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林野庁

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第1部 第 I 章 第2節 林業の新たな技術の導入(1)

林業の新たな技術の開発や導入状況、その成果、今後の課題について、「林業の生産性向上のための技術」、「情報通信技術(ICT(*6))の活用」、「木材需要の拡大に向けた技術」及び「花粉の発生を抑える技術」に分けて具体的に記述する。


(*6)「Information and Communication Technology」の略。



(1)林業の生産性向上のための技術

(ア)伐採と造林の一貫作業システム

(造林・保育に要する経費の縮減が課題)

戦後や高度経済成長期の伐採跡地に造成された人工林については、現在では、いまだ間伐等の施業が必要な育成段階のものが多くある一方、主伐が可能な10齢級以上の人工林の割合が平成24(2012)年時点で約5割を占めるまで増加している(*7)。今後は、主伐期を迎えた人工林について、森林の公益的機能の発揮に支障が及ばないよう留意しつつ、適切な主伐を進めて原木の供給を確保していくことが重要である。そして、引き続き、育成単層林(人工林)として維持する森林については、主伐後の植栽による再造林とその後の保育作業を着実に実施する必要がある。

その一方で、50年生のスギ人工林の主伐を行った場合の収入(主伐収入)は、平成28(2016)年の山元立木価格(*8)に基づいて試算すると、87万円/haとなっている。これに対し、スギ人工林において、50年生(10齢級)までの林業経営に掛かる経費(*9)は、114万円/haから245万円/haとなっており、主伐収入と比較すると、相当に高い状況となっている。主伐収入については、市況にもよるものの、木材代替品や輸入材との競争の中で定められる傾向にある国産材の木材価格により左右される。このことと近年の国産材の木材価格の動向を踏まえれば、今後において、主伐収入が大幅に増加することは見込みにくい。このため、森林所有者により多くの利益を還元させ、原木供給力の増大や持続可能な林業経営の確保、再造林の着実な実施を確保していくためには、造林や保育に要する経費を縮減するための取組や新たな技術の導入を推進していくことが重要な課題となっている。


(*7)林野庁「森林資源の現況」(平成24(2012)年3月31日現在)

(*8)林地に立っている樹木の価格で、樹木から生産される丸太の材積(利用材積)1m3当たりの価格で示される。詳細は、第 III 章(89-91ページ)を参照。

(*9)農林水産省「平成25年度林業経営統計調査報告」(平成27(2015)年7月)



(「伐採と造林の一貫作業システム」の導入による作業コストの縮減)

林業先進地域である欧州諸国では、ヨーロッパトウヒ等の主要樹種の主伐跡地を天然更新によって森林造成する取組が多くみられ、これによって苗木購入や植栽等の再造林に要する経費が縮減されていると考えられる(*10)。一方、我が国は、これらの欧州諸国と比較して、温暖湿潤で草本類やササが繁茂することなどから、一部の地域を除き天然更新によってスギ、ヒノキ、カラマツ等の用材向け針葉樹の森林を造成することは困難とされている。このことから、我が国では、こうした森林を造成するためには植栽を行うことが基本であるため、植栽に要する経費を縮減できる技術の導入が必要となる。

我が国における従来の再造林では、従来の裸苗(はだかなえ)の植栽時期が春又は秋に限られていること、再造林を実施する林業事業体と伐採を実施する林業事業体が異なる場合が多いことから、伐採後、一定の期間を置いた後に地拵(ごしら)えを実施してきた。また、地拵(ごしら)えや植栽現場への苗木運搬は人力で実施することが一般的であり、多くの労力と時間を要することとなっていた。

