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林野庁

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第1部 第 V 章 第2節 国有林野事業の具体的取組(2)


(2)林業の成長産業化への貢献

現在、施業の集約化等による低コスト化や担い手の育成を始め、林業の成長産業化に向けた取組の推進が課題となっている。

このため、国有林野事業では、その組織、技術力及び資源を活用し、多様な森林整備を積極的に推進する中で、森林施業の低コスト化を進めるとともに、民有林関係者等と連携した施業の推進、施業集約化への支援、林業事業体や森林・林業技術者等の育成及び林産物の安定供給等に取り組んでいる(事例 V -6)。

事例 V -6 「信州プレミアムカラマツ」信州産カラマツのブランド化の取組

中部森林管理局は、長野県と共同で、県内産の林齢80年以上の高齢級カラマツ人工林から径級30cm以上の良質な大径材丸太を厳選し「信州プレミアムカラマツ」と称して供給・販売を開始した。

高齢級カラマツは、木材の性質が安定化し、ねじれが生じにくい成熟材が多くなること、スギやヒノキと比べ強度が優れていることに加え、心材部分が飴(あめ)色できれいな木目になり、無垢の横架材(梁(はり)、桁など)に適していること等の特徴がある。

林齢80年生以上のカラマツの資源量は、長野県が全国一で、国内の45%を占めており、大正から昭和初期に植栽された人工林から高品質のカラマツを継続的に供給できる見通しが立ったことから、林業の成長産業化や地域振興へつなげる目的で、ブランド化して売り出すことにした。

平成29(2017)年10月25日には、上松町(あげまつまち)にある木曽官材市売協同組合の「日本美林まつり」の記念市において、「信州プレミアムカラマツ」の初競りが行われた。この競りには、北信、中信及び南信地区の国有林から21本、約16m3、小海町(こうみまち)の民有林から12本、約6m3、合計33本、約22m3が出品され、その一部は通常の2倍以上の高額で落札されている。

記念発表会の様子
記念発表会の様子
信州プレミアムカラマツ
信州プレミアムカラマツ

(低コスト化等に向けた技術の開発・普及と民有林との連携)

国有林野事業では、事業発注を通じた施策の推進や全国における多数の事業実績の統一的な分析等が可能であることから、その特性を活かし、植栽本数や下刈り回数・方法の見直し、シカ防護対策の効率化等による林業の低コスト化等に向け、先駆的な技術等について各森林管理局が中心となり、地域の研究機関等と連携しつつ事業レベルでの試行を進めている。さらに、現地検討会等の開催による地域の林業関係者との情報交換や、地域ごとの地形条件や資源状況の違いに応じた低コストで効率的な作業システムの提案及び検証を行うなど、民有林における普及と定着に努めている(資料 V -8、事例 V -7)。

事例 V -7 林業の低コスト化等に向けた現地検討会の開催

現地検討会の様子(斜め張り防護柵)
現地検討会の様子(斜め張り防護柵)
現地検討会の様子(飛び越え防止テープ)
現地検討会の様子(飛び越え防止テープ)
現地検討会の様子(列状間伐)
現地検討会の様子(列状間伐)

近畿中国森林管理局は、林業の低コスト化等に向けて、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所関西支所と連携した取組として、平成29(2017)年10月、管内の大師谷(だいしだに)国有林(岡山県備前(びぜん)市)等において、シカ被害防護対策と列状間伐による山づくりに関する現地検討会を開催した。

現地検討会では、同森林管理局等の職員を始め、関係する府県、市町村、森林組合等から参加した延べ166名が、ネットを垂直に張り巡らせる一般的な方式の防護柵に比べて、ネットを斜めに張ることでシカが飛び越えにくい「斜め張り防護柵」や、国内で一般的に用いられている足用の「くくりわな」に比べて、シカを餌で誘引し、採餌中のシカの首を拘束するため捕獲効率が良い「首用くくりわな」を設置した現地を視察しつつ、それらの有効性等に関する意見交換等を行った。

また、平成2(1990)年に同森林管理局管内の国有林で列状間伐を初めて採用した箇所において、同森林管理局から列状間伐の施業実施上の効果や作業コストの低減効果等を説明し、民有林での導入の意義等についての意見交換を行った。

特に近年は、施工性に優れたコンテナ苗の活用による効率的かつ効果的な再造林手法の導入・普及等を進めるとともに、植栽適期の長さ等のコンテナ苗の優位性を活かして伐採から造林までを一体的に行う「伐採と造林の一貫作業システム(*6)」の実証・普及に取り組んでいる。この結果、国有林野事業では、平成28(2016)年度には1,232haでコンテナ苗等を植栽し、556haで伐採と造林の一貫作業を実施した(資料 V -9)。


