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第1部 特集 第2節 多様化する森林との関わり(2)

(2)森林資源の利用に関わる取組

SDGsの目標12(持続可能な生産消費形態)に関連し、持続可能な材料として、木材を始めとした森林資源利用の取組の裾野も広がりつつある。

木材・紙は、天然由来であり、化石燃料由来のプラスチック等の代替材料としても用いられ、新たな素材の開発も進展している(目標9)。また、建築で用いられる場合は炭素の貯蔵や建築資材の製造及び加工時の二酸化炭素の排出削減により地球温暖化の防止にも貢献する(目標7、13)。

さらに、適切に管理された森林から産出された資源を使うことは、森林整備(目標15)及び地域活性化(目標11)にも貢献している。


(ア)建築物における木材利用の拡大

(ア)建築物における木材利用の拡大

木造率が高い低層住宅に加えて、従来木材があまり利用されてこなかった低層非住宅建築物及び中高層建築物においても、近年、木造化・木質化及び木製家具の導入に取り組む事例がみられる。これらの事例においては、木材を単に一つの建築材料として捉えるのではなく、様々なSDGsに関わるような観点を持ちつつ木材の利用が進められている事例が多い。

(利用者にとって良好な空間づくりを重視した取組)

木材は、コンクリート等に比べて温かみがあり、暮らしやすさ、親しみやすさを感じる人も多く(*29)、商業施設や医療・福祉施設等に木材を取り入れる動きが高まっている。

株式会社コメダが展開する全国約850店のコメダ珈琲店では、木造店舗が多く、内外装も含め木材を目に見えるところに利用することで来客者に温かみを感じられる「くつろぎ空間」を実現している。また、老朽化した木製のテーブルや間仕切りは表面を削ることで再生させ、廃棄物の発生の抑制にも取り組んでいる。

東京都の社会福祉法人聖風会は、木の持つ風合い及び温もりによる居心地の良さに期待し、2階から5階までの住居階を木造とした老人ホーム「花畑あすか苑」を東京都足立区に開設した。聖風会では、他の建築資材に比べて比較的クッション性の高い木材を床に用いることは、入居者が転倒した際の怪我の低減にもつながるとしている(*30)。

企業等のオフィスは、これまで無機質な空間である場合が多かったが、健康経営や働き方改革の流れの中で、オフィス環境を人にやさしいものに作り替える動きが出てきている。例えば、IT企業の株式会社ドリーム・アーツは、エンジニア及びデザイナーがクリエイティブに仕事ができるよう、東京本社及び広島本社の机・椅子・棚を木製とした(*31)(資料 特-4)。同社では、これらは社員の評判も良くリクルーティングにも効果が出ているとしている。

三井ホームコンポーネント株式会社は、木材を用いた「スマート倉庫」の販売を平成29(2017)年9月に開始した(資料 特-5)。断熱材を充填したガルバリウム鋼板の屋根と合わせ、熱を伝えにくい木造とすることで、夏場の直射日光による作業効率の低下を防ぐことを期待している(*32)。


(*29)関連する研究成果として、木材の手触りが他の無機質素材の手触りよりも高いリラックス効果を示すことが明らかにされている。(国立研究開発法人森林研究・整備機構 (2018) 季刊森林総研42号: 16-17. (【研究の森から】木材の生理的リラックス効果 – 香り・手触り・足触りから))

(*30)一般社団法人木を活かす建築推進協議会 (2017) 平成28年度環境・ストック活用推進事業(サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)に係る評価)報告書 木造化・木質化を進めて木のまちをつくろう 採択プロジェクトの内容(事例集)その1: 176-185.

(*31)ウッドソリューションネットワーク(2018)MOKU LOVE DESIGN 木質空間デザイン・アプローチブック: 11.

