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林野庁

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第1部 第 IV 章 第1節 木材需給の動向(5)

(5)木材輸出対策

(我が国の木材輸出は近年増加)

我が国の木材輸出は、中国等における木材需要の増加や韓国におけるヒノキに対する人気の高まり等を背景に、平成25(2013)年以降増加している。平成29(2017)年の木材輸出額は、前年比37%増の326億円となった。

品目別にみると、丸太が137億円(前年比62%増)、製材が54億円(前年比43%増)、合板等が63億円(前年比28%増)となっており、これらで全体の輸出額の約8割を占めている。丸太の輸出額は、平成28(2016)年には減少したものの、平成29(2017)年には一転して大幅に増加して輸出額全体の約4割を占めている(資料 IV -17)。丸太の輸出額のうち、中国・韓国・台湾向けが99%を占めている。

また、輸出先を国・地域別にみると、中国が145億円で最も多く、フィリピンが74億円、韓国が37億円、米国が19億円、台湾が16億円と続いている(資料 IV -17)。中国向けについては、輸出額の約7割を丸太が占めており、主にスギが輸出されて梱包材、土木用材、コンクリート型枠(かたわく)用材等に利用されている。韓国向けについては、輸出額の約6割を丸太が占めており、主にヒノキが輸出されて内装材等に利用されている。フィリピン向けについては、輸出額の約8割を合板等が占めている。米国向けについては、輸出額の約3割を製材が占めており、最近では、米スギ(*63)の代替材需要に応じたスギ製材の輸出が伸びている。


(*63)ウェスタン・レッド・シダー(ヒノキ科クロベ属)の通称。



(木材輸出拡大に向けた方針)

平成28(2016)年5月に、政府の「農林水産業・地域の活力創造本部」は、「農林水産業の輸出力強化戦略」を取りまとめた。同戦略では、林産物のうち、スギ・ヒノキについて、丸太中心の輸出から、我が国の高度な加工技術を活かした製品の輸出への転換を推進するとともに、新たな輸出先国の開拓に取り組むこととした。

また、同戦略に基づく取組をさらに具体化するため、輸出戦略実行委員会(*64)林産物部会は、平成29(2017)年6月に、中国、韓国、台湾及びベトナムを対象とした「木材・木材製品の輸出拡大に向けた取組方針」を取りまとめた。同方針では、各国・地域別に、木材輸出の現状と課題を整理した上で、輸出のターゲット(品目・対象者)を絞り込み、輸出拡大に向けた取組の方向性と内容を示した(資料 IV -18)。

資料IV-18 「木材・木材製品の輸出拡大に向けた取組方針(平成29(2017)年6月)」の概要

(*64)オールジャパンでの農林水産物・食品の輸出促進の司令塔として設置された委員会であり、農林水産物の輸出に取り組む民間団体や関係省庁で構成される。



(木材輸出拡大に向けた具体的な取組)

林野庁では、輸出力強化に向けて、日本産木材製品のブランド化の推進、日本産木材の認知度向上、内外装材などターゲットを明確にした販売促進等に取り組んでいる。

まず、日本産木材製品のブランド化の推進として、中国の「木構造設計規範」の改定に向けた取組を進めてきた。中国ではこれまで、我が国の「建築基準法(*65)」に相当する「木構造設計規範」において、日本の在来工法である木造軸組構法(*66)の位置付けと日本産のスギ、ヒノキ及びカラマツの構造材としての規定がなされておらず、同国において構造部材として日本産木材を使用することや木造軸組構法による建築が困難な状態であった。このため、平成22(2010)年から、「一般社団法人日本木材輸出振興協会(*67)」の依頼を受けた国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所等の日本側専門家が、同規範の改定作業に参加してきた。その結果、平成29(2017)年11月20日に同規範を改定することが公告された。改定に当たっては、日本産のスギ、ヒノキ及びカラマツの構造材と木造軸組構法が盛り込まれる予定であり、平成30(2018)年8月1日に施行される予定となっている。これを見込んで、日中の木材関係者等が共同で、設計・施工に当たっての現場向けの具体的な指針「木構造設計手引」の作成に取り組んでいる。

日本産木材の認知度向上としては、海外における展示施設の設置や展示会への出展、モデル住宅の建築・展示を支援している。同協会は、平成28(2016)年10月にはベトナムのホーチミンに、平成29(2017)年12月には台湾の台北に、日本産木材製品の展示施設「ジャパンウッドステーション」をそれぞれ開設した。同協会では、当施設を拠点として、日本産木材製品のPR、商談会の開催、地域の木材市場の情報収集等に取り組んでいる。また、同協会は輸出企業との連携により、中国において開催された建築・建材等の展示会に製材や内装材、家具、合板、LVL等を出展するとともに、中国の大連、東莞、北京に日本産木材を使った木造軸組モデル住宅やモデルルームを設置するなど、日本産木材製品の展示・PRを行っている。

さらに、ターゲットを明確にした販売促進としては、輸出先国バイヤーの日本への招へいによる意見交換会・セミナーの開催や工場見学、輸出先国の木材加工・販売業者と日本の輸出業者による商談会の開催等を支援するとともに、新たな輸出先国開拓のため、有望な輸出先と考えられる米国とインドを対象として、木材輸出のポテンシャルに関する市場調査を支援した。

同調査の結果、米国については、住宅フェンス用等に利用されていた米スギの価格高騰による代替材需要に応じて、日本のスギ丸太が中国で加工されて米国へ輸出されるとともに、我が国の品質管理能力や信用を背景に、スギ製材を米国に直接輸出する動きもみられることが分かった。その上で、米国向けには、スギ製材の輸出が有望であると見込み、今後、展示会等への出展による日本産木材のPRや販路の開拓に努めることを提案している。