なお、コンテナ苗の活用に当たっては、実証を通じた技術的課題の把握等を行い、我が国でのコンテナ苗の普及に向け、生産方法や使用方法の改善を支援することとしている。

また、国有林野事業では、地域における施業集約化の取組を支援し、森林施業の低コスト化に資するため、民有林と連携することで事業の効率化や低コスト化等を図ることのできる地域においては、「森林共同施業団地」を設定し、国有林と民有林を接続する路網の整備や相互利用、連携した施業の実施、国有林材と民有林材の協調出荷等に取り組んでいる。

平成28(2016)年度末現在、森林共同施業団地の設定箇所数は164か所、設定面積は約38万ha(うち国有林野は約21万ha)となっている(資料 V -10、事例 V -8)。


事例 V -8 民有林と連携した森林共同施業団地の取組(民国連携による森林整備、路網整備、シカ被害対策など多様な取組の実施)

近畿中国森林管理局奈良森林管理事務所(奈良県奈良市)では、奈良県野迫川村、野迫川村森林組合、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林整備センター奈良水源林整備事務所、木原造林株式会社との間で「森林整備推進協定」(区域面積434.51ha)を締結し、国有林と民有林が連携した間伐等の実施や効率的な路網整備を推進している。

平成29(2017)年度には、同村内の民有林において、国有林の林業専用道を利用し、主伐及びその後の造林(0.97ha)を実施したほか、国有林においても、民有林内の作業道を起点として森林作業道を作設し、主伐(0.38ha)及び利用間伐(28.20ha)を実施した。

また、協定区域内には、奈良県森林被害緊急対策広域協議会のモデル事業実施場所があることから、同協議会と連携してくくりわなによるシカの捕獲(17日間、9頭)を実施し、野生鳥獣による森林・林業への被害軽減にも取り組んでいる。

平成30(2018)年度以降においても、連絡調整会議を開催し、各協定者の事業予定を共有することで、国有林と民有林が連携した取組を推進することとしている。

民有林における伐採区域及び路網配置等についての現地検討の様子
民有林における伐採区域及び
路網配置等についての
現地検討の様子
国有林における利用間伐(列状)の様子
国有林における利用間伐(列状)の様子


また、近年、森林・林業分野でも活用が期待されている、操作が容易かつ安価なドローン等の小型無人航空機について、山地災害の被害状況及び事業予定のある森林の概況の調査等への活用や実証に取り組んでいる(事例 V -9)。

事例 V -9 ドローンを活用した災害活動支援協定の取組

四国森林管理局では、急峻(しゅん)な地形が多い地域特性を踏まえ、森林施業の省力化等にドローンを活用しており、徒歩による巡視で実施してきたシカ食害防止ネットの点検について、作業時間の短縮や労力の軽減を目的に、ドローンの空撮画像等を活用する実証試験に取り組むなど活用の幅を広げている。

このような中、平成29(2017)年5月、四国森林管理局嶺北(れいほく)森林管理署(高知県本山町(やまもとちょう))は、高知県嶺北地域4町村(本山町・大豊町(おおとよちょう)・土佐町(とさちょう)・大川村(おおかわむら))及び嶺北広域行政事務組合消防本部と、ドローンを活用した災害活動支援協定を締結した。この協定に基づき、同署は、台風等の自然災害により嶺北地域で林野災害が発生した際には、ドローンを活用して空撮を行い、被災状況の確認等の支援を行うこととなった。

協定締結式
協定締結式
ドローンで撮影したシカネット
ドローンで撮影したシカネット

(*6)伐採と造林の一貫作業システムとは、伐採から植栽までを一体的に行う作業システムのこと。詳細については、第III章(99-100ページ)を参照。



(林業事業体及び森林・林業技術者等の育成)

国有林野事業は、国内最大の森林を所有する事業発注者であるという特性を活かし、林業事業体への事業の発注を通じてその経営能力の向上等を促すこととしている。

具体的には、総合評価落札方式や2か年又は3か年の複数年契約、事業成績評定制度の活用等により、林業事業体の創意工夫を促進している。このほか、作業システムや路網の作設に関する現地検討会の開催により、林業事業体の能力向上や技術者の育成を支援するとともに、市町村単位での今後5年間の伐採量の公表や森林整備及び素材生産の発注情報を都道府県等と連携して公表することにより、効果的な情報発信に取り組んでいる。

また、近年、都道府県や市町村の林務担当職員数が減少傾向にある中、国有林野事業の職員は森林・林業の専門家として、地域において指導的な役割を果たすことが期待されている。このため、国有林野事業では、専門的かつ高度な知識や技術と現場経験を有する「森林総合監理士(フォレスター)」等を系統的に育成し、市町村行政に対し「市町村森林整備計画」の策定とその達成に向けた支援等を行っている。

