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林野庁

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第1部 第 IV 章 第3節 木材利用の動向(2)

(2)建築分野における木材利用

(住宅分野は木材需要に大きく寄与)

我が国では、木材需要の約4割、国産材需要の半数が建築用材であるが(*180)、建築物の木造率は住宅分野で高く、新設住宅着工戸数の約半分が木造となっている(*181)。また、平成27(2015)年に農林水産省が実施した「森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」で消費者モニター(*182)に対して今後住宅を建てたり、買ったりする場合に選びたい住宅について聞いたところ、「木造住宅(昔から日本にある在来工法のもの)」及び「木造住宅(ツーバイフォー工法など在来工法以外のもの)」と答えた者が74.7%となり、「非木造住宅(鉄筋、鉄骨、コンクリート造りのもの)」と答えた者の11.1%を大きく上回った(資料 IV -40)。このように、住宅の建築用材の需要が、木材の需要、特に国産材の需要にとって重要となっている。


我が国における木造住宅の主要な工法としては、「在来工法(木造軸組構法)」、「ツーバイフォー工法(枠組壁工法)」及び「木質プレハブ工法」の3つが挙げられる(*183)。平成28(2016)年における工法別のシェアは、在来工法が75%、ツーバイフォー工法が23%、木質プレハブ工法が3%となっている(*184)。在来工法による木造戸建て注文住宅については、半数以上が年間供給戸数50戸未満の中小の大工・工務店により供給されたものであり(*185)、中小の大工・工務店が木造住宅の建築に大きな役割を果たしている。

林野庁では、安定的な原木供給、生産、流通及び加工の各段階でのコストダウンや、住宅メーカー等のニーズに応じた最適な加工・流通体制の構築等の取組、地域材の需要を喚起する取組を進めてきた。住宅メーカーにおいても、国産材を積極的に利用する取組が拡大している。

また、平成27(2015)年3月には、ツーバイフォー工法部材のJASが改正(*186)され、国産材(スギ、ヒノキ、カラマツ)のツーバイフォー工法部材強度が適正に評価されるようになった。さらに、九州や東北地方においてスギのスタッド*の量産に取り組む事例がみられるなど、国産材のツーバイフォー工法部材の安定供給体制も整備されつつある。これらの取組により、これまであまり国産材が使われてこなかったツーバイフォー工法において、国産材利用が進んでいる。また、プレハブ工法についても、国産材利用に向けた検討が進められており、今後の利用拡大が期待される(事例 IV -8)。

事例 IV -8 プレハブ建築への国産材利用に向けた連携

建設中の木質プレハブ住宅
建設中の木質プレハブ住宅

我が国のプレハブ住宅では年間約90万m3の木材が利用されており、下地、内装、造作部分等において、合板、ツーバイフォー材、集成材等が使用されている。このうち国産材利用は、合板を中心に約15万m3と推定されており、国産材利用拡大に向けた潜在性がある。

一般社団法人プレハブ建築協会は、林野庁からの呼び掛けも踏まえ、平成29(2017)年10月、会員企業有志による「国産材利用検討ワーキンググループ(WG)」を設置した。同12月に開催されたWGの第1回検討会では、林野庁及び国土交通省と共に国産材利用推進方策を検討し、今後の取組として、(ア)更なる国産材利用の拡大方策を検討すること、(イ)会員企業においてCLTの試行的な利用や実証推進に努めること、(ウ)国産材利用の重要性についての啓発活動を進めるほか、会員企業において大学、公的機関等との国産材利用技術に関する共同研究を検討することとされた。

同WGでは引き続き、国産材業界との情報交流や連携を行いつつ、国産材利用推進方策の検討が進められる予定であり、プレハブ住宅と国産材製品のマッチングの場となることが期待される。


(*180)林野庁試算による。

(*181)新設住宅着工戸数と木造率については、131ページを参照。

(*182)この調査での「消費者」は、農林水産行政に関心がある20歳以上の者で、原則としてパソコンでインターネットを利用できる環境にある者。

(*183)「在来工法」は、単純梁形式の梁・桁で床組みや小屋梁組を構成し、それを柱で支える柱梁形式による建築工法。「ツーバイフォー工法」は、木造の枠組材に構造用合板等の面材を緊結して壁と床を作る建築工法。「木質プレハブ工法」は、木材を使用した枠組の片面又は両面に構造用合板等をあらかじめ工場で接着した木質接着複合パネルにより、壁、床、屋根を構成する建築工法。