(*32)三井ホームコンポーネント株式会社平成30(2018)年10月3日付けニュースリリース



(森林整備・地域活性化を重視した取組)

木材自体の良さに加え、木材の利用が森林の整備・保全及び地域活性化につながる点を重視して木材の導入に踏み出す例もみられる。

日本マクドナルド株式会社では、持続可能な社会を実現するため、新規出店及び改装時に木造建築への切り替えや外装での木材の利用を進めることを決定し、令和元(2019)年12月、京都府京都市で、国産木材を外装材として活用した第一号店となる五条桂ごじょうかつら店の営業を開始した(*33)。五条桂ごじょうかつら店では、京都市の街並みに合わせて木のぬくもりを感じさせるデザインとしている(資料 特-6)。


不動産賃貸を主な事業とするヒューリック株式会社も、森林資源の循環や地方創生に貢献する観点から木造化の取組を開始している。東京都中央区に、木と鉄骨を組み合わせた12階建てハイブリット構造の商業テナントビルを建設しており、令和3(2021)年度の竣工を予定している。このビルでは、天井にCLT(*34)(直交集成板)、柱及びはりに耐火集成材を用い、仕上げとして木材を見せるほか、外装材にも木材を使用する計画となっている。なお、同社では、木材利用が集客やテナント誘致につながることも期待している(*35)。

木造の非住宅建築物等は、地域の工務店が活躍できる分野としても関心が高まっている。例えば、有限会社建築工房悠山想(福岡県朝倉あさくら市)は、伝統構法を基本とし、地域材を使用しつつ、地元の大工・左官等の職人を活用して住宅を建設しており、令和元(2019)年6月、同県うきは市の企業の木造事務所を60~80年生のスギを用いて建設した(*36)。

地域の事業者が連携して木材利用に取り組む例もある。平成30(2018)年12月に建設した日光にっこう市役所庁舎では、日光森林組合、地元の製材業者、建築会社等25団体が連携し、外装や壁、天井等の一部に地域で生産されたSGEC認証材(*37)を利用することにより、プロジェクト認証(*38)を取得した。

様々な地域に展開するホテルでは、環境負荷低減や地域貢献の一環として地域の木材を利用する例がみられる。例えばスーパーホテル宮崎天然温泉では、宮崎県諸塚村もろつかそんのFSC認証材(*39)をエントランスやラウンジの家具等に用いている。


(*33)日本マクドナルド株式会社令和元(2019)年12月16日付けニュースリリース

(*34)「Cross Laminated Timber」の略。詳しくは、第3章第3節(9)210-212ページを参照。

(*35)株式会社 日経BP「日経アーキテクチャ」令和元(2019)年10月号: 70-73.

(*36)一般社団法人JBN・全国工務店協会 (2019) 地域工務店の中大規模木造建築事例集: 37.

(*37)森林認証の一つであるSGEC認証を受けた森林から産出され、分別管理された木材。

(*38)森林認証のうち加工流通に関する認証形式の一つで、個々の事業体を認証するのではなく、建設・製造されるプロジェクト(建築物等)そのものを認証する仕組み。

(*39)森林認証の一つであるFSC認証を受けた森林から産出され、分別管理された木材。



(建設時の環境負荷・コスト低減を重視した取組)

木材は鉄、コンクリート等の資材に比べて製造及び加工時のエネルギーが少ないことから、木材利用は二酸化炭素排出量の削減につながる(*40)。また、他の資材と比べ軽量な木材の使用により基礎を簡素化し、コスト縮減や工期短縮を実現できる可能性がある。このような観点から木造化・木質化に取り組んでいる例もある。

大東建託株式会社は、令和元(2019)年10月から、CLTを用いた木造4階建ての集合住宅を販売している(*41)。同社では、同規模の鉄筋コンクリート造と比較して、温室効果ガスの排出量が15%減少したほか、炭素貯蔵量が120CO2トンに上っていると試算している。また、工期も約半分に短縮されており、独自開発の金物や壁パネル等の技術により、現場作業の省人化も可能となっている(資料 特-7)。

