特集 森林資源の循環利用の確立に向けて~木材利用と再造林をつなぐ~








1. 持続可能な社会の実現に向けた世界的潮流と我が国の森林資源の充実
(1)持続可能な社会の実現に向けた世界的潮流
持続可能な社会の実現に向けて、気候変動対策、生物多様性の保全など国際的な取組が進められる中、森林やそこから生産される木材は重要な役割を発揮
➢ 持続可能な社会の実現に向けて、気候変動や生物多様性の損失など地球規模の課題への対応が急務。国連気候変動枠組条約と生物多様性条約の下で、国際的な取組が推進
➢ 気候変動対策については、2015年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議において、2020年以降の国際的な枠組みとしてパリ協定が採択。我が国を含む多くの国が2050年ネット・ゼロ(※)の実現を表明
➢ 生物多様性の保全については、2022年の生物多様性条約第15回締約国会議第二部において、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択。2030年までに、生物多様性の損失を止め、反転させ、回復軌道に乗せるための緊急の行動をとるとの目標を設定
➢ 気候変動対策や生物多様性の保全において、森林は二酸化炭素の吸収源や生態系の構成要素として重要な役割を発揮
➢ また、森林から生産される木材を建築物等に利用することは、森林が固定した炭素を長期的に貯蔵することとなるほか、木材は製造・加工時のエネルギー消費が他資材よりも比較的少ないなど、二酸化炭素の排出削減にも貢献

(※)2050年までに、人為的な温室効果ガスの排出と吸収源による除去の均衡を図り、排出を全体としてゼロにすること
(2)森林資源への関心の高まり
気候変動対策や生物多様性等への対応の必要性から、民間においても森林の多面的機能や木材利用の効果に対する関心が向上
➢ 2017年に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD(※1))提言、2023年に自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD(※2))提言が公表されるなど、企業による気候変動や自然関連のリスク等を評価し、情報開示する枠組みの整備が進展
➢ 企業による情報開示をめぐって国内外で大きな情勢の変化が生じる中、企業経営において気候変動対策や生物多様性・自然資本への対応をビジネス課題と位置付け、事業活動に組み込んでいく動きが加速
➢ これらを背景に、民間において森林の地球温暖化防止や生物多様性保全などの多面的機能、木材利用による炭素貯蔵・二酸化炭素排出削減の効果に対する関心や期待が高まり、我が国においては企業が森林管理や木材利用に取り組む動き
➢ 一方で、世界では土地の転用や違法伐採等による森林減少が自然劣化の大きな要因となっており、TNFD提言においては、木材利用に関して、持続可能な管理計画又は認証制度の下で調達された量の開示を要求

