の林業は、森林資源が十分に活用されていない現状にあり、これは、森林所有者の現状を維持したいとの意向や主伐、再造林、保育といった循環的な経営を行う意欲が低いことと林業経営者の規模拡大指向とのミスマッチ、路網整備や高性能林業機械の導入が進んでいないこと等が原因。これらの課題は海外との比較により、より具体化。これらの課題を解決するため、新たな森林管理システムの構築が必要。

○欧州の代表的な林業国であるオーストリアは、欧州の中では森林所有規模が小さく、所有面積が50ha未満の森林所有者による森林面積が約3割であるのに対し、ドイツでは約1割。日本は更に所有規模が小さく、オーストリアにおける施業の集約化が参考。

○同国では供給量の少なかった中小の森林所有者からの丸太供給を進めるため、1970年代から、公的な組織である農業会議所が主導して組織したWWG(※1)(林業組合)や WV(※2)(林業組合連合会)などにより、施業の集約化や丸太販売の協同化を推進。

※1 WWGはWaldwirtschaftsgemeinschaftの略。

※2 WVはWaldverbandの略。



○オーストリアの木材産業では、製材技術の革新により製材工場の大規模化が進んでおり、現在では、丸太消費量50万m3/年以上の大型製材工場が各地で出現し製品輸出を促進。このため、丸太の需要は大幅に増加しており、針葉樹丸太生産量も1970年代と比べてほぼ倍増。日本においても大型製材工場の出現により国産材の需要が増加しており、今後一層、丸太の供給体制を整える必要。

○オーストリアでは、これまでに高密度の路網整備や高性能林業機械の導入も進展し、効率的な素材生産を確保。また、ヨーロッパトウヒを主体とした森林では天然更新が主。日本は、地形が急峻であり多種多様な地質が複雑に分布していること、主要樹種であるスギ・ヒノキには植栽が必要であることなど、状況に違いがあるものの、一層の効率化を進める必要。

○オーストリアと日本の木材価格に占める丸太生産や流通、立木価格といったコストの構成割合を比較すると、我が国では丸太生産や流通に占めるコストが大きい傾向。このため、我が国の林業では、丸太生産のみならず、流通の効率化にも取り組む必要。

丸太価格におけるコスト比較

コラム オーストリアの自然災害と木材価格の関係

オーストリアではしばしば風水害等の自然災害が生じており、2008年には約1,000万m3を超える被害が発生。翌年には、キクイムシの一種であるBark beetleによる被害量が前年から約1.5倍の約300万m3に増加。被害木の処理により大量の丸太が供給されることに連動して、材価も2009年には70€/m3に下落。自然災害が少ない2011年以降には100€/m3まで上昇。同国から日本に輸入される木材の価格にも影響する可能性。


2. 森林・林業の再生に向けた取組の成果と現状

○我が国においては、間伐等の森林整備の推進や国産材の需要拡大により、供給量についても大幅に増加しており、平成28(2016)年には木材自給率が34.8%に達するなど森林・林業の再生に向けた兆し。

○一方で、森林経営計画の認定率について約3割にとどまっているほか、路網整備や人材の育成・確保等の更なる取組が必要。

○林業の生産性は向上しておらず、山元の利益が十分に確保されない中、再造林費用を負担することが難しく、循環的な林業が実現できる状況には至っていない。


3. 新たな森林管理システムの構築の方向性

(1)林業の成長産業化と森林資源の適切な管理

○我が国の人工林の約半数が主伐期を迎えている中、森林の有する公益的機能を持続的に発揮しつつ、林業の成長産業化を実現させていくためには、森林所有者による森林の経営管理の責務を明確化した上で、我が国林業の課題を打破していくための仕組みを構築し、適切な森林管理が行われていくことが必要。

事例 西粟倉村(にしあわくらそん)百年の森林(もり)構想

岡山県の西粟倉村は村の面積5,800haのうち93%を森林が占めており、人工林の多くが50年生を迎えている。これを村ぐるみで適切に管理し、美しい森林に囲まれた上質な田舎を実現するとの「百年の森林構想」を村の方針として打ち立て。

この中では、個人所有の森林を村が預かって管理・整備を行う「長期施業管理に関する契約」を進めることとしており、契約目標の私有林3,000haに対して、平成29(2017)年12月現在約1,500haの契約を締結。地元の地方公共団体が主体的に森林管理に関わるとの安心感により、契約を伸ばしているところ。


(2)意欲と能力のある林業経営者への森林の経営管理の集積

(ア)森林所有者自らが森林の経営管理ができない森林の市町村への経営管理権限の集積

○森林所有者自らが森林の経営管理を実行できない場合に、市町村が森林の経営管理の委託等を受け、意欲と能力のある林業経営者につなぎ、森林の経営管理の集積・集約化を行うとともに、自然条件が悪く再委託ができない等の森林は市町村が管理を行う仕組みの構築。

新たな森林管理システム

(イ)意欲と能力のある林業経営者の育成

○森林所有者・林業従事者の所得向上につながる高い生産性や収益性を有することや、主伐後の再造林の実施体制を有するなど林業生産活動の継続性を確保できることといった、効率的かつ安定的な林業経営を実現できることなどが、意欲と能力のある林業経営者に求められている。