コンビニエンスストアでも、建設時の二酸化炭素排出量が小さく、解体時も産業廃棄物が削減できることや、日々の光熱費の低減も期待できることから、木造店舗を建設する取組がみられる。例えば、ミニストップでは、令和2(2020)年2月末までに、FSC認証材を活用した店舗を延べ284店建設している。これらの店舗は分解・組み直しが可能な設計とされてきたことから、閉店した店舗の木材を利用するリユース店舗も試行的に建設されている。


(*40)木材利用の地球温暖化への貢献について詳しくは、第3章第2節(1)174-175ページを参照。

(*41)この集合住宅によるCLT普及の取組により、「令和元年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰(技術開発・製品化部門)」を受賞している。



(木材利用の可能性を拡大する技術開発)

このように、様々な形で木造化・木質化が進みつつある背景には、防耐火基準の合理化や技術開発の進展があり、着工数はまだ少ないものの、中高層の施設で木造化・木質化の取組が始まっている。

三菱地所株式会社は、株式会社竹中工務店の設計と施工により、平成31(2019)年2月に、宮城県仙台市に木造及び鉄骨造を組み合わせた10階建ての集合住宅を竣工した。鋼材と木材の双方の特性を活かし、工期短縮や軽量化を図っており、CLTを活用した中高層建築物の木造化のモデルとなる建物となっている。

これまでの5階建て以上の木造建築物は、基本的に鉄骨造や鉄筋コンクリート造との混構造であったが、平成30(2018)年3月に新潟県新潟市において、山形県の株式会社シェルターが国土交通大臣認定を取得した木質耐火部材による、5階建ての純木造集合住宅が建設された。この部材は、令和3(2021)年着工予定の玉川大学の9階建ての純木造学生寮にも採用される予定である。さらに、株式会社大林組は、11階建ての純木造の研修施設の建設を計画しており、はり・柱・床の木質耐火部材の使用に加え、地震に対応できる工法を開発し、令和2(2020)年3月に着工した。

今後も新しい技術により木造化・木質化が進展し、SDGsの達成に寄与していくことが望まれる。


(イ)プラスチック・金属等の代替材料

(イ)プラスチック・金属等の代替材料

木材は、建築分野以外でも紙など様々な形で利用されてきたが、海洋動物のプラスチックごみ摂取の危惧等が世界的に報じられたことを契機として、ストローに象徴されるプラスチック製品の代替品として木製品・紙製品の活用が注目を集めている。また、木材の主成分を原料とした新たなバイオマス素材(セルロースナノファイバー(以下「CNF」という。)及び改質リグニン)等の開発も進展しており、それぞれの素材の特徴を活かした製品の開発が進んでいる。化石燃料由来のプラスチックについては、我々の生活に利便性等の恩恵をもたらしているが、不適正な処理により、世界全体で陸上から海洋へ年間数百万トンを超えるプラスチックごみの流出があると推計され、現状のままでは2050年までに、海にいる全ての魚類の重量を上回るプラスチックごみが海洋環境に流出すると予測されている(*42)。このため政府は、「3R(*43)+Renewable(再生可能資源への代替)」を基本原則とし、ワンウェイプラスチックの使用削減やプラスチック代替品開発・利用の促進等の戦略を定めた「プラスチック資源循環戦略」を令和元(2019)年5月に策定しており、これと並行して企業も様々な取組を進めている。


(*42)「THE NEW PLASTICS ECONOMY: RETHINKING THE FUTURE OF PLASTICS」(エレン・マッカーサー財団、2016年)

(*43)3R(スリーアール)とは、リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の3つのR(アール)の総称。



(木製品・紙製品の利用)

株式会社リンガーハットは、国内全店舗でプラスチック製ストローの提供を平成31(2019)年1月に停止し、紙ストローを導入した(*44)。また、スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社では、令和2(2020)年に全店でFSC認証紙を用いた紙ストローを導入することとしている(*45)。

