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第1部 第2章 第4節 国際的な取組の推進(1)


森林は、気候変動の緩和、生物多様性の保全、土壌や水の保全、自然災害リスクの軽減、木材、食料、燃料、飼料、シェルター等の供給等、人類の生存に不可欠な財やサービスを提供しており、持続可能な森林経営の推進や地球温暖化防止に向けた国際的な取組が進められている。

以下では、持続可能な森林経営の推進、地球温暖化対策と森林、生物多様性に関する国際的な議論、我が国による森林分野での国際協力について記述する。


(1)持続可能な森林経営の推進

(世界の森林の減少傾向が鈍化)

国際連合食糧農業機関(FAO(*126))の「世界森林資源評価2015(*127)」によると、2015年の世界の森林面積は40億haであり、世界の陸地面積の約31%を占めている。

世界の森林面積は、2010年から2015年までの5年間に、中国やオーストラリアを始め、植林等により森林面積を大幅に増加させる国がある一方、ブラジルやインドネシア等において熱帯林等が減少したことにより、全体として年平均で331万ha減少している。地域別にみると、アフリカと南米でそれぞれ年平均200万ha以上減少している一方、アジア等では森林面積は増加している(資料2-37)。熱帯地域で起こっている近年の森林減少の約8割が農地への転用に起因し、温帯や冷温帯地域でも耕作地や放牧地の減少に伴って森林面積が増加傾向にあるなど、森林面積と農地面積の増減には負の相関がみられる(*128)(資料2-38)。


また、世界の森林面積の減少率(*129)は、1990-2000年期の年平均0.18%から、2010-2015年期の年平均0.08%に半減しており(資料2-37)、他の土地利用への転用速度が減少したことなどにより、森林面積の減少は減速傾向にある。

なお、我が国は、自国の木材資源をあまり利用していない国である。経済協力開発機構(OECD)加盟国36か国のうち32か国について森林蓄積量に対する年間の木材生産量の比率を2005年と2015年とで比較すると、我が国の比率は他国に比べて低位な状況にある(資料2-39)。


(*126)「Food and Agriculture Organization of the United Nations」の略。同機関の概要については、107-108ページを参照。

(*127)FAO(2015)Global Forest Resources Assessment 2015

(*128)FAO「世界森林白書2016(State of the World's Forests 2016)」。世界森林白書は、2年に1度FAOが公表する世界の森林に関する動向報告であり、2016年は土地利用の変化について特集。

(*129)森林面積に対する減少面積の割合。



(国連における「持続可能な森林経営」に関する議論)

持続可能な森林経営の推進に向けては、1992年の「国連環境開発会議(UNCED(*130))」(以下「地球サミット」という。)において「森林原則声明(*131)」が採択されて以降、国連の場において、政府間対話が継続的に開催されている(資料2-40)。2001年以降は、経済社会理事会の下に設置された「国連森林フォーラム(UNFF(*132))」において、各国政府、国際機関、NGO(非政府組織)等の代表者により、森林問題の解決策について議論が行われている。


2015年に開催された「UNFF第11回会合(UNFF11)」では、「森林に関する国際的な枠組(IAF)(*133)」を強化し2030年まで延長するとともに、2007年のUNFF7で採択された「全てのタイプの森林に関する法的拘束力を伴わない文書(NLBI)(*134)」を「国連森林措置(*135)」に改称して2030年まで延長することなどが決定された。

2017年に開催された「UNFF特別会合」においては、「国連森林戦略計画2017-2030(UNSPF(*136))」が採択され、2030年までに達成すべき6の世界森林目標及び全世界の森林面積を3%増加させるなどの26のターゲットが定められた。同計画は、同4月に国連総会において採択された。

UNFF12以降の会合については、実施・技術助言のセッションと、政策対話・協調等のセッションを毎年交互に開催することとされている。2017年に開催されたUNFF12では、貧困削減、ジェンダーの公平、食料安全保障等の議題に関し、森林セクターが果たすべき貢献の在り方について幅広い議論が行われた。

2018年に開催されたUNFF13では、UNSPF等の実施体制について議論されたほか、森林と関わりの深いSDGsのゴール(SDG15を含む6つのSDGs)(*137)の達成に向けた森林の貢献が議長サマリーとしてとりまとめられ、同7月の「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF(*138))2018」会合に提出された。