(※1)Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略。TCFD提言では、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4本柱の下、計11の項目について開示を推奨。
(※2)Taskforce on Nature-related Financial Disclosuresの略。TNFD提言では、「ガバナンス」、「戦略」、「リスクと影響(インパクト)の管理」、「指標と目標」の4本柱の下、計14の項目について開示を推奨。
(3)我が国の森林資源の充実と利用の現状
我が国では、長らく育成段階にあった人工林が利用期を迎えており、建築物等への木材利用の拡大と持続性確保等に必要な再造林の推進による森林資源の循環利用の確立が求められている
➢ 我が国は、森林が国土の約3分の2を占める世界有数の森林国であり、森林面積は70年以上にわたって維持
➢ 我が国の歴史においては、戦中・戦後に大量の伐採が行われた一方で、造林が追い付かず森林の荒廃が生じ、各地で大規模な災害が発生したことから、復旧造林が推進されるとともに、戦後の経済復興を背景とする旺盛な木材需要に対応するため、拡大造林が進められてきた経緯
➢ 造成された人工林は長らく育成段階にあり、木材需要の多くは輸入材により賄われ、木材自給率は一時20%未満まで低下
➢ 現在は、長い育成段階を経て人工林の約6割が51年生以上となり、ようやく本格的な利用期。国産材供給量は着実に増加し、10年前と比べて主伐材は2倍近くまで増加するとともに、木材自給率も40%超まで上昇
➢ 気候変動対策や生物多様性の保全への関心が高まる中、林業適地においては、生物多様性の保全等にも配慮しながら適正な主伐・再造林により、成長の旺盛な若い森林を造成するとともに、木材を利用することを通じて、森林資源の循環利用を図ることが重要。くわえて、林業適地以外での針広混交林化や里山林等の継続的な利活用を図ることも重要
➢ 持続可能な社会の実現に向けた世界的な潮流の中で、建築物等への木材利用の拡大を図るとともに、木材利用の持続性や公益的機能の確保に必要な再造林を推進することで、森林資源の循環利用を確立することが求められている
2.木材利用拡大に向けた取組
(1)建築物への木材利用に関する制度的・技術的な対応
戦後の建築物非木造化の時代から制度面・技術面で木材利用可能な環境整備が進展
制度的な対応
➢ 戦後の1950年代には、耐火性能への要請や森林資源の枯渇、国土の荒廃への懸念等から、建築物の不燃化・非木造化を指向。その後、規制は徐々に木材利用が可能な範囲を拡大する方向で合理化
➢ 1998年の建築基準法改正による性能規定化を機に、強度、耐火性能等を満たせば、中高層建築物等の主要構造部への木材利用が可能に
➢ 2010年、公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(公共建築物等木材利用促進法)が制定。公共建築物は可能な限り木造化又は内装等の木質化を図る方針が明確化
➢ 2013年に直交集成板(CLT)の日本農林規格(JAS)が制定されるとともに、2016年にはCLTパネル工法の一般的な設計法の告示が制定
➢ 2021年、公共建築物等木材利用促進法が改正され、法の対象が建築物一般に拡大(都市(まち)の木造化推進法)
➢ 建築基準について、近年では、大規模木造建築物において構造部材の木材をそのまま見せる「現(あらわ)し」での建築を可能とするなどの見直しや、製材JASについて、寸法許容差の合理化等が進展

技術的な対応
➢ 建築基準の合理化と併せて、耐火性能を有する木質耐火部材や、強度性能が担保されるJAS構造材の開発・利用が進展
➢ 非住宅・中高層建築物に使用できるCLTの普及に向けては、ロードマップを作成し、CLTパネルの寸法の標準化、設計・施工コストの低減に向けた標準的な木造化モデルの作成・普及等を推進
➢ さらに、地方においても展開が期待される、⼀般流通材等を活用した低層・中層建築物の標準的な木造化モデル等を作成・普及
➢ 住宅分野においては、輸入材が高いシェアを有する横架材や枠組壁工法(ツーバイフォー工法)構造用製材を、出材量の増加が見込まれる国産大径材等から効率的に製造する技術等の開発・普及を推進
➢ 国産樹種を活用した内装材等の製品の開発・普及も推進

建築物への木材利用の進展
➢ 非住宅・中高層建築物の木造化・木質化に取り組む例が広がるほか、住宅分野においては、ツーバイフォー⼯法における構造用製材の国産材使用割合が20%まで上昇
➢ 円安の影響等もある中、建築用材等における国産材の割合は近年上昇傾向で推移し、2024年は52.9%

(2)建築物への木材利用をめぐる新たな動きと対応
建築物ライフサイクルカーボン評価の制度化に向けた検討やSHK制度の見直しにより、木材利用の効果が定量的に評価され、木材利用の後押しとなることが期待
建築物への木材利用をめぐる新たな動き
➢ 建築物の建設から解体に至るまでのライフサイクル全体を通じた二酸化炭素排出量(ライフサイクルカーボン)の削減が求められる動き。2025年4月に決定された「建築物のライフサイクルカーボンの削減に向けた取組の推進に係る基本構想」において、2028年度を目途に建築物ライフサイクルカーボン評価の実施を促す制度の開始を目指す旨が位置付け
➢ 今後、制度化を通して建築物ライフサイクルカーボン評価が一般化することで、他資材よりも製造時の排出量が少ない木材の利用が進むことが期待
➢ また、「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づき、温室効果ガスを一定量以上排出する者に、自らの排出量の算定と国への報告を義務付けて国が公表する制度である、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)について、2026年度から自らの森林経営活動や木材利用による炭素蓄積変化量を排出量の調整に用いることができるよう見直し
➢ これにより、企業等が自ら所有する建築物における木材利用の炭素貯蔵効果を定量化して示すことが可能に