これらの動きに対応し、製紙会社各社では、耐久性に優れた紙ストローの開発を行っている。さらに、株式会社アキュラホームでは、間伐材を含む国産材を原料とした木のストローを企画開発、生産している(事例 特-3)。

大阪では、間伐材から作った和紙を細かく裁断した上でねじり合わせた糸を用いた織物の開発・生産が、繊維企業の連携により進められ、スーツやハンカチ等に用いられている(*46)。

飲料缶の代わりに紙製容器を使うことも可能であり、凸版印刷株式会社は、「カートカン」の名称で、間伐材を含む国産材を利用した紙製飲料容器を開発、普及している(*47)。

事例 特-3 住宅会社による「木のストロー」の普及

木のストロー

木造注文住宅を手がける株式会社アキュラホーム(東京都新宿区)では、カンナ削りの「木のストロー」の普及に取り組んでいる。

このストローは、平成30年7月豪雨の被害をきっかけに、間伐材の活用により持続的な森林保全に貢献するとともに、海洋プラスチック問題解決の一助となることを目指して開発され、平成31(2019)年1月にザ・キャピトルホテル 東急で導入された。同年6月のG20大阪サミットでは、地球規模の環境課題の解決に貢献するものとして1,000本が提供された。

同年11月には、横浜市、ヨコハマSDGsデザインセンターと連携して、市が保有する水源林の間伐材を原材料として、市内の障がい者が製作した「木のストロー」を、店舗・飲食店等で提供する新たなプロジェクトを開始した。この取組は、森林保全及び環境課題の解決に加えて、障がい者の雇用機会、働きがいの創出及び木材の地産地消の推進といった点で、SDGsが目指す、経済、社会及び環境の課題の統合的解決につながるものとして期待されている。


(*44)株式会社リンガーハット平成31(2019)年1月11日付けお知らせ

(*45)スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社令和元(2019)年11月26日付けプレスリリース

(*46)株式会社和紙の布ホームページ

(*47)凸版印刷株式会社ホームページ「カートカン」



(新たなバイオマス素材の開発)

木材の主成分(*48)が原料であるバイオマス素材は、化石燃料を原料としたプラスチックや金属の代替となるとともに、それらに比べて生産・廃棄時の環境負荷を低減することが可能である。バイオマス由来の代表的な新素材であるCNF(*49)及び改質リグニン(*50)は、高付加価値製品への展開が期待されており、これまでにそれぞれ自動車の内外装部品に使用された試作車が公表されている(資料 特-8)。これらの新素材は、高強度かつ軽量という特徴を有しており、自動車の軽量化や燃費向上につながっている。


CNFは、軽量ながら高強度、優れた増粘性、保湿性、保水性など多様な特性があることから、様々な企業が製品開発を進めており、文具のインクや運動靴など身近な商品が販売されてきている(資料 特-9)。


令和元(2019)年10月には、株式会社ラ・ルースから食洗機対応の木製食器が発売された。この食器には、スギを原料としたCNFを配合することにより木材の変色抑制効果のある塗料が使用された。このように、耐久性の向上など木製品の機能を高めることができれば、プラスチック製品から木製品への代替が更に進むことが期待される。

改質リグニンは、幅広い製品に使用され、高い性能が求められるエンジニアリングプラスチックの代替材としても活用できることから、自動車の内装材・外装材、電子基板向けフィルムなど様々な試作品が開発されている(資料 特-10)。令和元(2019)年にオオアサ電子株式会社が、振動板に改質リグニンを使用したスピーカーを発売した。改質リグニンを加えることで振動板の強度が上がり、軽量化と良好な応答性を実現し、また吸湿性が低いため劣化しにくいという特性があるとしている。


平成31(2019)年4月には、改質リグニンの事業化に向けて関係者の情報交換と連携・協力を促進する地域リグニン資源開発ネットワーク(リグニンネットワーク)が発足し、令和2(2020)年1月現在、80社が参加している。

