第1部 第3章 第3節 木材産業の動向(3)
(3)新たなニーズを創出する製品・技術の開発・普及
従来木材が余り使われてこなかった分野における木材需要を創出する、新たな製品・技術の開発・普及が進んでいる(*154)。
(*154)林野庁が策定している「森林・林業・木材産業分野の研究・技術開発戦略」については、第1章第1節(3)72ページを参照。
(CLTの利用と普及に向けた動き)
一定の寸法に加工されたひき板(ラミナ)を繊維方向が直交するように積層接着したCLT(*155)(直交集成板)が、近年注目されている。地球温暖化への関心の高まりなどもあり、欧米を中心として木材を使った建築の需要が拡大する動きの中で、CLTを壁、床、階段等に活用した中高層を含む木造建築物が建てられている。我が国においても共同住宅、ホテル、オフィスビル、校舎等がCLTを用いて建築されており(*156)、550件を超える建物でCLTが採用されている。
CLTを使用する利点は、コンクリート等と異なり養生期間が不要であるため工期の短縮が期待できることや、建物重量が軽くなり基礎工事の簡素化が図られることが挙げられる。また、CLTはコンクリートに比べて断熱性が高く、床や壁にパネルとして使用すれば、一定の断熱性能を確保することもできる。
CLTの普及に当たっては、平成26(2014)年11月に「CLTの普及に向けたロードマップ(*157)」を林野庁と国土交通省の共同で作成し、基準強度・一般的な設計法の告示の整備や、実証的建築による施工ノウハウの蓄積、令和6(2024)年度までの年間50万m3程度の生産体制構築等を、目指すべき成果として掲げた。平成28(2016)年6月には、「CLT活用促進に関する関係省庁連絡会議」を設置し、政府を挙げてCLTの普及に取り組んでいる。同年9月には内閣官房に、事業者や地方公共団体からのCLTの活用に関する問合せに対応する政府の「一元窓口(*158)」を設けている。また、平成29(2017)年1月には、同連絡会議において「CLTの普及に向けた新たなロードマップ~需要の一層の拡大を目指して~」が作成され、建築意欲の向上、設計・施工者の増加、技術開発の推進、コストの縮減等を連携・協力して一層進めていくこととされた。令和3(2021)年3月には、CLTの更なる利用拡大に向け、川上から川下までの幅広い関係者の意見を集約し、同連絡会議において令和3(2021)年度から令和7(2025)年度までを期間にした「CLTの普及に向けた新ロードマップ~更なる利用拡大に向けて~」を策定した。新ロードマップには、従来より進めてきた公共建築物におけるCLTの活用、建築基準の合理化等の施策に加え、SDGs等への寄与の「見える化」、CLTパネルの寸法等の規格化の推進、設計者への一元的サポートの推進といった新たな施策も数多く盛り込まれた(資料3-41)。
これまでの普及に向けた取組の中で、林野庁及び国土交通省の事業による実験等を通じてCLTの構造や防火に関する技術的知見が得られたことから、平成28(2016)年3月及び4月に、CLTを用いた建築物の一般的な設計法等に関する、建築基準法に基づく告示が公布・施行された(*159)。これにより、告示に基づく構造計算を行うことで、国土交通大臣の認定を個別に受けることなく、CLTを用いた建築が可能となった。また、この告示に基づく仕様とすることによって、「準耐火建築物(*160)」として建設することが可能な建築物については、燃えしろ設計(*161)により防火被覆を施すことなくCLTを用いることが可能となった。平成29(2017)年9月には、枠組壁工法(*162)に係る改正告示(*163)が公布・施行され、告示に基づく構造計算を行うことで同工法の床版及び屋根版にCLTを用いることが可能となった。平成31(2019)年3月には、構造計算に用いる基準強度に係る改正告示(*164)が施行され、従来のスギより強度のあるヒノキ、カラマツ等の基準強度が位置付けられ、樹種の強度に応じた設計が可能となった。そのほかに、林野庁では、民間建築物におけるCLTの普及に向けて、CLT建築物の企画段階からの設計支援を行う専門家の派遣、CLTを用いた先駆的な建築にかかる実証、施工マニュアル等の整備や実務設計者向けの講習会の実施、CLTの汎用性拡大に向けた強度データ等の収集等に対する支援を行い、普及を促進している。
また、生産体制については、令和2(2020)年期首には、北海道、宮城県、石川県、鳥取県、岡山県、愛媛県、宮崎県及び鹿児島県において、JAS認証を取得したCLT工場が稼働しており、年間8万m3の生産体制となっている。
(*155)「Cross Laminated Timber」の略。
(*156)CLTを活用した建築事例については、第2節(2)177-180ページも参照。
