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第1部 第 II 章 第3節 森林保全の動向(1)

森林は、山地災害の防止、水源の涵(かん)養、生物多様性の保全等の公益的機能を有しており、その適正な利用を確保するとともに、自然災害、病虫獣害等から適切に保全することにより、これらの機能の維持及び増進を図ることが重要である。

以下では、保安林等の管理及び保全、治山対策の展開、森林における生物多様性の保全、森林被害対策の推進について記述する。


(1)保安林等の管理及び保全

(保安林制度)

公益的機能の発揮が特に要請される森林については、農林水産大臣又は都道府県知事が「森林法」に基づき「保安林」に指定して、立木の伐採や土地の形質の変更等を規制している(*56)。保安林には、「水源かん養保安林」をはじめとする17種類の保安林がある(事例 II -5)。平成28(2016)年度には、新たに約1.5万haが保安林に指定され、同年度末で、全国の森林面積の49%、国土面積の32%に当たる1,218万ha(*57)の森林が保安林に指定されている(資料 II -18)。特に近年は、集中豪雨等による山地災害が多発していることも踏まえ、「土砂流出防備保安林」、「土砂崩壊防備保安林」等の適正な配備を進めることとしている。

「京都議定書」のルールでは、天然生林の森林吸収量を算入する条件として、保安林を含む法令等に基づく保護措置及び保全措置が講じられている必要がある。このため、適切な保安林の管理及び保全は、森林吸収源対策を推進する観点からも重要である。

事例 II -5 人々の暮らしを守る保安林

富山県南砺(なんと)市の五箇山(ごかやま)地区は、豪雪地帯であり、古来より集落の背後の森林を禁伐の「雪持林(ゆきもちりん)」として管理することで、なだれによる被害を防いできた。雪持林は、明治30(1897)年の森林法の制定による保安林制度の創設により、明治31(1898)年に「なだれ防止保安林」に指定され、維持・管理されている。この雪持林は、世界文化遺産(注1)である「白川郷(しらかわごう)・五箇山の合掌造り集落」のうち、相倉(あいのくら)集落と菅沼(すがぬま)集落にもあり、同遺産の登録に当たっては、合掌造り(注2)の伝統的集落だけでなく、田園や周囲の森林も含めた景観が評価されている。ブナ・トチ・ミズナラ等で構成された森林は、なだれ等の山地災害の防止や、水源の涵(かん)養等の公益的機能を発揮し、地域を支えている。

また、沖縄県は、夏季には台風が頻繁に襲来し、冬季には強い北東の季節風の影響を受け、一年を通して激しい潮風害を受ける環境下にあり、特に住宅やサトウキビ等の農作物への影響は顕著であることから、これを緩和するために海岸周辺の森林の多くを「潮害防備保安林(注3)」に指定している。沖縄県では、琉球王朝時代より防潮林を潮垣(すがき)と呼び、アダン、オオハマボウ、テリハボク等を組み合わせて植栽してきた。海岸林は、古くからその重要性が認識されていたが、戦禍による消失や戦後の混乱等、ある一時期は保全・管理の空白によって、ひどく荒廃した。昭和28(1953)年以降、保安林の整備に取り組んだ結果、県内の潮害防備保安林の面積は3,700haと全国の約25%を占め、過去5年間においても52ha増加している。住民の生活の中でも重要な役割を果たしていることから、地域の期待は大きい。

このように、保安林は、南北に長い日本列島の多様な環境の下、森林の有する公益的な機能を発揮して、全国各地で人々の安全・安心な暮らしを守っている。


注1:国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の1972年総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(世界遺産条約)に基づき世界遺産リストに登録された遺跡、景観、自然等で、「白川郷・五箇山の合掌造り集落」は、平成7(1995)年12月9日に世界文化遺産として登録された。

2:特徴的に見られる急傾斜の切妻造り・茅葺きの民家。多くは江戸時代末期から明治時代に建てられ、最も古いものは17世紀に遡る。

3:津波や高潮の勢いを弱め、住宅等への被害や、海岸からの塩分を含んだ風を弱め、田畑への塩害等を防ぐことを目的に指定する保安林。

相倉集落の合掌造りとなだれ防止保安林(富山県南砺市)
相倉集落の合掌造りとなだれ防止保安林
(富山県南砺市)
黒島の潮害防備保安林(沖縄県竹富町)
黒島の潮害防備保安林
(沖縄県竹富町)

(*56)「森林法」第25条から第40条まで

(*57)それぞれの種別における「指定面積」から、上位の種別に兼種指定された面積を除いた「実面積」の合計。



(林地開発許可制度)

保安林以外の森林についても、工場用地や農用地の造成、土石の採掘等を行うに当たっては、森林の有する多面的機能が損なわれないよう適正に行うことが必要である。

このため「森林法」では、保安林以外の民有林について、森林の土地の適正な利用を確保することを目的とする林地開発許可制度が設けられている。同制度では、森林において一定規模を超える開発を行う場合には、都道府県知事の許可が必要とされている(*58)。同制度に係る違反行為についての罰則は、平成28(2016)年5月の「森林法」の改正により、新たに懲役刑が措置されるとともに、罰金額の上限が引き上げられ、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金となった。この新たな罰則は、平成29(2017)年4月に施行された。

平成28(2016)年度には、4,281haについて林地開発の許可が行われた。このうち、工場・事業用地及び農用地の造成が2,999ha、土石の採掘が999ha等となっている(*59)。


(*58)「森林法」第10条の2

(*59)林野庁治山課調べ。平成27(2015)年度以前については、林野庁「森林・林業統計要覧」を参照。




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