また、スギから抽出した新素材である改質リグニンは、端材や鋸屑からも製造でき、製造過程で使用する薬品及び装置の安全性が高く、製造に要する熱源も木質ボイラーからの蒸気で賄えるため、製材工場の隣接地等に立地させることで、中山間地域の活性化にも寄与するものである。

このほか、木材、樹脂等の複合材料についての取組も多く、例えばトヨタ車体株式会社は、スギ間伐材から製造した強化繊維を従来からのガラス繊維等の代わりに利用した樹脂複合材料を開発した。この樹脂複合材料は、強度・耐熱性を維持したまま軽量化にも寄与するとして、ワイヤーハーネスプロテクター(*51)等の自動車部品として採用されている(*52)。


(*48)木材の主成分とは、セルロース(40~50%)、ヘミセルロース(20~25%)及びリグニン(25~35%)の三成分。

(*49)「Cellulose Nano Fiber」の略称。セルロースの繊維をナノ(10億分の1)メートルレベルまでほぐしたもので、軽量ながら高強度の素材。

(*50)改質リグニンは、化粧品等の成分として使用される安全性の高い素材であるポリエチレングリコールによりリグニンを改質した、耐熱性等の機能と加工性を併せ持つ素材。

(*51)自動車の車内配線に用いられている、ワイヤーハーネス部の保護カバーとして使われる部品。

(*52)TABWD®(タブウッド)



(ウ)木質バイオマスエネルギー

(ウ)木質バイオマスエネルギー

昭和30年代後半の「エネルギー革命」までは、薪や炭が日常生活における燃料として広く活用されていた。紙製品及び木材製品がプラスチックや金属に代わって再び活用される動きが広がっているのと同様に、エネルギー利用の分野においても、石炭・石油等の化石燃料に代わり、カーボン・ニュートラルな再生可能エネルギーとして、木質バイオマスを再び利用する動きが広がってきている。

(バイオマスエネルギーによる二酸化炭素排出量の削減)

二酸化炭素排出による地球温暖化を抑えるため、国際的な企業が事業活動で使う電力の全量を再生可能エネルギーで賄うことを目指す「RE100(*53)」の取組が広がり、日本では、その地方公共団体や中小企業版と言える「再エネ100宣言 RE Action(*54)」が令和元(2019)年10月に開始された。再生可能エネルギーで電力全てを賄うためには、他社から再生可能エネルギーを購入する方法等もあるが、設備投資を行い、自ら発電する方法もある。

木材産業の中では、木材乾燥の熱源として端材等が燃料として用いられているが、最近は、公共施設、一般家庭、農業、食料品製造業及び化学工業においても、化石燃料に代えて、木質バイオマスを活用する動きが広がっている。

コマツ粟津あわづ工場(石川県小松こまつ市)は、新組立工場の電力購入量を90%以上削減するという目標を掲げ、平成26(2014)年、建設機械組立工場を建て替える際に、木質バイオマスを燃料とするコジェネレーション(熱電併給)システムを導入し、翌年に稼働を開始した。このシステムは、木質バイオマスボイラーで製造した蒸気から圧縮空気・電気・冷温水をつくり、工場内の動力・照明・冷暖房等に利用するものであり、石川県の加賀かが地域の森林組合から調達される年間7,000トンの木材チップを用いることで、最大約1,400MWh/年の購入電力削減と約800kL/年の重油使用量の削減を可能とし、年間最大約3,000トンの二酸化炭素排出量の削減が可能となったと見積もられている(*55)(資料 特-11)。

また、株式会社白松の浜御塩工房竹敷(長崎県対馬つしま市)では、燃料費の削減等を目的として、木質バイオマスボイラーを導入し、製造した蒸気を製塩に用いている。導入に際しては、安定的な燃料供給のため、地元の森林組合、製材所及び株式会社白松の3者で協議会を設立している。年間のチップ消費量は4,000~5,000m3であり、これによる燃料費の削減効果は、重油と比較して生産量当たり平均20~30%(重油の高騰時には約50%)、金額にして年間300~700万円と見積もっている(*56)。


