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第1部 第 IV 章 第2節 木材産業の動向(8)

(8)新たな製品・技術の開発・普及

従来あまり木材が使われてこなかった分野における木材需要を創出する、新たな製品・技術の開発・普及が進んでいる。


(ア)建築分野における取組

(CLTの利用と普及に向けた動き)

一定の寸法に加工されたひき板(ラミナ)を繊維方向が直交するように積層接着した「CLT(*148)」(直交集成板)が、近年、新たな木材製品として注目されている。欧米を中心に、CLTを壁や床、階段等に活用した中高層を含む木造建築物が建てられており、我が国においても共同住宅、ホテル、オフィスビル、校舎等がCLTを用いて建築されている(事例 IV -7)。

事例 IV -7 CLTによる2時間耐火の床構造とした6階建てのオフィスビルが完成

総合建設業を営む松尾建設(まつおけんせつ)株式会社(佐賀県佐賀市)は、鉄骨造6階建ての事務所棟と木造2階建ての会議室棟から構成される本店新社屋を建設した。

事務所棟の2~5階の床部分には、2時間耐火構造の国土交通大臣認定を取得したCLT床を採用した(注1)。CLTの材料としては九州産のスギを用いている。同社では、CLTをまずは自社の新社屋に採用し、今後は、同社で建設する病院や公共施設等への活用も見込んでいる。また、会議室棟においては、スギ等を用いた異樹種構造用集成材とLVLの合成梁(はり)等を使用した。

高層建築物において多くの木材を使用し、新たな木材需要を開拓していくためには、床へのCLTの活用も有効な方法の一つである。超高層ビルにおける木材利用に向けては、平成25(2013)年から、製造業、建設業、研究、設計、行政など各分野が集う研究会も活動しており、一般的な木造建築の利点(注2)以外にも、建物の軽量化を通じた耐震性の確保、建築計画上の自由度の拡大(注3)等の利点があると考えられている。


注1:6階建て以上の鉄骨造建物では国内初。

2:木材利用の意義について詳しくは166-167ページを参照。

3:上下隣接する2層のフロアを階段等でつなぐといったテナントニーズに対しても、コンクリート床に比べて柔軟な対応が可能となる。

資料:平成29(2017)年11月9日付け日刊木材新聞6面、平成29(2017)年10月21日付け日本経済新聞(地域経済)、超高層ビルに木材を使用する研究会・鹿児島県シンポジウム「大規模木造施設へのCLT利用の課題と展望」資料


事務所棟のCLT床の施工の様子
事務所棟のCLT床の施工の様子
木造で11m超の大スパンを実現した会議室
木造で11m超の大スパンを実現した会議室

CLTの普及に当たっては、平成26(2014)年11月に、「CLTの普及に向けたロードマップ(*149)」が林野庁と国土交通省の共同で作成され、基準強度や一般的な設計法の告示の整備や、実証的建築による施工ノウハウの蓄積、2024年度までの年間50万m3程度の生産体制構築などが、目指すべき成果として掲げられた。

平成29(2017)年1月には、「CLT活用促進に関する関係省庁連絡会議」において、新たに「CLTの普及に向けた新たなロードマップ~需要の一層の拡大を目指して~」(以下「新たなロードマップ」という。)が作成され、建築意欲の向上、設計・施工者の増加、技術開発の推進、コストの縮減等を連携・協力して一層進めていくこととされた(資料 IV -32)。

資料IV-32 CLTの普及に向けた新たなロードマップ~需要の一層の拡大を目指して~

これまでの普及に向けた取組のうち、告示の整備については、平成28(2016)年3月及び4月に、それまでの林野庁及び国土交通省の事業による実験等を通じてCLTの構造や防火に関する技術的知見が得られたことから、CLTを用いた建築物の一般的な設計法等に関する告示(*150)が公布・施行された(*151)。これにより、告示に基づく構造計算を行うことで、国土交通大臣の認定を個別に受けることなく、CLTを用いた建築が可能となった。また、この告示に基づく仕様とすることによって、「準耐火建築物(*152)」として建設することが可能な建築物については、燃えしろ設計により防火被覆を施すことなくCLTを用いることが可能となった。平成29(2017)年9月には、枠組壁工法(*153)に係る告示改正(*154)が公布・施行され、告示に基づく構造計算を行うことで同工法の床版及び屋根版にCLTを用いることが可能となっている。

