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特集1 森林を活かす持続的な林業経営

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1.我が国の林業経営を取り巻く状況

(1)林業経営体の重要性

➢ 森林は様々な多面的機能を有しており、2050年カーボンニュートラルも見据え、間伐や再造林等の適切な森林整備、木材利用の拡大が重要

➢ 人工林では、一般的な主伐期である50年生を超える人工林面積が10年前の2.4倍に増加。人工林資源の有効活用は、山村振興にも貢献

➢ 林業に適した場所であっても、主伐後に再造林が行われていない箇所が発生。林業経営体は、適切な森林整備を行い、自らの利益を増加させるとともに、森林所有者への利益還元を進めていく必要


(2)林業経営体の現状

➢ 自ら又は委託により森林施業を行う森林所有者や、受託・立木購入により森林施業・素材生産を行う者が林業経営体

➢ 林業経営体の数は3.4万経営体。保有山林における作業面積では、個人経営体の割合は50%程度

➢ 作業受託面積では民間事業体や森林組合の割合が大きく、主伐は民間事業体が中心で、植林・育林は森林組合が中心


【林業経営体の経営状況】

➢ 林業経営体当たりの素材生産量や素材生産量が年間1万m3を超える林業経営体の割合は増加しており、規模拡大が進行

➢ 家族経営体の林業所得は減少しており、森林所有面積100~500haの家族経営体平均でも林業単体ではほとんど利益が出ない状況

➢ 2018年の会社経営体の営業利益は全国平均で270万円(素材生産量の平均1万m3程度)。売上高が大きくなるにつれ、経常利益率が高くなるなど経営は安定

会社経営体の経営状況(林業事業売上高規模別)

【林業従事者の現状】

➢ 林業従事者数が減少する中、若年者率は上昇傾向。長期的な人材定着が課題

➢ 年間平均給与は305万円(2013年)から343万円(2017年)に上昇しているが、全産業より低く、収益性向上やキャリアアップの仕組みづくりが課題

➢ 林業の労働災害発生率は他産業に比べて高く、安全確保への対応が急務


(3)林業経営体の持続的な経営に向けて

➢ 50年生のスギ人工林の主伐を行った場合で試算すると、補助金を活用すれば経費が圧縮されるとは言え、山元立木価格は森林所有者の再造林意欲を引き出すには十分ではない状況

➢ このため、丸太販売の売上向上、伐出・運材等のコストの圧縮及び育林コストの低減に継続して取り組むことが重要

➢ これにより収益を確保し、山元への利益還元と林業従事者の所得水準等の向上の原資とすることで、森林資源の持続性と経営の持続性の確保につなげていくことが必要

現在の素材生産にかかる収支のイメージ

2.林業経営体の収益性向上の取組

(1)販売強化の取組

【安定供給による売上向上】

➢ 並材需要が中心で、輸入材や他の資材との競争で、過去のピーク時のような高い丸太価格は見込めない状況

➢ 経営体の連携等で安定供給を実現し、協定販売を行うことで、取引価格を安定させることが可能。価格交渉力も向上

➢ 販売先ごとのニーズに応じた採材や用途別の仕分け等により、丸太の価値の向上が可能

➢ 森林組合法の改正による事業連携の強化等により、森林組合のマーケティング機能が強化されることを期待

イメージキャラクター

事例 宮崎県森林組合連合会(宮崎県)