(*53)使用電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指す企業が参加する枠組みであり、英国の非営利団体The Climate GroupがCDPとのパートナーシップのもと平成26(2014)年に開始。日本では、平成29(2017)年から、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)が地域パートナーとして、日本企業の参加を支援している。

(*54)使用電力を100%再生可能エネルギーにする宣言を表明した、地方公共団体・教育機関・医療機関等や年間消費電力量10GWh未満の企業が参加する枠組みであり、グリーン購入ネットワーク、イクレイ日本、公益財団法人地球環境戦略研究機関及び日本気候リーダーズ・パートナーシップにより発足。

(*55)一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会編「木質バイオマスによる産業用等熱利用をお考えの方へ導入ガイドブック」

(*56)一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会編「木質バイオマスによる産業用等熱利用をお考えの方へ導入ガイドブック」



(地域活性化への貢献)

木質バイオマスエネルギーは、他の再生可能エネルギーである太陽光及び風力とは異なり、燃料となる木材等の集荷・加工といった作業が継続的に必要となってくる。特に地域の未利用資源を活用する場合には、資源の安定供給体制の確保が重要となる。

木質バイオマスを用いた発電・熱利用においては、森林組合や素材生産業者等と発電事業者が協定を結ぶなど安定供給と地域貢献の両立を図る動きや、地方公共団体が大きな役割を果たしながら木質バイオマス利用を導入する動きもある。

岡山県真庭まにわ市では、官民が連携して木質バイオマスの利用に取り組んでいる。市内の集成材工場から発生するおが粉から木質ペレットを製造するとともに、公共施設、農業用ハウス等に木質バイオマスボイラーの導入を推進したほか、バイオマスの集積場を設置して安定供給体制を整えた上で、平成27(2015)年からは、未利用材約9万トン、製材端材約5.8万トンを利用する木質バイオマス発電所を稼働させている。今後、更に木質バイオマス等の利用や省エネを進めることで同市のエネルギー自給率100%の達成を目指すとしている。

富山県南砺なんと市では、平成27(2015)年から木質バイオマスエネルギーによる地域活性化に取り組んでいる。公共施設に木質ペレットボイラー及び薪ボイラーを導入するとともに、素材生産業者、製材業者、工務店等が事業協同組合を設立し、未利用材等を活用して薪及び木質ペレットを製造している。このほか、同市では一般住宅や民間事業所へのペレット・薪ストーブの導入も支援しており、製造した薪・木質ペレットはこの燃料としても利用されている。

集荷場に木材を持ち込んだ人から一定額で木材を買い取ることで、地域住民による森林整備と集荷を促す「木の駅」等の取組も各地で行われている。広島県北広島町きたひろしまちょうでは、NPO法人西中国山地自然史研究会が中心となり、平成27(2015)年から「せどやま市場」に集荷した木材を町内の温泉宿泊施設の薪ボイラーに用いる仕組みを構築した。木材は地域通貨により買い取り、地域内の経済循環に役立たせている(*57)。


(*57)林野庁(2017)木質バイオマス熱利用・熱電併給事例集: 21-22.



(熱利用によるエネルギー利用効率の向上)

再生可能エネルギーの固定価格買取制度(以下「FIT制度」という。)により木質バイオマス発電が広がっているが、発電のエネルギー変換効率は約30%と低い。このため、経済面・環境面の両面から、発電に加え熱利用を併用することで効率を高める取組がみられる。また、農業など他の産業での熱利用を進める取組もみられ、地域活性化にも貢献する取組となっている例もある。

株式会社グリーン発電大分(大分県日田ひた市)の天瀬あまがせ発電所(発電出力5,700kW)は、平成25(2013)年に木質バイオマス発電の運転を開始したが、農業と林業の架け橋となることをビジョンに掲げ、平成28(2016)年9月、発電所に隣接するイチゴのハウスに温排水を供給する取組を開始している。