(*184)国土交通省「住宅着工統計」(平成28(2016)年)。在来工法については、木造住宅全体からツーバイフォー工法、木質プレハブ工法を差し引いて算出。

(*185)請負契約による供給戸数についてのみ調べたもの。国土交通省調べ。

(*186)「枠組壁工法構造用製材の日本農林規格の一部を改正する件」(平成27年農林水産省告示第512号)

(*187)ツーバイフォー工法における壁構面のたて枠。



(地域で流通する木材を利用した家づくりも普及)

平成の初め頃(1990年代)から、木材生産者や製材業者、木材販売業者、大工・工務店、建築士等の関係者がネットワークを組み、地域で生産された木材や自然素材を多用して、健康的に長く住み続けられる家づくりを行う取組がみられるようになった(*188)。

林野庁では、平成13(2001)年度から、森林所有者から大工・工務店等の住宅生産者までの関係者が一体となって、消費者の納得する家づくりに取り組む「顔の見える木材での家づくり」を推進している。平成28(2016)年度には、関係者の連携による家づくりに取り組む団体数は459、供給戸数は19,823戸となった(資料 IV -41)。


また、国土交通省では、平成24(2012)年度から、「地域型住宅ブランド化事業」により、資材供給から設計・施工に至る関連事業者から成るグループが、グループごとのルールに基づき、地域で流通する木材を活用した木造の長期優良住宅(*189)等を建設する場合に建設工事費の一部を支援してきた。平成27(2015)年度からは「地域型住宅グリーン化事業」により、省エネルギー性能や耐久性等に優れた木造住宅等を整備する地域工務店等に対して支援しており、平成30(2018)年3月現在、805のグループが選定され、約9,000戸の木造住宅等を整備する予定となっている。

総務省では、平成12(2000)年度から、都道府県による地域で流通する木材の利用促進の取組に対して地方財政措置を講じており、地域で流通する木材を利用した住宅の普及に向けて、都道府県や市町村が独自に支援策を講ずる取組が広がっている。平成29(2017)年7月現在、38府県と263市町村が、地域で流通する木材を利用した住宅の普及に取り組んでいる(*190)。


(*188)嶋瀬拓也(2002)林業経済, 54(14): 1-16.

(*189)構造の腐食、腐朽及び摩損の防止や地震に対する安全性の確保、住宅の利用状況の変化に対応した構造及び設備の変更を容易にするための措置、維持保全を容易にするための措置、高齢者の利用上の利便性及び安全性やエネルギーの使用の効率性等が一定の基準を満たしている住宅。

(*190)林野庁木材産業課調べ。都道府県や市町村による取組の事例については、ホームページ「日本の木のいえ情報ナビ」を参照。



(非住宅分野における木材利用)

住宅取得における主たる年齢層である30歳代、40歳代(*191)の世帯数の減少や、住宅ストックの充実と中古住宅の流通促進施策の進展などにより、今後、我が国の新設住宅着工戸数は減少する可能性がある。2030年の新設住宅着工戸数は55万戸程度に減少するとの試算もある(*192)。

我が国の建築着工床面積の現状を用途別・階層別にみると、1~3階建ての低層住宅の木造率は8割に上るが、4階建て以上の中高層建築及び非住宅建築の木造率はいずれも1割以下である(*193)。これまで国産材需要の大半を占めていた低層住宅分野の需要が減退していくことが見込まれる中、林業・木材産業の成長産業化を実現していくためには、中高層分野及び非住宅分野の木造化や内外装の木質化を進め、新たな国産材需要を創出することが極めて重要である。

平成27(2015)年に農林水産省が実施した「森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」で、消費者モニターに対して都市部において木材が利用されることを期待する施設について聞いたところ、「学校や図書館などの公共施設」が88.2%、「駅やバスターミナルなどの旅客施設」が51.7%、「ホテルなどの宿泊施設」が39.0%などとなっており、非住宅分野での木材利用が期待されている(資料 IV -42)。


非住宅分野における木材利用の拡大に向けたシンボル性の高い取組として、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」における木材利用がある(*194)。同大会の主要施設となる新国立競技場については、スギ・カラマツの集成材と鉄骨のハイブリッド屋根構造等が採用され、約2,000m3の木材を使用する予定で建設が進められている(*195)。また、平成29(2017)年には、全国の木材を活用し、各地域においてレガシーとして後利用を図るプロジェクト「日本の木材活用リレー ~みんなで作る選手村ビレッジプラザ~」の公募が行われ、全国の63地方公共団体が事業協力者として決定した(*196)。同ビレッジプラザには、これらの地方公共団体が提供する約2,000m3の木材(*197)が使用される予定となっている。