(*130)「United Nations Conference on Environment and Development」の略。

(*131)正式名称は「Non-legally binding authoritative statement of principles for a global consensus on the management, conservation and sustainable development of all types of forests(全ての種類の森林の経営、保全及び持続可能な開発に関する世界的合意のための法的拘束力のない権威ある原則声明)」。世界の全ての森林における持続可能な経営のための原則を示したものであり、森林に関する初めての世界的な合意である。

(*132)「United Nations Forum on Forests」の略。

(*133)UNFF及びそのメンバー国、「森林に関する協調パートナーシップ」、森林の資金動員戦略の策定を支援する「世界森林資金促進ネットワーク」及びUNFF信託基金から構成される。IAFは「International Arrangement on Forests」の略。

(*134)森林に関する4つの世界的な目標((ア)森林の減少傾向の反転、(イ)森林由来の経済的・社会的・環境的便益の強化、(ウ)保護された森林及び持続可能な森林経営がなされた森林面積の大幅な増加と同森林からの生産物の増加、(エ)持続可能な森林経営のためのODAの減少傾向の反転)を掲げた上で、持続可能な森林経営の推進のために各国が講ずべき国内政策や措置、国際協力等を包括的に記述した文書。NLBIは「Non-Legally Binding Instrument on all types of forests」の略。

(*135)「United Nations Forest Instrument」の日本語訳。

(*136)「United Nations Strategic Plan for Forests 2017-2030」の略。

(*137)SDGsと森林については、トピックス(7-8ページ)も参照。

(*138)「High Level Political Forum on Sustainable Development」の略。



(SDGsと森林に関連する我が国の取組)

我が国は、内閣に設置された「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」が平成28(2016)年に決定した「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」に基づき、国内外の施策を推進していくこととしている。

また、G20等を開催する令和元(2019)年に向けて日本の「SDGsモデル」を構築・発信することを目指し、同実施指針における8つの優先課題に沿った主要な取組等を取りまとめた「SDGsアクションプラン2018」が平成29(2017)年に決定された。これに続いて、平成30(2018)年6月には、政府の取組を更に具体化・拡充した「拡大版SDGsアクションプラン2018」が、同12月には「SDGsアクションプラン2019」が決定された。

「SDGsアクションプラン2019」の中には、「優先課題(ウ)成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション」に資する人材育成として「「緑の雇用」新規就業者の育成」等が、「優先課題(エ)持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備」として「治山対策の推進」が、「優先課題(カ)生物多様性、森林、海洋等の環境の保全」として「林業の成長産業化と森林の多面的機能の発揮」に向けた諸施策や、「世界の持続可能な森林経営の推進及びREDD+(*139)の支援」等が盛り込まれるなど、SDGsの達成に向けても、森林・林業の果たすべき役割は大きくなっている。


(*139)REDD+については、104-105ページを参照。



(アジア太平洋地域における「持続可能な森林経営」に関する議論)

「アジア太平洋経済協力(APEC(*140))林業担当大臣会合」は、第4回会合が2017年に開催され、各エコノミー(*141)は2020年までに域内で森林面積を少なくとも2,000万ha増加させるという目標に貢献するなど、8の目指すべき活動を盛り込んだ「第4回APEC林業閣僚会議のソウル声明」を採択した(*142)。

また、我が国は中国、韓国、インドとの間で森林・林業分野に関する二国間・3か国間の定期対話を行っている。そのうち、我が国と中国、韓国の3か国は、2012年の第5回日中韓サミットで採択した「持続可能な森林経営、砂漠化対処、野生生物保全に関する協力についての共同声明」に基づき、2018年5月に韓国のヨンジュで「第5回持続可能な森林経営に関する日中韓三か国部長級対話」を開催した。同対話では、「SDGsと森林・林業政策」、「国有林管理」、「林木遺伝資源保全」、「森林空間利用」等の議題ごとに、各国の現状・課題の発表、意見交換を行った(*143)。

また、2018年10月に「森林空間利用」、11月に「治山」をテーマとする3か国の官民の有識者を招いたフォーラムやシンポジウムを開催し、知見を深めた。

インドとの間では、2015年に締結した「森林及び林業分野の協力覚書」に基づき、2018年7月に第3回作業部会を開催した。同部会では、「人材育成と研究機関同士の交流」、「持続可能な森林経営」、「森林保全と山地災害防止」、「生物多様性の保全」、「森林資源の有効利用」の5課題に関する相互交流を軸とした5年間の協力ロードマップに合意した。