また、岐阜県高山たかやま市の温浴施設「四十八滝温泉しぶきの湯 遊湯館」では、飛騨高山グリーンヒート合同会社が平成29(2017)年4月に165kWのガス化発電設備を導入し、FIT制度による売電に加え、温熱を温浴施設に販売している。

秋田県北秋田きたあきた市の道の駅「たかのす」では、ボルター秋田株式会社が40kWのガス化発電設備「Volter40」を導入し、FIT制度による売電と足湯への温水供給を行っている(*58)(資料 特-12)。


(*58)一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会編(2018)地域ではじめる木質バイオマス熱利用,日刊工業新聞社: 53.



(エ)きのこ・漆・ジビエ等

(エ)きのこ・漆・ジビエ等

きのこ、山菜、たけのこ等の山の恵みを活用して地域の活性化を図っていこうとする取組も、多様な主体の参画を得る形で広がりをみせている。

(森林整備と一体となった特用林産物生産の取組)

文化財等の修復需要の高まりにより、漆の需要が増加している。岩手県は全国の漆生産量の約7割を生産しており、同県二戸市では漆の増産に向け、地域おこし協力隊制度の活用による人材育成や企業と連携したウルシ林づくりに取り組んでいる。同市では平成29(2017)年9月に岩手銀行とウルシ林づくりに関わる協定を結んだことを皮切りに、地元の民間企業・団体とも協定を結んでおり、各企業はウルシ林の整備及び管理・保全活動を行っている。令和元(2019)年11月には地元の小中学生等200人以上が参加してウルシの植樹祭が行われた。

また、整備されず荒廃した竹林が増加し、不法投棄、里山林への竹の侵入等が問題となっている中、竹林の新たな産物として、収穫時期が過ぎた穂先たけのこを、多くを輸入に頼っているメンマの代替品等として利用するとともに、竹林整備を進める取組が広がっている。福岡県糸島いとしま市の市民団体である糸島いとしまコミュニティ事業研究会では穂先たけのこの加工方法を検討し、平成26(2014)年度から穂先たけのこの加工を開始し、現在は市内のメンマ製造会社、農業法人等も穂先たけのこを活用している。また、平成29(2017)年度には、この取組に賛同する全国の団体とともに「純国産メンマプロジェクト」を立ち上げ、穂先たけのこの活用の普及にも努めている。

特用林産物の生産額の8割以上を占めるきのこについても、地域で協議会を作り、森林整備を行いながら生産に取り組む事例がみられる。奈良県野迫川村のせがわむらでは、平成28(2016)年度に野迫川村のせがわむらきのこ協議会が発足し、しいたけの原木栽培に取り組んでいる。しいたけ栽培に利用する原木は、整備されていなかった私有林から調達しており、伐採後にコナラを植栽することにより、原木林を循環利用していこうとしている。

一方、地域活性化を目指し、これまで未利用だった森林内の樹木の枝葉から、精油を製造・販売する取組が各地で試みられている。原料となる枝葉等の収集や消費者に対する認知度がまだ低いこともあり、小規模の生産者が多いが、ヒノキ、スギ、クロモジ等の国産精油の普及に向け、平成29(2017)年11月には一般社団法人日本産天然精油連絡協議会が設立され、日本産天然精油の品質向上に向けた活動に取り組んでいる(資料 特-13)。


(鳥獣被害対策にも貢献するジビエの利用)

シカ等による森林被害(*59)及び農作物被害は、深刻な状況にある。被害の低減のためには、被害防除と併せて捕獲を進めることが重要であり、シカやイノシシの捕獲が全国各地で進められている。捕獲されたシカやイノシシは、そのほとんどが埋設及び焼却により処分されているが、ジビエとして利用することで、中山間地域の所得向上や、捕獲意欲の向上による鳥獣被害の軽減につながることが期待されている。ジビエは地元の食材として農泊・観光等での利用に加え、外食や小売等で利用されており、特にシカ肉は低カロリーかつ高栄養価の食材として、アスリート食としても期待されている。

