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林野庁

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第1部 第2章 第3節 山村(中山間地域)の動向(2)

(2)山村の活性化

(地域の林業・木材産業の振興と新たな事業の創出)

山村が活力を維持していくためには、地域固有の自然や資源を守るとともにこれらを活用して、若者やUJIターン(*95)者の定住を可能とするような多様で魅力ある就業の場を確保し、創出することが必要である。山村の森林資源を多面的に活用する技術を学ぶための人材育成機関を立ち上げる取組もみられる(事例2-5)。

事例2-5 山村で自然を活用しながら持続的に暮らしていくための人材育成学校の開校

標高千m以上の山々に囲まれ、森林率97%、人口約500人の富山県南砺なんと利賀とが地域は、世界遺産で知られる五箇山ごかやまに隣接し、地域住民が自然と共に暮らしてきた歴史があるが、急速な過疎化・高齢化や収入源の減少といった問題も抱えている。

当地域で、森林や自然を活かした自立的な暮らし方を習得できる人材育成組織をつくりたいという住民の発案により、地域の住民・事業体と南砺市が連携し、森林生態学の専門家らも加わり、2016年に人材育成組織の設立準備会を発足させた。

2017年から年4回募集の「森の暮らし塾」を試行的に開催しながら準備を進め、令和2(2020)年に、年10回の通年カリキュラムによる「TOGA森の大学校」(設立者:一般社団法人TOGA森の大学校)が開校した。

令和2(2020)年は、県外からの移住者3名を含め、定員6名を上回る9名が講座に参加している。講座は、県内外の専門家や地域の住民から、森林の調査法、林業、狩猟、地域の伝統技術、炭焼き、樹液の活用、木材利用等、幅広い内容を実践的に習得するカリキュラムとなっており、地域の森林を維持管理しながら、持続的な収益を上げられる人材を育成することとしている。


令和2年(2020)年12月に閣議決定された第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2020改訂版)においては、林業の成長産業化が地方創生の基本目標達成のための施策の一つに位置付けられている。

林野庁は、平成29(2017)年度から、地域の森林資源の循環利用を進め、林業の成長産業化を図ることにより、地元に利益を還元し、地域の活性化に結び付ける取組を推進するため、選定した地域を対象として「林業成長産業化地域創出モデル事業」を実施している(*96)。この中で、地域が提案する明確なビジョンの下で実施されるICT活用、ブランド化等のソフト面での対策に加え、ソフト面での対策と一体的に行われる木材加工流通施設等の整備に対して重点的に支援しており、成功モデルの横展開による林業の成長産業化の加速化を図っている。

農林水産省においては、山村の活性化を図るため、「山村活性化支援交付金」により、薪炭、山菜等の山村の地域資源の発掘、消費拡大、販売促進等を通じ、所得・雇用の増大を図る取組への支援を行うとともに、林業と加工や販売等を融合し、地域ビジネスの展開と新たな業態の創出を行う「6次産業化」の取組を進めており、林産物関係では令和3(2021)年2月26日現在で104件の計画(*97)を認定している。

さらに、農林水産省及び経済産業省は、農林漁業者と中小企業者が有機的に連携し、それぞれの経営資源を有効に活用して新商品開発、販路開拓等を行う「農商工等連携」の取組を推進しており、林産物関係では令和3(2021)年2月12日現在で47件の計画(*98)を認定している。

さらに、内閣官房及び農林水産省は、「ディスカバー農山漁村むらの宝」として、農山漁村の有するポテンシャルを引き出すことにより地域の活性化、所得向上に取り組んでいる優良事例を選定し、全国へ発信している。

このほか、一般社団法人日本森林学会では、各地の林業発展の歴史を将来にわたって記録・記憶していくため「林業遺産」の選定を行っており、令和3(2021)年3月末現在、41件に上っている。


(*95)「UJIターン」とは、大都市圏の居住者が地方に移住する動きの総称。「Uターン」は出身地に戻る形態、「Jターン」は出身地の近くの地方都市に移住する形態、「Iターン」は出身地以外の地方へ移住する形態を指す。

(*96)初年度に網走西部流域、大館北秋田、最上・金山、南会津、利根沼田、中越、中津川・白川・東白川、浜松、田辺、日南町・中央中国山地、長門、久万高原町、高吾北、日田市、延岡・日向、大隅の16地域が選定され、平成30(2018)年度に渡島、登米、矢板、伊那、郡上、京都市、千代川流域、隠岐島後、新見・真庭、徳島県南部、糸島、奥球磨の12地域が追加選定された。

(*97)「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(平成22年法律第67号)に基づき、農林漁業者等が作成する「総合化事業計画」。

(*98)「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律」(平成20年法律第38号)に基づき、農林漁業者と中小企業者が作成する「農商工等連携事業計画」。



(多様な森林空間利用に向けた「森林サービス産業」の創出)

人口減少・少子高齢化が進む中で、森林を適切に管理していくためには、その基盤となる山村地域の活性化に加え、国民の森林への関心を高めていく必要がある。近年は、人々のライフスタイルが変化する中で、森林環境教育の場、アウトドアスポーツ等のレクリエーションの場に加え、メンタルヘルス対策や健康づくりの場等として、森林空間を利用しようとする新たな動きもある(*99)(事例2-6)。また、山村でのワーケーション(*100)施設の整備や、キャンプ等のための森林のレンタルサービスなど、新型コロナウイルス感染症拡大による社会の変化を受けて、注目される動きもある。