さらに、事業の発注や研修フィールドの提供、森林管理署等と都道府県の森林総合監理士等との連携による「技術的支援等チーム」の設置等を通じた民有林の人材育成を支援するとともに、大学など林業従事者等の育成機関と連携して、森林・林業に関する技術指導に取り組んでいる(事例 V -10)。

事例 V -10 大学と連携した森林・林業に関する技術指導

講義の様子
講義の様子

九州森林管理局は、鹿児島大学との協定等に基づき、平成20(2008)年から、同大学が主催する「高度林業生産システムを実現する「林業生産専門技術者」養成プログラム」における路網設計等の講習に職員を講師として派遣し、林業事業体の職員に対する技術指導を行っている。

平成29(2017)年度は、7名の受講者に対し、森林作業道作設のポイントや効果的な路網線形の描き方についての講義や、森林作業道作設の演習等を行い、この結果、累計の受講者数は155名に達している。

同森林管理局は、新たに九州大学、熊本県立大学、宮崎大学及び琉球大学とも同様の協定を締結し、学生教育への協力など将来の森林・林業を支える技術者の育成を推進することとしている。


(新たな森林管理システムへの貢献)

新たな森林管理システムが、効率的に機能するよう、国有林野事業においても積極的に貢献していく必要がある。このため、現在取り組んでいる森林共同施業団地等における林道の相互接続及び伐採木の協調出荷や、低コスト化に向けた技術の普及等の民有林との連携を一層推進することに加えて、市町村が集積・集約した森林の管理を担うこととなる意欲と能力のある林業経営者に対しては、国有林野事業の受注等の機会が増大するような配慮を行うよう検討している。また、国有林野事業で把握している林業経営者の情報を、市町村に提供することについて検討することとしている。


(林産物の安定供給)

国有林野事業では、公益重視の管理経営の下で行われる施業によって得られる木材について、持続的かつ計画的な供給に努めることとしている。国有林野事業から供給される木材は、国産材供給量の約2割を占めており、平成28(2016)年度の木材供給量は、立木によるものが153万m3(丸太換算)、素材(丸太)によるものが260万m3、全体として前年度より4万m3増の計413万m3となっている。

国有林野事業からの木材の供給に当たっては、集成材・合板工場や製材工場等と協定を締結し、林業事業体の計画的な実行体制の構築に資する国有林材を安定的に供給する「システム販売(*7)」を進めている。システム販売による丸太の販売量は増加傾向で推移しており、平成28(2016)年度には丸太による販売量の68%に当たる178万m3となった(資料 V -11)。また、システム販売の実施に当たっては、民有林所有者等との連携による協調出荷に取り組むとともに、新規需要の開拓に向けて、燃料用チップ等を用途とする未利用間伐材等の安定供給にも取り組んでいる。

さらに、国有林野事業については、全国的なネットワークを持ち、国産材供給量の約2割を供給し得るという特性を活かし、地域の木材需要が急激に変動した場合に、地域の需要に応える供給調整機能を発揮することが重要となっている。このため、平成25(2013)年度から、林野庁及び全国7つの森林管理局において、学識経験者のほか川上、川中及び川下関係者等から成る「国有林材供給調整検討委員会」を設置することにより、地域の木材需給を迅速かつ適確に把握し、需給に応じた国有林材の供給に取り組むこととしている。また、平成27(2015)年度から、全国7ブロックで開催されている「需給情報連絡協議会(*8)」に各森林管理局も参画するなど、地域の木材価格や需要動向の適確な把握に努めている。

このほか、ヒバや木曽ヒノキなど民有林からの供給が期待しにくい樹種を、多様な森林を有しているという国有林野の特性を活かし、計画的に供給している。


(*7)「国有林材の安定供給システムによる販売」の略称。森林整備に伴い生産された間伐材等について、国産材需要拡大や加工・流通の合理化等に取り組む集成材・合板工場や製材工場等との協定に基づいて安定的に供給すること。

(*8)需給情報連絡協議会については、第 IV 章(146ページ)を参照。



(国有林野事業における民間提案募集)

平成29(2017)年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」に基づき、同8月、国有林における木材の販売方法について、長期・大ロットなど木材の安定的な調達等の観点から民間事業者等へ提案募集を行い、42件の提案が提出された。その中には、これまでにない長期・大ロットで民間事業者が立木の伐採・販売を行う新たな民間活力の導入等が盛り込まれたものがあり、現行より有利な立木資産の売却や林業の成長産業化に貢献する可能性があることから、林野庁においては、提案を踏まえ、新たな民間活力の導入の適否やその方向性等について「農林水産業・地域の活力創造プラン」における木材の生産流通構造改革の推進に資するよう検討を進めている。



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