林野庁が支援したCLTを用いた建築物については、平成27(2015)年度に9棟、平成28(2016)年度に22棟、平成29(2017)年度に24棟が竣工した。

また、生産体制については、平成29(2017)年度期首には、北海道、秋田県、宮城県、石川県、鳥取県、岡山県、宮崎県及び鹿児島県において、JAS認証を取得したCLT工場が稼働しており、「新たなロードマップ」に掲げる中間目標と同量の年間6万m3の生産体制となっている。

「新たなロードマップ」においては、需要の一層の拡大が大きな目標となっており、まとまった需要を確保してコストを縮減し、広く民間建築物におけるCLTの更なる需要を創出することが重要である。

このため、平成29(2017)年6月に変更された「公共建築物における木材の利用の促進に関する基本方針」においては国や地方公共団体がCLT等の新たな木質部材の積極的な活用に取り組む旨が規定された(*155)ほか、CLT建築物の企画段階からの設計支援を行う専門家の派遣、CLTを用いた先駆的な建築にかかる費用への支援、施工マニュアル等の整備や実務設計者向けの講習会の実施、CLTの汎用性拡大に向けた強度データ等の収集等を行って、需要の拡大を促進している。


(*148)「Cross Laminated Timber」の略。

(*149)農林水産省プレスリリース「CLTの普及に向けたロードマップについて」(平成26(2014)年11月11日付け)

(*150)平成28年国土交通省告示第561号、平成28年国土交通省告示第562号、平成28年国土交通省告示第563号、平成28年国土交通省告示第564号及び平成28年国土交通省告示第611号

(*151)国土交通省プレスリリース「CLTを用いた建築物の一般的な設計方法等の策定について」(平成28(2016)年3月31日付け)

(*152)火災による延焼を抑制するために主要構造部を準耐火構造とするなどの措置を施した建築物(「建築基準法」第2条第7号の2及び第9号の3)

(*153)木造住宅の工法について詳しくは、168ページを参照。

(*154)平成29年国土交通省告示第867号

(*155)詳しくは、173ページを参照。



(木質耐火部材の開発)

建築基準法(*156)に基づき所要の性能を満たす木質耐火部材を用いれば、木造でも大規模な建築物を建設することが可能である。木質耐火部材には、木材を石膏ボードで被覆したものや木材を難燃処理木材等で被覆したもの、鉄骨を木材で被覆したものなどがある(資料 IV -33)。

資料IV-33 木質耐火構造の方式

耐火部材に求められる耐火性能は、同法において、建物の最上階から数えた階数に応じて定められている。こうした中、木造の1時間耐火構造の例示仕様が告示へ追加されたほか、2時間耐火構造の開発が進んでいる。平成29(2017)年12月には規定上最も長い3時間の耐火性能を有する木質耐火部材の大臣認定が取得されるなど、これまでの木質耐火部材の開発の成果が出てきている。

木質耐火部材を使用した建築物も各地で建設されている(*157)(事例 IV -11)。1階を2時間耐火構造とする必要がある5階建て木造建築物についても、2時間耐火構造の大臣認定を取得した木質耐火部材を用いて実現しており(*158)、今後も3時間耐火構造等の新たな仕様を含む木質耐火部材の更なる活用が期待される。


(*156)「建築基準法」第2条

(*157)木質耐火部材を使用した建築物の事例については、「平成25年度森林及び林業の動向」の176ページ、「平成27年度森林及び林業の動向」の147、157ページ、「平成28年度森林及び林業の動向」の207ページも参照。

