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第1部 第 IV 章 第3節 木材利用の動向(3)

(3)公共建築物等における木材利用

(法律に基づき公共建築物等における木材の利用を促進)

我が国では、戦後、火災に強いまちづくりに向けて耐火性に優れた建築物への要請が強まるとともに、戦後復興期の大量伐採による森林資源の枯渇や国土の荒廃が懸念されたことから、国や地方公共団体が率先して建築物の非木造化を進め、公共建築物への木材の利用が抑制されていた。このため、現在も公共建築物における木材の利用は低位にとどまっている。一方、公共建築物はシンボル性と高い展示効果があることから、公共建築物を木造で建設することにより、木材利用の重要性や木の良さに対する理解を深めることが期待できる。

このような状況を踏まえて、平成22(2010)年10月に、木造率が低く潜在的な需要が期待できる公共建築物に重点を置いて木材利用を促進するため、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(*201)」が施行された。同法では、国が「公共建築物における木材の利用の促進に関する基本方針」を策定して、木材の利用を進める方向性を明確化する(*202)とともに、地方公共団体や民間事業者等に対して、国の方針に即した取組を促す(*203)こととしている。

同基本方針では、過去の「非木造化」の考え方を「可能な限り木造化又は内装等の木質化を図る」という考え方に大きく転換して、国が整備する公共建築物のうち、法令に基づく基準において耐火建築物とすること又は主要構造部を耐火構造とすることが求められていない低層の公共建築物(ただし、災害応急対策活動に必要な施設等を除く。)については、「原則としてすべて木造化を図る」等の目標を掲げている。

平成29(2017)年6月には、同法施行後の国、地方公共団体による取組状況を踏まえ、同基本方針を変更し、地方公共団体は、同基本方針に基づく措置の実施状況の定期的な把握や木材利用の促進のための関係部局横断的な会議の設置に努めること、国や地方公共団体はCLT、木質耐火部材等の新たな木質部材の積極的な活用に取り組むこと、3階建ての木造の学校等について一定の防火措置を行うことで準耐火構造等での建築が可能となったことから積極的に木造化を促進すること等を規定した。

国では23の府省等の全てが、同法に基づく「公共建築物における木材の利用の促進のための計画」を策定しており、地方公共団体では全ての都道府県と、1,741市町村のうち90%に当たる1,565市町村が、同法に基づく「公共建築物における木材の利用の促進に関する方針」を策定している(*204)。

このほか、公共建築物だけでなく、公共建築物以外での木材利用も促進するため、森林の公益的機能発揮や地域活性化等の観点から、行政の責務や森林所有者、林業事業者、木材産業事業者等の役割を明らかにした条例を制定する動きが広がりつつある。平成29(2017)年12月末時点で、都道府県では、秋田県、茨城県、栃木県、富山県、福井県、兵庫県、岡山県、徳島県、香川県及び高知県の10県で、市町村では、滋賀県長浜(ながはま)市、東近江(ひがしおうみ)市、高知県四万十町(しまんとちょう)、梼原町(ゆすはらちょう)及び宮崎県日南(にちなん)市の5市町で制定されている(*205)。


(*201)「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(平成22年法律第36号)

(*202)「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」第7条第1項

(*203)「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」第4条から第6条まで

(*204)方針を策定している市町村数は平成30(2018)年2月末現在の数値。

(*205)林野庁ホームページ「木材利用促進に関する条例等の施行・検討状況調査」



(公共建築物の木造化・木質化の実施状況)

国、都道府県及び市町村が着工した木造の建築物は、平成28(2016)年度には2,789件であった。このうち、市町村によるものが2,235件と約8割となっている(*206)。同年度に着工された公共建築物の木造率(床面積ベース)は、前年度と同程度の11.7%となった。また、「公共建築物における木材の利用の促進に関する基本方針」により、積極的に木造化を促進することとされている低層(3階建て以下)の公共建築物においては、木造率は前年比0.4ポイント上昇の26.4%であった(*207)(資料 IV -43)。さらに、都道府県ごとの木造率については、低層で5割を超える県がある一方、都市部では低位など、ばらつきがある状況となっている(資料 IV -44)。


国の機関による木材利用の取組状況については、平成28(2016)年度に国が整備した公共建築物等のうち、同基本方針において積極的に木造化を促進するものに該当するものは97棟で、うち木造で整備を行った建築物は42棟であった(事例 IV -10)。また、内装等の木質化を行った建築物は189棟であった。

