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林野庁

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第1部 特集 第1節 持続可能な開発目標(SDGs)と森林(2)

(2)森林・林業・木材産業とSDGsとの関係

(世界の森林とSDGs)

SDGsのうち、森林に関するものとしては、目標15に「持続可能な森林の経営」が掲げられていることに加え、このほかの目標においても森林に関係する項目がみられる。

森林は、世界の陸地面積の約30%を占め、そこには陸域の生物種の約80%が生息し、生物多様性の保全に大きく貢献している(*10)。このことは、将来の遺伝子資源の利用を確かなものにし、生物資源の保続性や森林景観の持続性を高めるという実用的な意味を持つ(*11)。さらに、森林は土壌を保全し(目標15)、水を育み(目標6)、炭素を貯蔵する(目標13)。

しかし、世界の森林は、熱帯林等を中心に農地への転用等を原因として減少・劣化を続けており、森林の保全が世界中で喫緊の課題となっている。また、開発途上国を始めとする地域では、森林減少・劣化は貧困問題等と不可分の関係にあり、持続可能な森林経営を推進することは、人々の生活に関わるSDGsの目標と密接に関連している。

例えば、世界では先住民を含む16億人が森林に生計を依存している(*12)。生計の多くを森林に依存する人々にとって、森林の喪失は貧困(目標1)や飢餓(目標2)の問題に直結する。また、低所得国での森林伐採の9割は薪炭材としての利用を目的としており、この面でも森林の保全と利用の持続性が確保されれば、持続可能なエネルギーへのアクセスを実現することにつながる(目標7)。

一方で、様々な国で地域住民が森林資源を利用する際の権利が保障されていないなど公平性の観点で課題があり(目標10)、貧困等の問題が一層深刻化していると指摘されている。また、薪炭材や非木質林産物の採集は主として女性が担っていることが多いが、森林の開発等の際に意思決定に参加できていないなどジェンダーの観点からも課題が生じている(目標5)。

このような開発途上国の森林をめぐる問題は、我が国とも密接に関連している。我が国の生活や産業は、開発途上国を含む海外からの輸入に多くを依存している。開発途上国で生産される農林産物の中には、違法性が指摘される木材や、パーム油、大豆、肉牛のように商品の生産に伴い森林減少が生じていると指摘されているものもある。このため「持続可能な生産消費形態」(目標12)の実現に当たっては、国内の森林と併せ、海外の森林の持続可能性についても考慮することが重要となる。

森林は貧困など様々な課題に関連していることが認識されてきたが、SDGsに則って森林の役割を整理することで、森林と社会的諸課題との関係が、具体的な目標として改めて明らかとなり、先進国を含め民間企業等の多様なステークホルダー(関係者)が開発途上国における森林の保全と利用に協力して取り組むことが求められている。

このような観点も踏まえて、平成29(2017)年4月には、SDGsを含む2030アジェンダを始めとする国際的な目標等に対し、森林分野の貢献を促進することを目的に掲げた「国連森林戦略計画2017-2030」(United Nations Strategic Plan for Forests 2017-2030。以下「UNSPF」という。)が国連総会で採択された。UNSPFでは、2030年までに達成すべき「世界森林目標」とその下に更に詳細なターゲットを掲げ、そこにはそれぞれの世界森林目標がとりわけ寄与するSDGsのターゲット等が記されている(資料 特-1)。

コラム 森林と関係するSDGsのターゲット

SDGsには、17の目標の下に169のターゲットがあり、森林・林業・木材産業に関連する様々なターゲットが含まれている。

例えば、目標6の下のターゲット6.6では、「森林」の記述がある。目標11の中には、森林の直接的な記載はないが、例えば、11.4で「自然遺産の保護」、11.5で「水関連災害」、11.aで「都市部、都市部周辺部及び農村部間の良好なつながり」等の記載がある。