これに対して、近年、国有林野事業をはじめとして新たに導入されつつある「伐採と造林の一貫作業システム」は、グラップル(*11)等の伐採や搬出に使用した林業機械を用いて、伐採してすぐに伐採跡地に残された末木枝条を除去して地拵(ごしら)えを実施し、これらの機械で苗木を運搬した上で、植栽を行うものである(資料 I -2)。このため、「伐採と造林の一貫作業システム」は、地拵(ごしら)えから植栽までの工程を省力化することとなり、全体として育林の作業コストを大きく縮減することが可能となる。例えば、国立研究開発法人森林総合研究所の研究成果によると、従来の方法による再造林では約27人日/haの労働投入量が必要となるが、「伐採と造林の一貫作業システム」を導入した場合、平坦又は緩傾斜地では4人日/haから6人日/ha、中傾斜地又は急傾斜地でも6人日/haから9人日/haまで労働投入量を縮減することが可能となる(資料 I -3)。林野庁では、国有林のフィールドや技術力等を活用し、「伐採と造林の一貫作業システム」の有効性についての実証や普及に取り組んでいる(資料 I -4)。

「伐採と造林の一貫作業システム」の仕組み

「伐採と造林の一貫作業システム」と従来の手法の労働投入量比較
          国有林野事業における「伐採と造林の一貫作業システム」の実績
データ(エクセル:36KB)

(*10)国際連合食糧農業機関(FAO)の「世界森林資源評価2015(FRA2015)」の国別報告書をみてみると、例えばオーストリアでは、2000年2月から2007年9月までの期間において、人工造林によって更新した森林の面積が0.7千ha/年であったのに対し、天然更新により更新した森林の面積は3.0千ha/年となっている。

(*11)木材をつかんで持ち上げ、集積する機能を備えた車両。



(「伐採と造林の一貫作業システム」等の実証研究も進展)

国立研究開発法人森林総合研究所では、「伐採と造林の一貫作業システム」を含む低コスト造林技術の有効性について、実証研究(*12)を実施している。

この実証研究においては、急傾斜地等で用いられる架線系作業システムの場合は、架線を利用して苗木を運搬することにより、運搬に要する労働投入量を大幅に縮減できることを明らかにした上で、傾斜等の地域の特性を踏まえつつ、具体的な林業機械の組み合わせや植栽方法を検討しながら「伐採と造林の一貫作業システム」を構築していく必要があることを示唆している。


(*12)国立研究開発法人森林総合研究所「コンテナ苗を活用した主伐・再造林技術の新たな展開~実証研究の現場から~」(平成28(2016)年3月)



(コンテナ苗により植栽適期を拡大)

従来の裸苗(はだかなえ)での植栽は、植栽に適した春及び秋に行うことが多い。これは、裸苗(はだかなえ)の活着が確保されるのが、これらの時期に限られているためである。その一方、主伐後の再造林の事業量が増加していく中、「伐採と造林の一貫作業システム」により効率化を図りながら年間を通じて再造林を実施していくためには、植栽適期を拡大していくための技術が必要となる。

そのような中で、根巻きを防止できる容器で育成する林業用種苗に適した「コンテナ苗(*13)」が導入されている(資料 I -5)。このコンテナ苗は、裸苗(はだかなえ)と異なり、根鉢があることで、根が出荷時に乾燥等から保護されていることなどから、寒冷地の冬季を除き、通常の植栽適期以外でも高い活着率が見込めることが示されており、植栽適期を拡大できる可能性がある(資料 I -6)。このことから、「伐採と造林の一貫作業システム」を推進する上で、コンテナ苗の普及についても併せて取組が進められている(*14)。

コンテナ苗と裸苗(はだかなえ)
          コンテナ苗の活着率の評価
データ(エクセル:11KB)

(*13)コンテナ苗は、林野庁が開発したマルチキャビティーコンテナや宮崎県林業技術センターが開発したMスターコンテナ等を用いて生産されている。

(*14)国有林野事業におけるコンテナ苗の普及についての事例については、第 V 章(190ページ)を参照。



(イ)コンテナ苗の大量生産技術

(機械化や自動化によるコンテナ苗生産)

