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林野庁

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第1部 第 I 章 第3節 新たな技術導入のための条件整備(2)

(2)経営力のある林業事業体等の育成

(新たな技術を導入できる人材の育成が重要)

林業を持続的に経営していくためには、新たな技術の導入等により、林業事業体が自らの林業の生産性を向上させるとともに、木材の需要が減退している局面においても収益を確保できるなどの優れた経営力を持つようにしていく必要がある。また、そのためには、情報通信技術(ICT)を生産管理や森林情報管理に活用して工程改善に取り組んだり、地形の傾斜や土質、路網の整備条件に応じた適切な作業システムを選択して導入・運用したりできるような人材を育成していくことが前提条件となる。このような中、大学等においては、社会人を対象とした人材の育成等の取組が進展している(事例 I -9)。

また、国有林においては、多様な立地を活かし、事業の実施やニーズに適した研修フィールドの提供、先駆的な技術の実証等を通じて林業事業体の育成に取り組んでいる(事例 I -10)。

事例 I -9 情報通信技術(ICT)等の新たな技術を活用できる人材の育成



国立大学法人鹿児島大学は、素材生産の現場における高度な技術者の養成を目的として、素材生産を実施している林業事業体の生産管理者を対象とした専門職向け公開講座「高度林業生産システムを実現する「林業生産専門技術者」養成プログラム」を実施している。平成28(2016)年度においては、5月から10月にかけて、延べ150時間にわたって同プログラムのカリキュラムが実施された。

同プログラムでは、主に同大学の高隈(たかくま)演習林(鹿児島県垂水市(たるみずし))において、低コストで確実な造林技術や新しい架線系作業システムの習得に取り組むとともに、「ICTを活用した林業経営」という科目を設け、航空レーザ計測や地上からのレーザ照射によって森林資源を把握する技術や、GISによって森林情報を活用する技術の習得について、講義や演習を実施している。

事例 I -10 国有林野事業における工程管理システムの活用による施業の低コスト化に向けた取組

後志森(しりべし)林管理署(北海道虻田郡(あぶたぐん)倶知安町(くっちゃんちょう))では、工程管理を通じて高性能林業機械の効率的な活用を図り、林業事業体における間伐作業の低コスト化に取り組んでいる。

取組の一環として、作業日報の入力結果から、簡易に使用機械ごとの作業功程・生産コストを算出することができる「工程管理システム」を作成した。林業事業体が本システムを活用することで、より効率的な高性能林業機械による作業工程の検討が可能となることから、同森林管理署では、地域の林業事業体を対象とした説明会を開催し、操作方法や分析結果の活用方法を説明するなどその普及に努めている。

さらに、林業事業体が「工程管理システム」を活用して間伐作業の見直しを行った結果の把握と分析を進め、コスト縮減意識の向上を目指すこととしている。

工程管理システムにより算出される功程分析表のイメージ
工程管理システムにより算出される
功程分析表のイメージ

(就業前の人材育成の動き)

近年、就業前の若手林業技術者の教育・研修機関を新たに整備する動きが広がっている。平成23(2011)年以前からある6校に加え、平成24(2012)年4月に「京都府立林業大学校」が開校したほか、平成26(2014)年に「みやざき林業アカデミー」、平成27(2015)年には、「秋田林業大学校」及び「高知県立林業学校」が設置されるとともに、平成28(2016)年には「山形県立農林大学校(*60)」、「ふくい林業カレッジ」、「とくしま林業アカデミー」及び「おおいた林業アカデミー」が設置(*61)され、若手林業技術者が育成されている。また、岩手県、兵庫県及び和歌山県で平成29(2017)年に新設が予定されている(*62)。

このような中、林野庁では、平成25(2013)年度から、林業への就業希望者の裾野を広げ、将来的には林業経営も担い得る有望な人材を支援するため、林業大学校等に通う者を対象に、最大で年間150万円(最長2年間)の給付金を支給する「緑の青年就業準備給付金事業」を実施している。平成25(2013)年度の事業開始以降、この給付金を活用して就業前の人材育成に取り組む府県は年々増加しており、平成28(2016)年度には、15府県となっている(*63)。


(*60)「学校教育法」(昭和22年法律第26号)に基づく専修学校である「山形県立農業大学校」を改組して設置。

(*61)「ふくい林業カレッジ」、「とくしま林業アカデミー」及び「おおいた林業アカデミー」は、教育・研修機関。

(*62)兵庫県では「学校教育法」に基づく専修学校を設置。岩手県では、岩手県林業技術センターで「いわて林業アカデミー」を開講。和歌山県では、「和歌山県農業大学校」を「和歌山県農林大学校」に改組し、「林業研修部」を設置。

(*63)林野庁経営課調べ。



(高度な知識と技術・技能を有する林業労働者の育成)

林業作業における高い生産性と安全性を確保し、路網と林業機械とを組み合わせた低コスト作業システムを現場で実践するため、専門的かつ高度な知識と技術・技能を有する林業労働者が必要となっている。また、これらの林業技術者の能力が適切に評価され、待遇の改善等が図られることが重要である。このため、林野庁は、事業主によるOJT(*64)やOFF-JT(*65)の計画的な実施、研修カリキュラムの作成、能力に応じた労働者の昇進及び昇格モデルの提示を支援するほか、段階的かつ体系的な研修等を促進することにより、林業労働者のキャリア形成を支援している(資料 I -15)。

平成23(2011)年度からは、段階的かつ体系的な研修カリキュラムに基づき、新規就業者に対する研修として「林業作業士(フォレストワーカー)研修」を、キャリアアップ研修として「現場管理責任者(フォレストリーダー)研修」及び「統括現場管理責任者(フォレストマネージャー)研修」を実施している。

さらに、平成23(2011)年4月には、これらの人材がキャリアアップにより意欲と誇りを持って仕事に取り組めるよう、研修修了者の習得した知識、技術・技能のレベルに応じて、農林水産省が備える研修修了者名簿に登録する制度の運用を開始しており(*66)、平成28(2016)年12月現在、統括現場管理責任者396名、現場管理責任者1,135名、林業作業士8,492名が登録されている。

このほか、事業主が、働きやすい職場づくりを進めるとともに、これらの研修により高い能力を身に付けた者を公平かつ公正に処遇できるよう、林野庁では、平成23(2011)年3月に、雇用管理改善に向けたポイントとチェックリスト、事業主が能力評価を導入する際の基準や評価シートの例等を記載した「人事管理とキャリア形成の手引き」を作成し、普及に取り組んでいる(*67)。平成25(2013)年度からは、能力評価制度を導入する林業事業体に対して、専門家の派遣等を通じた支援を行っており、76の事業体が取組を行った(平成27(2015)年度末時点)。

林業労働力の育成・確保について

(*64)日常の業務を通じて必要な知識・技能又は技術を身に付けさせる教育訓練。

(*65)日常の業務から離れて講義を受けるなどにより必要な知識・技能又は技術を身に付けさせる教育訓練。

(*66)林野庁プレスリリース「フォレストマネージャー等の研修修了者の名簿への登録について」(平成23(2011)年10月28日付け)、「林業労働力の確保の促進に関する法律に基づく資金の貸付け等に関する省令」(平成8年農林水産省令第25号)第1条

(*67)林野庁ホームページ「林業事業体の雇用管理改善と経営力向上の取組について」


お問合せ先

林政部企画課

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代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219