(*157)農林水産省プレスリリース「CLTの普及に向けたロードマップについて」(平成26(2014)年11月11日付け)
(*158)内閣官房ホームページ(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/cltmadoguchi/)
(*159)国土交通省プレスリリース「CLTを用いた建築物の一般的な設計方法等の策定について」(平成28(2016)年3月31日付け)
(*160)火災による延焼を抑制するために主要構造部を準耐火構造とするなどの措置を施した建築物(「建築基準法」第2条第7号の2及び第9号の3)
(*161)木材は表面に着火して燃焼しても、その部分が炭化して断熱層を形成し、内部まで燃焼が及びにくくなる性質があるが、その性質を利用して、部材の断面を設計する手法。
(*162)木造住宅の工法については、第2節(2)175-176ページを参照。
(*163)平成29年国土交通省告示第867号
(*164)平成30年国土交通省告示第1324号
(木質耐火部材の開発)
建築基準法に基づき、木質耐火部材を用いることなどにより所要の性能を満たせば、木造でも大規模な建築物を建設することが可能である。木質耐火部材には、木材を石膏(こう)ボードで被覆したものや、モルタル等の燃え止まり層を備えたもの、鉄骨を木材で被覆したものなどがある(資料3-42)。
耐火部材に求められる耐火性能(*165)は、同法において、建物の最上階から数えた階数に応じて定められている(*166)。こうした中、木造の1時間耐火構造の例示仕様が告示(*167)へ追加されたほか、平成29(2017)年12月には、建築基準法の規定により求められる耐火性能のうち最も長い3時間の性能を有する木質耐火部材の大臣認定が取得される事例が生まれるなど、これまでの木質耐火部材の開発の成果が出てきている。
(*165)通常の火災が終了するまでの間当該火災による建築物の倒壊及び延焼を防止するために当該建築物の部分に必要とされる性能(建築基準法第2条第7号)。
(*166)「建築基準法施行令」(昭和25年政令第338号)第107条
(*167)「耐火構造の構造方法を定める件」(平成12年建設省告示第1399号)
(建築資材等として国産材を利用するための技術)
低層住宅建築のうち木造軸組構法(*168)では、構造用合板や柱材と比較して、梁(はり)や桁等の横架材において、一部の工務店を除き、国産材の使用割合は低位にとどまっている(資料3-43)。横架材には高いヤング率(*169)や多様な寸法への対応が求められるため、米(べい)マツ製材やレッドウッド(ヨーロッパアカマツ)集成材等の輸入材が高い競争力を持つ状況となっている。この分野での国産材利用を促進する観点から、各地で、乾燥技術の開発や心去(しんさ)り(*170)等による品質向上や、柱角等の一般流通材を用いた重ね梁(ばり)の開発等が進められている。
また、一般流通材を用いたトラス梁(ばり)(*171)や縦ログ工法(*172)、国産材を使用したフロア台板用合板(*173)や木製サッシ部材等の開発・普及、施工が容易な内装材の開発等も進められ、非住宅分野や中高層分野の木造化・木質化にも貢献することが期待されている。
建築や土木工事に使用されるコンクリート型枠(かたわく)用合板については、表面の平滑性や塗装が必要なために、現在も南洋材合板がその大半を占めているが、単板の構成を工夫するなど、国産材を使用した型枠(かたわく)用合板の性能を向上させる技術の導入が進んでいる。表面塗装を施した国産材を使用した型枠(かたわく)用合板については、南洋材型枠(かたわく)用合板と比較しても遜色のない性能を有していることが実証されている(*174)。
(*168)木造住宅の工法については、第2節(2)175-176ページを参照。
(*169)材料に作用する応力とその方向に生じるひずみとの比。このうち、曲げヤング率は、曲げ応力に対する木材の変形(たわみ)しにくさを表す指標。
(*170)丸太の中心部である心材を外して木取りをする技術。乾燥しても割れが生じにくい長所がある。
(*171)三角形状の部材を組み合わせて、外力に対する抵抗を強化した骨組み構造の梁。
(*172)製材を縦に並べることによって壁を構成する工法。
(*173)フロア台板用合板に係る取組事例については、「平成29年度森林及び林業の動向」第4章第2節(4)の事例4-4(151ページ)を参照。
(*174)地域材を原料とする型枠用合板の強度の実証については、「平成28年度森林及び林業の動向」第1章第2節(3)の事例1-7(27ページ)を参照。
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