主伐とその後の再造林が増加していくことが見込まれ、また、「伐採と造林の一貫作業システム」の導入により再造林に要する経費の縮減に取り組んでいく中において、低コストでコンテナ苗を安定的かつ大量に生産できる技術を開発することが必要となる。

コンテナへの播種(はしゅ)や培地詰(ばいちづ)めは、現時点では手作業によって実施されているが、今後においては、これらの作業の機械化や自動化によるコンテナ苗の効率的な大量生産技術を開発し導入していくことが期待されている。

国立研究開発法人森林総合研究所では、農業分野で既に普及している自動播種(はしゅ)機や自動培地(ばいち)充填機を用いて、経費も含めて林業用種苗でも適用できるか実証を行っている。この実証においては、機械化等によって生産能力が約5倍に向上することなどが示唆されている(資料 I -7)。こうした中、国内の林業関連会社においては、機械化されたコンテナ苗生産施設を整備するなど、その増産に向けた取組も始まっている。



(発芽率の高い充実種子の判別技術も必要)

コンテナ苗は、現在では、種子を苗畑に播種(はしゅ)し、このうち発芽が確認されたものをコンテナに移植して育苗して生産されている。これは、林業用樹種の種子の発芽率が一般的には低いためであるが、コンテナ苗の生産コストをより縮減していくためには、種子をコンテナに直接播種(はしゅ)し、移植に要する手間を省いていく必要がある。

直接播種(はしゅ)を導入していくためには、発芽率の高い種子を効率的かつ確実に判別する技術が求められる。このような中で、種子に近赤外光を当てて種子内部の違いを検査することにより、健全な充実種子と発芽に必要な構造や成分を欠く不稔(ふねん)種子(発芽しない種子)を容易に見分ける技術が開発(*15)されている。


(*15)この技術の詳細については、「平成27年度森林及び林業の動向」58ページの「事例 II -6コンテナ苗生産の低コスト化につながる新しい選種技術の開発」を参照。



(ウ)低密度での植栽と優良品種の開発

(低密度での植栽による造林コストの縮減)

我が国においては従来、植栽後15年程度で灌(かん)木との競争を抜けて植栽木の林冠が閉鎖することを前提として、3,000本/ha前後の植栽密度で新規植栽や再造林を実施してきた。その一方で、用材向け針葉樹の天然更新が可能な自然条件を有する欧州諸国と比較すると、この植栽密度は、造林に要する経費が高くなる要因ともなっており、植付け作業や下刈り作業の省力化を図って造林に要する経費を縮減していくことが大きな課題となっている。

そのような中で、現在、造林に要する経費の縮減につながるとして、低密度での植栽が注目されている。低密度での植栽は、苗木代金や植付に要する経費の縮減が期待できるようになる一方で、下草が繁茂しやすくなることや、下枝の枯れ上がりが遅くなって完満な木材が得られなくなるおそれがあることなどの課題がある。このことから、現在、林野庁や各都道府県等においては、低密度での植栽の導入に向けた課題の検証を進めているところであり、その検証成果に基づき、森林施業の施業指針の作成など低密度での植栽についての施業体系の整備に取り組んでいる(事例 I -1)。

低密度での植栽を実施した場合、従来の植栽方法よりも太陽光を巡っての植栽木同士の競合が緩和されることから、枝がより多く発生することとなり、木材利用に適した通直で完満な木材が生産されにくくなる可能性がある。また、垂直方向への成長が鈍化しがちとなる上、下草の繁茂がより容易となることから、下刈りに要する経費がかえって増大する可能性もある。このことから、低密度での植栽等の低コスト造林を進める上で、初期成長や材質、通直性に優れた品種の開発が不可欠となってくる。