事例 IV -10 構造や内外装に木材を活用した保育所が都心部に開園

平成29(2017)年6月、東京都千代田区に木造の保育所が開園した。

保育所の建物は、農林水産省により事業所内保育所用及び会議室用の施設(公共建築物)として、平成28(2016)年度に整備された。構造は木造軸組構法による平屋建てで、内外装にも木材を多く利用している。土台にはヒノキ、柱にはスギを使用し、梁(はり)にはカラマツの構造用集成材を使用しているほか、耐力壁の一部にはCLT、外装にはサーモウッド(注)を使用している。特に、保育室の床材には30mmの厚さを持つ無垢のスギ板を使用し、木材の持つ断熱性、調湿作用、香りによるリラックス効果、衝撃緩和効果等が保育環境に活かされている。

建設地が都心部の防火地域であるため耐火建築物として建設されており、都市での木材利用のモデルとして展示効果の高い木造建築物となっている。


注:高温熱処理を施して耐久性・耐火性を高めた木材。

資料:林野庁「RINYA」平成29(2017)年10月号: 18.、林政ニュース第548号(平成29(2017)年1月11日)


サーモウッドを使用した外装
サーモウッドを使用した外装

構造材のほか、フローリング、サッシ、おもちゃや什器にも木材を利用
構造材のほか、フローリング、サッシ、
おもちゃや什器にも木材を利用

林野庁と国土交通省による検証チームは、平成28(2016)年度に国が整備した、積極的に木造化を促進するとされている低層の公共建築物等97棟のうち、各省各庁において木造化になじまないと判断された建築物55棟について、各省各庁にヒアリングを行い、木造化しなかった理由等について検証した。その結果、施設が必要とする機能等の観点から木造化が困難であったと評価されたものが35棟、木造化が可能であったと評価されたものが20棟であった。木造化が可能であったと評価された20棟はおおむね自転車置場、車庫等の小規模な建築物であり、林野庁及び国土交通省では、これらについても木造化が徹底されるよう、各省各庁に対して働き掛けを行っていくこととしている。

これらの検証結果も踏まえ、平成28(2016)年度には、積極的に木造化を促進するとされている低層の公共建築物等のうち木造化が困難であったものを除いた木造化率は、67.7%となった(資料 IV -45)。


(*206)国土交通省「建築着工統計調査2016年度」

(*207)林野庁プレスリリース「平成28年度の公共建築物の木造率について」(平成30(2018)年3月29日付け)



(公共建築物の木造化・木質化における発注・設計段階からの支援)

林野庁では、公共建築物等の木造化・木質化の促進のため、地方公共団体等に木造化・木質化に係る事例やデータを幅広く情報提供している。

平成29(2017)年2月に作成した「公共建築物における木材利用優良事例集」では、近年建設された公共建築物における木材利用のモデル的な事例を収集・整理して紹介している(事例 IV -11)。

このほか、地方公共団体等における木造公共建築物等の整備に係る支援として、木造建築の経験が少なく設計又は発注の段階で技術的な助言を必要とする地域に対し専門家を派遣して、発注者、木材供給者、設計者、施工者等の関係者と連携し課題解決に向けて取り組む事業を行った。同事業の結果、木材調達や発注に関するノウハウ等を得ることができた(*208)。また、木造と他構造のコスト比較等を行い、その結果、保育園建物について木造と鉄骨造(木造と同等の内装木質化を実施)を比較した場合、スパンの小さい保育室では木造の方が安く、スパンの大きい遊戯室では同等の工事費となることが分かった(*209)。

事例 IV -11 木質材料による医療施設が都市部で実現(「公共建築物における木材利用優良事例集」より)

門型木フレームが連続する透析室の内観
門型木フレームが連続する透析室の内観

透析治療等を行う医療法人社団中郷会新柏(なかざとかいしんかしわ)クリニック(千葉県柏市)は、医院の新築移転に当たり、治療の負担感を軽減し、心身の健康につながる最良の医療施設を目指して、木の癒し効果に着目した「森林浴のできるクリニック」づくりに取り組んだ。国産材の使用にこだわった医院の建物は、平成28(2016)年2月に完成した。

建物は鉄筋コンクリート造・鉄骨造・木造の混構造で、木質構造部材にはモルタルによる燃え止まり層を持つ長野県産カラマツの耐火集成材(注)を、内装材には静岡県産ヒノキを使用した。