また、目標17の下の17.17ではパートナーシップが奨励されており、森林に関わる取組に際しても様々な関係者が連携していくことが重要と考えられる。

個人や企業が取組を行う際には、関連する目標及びターゲットを把握するとともに、他の関連する目標やターゲットの重み付けも考えながら行うことが重要と考えられる。


表 森林に関わるターゲットの例

(*10)国連森林戦略計画2017-2030

(*11)日本学術会議答申「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について」(平成13(2001)年)

(*12)Agrawal A. et al. “Economic Contributions of Forests”(国連森林フォーラム第10回会合(2013年)背景報告書)



(我が国の森林を取り巻く現状)

我が国においても、その自然的・社会的・経済的な条件及び現況に照らすと、森林及び森林の恵みを活用する林業・木材産業の営みを通じ、上記のような主に開発途上国を念頭に置いたものに加えて異なる角度からもSDGsに貢献していく可能性が開けている。

まず、自然的な条件及び現況からみると、世界の森林面積が減少する中、我が国の森林面積は、過去半世紀にわたりほぼ横ばいで推移し、その蓄積量は、天然林、人工林とも年々増加している。このうち、森林の4割を占める人工林の半数が、一般的な主伐期である50年生を超え、本格的な利用期を迎えている。持続的な森林の利用とは、森林の成長量や蓄積を踏まえた伐採を行い、森林の適切な更新と整備により再生産を進めていくことであるが、我が国においては、この充実した森林資源の持続的な利用により、SDGsに貢献していくことができる状況となっている。

また、我が国は、その位置、地形、地質、気象等の自然的条件から、台風、豪雨、豪雪等による災害が発生しやすい国土となっている(*13)。特に、戦中・戦後の森林の大量伐採の結果、我が国の戦後の森林は大きく荒廃し、各地で台風等による大規模な山地災害や水害が発生した。このため、木材生産という観点だけではなく、国土の保全や水源のかん養等の公益的機能の発揮という観点から、林業・木材産業とともに幅広い国民の参加を得て森林整備に取り組み、その回復が図られてきた。国民の森林に期待する働きとしても、一貫して「災害防止」がその最上位近くを占めており(*14)、我が国の森林が山地災害の防止や土壌保全という機能を発揮してきていることへの理解も広がっている。今後も、森林を適切に整備・保全し、健全な状態に維持していくことで、地域の安全・安心の確保に貢献していくことが期待される。

この森林を取り巻く社会的・経済的な条件及び現況について見ると、第一に、人口減少が挙げられる。森林が所在し、林業が営まれる山村地域で過疎化が進行してきたが、平成20(2008)年以降は、我が国の人口そのものが減少局面に入っている。今後100年間で我が国の人口は100年前の水準に戻っていくとの推計もあり、このままでは山村地域が衰退し、我が国の社会全体の持続性にも影を落とす懸念もある(資料 特-2)。


このため、地域の活力の維持を目指し地方創生に関わる様々な取組が行われており、移住者を増やしている事例もみられる(*15)。その際、地域資源の一つである森林の積極的な活用を図ることは、林業・木材産業での働く場の確保等による地域の経済循環の面でも、大きな役割を果たし得るものと考えられる。

第二としては、人々の意識が生活の質(QOL)の向上を求める方向へ変化していることが挙げられる。木材を利用した空間で過ごすことに温かみや安らぎを覚えるとの声は、こうした意識の一面を反映するものと考えられる。また、都市部の住民には、森林の持つリフレッシュ効果等に期待する声があり、教育、健康、観光等の分野で森林空間を利用する新しい動きが出てきていることもその表れと言える。


(*13)内閣府「平成25年版防災白書」

(*14)詳しくは、第1章第1節(1)56ページを参照。

(*15)内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「移住・定住施策の好事例集(第1弾)」(平成29(2017)年)



(我が国における森林・林業・木材産業とSDGsの関係性)