事例 I -1 広島県における「2000本植栽 育林技術体系」の作成

広島県における「2000本植栽 育林技術体系」の作成
「2000本植栽 育林技術体系」に掲載された
スギ林育林技術体系図の一部

広島県は、平成28(2016)年3月に「2000本植栽 育林技術体系」を取りまとめて公表した。

広島県のこれまでの「優良材生産育林技術体系」(昭和52(1977)年)は真壁工法による住宅が中心だった当時の状況を踏まえ、節のない化粧性の高い木材を生産することを内容としていたが、その後において、住宅の大壁工法が普及し、集成材、合板等の需要が増加してきたことを踏まえ「2000本植栽 育林技術体系」では、節があるなどの並材の生産を前提として、植栽密度を2000本/haとすることで再造林や保育作業のコストを低減することを意図している。


(成長等に優れた優良品種の開発)

国立研究開発法人森林総合研究所林木育種センターでは、林業の生産性の向上等を目的として、優良品種の開発に取り組んできている。同センターでは、全国から選抜されたスギ、ヒノキ、カラマツ等の精英樹について、遺伝的に優れているかを明らかにする検定を実施し、特に遺伝的に優れたものを特定している。さらに優れた優良品種を開発するため、同センターでは、精英樹同士の交配により次世代(F1)を作り、この中から優れた個体を選抜することで、従来よりも成長や形質に優れた第二世代精英樹(エリートツリー)の開発を平成24(2012)年から行っている(資料 I -8)。現在は、第二世代精英樹同士を交配させ、第三世代以降の精英樹の開発に着手している。

また、平成25(2013)年5月に行われた「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法(*16)」の一部改正により、将来にわたって二酸化炭素の吸収作用の強化を図るため、成長に優れた種苗の安定供給に向けて、その種子等を生産する母樹(特定母樹)の増殖に関する計画制度が新設された。平成29(2017)年3月現在、特定母樹として211種類が指定されており、そのうち175種類が第二世代精英樹から選ばれている。

特定母樹に指定されたエリートツリーの初期成長(5年生)

(*16)「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法」(平成20年法律第32号)



(林木育種を高速化させる技術が必要)

林木の優良品種の開発は、苗木の増殖やその成長量を調査するのに一般に30年以上の長期間を要することから、需要に応じて品種を速やかに提供することが困難であった。林業の成長産業化を進めていく上で、成長等に優れた優良品種を早期に開発することが求められており、林木育種を高速化させる技術が必要となっている。

このような中、国立研究開発法人森林総合研究所林木育種センターでは、「前方選抜(*17)」を導入している(資料 I -9)。この「前方選抜」は、選抜の候補となる樹木の親個体や兄弟個体等の血縁関係にある個体の成長等に関するデータを統計解析することによって、その苗木が後世代に優良な特性をどの程度与えることができるかを推定する方法であり、苗木の成長量等についての調査結果を待つ必要がないことから、品種開発に要する期間を大幅に短縮することが可能となっている。

また、同センターでは、林木のDNAレベルの遺伝子情報を収集し、どのDNA塩基配列が成長量や材質、花粉生産量等に関係しているか調査し、これを活用する「ゲノム育種」の手法の開発にも取り組んでいる。この手法が確立すれば、より短期間で要求される性質を有する品種の開発が可能になると期待されている。

林木育種における「前方選抜」のイメージ

(*17)「前方選抜」に対し、優良品種の候補となる樹木の成長後に形質等を評価して品種選抜を行う方法を「後方選抜」という。



(エ)早生樹種の導入に向けた技術

(強度等に優れた広葉樹資源への関心が高まる)

家具材やフローリング材は、一般に表面に傷がつきにくいよう、硬さが求められる。そのため、その原料として主に、耐摩耗性の高い広葉樹材が活用されてきた。これらの広葉樹材は、その大半が輸入材で占められているが、国外では資源量の減少や生物多様性保全への意識の高まりに伴う伐採規制等の動きがみられることから、近年、国内における広葉樹材の生産への関心が高まってきている。

その一方で、広葉樹は、一般にスギやヒノキ等と比較して単位面積当たりの成長量が小さく、末口(*18)直径30cm以上の丸太が求められる家具材生産のためには、おおむね80年以上の育成期間を要することが課題とされている。また、針葉樹と比較して、広葉樹は幹の曲がりや枝分かれが発生しやすく、通直な用材の生産が難しいことも課題である。


