第1部 第 IV 章 第3節 木材利用の動向(1)
木材の利用は、快適で健康的な住環境等の形成に寄与するのみならず、地球温暖化の防止、森林の多面的機能の持続的な発揮及び地域経済の活性化にも貢献する。
以下では、木材利用の意義について記述するとともに、建築分野における木材利用、公共建築物等における木材利用及び木質バイオマスのエネルギー利用の各分野における動向、消費者等に対する木材利用の普及の状況について記述する。
(1)木材利用の意義
(建築資材等としての木材の特徴)
木材は、軽くて強いことから、我が国では建築資材等として多く用いられてきた。建築資材等としての木材には、いくつかの特徴がある(*176)。
一つ目は、調湿作用である。木材には、湿度が高い夏季等には空気中の水分を吸収し、湿度が低い冬季等には放出するという調湿作用があり、住環境の改善に寄与する。
二つ目は、断熱性である。木材は他の建築資材に比べて熱伝導率が低く、断熱性が高いため、住環境の改善や、建築物の省エネルギー化に寄与する(*177)。
三つ目は、心理面での効果である。木材の香りには、血圧を低下させるなど体をリラックスさせる、ストレスを軽減し免疫細胞の働きを向上させるといった効果があると考えられているほか、木材への接触は生理的ストレスを生じさせにくいという報告や、事務所の内装に木材を使用することにより、視覚的に「あたたかい」、「明るい」、「快適」などの良好な印象を与えるという報告もある。このような木材による嗅覚、触覚、視覚刺激が人間の生理・心理面に与える影響については、近年、評価手法の確立や科学的な根拠の蓄積が進んできている。
このほかにも、木材には、衝撃力を緩和する効果など、様々な特徴がある。転倒時の衝撃緩和、疲労軽減等の効果を期待して、教育施設や福祉施設に木材を使用する例もみられる。
(*176)岡野健ほか(1995)木材居住環境ハンドブック,朝倉書店: 65-81.302-305.356-364. 林野庁「平成28年度都市の木質化等に向けた新たな製品・技術の開発・普及委託事業」のうち「木材の健康効果・環境貢献等に係るデータ整理」による「科学的データによる木材・木造建築物のQ&A」(平成29(2017)年3月)
(*177)木材は熱容量が小さく、蓄熱量が小さいという特徴もあり、ヒートアイランド現象の緩和等に寄与するとの研究結果もある。また、一定以上の大きさを持った木材には、燃えたときに表面に断熱性の高い炭化層を形成し、材内部への熱の侵入を抑制するという性質があり、木質構造部材の「燃えしろ設計」では、この性質が活かされている。
(木材利用は地球温暖化の防止にも貢献)
木材は、炭素の固定、エネルギー集約的資材の代替、化石燃料の代替の3つの面で、地球温暖化の防止に貢献する。
樹木は、光合成によって大気中の二酸化炭素を取り込み、木材の形で炭素を貯蔵している。このため、木材を住宅や家具等に利用しておくことは、大気中の二酸化炭素を固定することにつながる。例えば、木造住宅は、鉄骨プレハブ住宅や鉄筋コンクリート住宅の約4倍の炭素を貯蔵していることが知られている(資料 IV -36)。
また、木材は、鉄やコンクリート等の資材に比べて製造や加工に要するエネルギーが少ないことから、木材の利用は、製造及び加工時の二酸化炭素の排出削減につながる。例えば、住宅の建設に用いられる材料について、その製造時における二酸化炭素排出量を比較すると、木造は、鉄筋コンクリート造や鉄骨プレハブ造よりも、二酸化炭素排出量が大幅に少ないことが知られている(資料 IV -36)。
したがって、従来、鉄骨造や鉄筋コンクリート造により建設されてきた建築物を木造や木造との混構造で建設することができれば、炭素の貯蔵効果及びエネルギー集約的資材の代替効果を通じて、二酸化炭素排出量の削減につながる。
さらに、「伐る、使う、植える、育てる」というサイクルを通じた木材のエネルギー利用は、大気中の二酸化炭素濃度に影響を与えない「カーボンニュートラル」な特性を有しており、資材として利用できない木材を化石燃料の代わりに利用すれば、化石燃料の燃焼による二酸化炭素の排出を抑制することにつながる。これに加えて、原材料調達から製品製造、燃焼までの全段階を通じた温室効果ガス排出量を比較した場合、木質バイオマス燃料は化石燃料よりも大幅に少ないという報告もある(資料 IV -37)。
このほか、住宅部材等として使用されていた木材をパーティクルボード等として再利用できるなど、木材には再加工しやすいという特徴もある。再利用後の期間も含め、木材は伐採後も利用されることにより炭素を固定し続けている(資料 IV -38)。
(国産材の利用は森林の多面的機能の発揮等に貢献)
国産材が利用されれば、その収益が林業生産活動に還元されることによって、伐採後も植栽等を行うことが可能となる。「伐る、使う、植える、育てる」というサイクルを通じて、森林の適正な整備・保全を続けながら、木材を再生産することが可能となり、森林の有する多面的機能を持続的に発揮させることにつながる(資料 IV -39)。
また、国産材が木材加工・流通を経て住宅等の様々な分野で利用されることで、木材産業を含めた国内産業の振興と森林資源が豊富に存在する山村地域の活性化にもつながる。
我が国の森林は、終戦直後と高度成長期の伐採の跡地に植えられた人工林を中心に蓄積が増加し、現在約49億m3に達するなど、資源として本格的な利用期を迎えている(*178)。これに対し、木材の需要量は平成21(2009)年に大幅に減少した後、近年はやや持ち直し7千万m3から8千万m3程度で推移している(*179)。国産材の利用量は増加傾向にあるものの、我が国の森林資源の有効活用、森林の適正な整備・保全と多面的機能の発揮、林業・木材産業と山村地域の振興といった観点から、更なる国産材の利用の推進が求められている。
(*178)我が国の森林の蓄積については、第 II 章(38ページ)を参照。
(*179)我が国の木材需要量については、130-133ページを参照。
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