同院のように、木質耐火部材等を活用することにより、都市部の医療施設においても木造化・木質化が可能であり、その推進が必要となっている。


注:木質耐火部材について詳しくは160-161ページを参照。

資料:林野庁「公共建築物における木材利用優良事例集」(平成29(2017)年2月)


木のぬくもりが感じられ、地域の新しいシンボルとなる医院の外観
木のぬくもりが感じられ、地域の新しいシンボルとなる医院の外観

(*208)一般社団法人 木を活かす建築推進協議会ホームページ「木造公共建築物等の整備に係る設計段階からの技術支援事業成果物「木造化・木質化に向けた20の支援ツール」」

(*209)一般社団法人 木を活かす建築推進協議会ホームページ「平成28年度木造公共建築物誘導経費支援報告書」



(学校の木造化を推進)

学校施設は、児童・生徒が一日の大半を過ごす学習及び生活の場であり、学校施設に木材を利用することは、木材の持つ高い調湿性、温かさ、柔らかさ等の特性により、健康や知的生産性等の面において良好な学習・生活環境を実現する効果が期待できる(*210)。

このため、文部科学省では、昭和60(1985)年度から、学校施設の木造化や内装の木質化を進めてきた。平成28(2016)年度に建設された公立学校施設の21.6%が木造で整備され、非木造の公立学校施設の58.2%(全公立学校施設の45.6%)で内装の木質化が行われている(*211)。

文部科学省は、平成27(2015)年3月に、大規模木造建築物の設計経験のない技術者等でも比較的容易に木造校舎の計画・設計が進められるよう「木造校舎の構造設計標準(JIS A3301)」を改正するとともに、その考え方や具体的な設計例、留意事項等を取りまとめた技術資料を作成した。また、平成28(2016)年3月には、木造3階建ての学校を整備する際のポイントや留意事項をまとめた「木の学校づくり-木造3階建て校舎の手引-」を作成した。これらにより、地域材を活用した木造校舎の建設が進むだけでなく、木造校舎を含む大規模木造建築物の設計等の技術者の育成等が図られ、更に3階建て木造校舎の整備が進められることにより、学校施設等での木材利用の促進が期待される。

また、文部科学省では、平成11(1999)年度以降、木材活用に関する施策紹介や専門家による講演等を行う「木材を活用した学校施設づくり講習会」を全国で開催し、林野庁では後援と講師の派遣を行っている。

さらに、文部科学省、農林水産省、国土交通省及び環境省が連携して行っている「エコスクール・プラス(*212)」において、農林水産省では内装の木質化等の支援(平成29(2017)年度は2校が対象)を行っている。


(*210)林野庁「平成28年度都市の木質化等に向けた新たな製品・技術の開発・普及委託事業」のうち「木材の健康効果・環境貢献等に係るデータ整理」による「科学的データによる木材・木造建築物のQ&A」(平成29(2017)年3月)

(*211)文部科学省ホームページ「公立学校施設における木材の利用状況(平成28年度)」(平成29(2017)年12月19日)

(*212)学校設置者である市町村等が、環境負荷の低減に貢献するだけでなく、児童生徒の環境教育の教材としても活用できるエコスクールとして整備する学校を「エコスクール・プラス」として認定し、再生可能エネルギーの導入、省CO2対策、地域で流通する木材の導入等の支援を行う事業であり、平成29(2017)年度には41校が認定されている。平成29(2017)年度から「エコスクールパイロット・モデル事業」を改称したもので、同事業における連携開始年度は、農林水産省が平成14(2002)年、国土交通省が平成24(2012)年、環境省が平成28(2016)年からとなっている。



(公共建築物における木材利用の課題)

公共建築物における木材利用を進めるに当たっての課題としては、大断面集成材の使用や耐火建築物とすることにより整備コストがかかり増しになることや、まとまった量の地元産材を活用して施設整備を行う場合に材の調達に時間を要することがあること、建築物の木造化・内装等の木質化に関する正しい知識を有する建築士が少ないこと等が挙げられる。

また、低層の公共建築物については、民間事業者が整備する公共建築物が全体の6割以上を占めており、さらにその内訳をみると、医療・福祉施設が約9割となっている。今後、公共建築物への木材利用の一層の促進を図る上で、国や地方公共団体が整備する施設のみならず、これらの民間事業者が整備する施設の木造化・内装等の木質化を推進するための取組が必要である(事例 IV -11)。