(*18)丸太の木口のうち、上方の直径が短い方のこと。



(早生樹種の施業技術開発が進展)

これらの課題も踏まえ、センダンやチャンチンモドキといった短期間で成長して早期に活用が期待できる早生樹種の広葉樹による森林施業の技術開発に注目が集まってきている。

このうち、センダンについては、20年生程度で家具材として利用可能になるほど早期に成長し、その木材はケヤキの代替材として利用されている一方、枝分かれが激しいことから、通直な木材を生産する技術が課題となっていた。このような中、熊本県では、頂芽以外の腋芽(えきが)を全て取り除く「芽かき」の実施によって樹形を通直にする技術を開発(*19)している(資料 I -10)。

また、チャンチンモドキは、成長が早く10年程度で収穫が可能となるほか、萌芽更新が可能であることから、再造林に要する経費を縮減できる可能性がある。チャンチンモドキの木材は、割れが生じやすいものの、スギと同程度の強度を有し、密度も高いと考えられることから、造作材や、近年、需要が増加している木質バイオマスとして利用できる可能性がある。このことから、大分県等では、試験植栽等を実施して施業技術の開発に取り組んでいる(資料 I -10)。

このように地域レベルでの早生樹種の施業技術の開発に向けた実証的な取組が増加してきているほか、国有林野事業においてもセンダンの試験植栽等の早生樹種の施業技術開発(*20)が進められている。

早生樹種の施業技術研究のイメージ

(*19)熊本県林業研究指導所「センダンの育成方法(H27改訂版)」(平成27(2015)年9月)

(*20)国有林野事業におけるセンダンの試験植栽の取組については、「平成27年度森林及び林業の動向」179ページの「事例 V -8早生樹の試験植栽や早生樹の産学官共催セミナーを実施」を参照。



(強度のある針葉樹早生樹種への注目も)

近年、強度のある針葉樹早生樹種として、コウヨウザン(*21)の活用が注目されている。コウヨウザンは、成長が早い上に、萌芽更新が可能であることから、苗木の植栽を省くことによって再造林に要する経費を縮減できる可能性もある。また、国立研究開発法人森林総合研究所林木育種センターが実施したコウヨウザンの木材の材質調査では、ヒノキに近い強度が示されている(*22)。今後は、いまだに未解明な部分も多い育種技術や育苗、萌芽更新等の造林技術の確立に取り組むことが必要となっている。


(*21)中国大陸や台湾を原産とし、学名は、Cunninghamia lanceolateである。我が国では外来生物に当たるが、江戸時代より前に導入されたものであり、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(平成16年法律第78号)に基づく特定外来生物や未判定外来生物には指定されていない。

(*22)国立研究開発法人森林総合研究所林木育種センターホームページ「コウヨウザンのそもそもと研究の現状」(https://www.ffpri.affrc.go.jp/ftbc/iden/kaishi/2016no1.html



(オ)鳥獣被害対策のための新たな技術

(シカによる森林被害対策のための技術導入が必要)

近年、野生鳥獣の個体数の増加や分布域の拡大を背景に、とりわけシカによる森林被害が深刻化している。シカの食害等により、下層植生の消失や樹皮剥ぎによる立木の枯損(こそん)が引き起こされ、生物多様性の保全や国土保全に支障をきたしている。また、食害によって立木が枯損(こそん)すれば、林業の採算性が悪化し、持続的な林業経営にも影響を与えることにもなる。

このため、林野庁では、「被害の防除」と「個体数管理」等によるシカ等の鳥獣被害対策に取り組んでいる(*23)が、シカによる森林被害が依然として深刻な中において、効果的な鳥獣被害対策を実施するためには、新たな技術を開発、導入していくことが不可欠となっている。