令和元(2019)年10月に内閣府が行った「森林と生活に関する世論調査」によると、日常の生活の中で、森林で行いたいことについては、「心身の健康づくりのため森林内の散策やウォーキング」の割合が高かった(資料2-40)。

事例2-6 森林空間を活用した複合型のサービス

北八ヶ岳きたやつがたけ奥秩父おくちちぶ山塊に囲まれた長野県小海町こうみまちは、自然豊かな環境を活用し、都市部企業の課題である働き方改革と健康経営のニーズに対応した企業向けの研修プログラムの提供を行っている。

企業の本格受け入れを令和元(2019)年度に開始し、これまでに14団体と利用協定を締結するとともに、これらの企業等に対して、新入社員、管理職等を対象とした研修プログラムを提供した(20件260名利用)。研修プログラムの中では、自然の中で五感を刺激し、心身のリラックスを促すセラピーを取り入れ、セラピーガイドによる森林内でのウォーキングやヨガ、地元の食材を使用した弁当の提供等を実施している。利用した企業等からは、ストレス軽減効果やセラピーによる五感の刺激により創造力が高まったことで、有意義な意見交換ができたなどの評価があった。

また、ワーケーションのニーズにも応えるため、令和2(2020)年3月、森林プログラムの拠点である眺望の良い湖畔に、屋内研修も実施可能なリモートワーク施設を完成させた。10月には、長期滞在によるストレス軽減や生産性の向上等の効果を検証するため、首都圏4企業の社員9名に4泊5日のプログラムに参加してもらった。その結果、精神健康の向上やネガティブな感情の低下、生産性の向上等の効果が見られた。小海町は、今後、長期滞在型の利用者を増やしていきたいとしており、森林を活用した複合型のサービスとして期待される。

湖畔のリモートワーク施設
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このような中、林野庁は、山村の活性化に向けた「関係人口(*101)」の創出・拡大のため、健康、観光、教育等の多様な分野で森林空間を活用して、山村地域における新たな雇用と収入機会を生み出す「森林サービス産業」の創出・推進に取り組んでおり、健康分野では、令和2(2020)年5月にモデル事業に取り組む地域等を公募し、モデル地域として7地域、準モデル地域として9地域を選定し、モニターツアー、ワークショップ等の実施を支援するとともに、これらモデル事業の結果等を令和3(2021)年2月に開催した「森林サービス産業フォーラム2021」において、都市部の企業・団体等を含む関係者間で共有した。

また、教育分野では、森林空間を活用した自然保育、学校教育、企業研修等に係る現状、ニーズ及び課題について関係者からヒアリング等を行い、今後の森林環境教育の推進に向けた新たな方向性について検討を行うとともに、新たな森林の楽しみ方を提案するモニターツアーやワークショップを行った(*102)。


(*99)森林空間を利用したアウトドアスポーツやメンタルヘルス等の事例については、「令和元年度森林及び林業の動向」特集第2節(3)25-29ページを参照。

(*100)ワーケーションについては、特集2第2節(2)61ページも参照。

(*101)地域や地域の人々と多様な形で関わる人々。

(*102)林野庁ホームページ「森林空間を活用した教育イノベーション検討委員会」



(里山林等の保全と管理)

森林の有する多面的機能の発揮には、適切な森林整備や計画的な森林資源の利用が不可欠であるが、山村の過疎化、高齢化等が進む中で、適切な森林整備等が行われない箇所もみられる。このような中、里山林等の保全管理を進めるためには、地域住民が森林資源を活用しながら持続的に里山林等と関わる仕組みをつくることが必要である。このため、林野庁では、「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」により、里山林の景観維持、侵入竹の伐採及び除去等の保全管理、広葉樹のしいたけ原木等への利用と、それらと組み合わせた路網や歩道の補修・機能強化等について、地域の住民が協力して行う取組に対して支援している。また、森林整備事業により、間伐等の森林施業を支援するとともに、間伐等と一体的に行う侵入竹の伐採、除去等に対しても支援している。

また、農業被害がある地域においては、イノシシ等が出没しにくい環境(緩衝帯)をつくるため、林縁部のやぶの刈り払い、農地に隣接した森林の間伐等を行うなど、野生鳥獣とのみ分けが図られている。


(農泊等による都市との交流により山村を活性化)

近年、都市住民が休暇等を利用して山村に滞在し、農林漁業や木工体験、森林浴、山村地域の伝統文化の体験等を行う「山村と都市との交流」が各地で進められている。

農林水産省では、インバウンドを含めた旅行者に農山漁村に滞在してもらう「農泊」を、農山漁村の所得向上や雇用創出に向けた重要な柱として位置付け、平成29(2017)年度から、各地の取組を支援している。この一環として、美しい森林景観や保養・レクリエーションの場としての森林空間を、観光資源として活用するための体験プログラムの作成等に対する支援も行っている。森林散策、林業体験等を中心とした農泊の取組の中には、国有林の「レクリエーションの森」を観光資源として活用する取組もみられる(*103)。

また、「子ども農山漁村交流プロジェクト」を通じて、子供の農山漁村での宿泊による農林漁業体験や自然体験活動等を推進できるよう、農林水産省では山村側の宿泊・体験施設の整備等に対して支援している。


(*103)「日本美しの森 お薦め国有林」の選定等の国有林の観光資源としての活用等に向けた取組については「平成29年度森林及び林業の動向」トピックス4(8-9ページ)を参照。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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