○森林組合や素材生産業者、自伐林家等がこうした林業経営者の対象と見込まれ、地域の実情に応じて、育成・確保を図ることが重要。

事例 伐採搬出ガイドラインサミット

宮崎県の素材生産事業体を中心に設立された「ひむか維森の会」では、平成20(2008)年に素材生産を行う際の「伐採搬出ガイドライン」を策定し、素材生産に係る環境負荷の低減や、再造林支援を促す等の取組を推進。平成23(2011)年には、環境配慮や資源循環(主伐後の再造林)、労働安全に関する、「責任ある素材生産事業体」の認証制度を発足。

同会ではこうした取組の全国への普及にも努めており、「伐採搬出ガイドライン」の活動を広げるため平成29(2017)年9月に、「伐採搬出ガイドラインサミットin宮崎・九州」を開催。全国から73の事業体等が参加し、ガイドラインを九州全域への展開を目指す新たな連携協議会の設置等に取り組むことを宣言。


(ウ)自然的条件等が不利な森林の適切な管理

○自然的条件等から経済ベースで自立した林業経営を行うことが困難な人工林については市町村の公的管理により適切な施業が実施されることが必要。その際には、管理コストが小さくなるよう、針広混交の育成複層林等の公益的機能を発揮する森林へと誘導する必要。

○市町村が自らの事業として実施する森林整備等に必要な財源に充てるため、国民皆で森林を支える仕組みとして、森林環境税(仮称)の創設が「平成30年度税制改正の大綱」において取りまとめ。

○奥地の天然林については、引き続き天然力を活用して維持。里山林については、期待する多面的な機能に応じて手入れを実施するなど、引き続き適切な管理を実施。


(3)森林の経営管理を集積していく上での条件整備

(ア)所有者不明森林への対応

○所有者が不明である土地は、国土交通省の調査によると全体の約2割。特に森林については、4分の1を超えている状況。これまで、新たに森林の土地の所有者となった者の届出制度により把握に努めてきたほか、平成28(2016)年の森林法改正では、市町村が所有者情報等を記載した林地台帳を作成する制度を創設。

○平成23(2011)年の森林法改正により、所有者が不明であっても、早急な間伐を行うことが必要な森林の間伐の代行ができる要間伐森林制度を措置。平成28(2016)年の同法改正により、共有林の所有者の一部が不明な場合でも、伐採・造林ができる共有者不確知森林制度を措置。

○新たな森林管理システムにおいても、所有者不明森林も含めて適切な森林管理が促進されることが必要。

平成28年度地籍調査における土地所有者等に関する調査

(イ)境界不明森林への対応

○これまで森林GISの導入等を進めるとともに、境界不明森林における境界の明確化に取り組んできたところ。森林の境界確認に空中写真と森林GISのデータを利用するなど、業務の効率化を図る取組も実施。

事例 境界の確認等におけるドローン(無人航空機)活用の取組

(公社)徳島森林づくり推進機構では、「儲かる林業のためのドローン技術による高精度森林情報整備事業」を実施。同事業では、ドローンを活用した図面を作成し、高齢者や不在村者など現地での境界確認が困難であったり、森林資源の把握と経済価値の判断が難しいなど、地域の森林・林業が抱える課題解決のために活用。


(ウ)路網整備の推進

○これまで、路網作設に係る技術の蓄積や技術者の育成等を進め、路網整備の推進を図ってきたところ。路網の現況延長はいまだ低位にあることから、路網整備を一層進める必要。


(エ)市町村の体制の整備

○新たな森林管理システムの下では、市町村が新たな事務を担うことになるものの、施策を展開するための体制が十分ではない市町村が多い状況。

○このため、国や都道府県による支援や、森林総合監理士(フォレスター)等の技術者の地域林政アドバイザー(※)としての活用、地方公共団体間の連携を進めていくことが重要。

※ 森林・林業に関して知識や経験を有する者を市町村が雇用等することを通じて、森林・林業行政の体制支援を図る制度。平成29(2017)年度に創設。


4. 新たな森林管理システムの構築に向けた川上と川下の連携

○新たな森林管理システムを活かし林業の成長産業化を進めるためには、木材の生産流通構造改革を進めていく必要。

○素材生産業者等と製材業者との間、また、製材業者と木材需要者の間には、原木・製品市場や木材問屋、商社など様々な主体が介在している現状。

○このため、川上から川下までの連携を進め、流通コストの削減や木材需要の拡大を図るため、マーケットインの発想によるサプライチェーンの再構築の促進等の取組が必要。

○製材工場や木材市場等による森林の購入や経営受託など、新たな担い手による林業への参入の動き。

事例 伊万里(いまり)木材市場の取組

(株)伊万里木材市場は佐賀県伊万里市に本社、また、九州各地に営業所を持ち、約54万m3(平成28(2016)年)の原木(丸太)を取り扱う木材市場。同時に、森林整備や原木の安定供給のためのサプライチェーンの構築等、川上から川下までの様々な事業を実施。

同社では、原木調達の強化を目的として、森林所有者と契約期間を40~50年とする「長期山づくり経営委託契約」を結び、森林の管理経営の実務を同社と協力素材生産業者が実施。契約期間中に生産された原木は同社は全量買い取ることとし、この間の収益を育林の費用に積み立て、主伐・再造林を進めながら、安定的な丸太の調達とともに、山元への収益の還元も行える取組を実施。

○合板や木質バイオマス利用によるB材、C材の需要が増加する一方で、今後は住宅着工戸数の伸びが期待できないことなどから、木造率が低位である非住宅分野において、A材需要を生み出していくことが重要。

○比較的大規模であることが多い非住宅建築物等において、厳密な構造計算を行う際には、JAS製品を用いる必要。非住宅分野におけるA材の需要拡大のためには、JAS製材品を安定的に供給していく必要。



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