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北海道森林管理局

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    令和5年9月5日 天然林からの持続可能な木材供給に向けた取組


    ~樹群択伐天然更新施業という新たな施業方法についての現地勉強会(石狩森林管理署)~


    計画課

    はじめに

    北海道森林管理局では、森林の多面的機能を持続的に発揮するため、立地条件や森林の現況等に応じた施業を行い様々な林種・樹種・樹齢からなる森林をつくる「多様な森林づくり」を進めています。その一環として森林総合研究所北海道支所より石橋聡氏を講師にお招きし、北海道森林管理局の職員を対象に「樹群択伐天然更新施業」という新たな施業方法について現地勉強会を開催しました。

     

    開 催 日:令和59月5日(火曜日)及び8日(金曜日)の2回に分けて実施

    開催場所:前年度の令和4年に試験的に樹群択伐天然更新施業を実施した石狩森林管理署1130林班(札幌市南区簾舞国有林)

    参 加 者:北海道森林管理局各課及び石狩署等7署(2日間で延べ70名が参加)

    現地検討会の様子
                            
     現地勉強会の様子

    樹群択伐天然更新施業とは

    天然林では、樹木が高さ20m程度に成長してくると、台風などの強風により周囲の樹木を巻き込んで倒れ、そこに一定程度の開けた空間ができ、また根ごと倒れることにより地面に凹凸が生じるようになります。北海道の天然林の多くでは、この開けて明るく地面がむき出しになった箇所に種子が定着することで、次代の森林に更新されてきました。(ギャップ更新と呼ばれる天然林の更新形態です。)

    樹群択伐天然更新施業は、この更新動態に着目して、こうした天然力を活用して着実に次世代の樹木を更新させつつ持続可能な形で木材を収穫していこうとする施業方法です。樹群という0.04ha程度(およそ20m×20mの四角形)の樹木のまとまりをひとつの単位として伐採し、伐採箇所の地表面にあるササなどを除去する地表処理及び伐根をひっくり返す「根返し」を行います。

     

    地表処理

    樹木の更新を阻害するササなどを建設機械により剥ぎ取り、腐植の乏しい鉱質の土壌(※)を露出させる作業です。

    ※一般に、樹木の更新には、腐植の乏しい鉱質の土壌が適しているとされています。

    地表処理

    森林技術・支援センター作成資料より

    根返し

    伐根を建設機械によりひっくり返し、マウンドと呼ばれる凸部とピットと呼ばれる凹部を作ります。マウンドは、周囲より高く土壌が露出しているので、更新に重要な役割を果たします。

    根返し

    森林技術・支援センター作成資料より


    樹群択伐天然更新施業を実行したときの様子

    今回現地勉強会を開催した樹群択伐天然更新施業施工地の様子は次のようになります。(令和4年秋実行)

    施業前 矢印 施業後
    施業前 施業後
    上空〔真上)より 上空〔斜め上〕より
    上空〔真上)より 上空〔斜め上〕より

    樹群択伐天然更新施業と旧来方法の比較

    かつて天然林で実行されてきた伐採方法(単木択伐)と比較すると、以下のような優れた点があります。
    1)  旧来の方法では点状に伐採し地表処理などの更新補助作業を行っていないため、林内が全体的に明るくなりササが繁茂した結果、その後の更新が不良となっていった。
     → 樹群択伐天然更新施業では、0.04ha程度の樹群単位で伐採し地表処理など更新補助作業を行い更新を確保する。

    2)  点状に伐採すると周囲の立木を傷つけるリスクが高くなるほか、集材する際にも建設機械が林内に入ることにより後継樹が損傷するリスクが高くなり、林分が劣化しがちとなっていた。
     → 樹群択伐天然更新施業では、集材路(森林作業道)沿いに樹群を設定し、集材路へ伐倒することにより、支障木が発生するリスクを最小限とすることができる。

     

    更新状況(1年目)

    事業を実施してから1年後にあたる令和5年8月に更新状況を簡易に調査したところ、haあたり25万本程度とたくさんの稚樹が発生していました。樹種は事業を実行した令和4年度に種子が豊作であったエゾマツ、トドマツが多く、次いでカバノキ類、イタヤカエデ、キハダ、カツラ等の発生が確認されました。

    更新状況調査結果

      更新状況調査結果

    マウンド上に更新したトドマツ・エゾマツ稚樹   イタヤカエデの稚樹
    マウンド上に更新したトドマツ・エゾマツ稚樹 イタヤカエデ稚樹

    樹群択伐天然更新施業実施にあたっての留意点

    作業実施にあたっての留意すべき点は、以下のとおりとなります。

    1)  樹群択伐天然更新施業では、小規模の伐採面積となることから母樹からの種子の供給が多く期待できるとともに、相対照度が中庸となり、稚樹の生育に適した環境となる。このため、様々な樹種が更新する。

    2)  しかし、エゾシカが多く生息する地域では、食害により広葉樹の更新は困難となる。

    3)  トドマツやエゾマツ等はエゾシカの食害を受けにくく、エゾシカの生息密度が高くても更新が期待できるが、これらの樹種は一般に稚樹の成長が遅いため通常の地表処理面ではササに被圧される。その一方でマウンド上に発生した稚樹は、地表より高い場所にあるためササに被圧されにくくなり、斜めからの光が入り生存の確率が上がることから、確実な更新には母樹となる針葉樹の存在とマウンドの造成が重要となってくる。

    4)  建設機械を使って作業を行うことから、対象地の林地傾斜は20°未満である必要がある。斜面方位は南面系が望ましい。土壌については、マウンドが安定しない火山灰土壌や湿地は不適である。

     

    今後の展開

    北海道森林管理局では、天然林資源量が回復傾向にあるとともに、持続可能な森林資源の利用はSDGs(持続可能な開発目標)の貢献に資するものであることから、公益的機能の維持増進と木材の安定供給、両者を持続的に高度に発揮させることを目的とし、天然林施業方法の検討に取り組んできました。

    現地勉強会を開催したこの樹群択伐天然更新施業は、天然林の更新動態を活用した方法であり、旧来の方法に比べ優れた点が多く、とりわけ、資源や生物多様性の持続可能性に重点が置かれている点で、これは優れた施業方法になりえると考えています。

    一方で、樹群択伐天然更新施業は現時点では道内4箇所の試験地での実施に留まっており、施工の実績が限られることから、今後は様々な条件にある箇所を選定した上で道内の数か所で試行的に実施し、その有効性や適地の条件を確認していく予定です。  

    なお、施工エリアについては、旧来の天然林伐採のように奥地まで広い範囲で行うのではなく、公益的機能重視の方針から施業を行わない原生的な森林生態系や希少な野生動植物が生育・生息する森林等についてはこうした施業の対象とはなっておらず、かつて人為を加えられた履歴のある天然林のうち既存の人工林周辺など地理的・社会的条件を考慮したエリアとする方向で検討しています。

    他にも、様々な課題がありますが、北海道の国有林ならではの多様な森林づくりを進めていく考えです。

    お問合せ先

    計画保全部 計画課

    ダイヤルイン:050-3160-6283