(土木分野における木材利用)

土木資材としての木材の特徴は、軽くて施工性が高いこと、臨機応変に現場での加工成形がしやすいことなどが挙げられる。

土木分野では、かつて、橋や杭等に木材が利用されていたが、高度経済成長期を経て、主要な資材は鉄やコンクリートに置き換えられてきた。近年では、木製ガードレール、木製遮音壁、木製魚礁、木杭等への間伐材等の利用が進められているほか、国産材針葉樹合板についても、コンクリート型枠(かたわく)用、工事用仮囲い、工事現場の敷板等への利用が広がっている。今後、このような屋外における木材の利用を更に促進していくためには、防腐処理等を施す必要があるなどの課題がある。

このような中、「一般社団法人日本森林学会」、「一般社団法人日本木材学会」及び「公益社団法人土木学会」の3者は、平成19(2007)年に「土木における木材の利用拡大に関する横断的研究会」を結成して、平成22(2010)年度に、土木分野での年間木材利用量を現在の100万m3から400万m3まで増加させるためのロードマップを作成した(*213)。また、同研究会は、平成25(2013)年3月に、ロードマップの達成に向けた「提言「土木分野における木材利用の拡大へ向けて」」を発表している(*214)。さらに、平成29(2017)年3月には、土木分野での木材利用の拡大の実現に向けた取組を進める中でみえてきた解決すべき課題に対処するため、土木分野における木材利用量の実態を把握すること等について、「提言「土木分野での木材利用拡大に向けて」-地球温暖化緩和・林業再生・持続可能な建設産業を目指して-」を発表している(*215)。

林野庁では、平成27(2015)年度に、屋外での木材の活用に向けた企画提案を募集し、優良事例を選定する「ウッドチャレンジ2015」を実施するなど、屋外における木材利用を推進している。

木杭については、液状化対策で主流となっている砂杭やセメント系固化材による地盤改良工法、コンクリート杭や鋼管杭を活用した工法に加えて、木材を地盤に圧入する工法が開発されている(*216)。平成27(2015)年度には、千葉県千葉市美浜(みはま)区の戸建て分譲住宅地や青森県八戸(はちのへ)市の漁港岸壁において同工法を用いた液状化対策が実施された(*217)。また、同工法の活用を拡大するため、軟弱地盤対策としても工法の確立を目指し、平成28(2016)年度からは、秋田県大潟村(おおがたむら)の干拓地において載荷試験などの実証施工が行われている。

また、コンクリート型枠(かたわく)用合板については、これまで南洋材(ラワン材)による輸入合板が使われてきたが、国産材針葉樹を活用したコンクリート型枠(かたわく)用合板の実証試験により、ラワン合板と比較して、強度、耐久性、耐アルカリ性、接着性能、転用回数等について遜色のない品質・性能を有することが実証された(*218)。平成27(2015)年2月には、合板型枠(かたわく)が「グリーン購入法基本方針」の特定調達品目に追加されたことから、今後、間伐材や合法性が証明された木材等を使用した合板型枠(かたわく)の利用拡大が期待される(*219)。


(*213)土木における木材の利用拡大に関する横断的研究会「2010年度土木における木材の利用拡大に関する横断的研究報告書」(平成23(2011)年3月)

(*214)土木における木材の利用拡大に関する横断的研究会ほか「提言「土木分野における木材利用の拡大に向けて」」(平成25(2013)年3月12日)

(*215)土木における木材の利用拡大に関する横断的研究会ほか「提言「土木分野での木材利用拡大に向けて」-地球温暖化緩和・林業再生・持続可能な建設産業を目指して-」(平成29(2017)年3月22日)

(*216)木材を活用した液状化対策について詳しくは、「平成26年度森林及び林業の動向」の161ページを参照。

(*217)三輪滋,沼田淳紀,村田拓海,松橋利明,奈良岡勲:漁港岸壁のLP-LiCによる耐震補強工事の事例,土木学会第71回年次学術講演会講演概要集,V-074,pp.147-148,2016.9.
     沼田淳紀,松下克也,村田拓海,川崎淳志,三輪滋:LP-LiC工法の大規模分譲住宅造成への適用事例,木材利用研究論文報告集15,土木学会木材工学委員会,pp.83-88,2016.8.

(*218)国立研究開発法人森林総合研究所 平成27年版研究成果選集2015:24.

(*219)「グリーン購入法基本方針」については、138ページを参照。




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