木材利用の効果を評価するための環境整備
➢ 建築事業者等においては、木材利用を対外的に発信して企業価値を高めようとする動き
➢ 林野庁では、これらの企業等が木材利用による地球温暖化防止への貢献等の効果を対外的に発信・訴求できるよう、2021年に「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」を、2024年に「建築物への木材利用に係る評価ガイダンス」を公表
➢ また、内装木質化による心理面・身体面等への効果について、データの収集や整理などを行い情報発信


3.再造林推進に向けた取組
(1)林業適地の選定と林業経営体への集積・集約化
林業適地の選定を推進するとともに、持続的な経営を担える林業経営体への集積・集約化を図ることで、再造林を着実に推進
➢ 林地生産力が高く、車道や集落からの距離が近い、平均傾斜が緩やかであるなどの条件の良い箇所では、更新の際に再造林を確実に進めていく必要
➢ 循環利用を図るべき森林を明らかにするため、自然的・社会的条件が良い林業適地の選定を推進
➢ くわえて、林業適地においては、森林施業の基盤となる路網の整備も推進
➢ また、持続的な経営を担える林業経営体への集積・集約化を図ることで、再造林を着実に進めていくことが重要
➢ 2026年4月施行の改正森林経営管理法では、地域の関係者が森林の経営管理の将来像を共有して「集約化構想」を作成することで、集積・集約化を通じた森林資源の循環利用を進める新たな仕組みを創設


(2)造林の省力化・低コスト化
伐採と造林の一貫作業、エリートツリー等を活用した下刈り回数の削減等により省力化・低コスト化を推進。更なる省力化を図る新技術も開発・実証
➢ 主伐が本格化する中、従来の造林方法では造林初期費用が立木販売収入を上回ることや育林従事者数の減少が課題。育林経費の約7割を占める造林初期費用を縮減するとともに、省力化等を図ることが重要
➢ コンテナ苗や伐採・搬出時に使用した林業機械を活用した伐採と造林の一貫作業、成長等に優れた特定苗木(エリートツリー等の苗木)を活用した下刈り回数の削減、下刈り作業面積の削減により、省力化・低コスト化を推進
➢ 省力・低コスト造林の実施面積は着実に増加しており、2024年度には人工造林面積に占める割合が60%まで上昇
➢ シカ等の野生鳥獣の被害が考えられる箇所においては、獣害防護柵等の運搬を造林等と一体的に行うことで省力化

造林の省力化・低コスト化技術の普及
➢ 2025年3月に、造林に係る省力化・低コスト化技術の実証や調査等の成果を踏まえ、広く全国で効果が認められている技術を整理した「造林に係る省力化・低コスト化技術指針」等を策定・公表。同指針等では、個々の技術の効果や根拠について、図表を用いて解説
➢ 指針の更なる普及に向け、2025年度は4か所において現地検討会・研修会を開催

省力化を図る新技術の開発・実証
➢ 再造林の更なる省力化に向けては、苗木運搬や植栽、下刈りといった各工程において、現地の条件に応じた新技術の導入も必要
➢ 苗木運搬等を省力化できる小型運搬車や、自動運転や遠隔操作の機能を有する下刈り機械の開発・実証等を推進。あわせて、下刈り機械の走行等を想定した植栽間隔や植栽列の設定など機械化を前提とした施業方法の検討が重要
➢ 急傾斜地等においては、苗木や造林資材などの運搬の 省力化を図るためドローンを活用する事例も増加

4.木材利用と再造林をつなぐ取組
(1)持続性が確保された国産材への期待の高まり
企業に持続可能性を求められる中、木材の調達に際して持続性が確保されていることが重要。持続可能な木材利用の推進に向けて国産材等の活用を図る取組も
➢ TNFD提言などを受けて企業に持続可能性(サステナビリティ)に関する情報開示が求められる中、企業活動に必要な木材の調達や利用の際に、合法性とともに、森林の伐採後の更新が担保されることを確認できることなどが重要
➢ 企業の中には、木材調達のガイドラインを自ら策定し、持続可能な木材利用の推進に向けて、国産材等の活用を図る取組が広がりつつほか、建築物に木材を利用する企業が自ら森林の育成に取り組む例も
➢ 林野庁においては、2025年4月に、森林に関わる企業がTNFD情報開示を行う際の参考となるよう、「森林の有する多面的機能に関する企業の自然関連財務情報開示に向けた手引き」を公表し、企業活動と森林との関わりを適切に分析・評価するための具体的な方法を例示。あわせて、森林整備・保全や木材利用などに関する情報開示を行う先駆的な企業の取組事例を公表