(*158)例えば、平成29(2017)年に新潟県新潟市に完全木造5階建ての集合住宅が完成したほか、山口県長門市では木造・鉄筋コンクリート造の混構造5階建ての新市庁舎が建設中(平成30(2018)年2月時点)。



(合板原料として国産材を利用するための技術)

合板製造業は、かつて原料を輸入に依存していたが、スピンドルレス式ロータリーレースの開発(*159)により間伐材等の小径材や曲がり材を利用することが可能となったこと、同技術の開発を踏まえて「新流通・加工システム(*160)」の取組を実施したこと等により、構造用合板への国産材の利用が平成14(2002)年頃から急速に拡大した(*161)。

一方、型枠(かたわく)用合板については、より高い強度性能や耐水性能が求められることから、現在も南洋材合板がその大半を占めているが、単板の構成を工夫するなど、国産材を使用した型枠(かたわく)用合板の性能を向上させる技術の導入が進んでいる。表面塗装を施した国産材を使用した型枠(かたわく)用合板については、南洋材型枠(かたわく)用合板と比較しても遜色のない性能を有していることが実証されている(*162)。


(*159)ロータリーレースとは、丸太を回転させながら桂剥きのように切削して、単板を製造する機械。かつては、原木の両端をモーターに連動したスピンドル(回転軸)で押さえて単板を製造していたが、平成5(1993)年に、原木を横と下から支えるロールを配置することで、原木からスピンドルを外しても単板の製造が可能なスピンドルレス式ロータリーレースが開発され、曲がり材や小径材から単板を製造することが可能となった。詳細については、「平成26年度森林及び林業の動向」の36ページを参照。

(*160)詳しくは、145ページを参照。

(*161)合板製造業への素材供給の内訳等について詳しくは、151-153ページを参照。

(*162)地域材を原料とする型枠用合板の強度の実証について、詳しくは「平成28年度森林及び林業の動向」の27ページを参照。



(建築資材として国産材を利用するための技術)

低層住宅建築のうち木造軸組構法(*163)では、構造用合板や柱材と比較して、梁(はり)や桁等の横架材において、一部の地域材利用に積極的な工務店を除き、国産材の使用割合は低位にとどまっている。横架材には高い強度や多様な寸法への対応が求められるため、米(べい)マツ製材やレッドウッド(ヨーロッパアカマツ)集成材等の輸入材が高い競争力を持つ状況となっている。この分野での国産材利用を促進する観点から、各地で、乾燥技術の開発や心去(しんさ)り(*164)等による品質向上や、柱角等の一般流通材を用いた重ね梁(ばり)の開発等が進められている。

また、一般流通材を用いたトラス梁(ばり)(*165)や縦ログ工法(*166)、国産材を使用したフロア台板用合板(*167)や木製サッシ部材等の開発・普及も進められ、非住宅分野や中高層分野の木造化・木質化にも貢献することが期待されている。


(*163)木造住宅の工法について詳しくは、168ページを参照。

(*164)丸太の中心部である心材を外して木取りをする技術。乾燥しても割れが生じにくい長所がある。

(*165)三角形状の部材を組み合わせて、外力に対する抵抗を強化した骨組み構造の梁。

(*166)製材を縦に並べることによって壁を構成する工法。

(*167)詳しくは、151ページ(事例 IV -4)を参照。



(イ)木質バイオマスの利用に向けた取組

木質バイオマスは、従来から、製紙、パーティクルボード等(*168)の木質系材料やエネルギー用として利用されてきた。平成28(2016)年9月に閣議決定された「バイオマス活用推進基本計画」においては、木質系を含む各種のバイオマスについて利用率の目標が設定される(*169)とともに、技術開発についても、効率的なエネルギー変換・利用やマテリアル(素材)利用に向けた開発等を推進するとされている。


(*168)パーティクルボード等については、153ページを参照。

(*169)木質系では、製材工場等残材及び建設発生木材(廃棄物系)並びに林地残材(未利用系)について、目標が設定されている。木質バイオマスのエネルギー利用について詳しくは、、178-182ページを参照。