非住宅分野での木材利用に向けた機運が高まる中で、近年では、非住宅建築のうち4階建て以下程度の分野において、木造建築の競争力が向上しつつあり、工務店・住宅メーカーが木造非住宅建築に取り組む事例もみられる(事例 IV -9)。

木造化を推進する上で低コスト化は重要な課題であるが、住宅と比べてスパン(*198)が長いことが多いという非住宅建築の特徴に対応するために、一般流通材をトラスに組むなどの工夫により材料費や加工費の低減が図られている。また、構造面では、高い構造耐力が求められる場合にも対応できる壁倍率の高い耐力壁(*199)等の実用化により必要な構造耐力の確保が図られている。

事例 IV -9 地域材を利用しツーバイフォー工法による5階建て商業ビルを建設

京都府を中心に工務店を営む株式会社リヴ(京都府向日(むこう)市)は、平成28(2016)年、同市内にツーバイフォー工法による大型商業ビルを建設した。同社オフィスのほか、育児支援団体や若手企業家のオフィス、地域に開放されたスペースなど、多様なニーズに応えた場所を提供している。

2~5階が同工法による木造(耐火建築物)となっており、スタッドには地域材を、内装材等には府産スギ材を使用している。同社は、地域材を活用したツーバイフォー工法の採用により、品質・性能を確保しながら一般的な鉄骨造、鉄筋コンクリート造と比べて低コスト化を実現した(注)。

地域の工務店による木造の大型商業ビルの建設は全国的にも珍しく、木造非住宅建築の先進事例として注目されている。同社ではこのほかにも、国産材を利用した5階建て商業ビル(2~5階がツーバイフォー工法による木造)、府産材を利用した同工法による3階建てサービス付き高齢者向け住宅、府産材を利用した5階建てホテル(3~5階が同工法による木造)等の建設に取り組んでいる。


注:当該物件着工年(平成27(2015)年)の、鉄骨造及び鉄筋コンクリート造の全国平均坪単価(国土交通省「建築着工統計調査2015年」における産業用建築物(事務所)の工事費予定額を床面積合計で除して算出)はそれぞれ92万円/坪、105万円/坪であったのに対して、同社は当該物件を木造ツーバイフォー工法により76万円/坪で建設。

資料:一般社団法人日本ツーバイフォー建築協会ホームページ「ツーバイフォー建築 建築事例」、平成29(2017)年12月21日付け日刊木材新聞8面

外装には木製のルーバーを採用
外装には木製のルーバーを採用
施工中の様子
施工中の様子

(*191)国土交通省「平成28年度住宅市場動向調査」

(*192)野村総合研究所 (2017) 2030年の住宅市場:10.

(*193)国土交通省「建築着工統計調査2016年」による。第 I 章(35ページ)も参照。

(*194)これまで国内外で開催されたオリンピック・パラリンピック競技大会における木材利用の例については、「平成25年度森林及び林業の動向」の177ページを参照。

(*195)詳しくは、「平成27年度森林及び林業の動向」の3ページを参照。

(*196)公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会プレスリリース「「日本の木材活用リレー ~みんなで作る選手村ビレッジプラザ~」参加自治体決定!!」(平成29(2017)年10月18日付け)

(*197)同施設の整備主体である公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が平成28(2016)年6月に発表した「持続可能性に配慮した木材の調達基準」を満足する木材。

(*198)建築物の構造材(主として横架材)を支える支点間の距離のこと。

(*199)風圧力や地震力に抵抗するための壁面。



(木材利用に向けた人材の育成)

戸建て住宅のみならず様々な建築物について、幅広く木材利用を推進していくためには、木造建築物の設計を行う技術者等の育成も重要である。このため、林野庁では、国土交通省と連携し、平成22(2010)年度から、木材や建築を学ぶ学生等を対象とした木材・木造技術の知識習得や、住宅・建築分野の設計者等のレベルアップに向けた活動に対して支援してきた(*200)。平成26(2014)年度からは、木造率が低位な非住宅建築物や中高層建築物等へのCLT等の新たな材料を含む木材の利用を促進するため、このような建築物の木造化・木質化に必要な知見を有する設計者等の育成に対して支援している。また、都道府県独自の取組としても、木造建築に携わる設計者等の育成が行われている。


(*200)一般社団法人木を活かす建築推進協議会「平成25年度木のまち・木のいえ担い手育成拠点事業成果報告書」(平成26(2014)年3月)




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