(*23)シカによる森林被害対策の全般については、第 II 章(66-69ページ)を参照。



(森林被害の防除のための新たな技術の導入)

守るべき森林の被害を防除するため、これまでも森林へのシカ等の侵入を防ぐ防護柵等の整備により森林被害の防除を実施してきたところであり、近年では、新たな技術が導入されている。

「被害の防除」のための新たな技術の一つとして、例えば、守るべき造林地を小さな区画に分けて防護柵を設けるパッチディフェンスが導入されている。区画を分けることにより、シカに侵入された場合でも、造林地全体へ被害が拡大する危険性を回避することができる。また、食害防止チューブ等の設置による造林木の単木保護は、一般に防護柵の設置よりも防除のための経費を要することとなるが、低密度での植栽を実施した造林地で採用する場合にはこの経費を縮減できる可能性もある。このことを踏まえ、低密度での植栽と単木保護を用いた施業方法についての検討も進められている。


(個体数管理のための新たな技術の導入)

シカの個体数管理についても、新たな技術が導入されている。捕獲への警戒心を学習したシカをつくらないことを目的に、給餌により一時的に誘引したシカの群れ全頭を捕獲する「誘引狙撃(*24)」が導入されているほか、大量のシカを捕獲することを目的とした「大型囲いわな」や従来よりも軽量な資材の利用により移動運搬や人力での組み立てがより容易となる「簡易囲いわな」の開発及び導入が進められている。これらの囲いわなについては、シカの侵入センサーの設置やパソコンによる遠隔操作システム等の情報通信技術(ICT)を活用することにより、より効果的な捕獲に取り組んでいる事例もみられる(事例 I -2)。

さらに、空中に網を張り、シカ等が網の下を通ったときに網を落として捕獲する「ドロップネット」が開発されているとともに、首用くくりわな(*25)等のくくりわなの改良など個体数管理のための技術の開発が進展している。

事例 I -2 情報通信技術(ICT)を活用したわな捕獲施設の開発

株式会社アイエスイー(三重県伊勢市(いせし))は、三重県農業研究所及び国立鳥羽(とば)商船高等専門学校との共同研究により、情報通信技術(ICT)を活用したシカのわな捕獲施設「まる三重(みえ)ホカクン」を開発した。

このわな捕獲施設にはカメラが設置されており、わな管理者のパソコンや携帯電話(スマートフォン)にわな内部のその時点での映像が配信される仕組みとなっている。また、この画像を確認しながら専用のホームページ上で操作することで、自動でわなが作動してシカ等を捕獲できる遠隔操作システムも装備されている。さらに、これらのカメラや遠隔操作システムは、太陽光発電で作動する仕組みとしていることから、立地等の条件を問わず設置することが可能となっている。

このように、情報通信技術(ICT)の活用により、より効率的な捕獲が可能になるとともに、錯誤捕獲が生じるおそれも低減することが期待できる。

「伐採と造林の一貫作業システム」と従来の手法の労働投入量比較

          国有林野事業における「伐採と造林の一貫作業システム」の実績
情報通信技術(ICT)を活用したわな捕獲施設

(*24)誘引狙撃には、一定レベル以上の技量を有する射手、動物の行動をコントロールするための給餌、警戒心の強い個体の出現予防等の体制を整える必要がある。

(*25)首用くくりわなについては、第 V 章(188ページ)も参照。



(カ)高性能林業機械の開発

(効率的な作業システムを構築する機械の開発)

森林内の立木から丸太を生産する林業の作業のことを素材生産といい、立木の伐倒(伐木)、木寄(きよ)せ(*26)、枝払い、玉切り(造材)、林道沿いの土場への運搬(集材)、椪積(はいづみ)(*27)といった複数の工程から成る。生産性を向上させるためには、効率的な作業システム(*28)の構築が重要であり、素材生産の各工程に応じて車両系や架線系の林業機械(*29)が開発されてきた。これらの林業機械を地形等作業現場の条件に応じて適切に組み合わせて配置することで、作業システム全体の生産性向上を図ることが重要である。