我が国における森林・林業・木材産業とSDGsの関係性について改めて整理すると、まず、天然林を含め国土の3分の2を占める森林の多面的機能が、SDGsの様々な目標達成に貢献している。そして、森林の利用が林業・木材産業を中心にして経済的・社会的な効果を生んでおり、SDGsの様々な目標達成に寄与している。ここで大切なことは、森林の利用により生み出される便益が森林の整備・保全に還元されるという大きな循環につながっていくという側面であり、SDGsで重視されている環境・経済・社会の諸課題への統合的取組の表れともいえる。この循環には、再造林や合法性が確認された木材の利用等を通じ、森林が健全に維持されることが前提であり、林業・木材産業関係者の働きが要となる役割を担っている。

具体的なSDGsの目標と関連付けながら整理を試みると、次のとおりである(資料 特-3)。なお、SDGsは、その性格上、それぞれの取組を行っている主体の意図が尊重されるべきものであり、以下の記述に限定されるものではないことに留意が必要である。

資料 特-3 我が国の森林の循環利用とSDGsとの関係

まず、様々な生物を育む森林そのものが目標15に関連している。持続可能な経営の下にある森林は、水を育み(目標6)、豊かな海を作り(目標14)、二酸化炭素を貯め込み気候変動を緩和し(目標13)、山地災害の防止にも貢献する(目標11)。

持続可能な森林経営の下で木材を生産し、利用することは、持続可能な生産・消費形態の確保をうたう目標12に直結するとともに、現在、林業・木材産業の成長産業化に向けて進められている施業の低コスト化等の技術革新は、目標9のイノベーションの一部を担う動きと言える。また、素材生産や木材製品製造の現場では、他の日本の産業と同様に労働力不足の問題が顕在化しており、従業員の定着のため適切な労働環境の整備(目標8)や、女性参画の促進(目標5)が重要となっている。

木材利用については、上記のとおり目標12に直結するほか、建築等で利用する場合には炭素の貯蔵につながるとともに、他の材料に比べて製造や加工に要するエネルギーが少ない(目標7、13)という特徴を有している。また、木質バイオマスとしてエネルギー利用をしていくことは、再生可能エネルギーとして目標7(持続可能なエネルギー)に直結し、それにより枯渇性の化石燃料の使用を減らせることから目標13(気候変動対策)に貢献する。さらに、化石燃料由来のプラスチック等の代替に向けて木材を原料とする製品づくりの技術開発が進んでおり(目標9)、これを具現化していくことは、海洋環境の保全を促進する(目標14)こととなる。

また、きのこ、ジビエ等の森の恵みの活用を含め、森林資源を活用する取組は、持続的な形の食料生産(目標2)、山村地域での雇用の創出(目標8)及び地域活性化(目標11)に貢献することが期待される。

森林環境教育・木育(目標4)及び健康増進(目標3)に森林空間を活用する取組は、観光での活用を含め、新たな産業(目標12)による雇用創出(目標8)や都市と農村との交流による地域活性化(目標11)にもつながると期待される。森林セラピー基地や森林セラピーロード(*16)はそれらの重要な取組として挙げられるものであり、またそれらを企業の研修等で活用することにより企業の労働環境の改善(目標8)にも貢献することになる。

さらに、これらの木材、森の恵み、森林空間の利用等による便益が森林の整備・保全にも還元されると、目標15の「森林の持続可能な経営」が推進されることになり、好循環が生まれることになる。

SDGsの目標17では、効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップが奨励されている。我が国においても、林業・木材産業関係者を中心に企業、個人、行政等が連携して森林の持続可能性の確保に取り組んでいる。


(*16)森林セラピー及びセラピーロードは、特定非営利活動法人森林セラピーソサエティの登録商標。森林セラピーロードとは、生理・心理実験によって癒やしの効果が実証され、森林セラピーに適した道として認定された道。森林セラピー基地とは、森林セラピーロードが2本以上あり、健康増進やリラックスを目的とした包括的なプログラムを提供している地域。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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