また、インドについては、近年、木材の輸入量が増加しており、現在は日本からの輸出は少ないものの潜在市場が大きいことが分かった。その上で、展示会等への出展による日本産木材のPR、市場動向やニーズ等の情報収集に取り組むことを提案している(*68)。

これらの取組に加え、平成29(2017)年6月には、各地における林産物の輸出に向けた取組事例を収集・整理し、「林産物の輸出取組事例集~日本産木材を世界へ~」として取りまとめて紹介している(事例 IV -1)。

都道府県においても、輸出促進のための協議会等の設置に加え、海外に常設の県産材ショールームを設置するなどの動きが広がっている。

事例 IV -1 プレカット加工等の技術を活かした製品輸出の取組(「林産物の輸出取組事例集」より)

(株)棟匠による輸出(台湾、木造軸組住宅)
(株)棟匠による輸出
(台湾、木造軸組住宅)
(株)中東による輸出(中国、寺院)
(株)中東による輸出(中国、寺院)
笠原木材(株)による輸出(韓国、木造軸組住宅)
笠原木材(株)による輸出
(韓国、木造軸組住宅)

株式会社棟匠(とうしょう)(茨城県水戸市)は、地域材を同県内でプレカット加工した製品を平成26(2014)年から台湾に輸出し、木造軸組住宅を建築している。建築・販売に当たっては、台湾の設計会社等と合弁会社を設立して対応しているほか、現地の職人を育成するための技術指導も行っている。

株式会社中東(ちゅうとう)(石川県能美(みの)市)は、海外からの引き合いに応じて、プレカット加工した大断面構造用集成材等を韓国、中国、台湾、シンガポールに輸出しており、現地での建方指導も行っている。輸出した部材で、これまでに、駅舎の上屋や、共同住宅、寺院、校舎、レストラン等が建設されており、金沢駅の鼓門(つづみもん)など国内の中大規模建築等に対する部材供給の実績が海外からも認められている。加工技術に裏打ちされたブランド力を活かし、海外の業者に対してスギ・能登ヒバ・カラマツなどの地域材利用を提案している。平成30(2018)年3月には、台湾の既存物件の改装工事向けに県産スギCLT等を出荷した。

笠原木材(かさはらもくざい)株式会社(岐阜県高山(たかやま)市)は、プレカット加工した国産材を韓国に輸出し、木造軸組住宅を建築している。建築に当たっては日本人大工工事技術者を派遣し、構造・造作の施工も含めて輸出してきた。平成27(2015)年より、韓国のパートナー企業への施工技術指導・移転等も進めている。

これらのように、プレカット加工等の技術を活かした製品輸出の取組がみられている。今後、付加価値の高い製品輸出の取組が各地に広まっていくことが期待される。


資料:林野庁「林産物の輸出取組事例集~日本産木材を世界へ~」(平成29(2017)年6月)、平成29(2017)年9月12日付け日刊木材新聞8面


(*65)「建築基準法」(昭和25年法律第201号)

(*66)木造住宅の工法について詳しくは、168ページを参照。

(*67)平成16(2004)年に「日本木材輸出振興協議会」として設立され、平成23(2011)年10月に「一般社団法人日本木材輸出振興協会」に移行。

(*68)一般財団法人日本木材総合情報センター「米国及びインドにおける日本産木材の輸出ポテンシャル調査分析報告書」(平成30(2018)年2月)



コラム 商社による海外木材マーケットの開拓と国産材輸出拡大の取組

鉄鋼、非鉄・金属原料、食品、石油・化成品、木材、機械など幅広い商材を扱う商社の阪和興業株(はんわこうぎょう)式会社は、近年、国産材の輸出事業にも力を入れている。

同社は、平成18(2006)年のインド向けの試験輸出をきっかけに国産材輸出に取り組み、平成22(2010)年からは志布志(しぶし)港(鹿児島県志布志市)等の九州の港を拠点に、主に中国や台湾への丸太の輸出を拡大させてきた。海外マーケットにおけるスギ・ヒノキの認知度の低さから、安価な梱包材用としての販売に限られるなどの課題に対して、スギ・ヒノキの特性を評価する需要者(木材加工業者等)を開拓するなど付加価値の向上に取り組んできた。その結果、屋根材やフェンス材等の付加価値の高い需要分野への進出に成功したほか、競合する外国産材の値動きに影響されないようになるなどの成果がみられた。また、国内においては、安定価格での集荷や山元からの直送での集荷を強化し、安定供給体制の構築等に取り組んできた。

これらの取組が、農林水産物・食品輸出の促進に資する特に優れた取組であるとして、平成29(2017)年3月には、木材輸出戦略協議会(注)(鹿児島県志布志市)とともに農林水産省の「平成28年度輸出に取り組む優良事業者表彰」の食料産業局長賞を受賞した。

同社では引き続き、商社機能を活かしたマーケットの開拓や需要特性の把握、丸太輸出で培った販売網を活かした製材品の輸出にも取り組んでいくこととしている。


注:木材輸出戦略協議会の取組について詳しくは、「平成28年度森林及び林業の動向」の146ページを参照。

資料:農林水産省ホームページ「「平成28年度輸出に取り組む優良事業者表彰」受賞者の取組内容」、阪和興業株式会社ホームページ「環境・CSR報告書2017」

丸太輸出の荷役作業の様子
丸太輸出の荷役作業の様子
屋根材として加工された国産スギ
屋根材として加工された国産スギ


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