現在、我が国では、人工林面積の半数以上が10齢級以上となり、今後は素材生産される木材は大径化、重量化していくことが見込まれる。また、我が国は、新規造山帯である環太平洋造山帯に位置しており、人工林の多くは急傾斜で尾根筋と沢筋の入り組んだ複雑な地形に位置し、高い密度で路網を開設できない箇所も多い。このことを見据え、林野庁では民間の林業機械メーカーと連携し、急傾斜で複雑な地形でも導入が可能で、重量のある木材を集材することのできる効率的な架線系作業システムの構築に向けた林業機械を開発してきたところである(事例 I -3)。これらの我が国の地形に合わせて開発された林業機械は、民間の林業機械メーカーにおいて、操作性や生産性に関する作業現場での実証が取り組まれるなど、現場への普及に向けた取組が進展している。

また、林野庁では、傾斜地での再造林を省力化する機械等の開発も進めている。これらの開発については、林業事業体や学識経験者、国有林からの技術的助言を得ながら進めている。

事例 I -3 複雑な地形に対応したタワーヤーダ等の開発

開発されたタワーヤーダ
開発されたタワーヤーダ
開発された自走式搬器
開発された自走式搬器
開発されたオートフック
開発されたオートフック

林野庁は、我が国の複雑な地形に対応した中距離集材の架線系作業システムに活用できるタワーヤーダ(注1)、自走式搬器(注2)及びオートフックを開発した。

このタワーヤーダは、ワイヤーロープを巻き取るためのドラムを4つ備え、地形に合わせた複雑な索張りに対応しており、面的な集材が可能となっている。また、油圧ショベルをベースとした集材機に着脱式のタワーを装備することから、機械購入経費の節減が可能となっている。

自走式搬器は、小型化された高性能エンジンを搭載することによって、走行速度や木材の吊り上げ能力を改良している。

また、オートフックについては、木材に荷掛けしたロープをリモコン操作で取り外すことができる。これにより、木材の荷外し作業が迅速化し省力化が図られるとともに、重量のある木材の近くに人が近づく必要がなくなることから、安全性の向上も図ることができる。


注1:台車にワイヤーロープを巻き取るドラムと架線の支柱となるタワーを装備し、伐倒した木材を架線により吊り上げ、移動させる機能を備えた機械。トラック等の荷台に搭載して自走するものや牽引されて移動するものがある。

2:架線の上を走行し、内蔵したウインチで木材を吊り上げて運搬する機械。


(*26)林内に点在している木材を林道端等に集める作業。

(*27)集材した丸太を同じ樹種や同じ長さごとに仕分けして積む作業。

(*28)車両系作業システムや架線系作業システムがあり、高性能林業機械を使用した作業システムの例については、第 III 章(106ページ)を参照。

(*29)林業機械の状況については、第 III 章(107ページ)を参照。



(ロボット技術を活用した機械の開発も進行)

植付けや下刈り、素材生産等の林業の作業は、夏季の炎天下や急斜面といった厳しい労働環境で行われることが多いため、林業の安全性や生産性の向上を図るとともに、高齢者や若年者、女性等の多様な人材が活躍できる環境を整える必要がある。このため、現在、先端のロボット技術を活用し、丸太の品質を自動判定できるハーベスタ(*30)や無人走行できるフォワーダ(*31)、林業用アシストスーツ(*32)の開発が進められている。


(*30)立木を伐倒し、枝を除去し、長さを測定して切断し、切断した木材を集積する作業を連続して行う機能を備えた車両。

(*31)木材をつかんで持ち上げ、荷台に搭載して運搬する機能を備えた車両。

(*32)装着者の動きを検知し、太ももを持ち上げるような動きで歩行をサポートする機器を備えたスーツであり、造林作業等において急斜面を歩き回る際の労働負荷の低減が期待される。


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