➢ 県内の森林組合や素材生産事業者等と原木の安定供給に関する協議会を設立

➢ 協議会は大型製材工場と定期的に協議を行い、集荷に反映

➢ 宮崎県の山元立木価格(スギ)は上昇し全国トップクラスに


【多様な木材の販売】

➢ 工務店・大工に向け、優良材生産や長伐期を行う場合も、自ら需要先と結びつくことが重要。「顔の見える木材での家づくり」に取り組む団体数・着工数は増加傾向

➢ チップ用と考えられていた広葉樹を、家具等に向けて選別して出荷することで、チップ用よりも高価格での販売が可能


【収入の多様化による経営安定】

➢ 小規模の経営体は、農業、アウトドアのガイド等の立地や環境を活かした他の生業と兼業し、複合経営を行うことで、収入を安定できる可能性

➢ 森林のレクリエーション的利用等、森林を様々な形で活用し収入を安定させる経営体も存在


(2)木材生産・育林コスト低減の取組

➢ 販売単価向上は需要の動向に左右される面がある中で、経営体自らが主体的に取り組める生産・育林コスト低減は重要


【生産・流通コストの低減】

➢ 日本に類似した地形のオーストリアと比較し、日本の伐出・運材・流通コストは割高

➢ 高性能林業機械については、稼働率の向上が生産コスト低減のために必要

➢ 機械稼働率の向上には、施業地の計画的な確保・集約化、作業システムの選択、工程管理、路網整備が重要

➢ 事業量の少ない林業経営体の場合、高性能林業機械を導入しても稼働率を高めることは難しく、木材生産量に合わせた設備投資の小さいシステムを用いることが合理的

➢ 流通コストは、直送など物流・販売経路の見直しやトラック・トレーラーの大型化等により、低減の可能性

丸太価格にかかるコスト比較

【造林・育林の低コスト化に向けた取組】

➢ 地拵え、植栽、下刈りの各工程で、コスト・労働負荷の削減・実証が進展

➢ 育林方法で経費は大きく異なるため、将来の仕向け用途も見据えながら、コスト低減に取り組むことが重要

➢ 「伐採と造林の一貫作業システム」の導入は、人工造林全体の1割以下。伐採と造林を行う者の連携が重要

➢ 低密度植栽や下刈り省力化の実証も各地で進展

➢ 成長に優れるエリートツリー等の中から特定母樹を指定し、採種園や採穂園の整備を推進。本格的な普及はこれから

低密度植栽によるコスト削減例

【林業経営の効率化に向けた技術開発】

➢ ICTを活用し、森林資源情報の把握、木材の生産・流通の各段階における作業の効率化を図る取組を推進

➢ 安全性の向上や省力化を目指し、伐採・搬出・下刈り等の自動化・遠隔操作に向けた機械開発を推進

特定母樹由来苗木の出荷(予定)


3.林業従事者の確保・育成と労働環境の向上

(1)林業従事者の確保・育成

➢ 林業従事者は生産性を向上する上で重要な存在。従事者を確保した上で、技術力を高め育成していく取組が不可欠

➢ 林業経営体では、能力評価システムを導入すること等で林業従事者の意欲向上につなげることが重要

➢ 新規就業者の確保・育成のため、林野庁は、就業相談等のイベント、トライアル雇用を支援し、「緑の雇用」事業による研修を実施。道府県等は、各地で林業大学校を整備


(2)労働環境の向上

➢ 安全な職場づくりは、林業従事者を守り、林業労働力を継続的に確保するために必要不可欠

➢ 労働安全衛生規則や伐木時のガイドラインの遵守が基本。安全巡回指導や研修、安全装備・装置の導入も重要

➢ 安定した雇用環境も大切。森林組合では、通年で働く専業的な雇用労働者や社会保険が適用される者、月給制の割合が増加

➢ 女性の伐木・造材・集材従事者は増加。女性が働きやすい環境を整えることは、男性も含めた「働き方改革」に寄与


4.持続的な林業経営を担う人材育成及び体制整備

(1)持続的な林業経営を担う人材育成

➢ 林業従事者が安心して林業作業に従事し、その能力を十分に発揮する上で、事業地や木材の販売先の確保が必要

➢ 林野庁は、施業集約化を担う森林施業プランナーを育成。さらに、2020年度から、木材の有利販売等につなげるため森林経営プランナーの育成を開始

➢ 森林組合法の改正により、販売事業等に関し実践的な能力を有する理事の配置を義務付け


(2)森林資源及び林業経営の持続性を確保するための体制整備

森林所有者、森林組合、素材生産事業者の打合せ

➢ 森林の所有又は長期間経営し得る権利の取得により、長期的な計画を立て将来の収穫を見通すことや恒久的な路網の整備が可能

➢ 森林経営計画制度や森林経営管理制度は、集約化や長期にわたる委託を後押し

➢ 林業経営体には、主伐を行う場合、自ら又は連携して主伐後の再造林を実施することを期待。主伐時に、森林所有者に再造林を働きかけることが重要

➢ 製材工場や木材市場が持続的に原木を調達するため、各地で林業経営への参入や造林・苗木生産向けの助成を開始


5.今後の林業経営の可能性

➢ 生産性向上、造林コストの低減等の取組を行った場合に、現状のコスト構造を実際に大きく転換し得るものか、林野庁は2020年11月に試算結果を提示

➢ これによると、施業地1ha当たりの収支について、通常の販売単価でモデル試算した場合、生産性向上の取組や2,000本/ha植栽等により、近い将来は作業員賃金を10%以上向上させた上で、71万円の黒字化が可能

➢ さらに、エリートツリーの1,500本/ha植栽や自動化機械の導入が実現できれば、黒字幅を拡大可能


➢ この試算においては、市場開拓や川中・川下との連携等で販売単価を上げていく取組は考慮されておらず、更なる収益改善の可能性

➢ このように生み出された黒字は、経営報酬や投資の原資となるとともに、森林所有者への還元の原資ともなり、再造林意欲を高めることを期待

➢ 一方、この試算は高性能林業機械等を効率的に稼働できる施業面積が確保されることが前提であり、小規模の林業経営体では、少ない木材生産量に合わせた簡易な作業システムを用い、搬出コストを抑えた上で、利益の確保を図ることが合理的

➢ 森林経営管理法の制定、多様な事業連携を可能とする森林組合法改正など、それぞれの戦略に応じた経営を展開するための制度的枠組みの整備が進展

➢ 今後、これらの枠組みも十分に活用しながら、それぞれの林業経営が創意と工夫を発揮して、森林や経営の持続性を高めながら成長発展していくことを期待。林野庁や地方公共団体は、このような前向きな挑戦を後押し



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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