(効率的なエネルギー変換・利用に向けた取組)

木質バイオマスの効率的なエネルギー変換・利用に向けては、木質バイオマスのエネルギー利用量が増加する中、ガス化炉による小規模で高効率な発電システム、竹の燃料としての利用、熱効率の高い固形燃料の製造や利用等に関する技術開発が行われている(*170)。


(*170)一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会ホームページ



(マテリアル利用に向けた取組)

木質バイオマスのマテリアル利用に向けては、化石資源由来の既存製品等からバイオマス由来の製品等への代替を進めるため、バイオマスを汎用性のある有用な化学物質に分解・変換する技術や用途に応じてこれらの物質から高分子化合物を再合成する技術、これらの物質を原料とした具体的な製品の開発が重要とされている。マテリアル利用が促進されれば、未利用木材等の高付加価値化につながることが期待される。平成29(2017)年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」においても、セルロースナノファイバー(CNF(*171))やリグニン等について、国際標準化や製品化等に向けた研究開発を進めることが掲げられた。

このうちCNFについては、木材の主要成分の一つであるセルロースの繊維をナノ(10億分の1m)レベルまでほぐしたもので、軽量ながら高強度、膨張・収縮しにくい、ガスバリア性が高いなどの特性を持つ素材である。プラスチックの補強材料、電子基板、食品包装用フィルム等への利用が期待されており、一部で実用化も進んでいる(*172)。林野庁では、スギや竹等を原料とし、中山間地域に適応した小規模・低環境負荷型でCNFを製造する技術や、生産されたCNFを用いた新素材開発を支援している。農林水産省においても、CNF等の農林水産・食品産業の現場での活用に向けた研究開発を推進している。CNFの実用化・利用拡大に向け、関係する農林水産省、経済産業省、環境省、文部科学省が連携しつつ、施策を進めている(*173)。

また、リグニンについても、木材の主要成分の一つであり、高強度、耐熱性、耐薬品性等の特性を有する高付加価値材料への展開が期待される樹脂素材である。これまでも木材パルプを製造する際に抽出されていたものの、その化学構造があまりにも多様であることが工業材料としての利用を阻んできた。現在、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所等において、化学構造がある程度一定な「改質リグニン」の開発が行われており、安全性の高い薬剤を使用するなど地域への導入を見据えた改質リグニンの製造システムの開発とともに、電子基板やタッチセンサーへの展開が可能なハイブリッド膜、防水性能が高い排水管用シーリング材など改質リグニンの用途開発が進んでいる(*174)。


(*171)「Cellulose Nano Fiber」の略称。以下、CNFと表記する。

(*172)毎年数百トンの生産能力を持つ量産施設を含むCNF製造設備が各地で稼動しているほか、高性能スピーカーの振動板、紙おむつ、筆記用インク等の素材として一部で社会実装されている。

(*173)CNFに関する研究開発について詳しくは、「平成27年度森林及び林業の動向」の148ページも参照。

(*174)改質リグニンの開発に当たっては、スギのリグニンが、地域や部位による性質のばらつきが少なく、工業材料として適していることが明らかになっている。リグニンに関する研究開発について、詳しくは「平成28年度森林及び林業の動向」の28-29ページを参照。



(木質バイオマス利用技術の見通し)

バイオマス利用技術の開発の進展等を受け、平成29(2017)年4月には、バイオマス活用推進専門家会議において「バイオマス利用技術の現状とロードマップについて」が改訂された(*175)。関係省庁・研究機関・企業による横断的な評価に基づき、バイオマス利用技術の到達レベル、技術的な課題及び実用化の見通しについて整理されている(資料 IV -34)。

資料IV-34 バイオマス利用技術の現状とロードマップ(平成29(2017)年4月)のイメージ(木質系バイオマスの一部を抜粋)

(*175)平成29(2017)年4月21日バイオマス活用推進専門家会議決定




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