(2)持続性の確保に向けて木材利用と再造林をつなぐ取組
再造林が可能となる価格での木材取引など木材利用と再造林をつなぐ取組が展開。木材取引において適切な価格交渉が行われるよう、サプライチェーン全体における取引の適正化が重要
➢ 持続性が確保された国産材に対する期待が高まる一方で、木材の価格は長期的に下落。造林初期費用が立木販売収入を上回り、再造林が進まないといった状況が続くこととなれば、持続的な国産材供給や公益的機能の発揮に影響
➢ 森林資源や木材利用の持続性を確保していくためには、川下の国産材需要を高めることや各段階における生産性向上により、適切な利益を確保することが重要。川上における造林等の省力化・低コスト化等に加え、川中においても更なる生産性向上や、付加価値向上などに取り組む必要。同時に、木材取引においても、川上から川下までの関係者が再造林を含む森林の育成コストへの理解を深めた上で、価格が形成されることが重要
➢ このような中、再造林が可能となる価格で木材を取引する協定を締結するなど、川上から川下までの関係者が一体となって取り組む先行事例も
➢ 林野庁においても、木材取引において適切な価格交渉が行われるよう、サプライチェーン全体の取引の適正化に向けたガイドラインを策定。ガイドライン等を踏まえた業界団体による自主行動計画の策定を促進
➢ このほか、関係事業者が連携して基金等を設立し、再造林費用の支援を行う動きが広がり。道県や市町の単位で地域の関係者が主体となった取組が多く、2025年度末時点で、全国20道県で30の再造林支援の基金等が設立



5.森林資源の循環利用に向けた「森の国・木の街」づくり
(1)「森の国・木の街」づくりに向けた取組
全国で街の木造化を進める「森の国・木の街」づくりを展開

➢ 2025年7月に、豊かな森林資源を背景とした「森の国」らしい国づくりに向け、全国で街の木造化を進める「森の国・木の街」づくりに向けた取組を開始
➢ 木材利用による炭素貯蔵効果がSHK制度に位置付けられることを踏まえ、木材利用の環境貢献の効果等について広く普及し、地方公共団体や企業などの参画も得ながら、街の木造化を推進
➢ 2025年10月から、具体的な取組として、建築物への木材利用やその効果の見える化を通じて、森林資源の循環利用を進め、地球温暖化の防止や地域の持続可能な発展などに貢献することを宣言する「「森の国・木の街」づくり宣言」への参画を募集。2026年3月末時点で、地方公共団体や企業など435者が宣言を行っており、参画の輪が拡大

(2)多様な主体で支える森林資源の循環利用
他分野からの参画も得つつ、森林・林業・木材産業施策に取り組み、国民理解の醸成を図りながら、森林資源の循環利用を確立
➢ TNFD提言等による情報開示や、建築物ライフサイクルカーボン評価の制度化の検討、SHK制度の見直し等を背景に、企業による木材利用、森林(もり)づくりへの参画が広がり。また、森林由来J-クレジットの販売収益の活用を通じた森林整備、化石資源由来プラスチックの代替としての木質系新素材等の新たな木材利用など、他分野の参画も期待
➢ さらに、木材利用や再造林に加えて、
生物多様性にも配慮した多様な森林整備の推進
森林の集積・集約化や新技術も活用した林業の省力化・生産性向上、林業従事者の育成・確保
国産材製品の加工・流通の効率化、地域の実情に応じた合理的な木材サプライチェーンの構築
「木づかい運動」や「木育(もくいく)」等による木材利用の意義の発信、森林資源や木材利用の持続性の確保のため、消費者が適正に取引されている木材を選択できる環境の整備
等にも取り組んでいくことで、森林・林業・木材産業の好循環を生み出し、森林資源の循環利用を確立

お問合せ先
林政部企画課
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