食肉処理施設で処理された野生鳥獣のジビエ利用量は年々増加しており、平成30(2018)年度は前年度に比べ約2割増の1,887トンであった(資料 特-14)。


高知県梼原町ゆすはらちょうのNPO法⼈ゆすはら西では、梼原町ゆすはらちょうと連携しジビエの利活用を行っている。ジビエを重要な地域資源と位置付け、「ジビエグルメ」のまちづくりを目標に活動しており、県内外40店舗のレストラン及び小売店にジビエを供給している。NPO法人ゆすはら西は、安定供給のため、長野トヨタ自動車株式会社が開発した、捕獲現場近くでの一次処理や運搬に使用する移動式解体処理車(ジビエカー)を活用し、町内全域からの搬入体制を整備しており、食肉処理施設は国産ジビエ認証制度(*60)による認証を取得し安全面にも配慮している。

また、一般社団法人日本フードサービス協会では、農林水産省の全国ジビエプロモーション事業を活用し、全国の外食店等が参加してハンバーガー、ロースト等様々なジビエメニューを提供する全国ジビエフェアを平成30(2018)年度から開始している。


(*59)野生鳥獣による森林被害について詳しくは、第1章第3節(4)85-87ページを参照。

(*60)厚生労働省が定める「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」に基づく衛生管理の遵守や、流通のための規格・表示の統一を図る食肉処理施設を認証する制度。認証された食肉処理施設は、生産したジビエ製品等に認証マークを表示して安全性をアピールすることができる。



(林福連携の取組)

こうした取組の中で、林業と福祉が連携して、障がい者が林業分野に参画する「林福連携」の取組も各地でみられる。

乾しいたけの加工及び販売を手がける宮崎県高千穂町たかちほちょうの株式会社杉本商店は、障がい者の就労支援を行う日之影町ひのかげちょう社会福祉施設「フラワーパークのぞみ工房」と連携して、平成30(2018)年3月から共同でしいたけの生産に取り組んでいる。同商店では生産者の高齢化による人手不足に悩んでおり、また、同工房では利用者である障がい者の収入増につながるとしており、双方にメリットがある状態となっている(*61)。さらに、同工房は、令和2(2020)年2月から別の生産者の植菌作業を請け負っており、取組を拡大させている(資料 特-15)。


島根県海士町あまちょうの社会福祉法人だんだんが運営する障がい者福祉サービス事業所「さくらの家」では、平成16(2004)年からクロモジの枝と葉からお茶を製造している。山でのクロモジ採集や乾燥・分別・パック詰め等の作業は、障がい者個々人の得意分野に合わせて分担されている。クロモジ茶は、海士町あまちょうで伝統的に飲まれていたお茶であり、島の特産品としても販売されている(*62)。

さらに、林福連携については、林業の現場や木材産業でも取組がみられる。例えば、有限会社堀木材(大分県竹田たけた市)では、人手を必要とする造林・育林作業のうち、アクセスの良い平坦な場所での作業を社会福祉法人やまなみ福祉会に依頼している(*63)。また、木材製品の製造では、木のストローを生産する株式会社アキュラホーム(事例 特-3)や大判で極薄のつき板を製作する株式会社ビッグウィル(*64)等でも障がい者が製品の製造に携わる取組が進められている。


(*61)平成30(2018)年3月27日付け宮崎日日新聞ウェブ版

(*62)障がい者の情報メディアMedia116ホームページ「離島のB型作業所が地場産業「ふくぎ茶」を生み出した~やりがいのある仕事が仲間に起こした変化とは?~」

(*63)北海道(2019)地方創生推進交付金 障がい者の多様な社会参加促進事業委託業務報告書: 23-54.

(*64)令和元(2019)年5月15日付け林政ニュース604号: 10-14.



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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