(*140)「Asia Pacific Economic Cooperation」の略。

(*141)APECに参加する国・地域をエコノミー(economy)という。現在、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、中国、中国香港、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニューギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、シンガポール、チャイニーズ・タイペイ、タイ、アメリカ、ベトナムの21エコノミーが参加。

(*142)APECホームページ「2017 APEC Meeting of Ministers Responsible for Forestry」

(*143)林野庁プレスリリース「「第5回持続可能な森林経営に関する日中韓三か国部長級対話」の結果概要について」(平成30(2018)年6月12日付け)



(持続可能な森林経営の「基準・指標」)

「地球サミット」以降、持続可能な森林経営の進展を評価するため、国際的な「基準・指標(*144)」の作成及び評価が進められている。現在、熱帯木材生産国を対象とした「国際熱帯木材機関(ITTO(*145))基準・指標」、欧州諸国による「フォレスト・ヨーロッパ(FE)」、我が国を含む環太平洋地域の冷温帯林諸国による「モントリオール・プロセス」など、世界の各地域において取組が進められている。

「モントリオール・プロセス」には、カナダ、米国、ロシア、我が国等の12か国(*146)が参加し、共通の「基準・指標」に基づき各国の森林経営の持続可能性の評価及び報告に取り組んでいる。現在の「基準・指標」は、2008年に指標の一部見直しが行われ、7基準54指標から構成されている(資料2-41)。なお、平成19(2007)年1月からは、我が国が同プロセスの事務局を務めている。


(*144)「基準」とは、森林経営が持続可能であるかどうかをみるに当たり森林や森林経営について着目すべき点を示したもの。「指標」とは、森林や森林経営の状態を明らかにするため、基準に沿ってデータやその他の情報収集を行う項目のこと。

(*145)「The International Tropical Timber Organization」の略。同機関の概要については、52-53ページを参照。

(*146)アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、チリ、中国、日本、韓国、メキシコ、ニュージーランド、ロシア、米国、ウルグアイ。



(違法伐採対策に関する国際的な枠組み)

森林の違法な伐採は、地球規模の環境保全や持続可能な森林経営を著しく阻害する要因の一つであることから、国際的な枠組みでの合法木材の貿易の促進及び違法伐採に対処する取組が進められている(*147)。

APECでは2011年に「違法伐採及び関連する貿易専門家グループ(EGILAT(*148))」が設立され、我が国は当初からこれに参加している。EGILATでは、違法伐採対策及び合法木材の貿易の推進に関する情報共有や意見交換、外部専門家の招へいによる多角的な視点からの議論や違法伐採対策に係る取組の共有の促進、関係者の能力開発等について、APECエコノミーが協力して取り組んでいる。

2018年度のEGILATは、2018年8月にパプアニューギニアのポートモレスビー、2019年2月にチリのサンティアゴで開催され、各エコノミーにおける違法伐採対策及び合法木材の貿易の推進に係る最新の取組状況(我が国の「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」(クリーンウッド法)を含む。)が報告され、各エコノミーの理解を深めるための意見交換が行われた。また、EGILATとしてAPEC地域における違法伐採対策の推進を図っていくための今後の取組についても検討が行われた。

なお、2017年の第4回APEC林業担当大臣会合で採択されたソウル声明においては、森林・林業における幅広い課題を取り扱う中で、目指すべき活動の中に、違法伐採及び関連する貿易に対処するための協力強化や合法木材の貿易の促進等についても盛り込まれている。


(*147)違法伐採対策のうち、我が国の「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)」(平成28年法律第48号)等を含む各国における法整備等の取組については、第4章(165ページ)を参照。

(*148)「Experts Group on Illegal Logging and Associated Trade」の略。



(森林認証の取組)

森林認証制度は、第三者機関が、森林経営の持続性や環境保全への配慮等に関する一定の基準に基づいて森林を認証するとともに、認証された森林から産出される木材及び木材製品(認証材)を分別し、表示管理することにより、消費者の選択的な購入を促す仕組みである。

国際的な森林認証制度としては、世界自然保護基金(WWF(*149))を中心に発足した森林管理協議会(FSC(*150))が管理する「FSC認証」と、ヨーロッパ11か国の認証組織により発足したPEFC(*151)森林認証プログラムが管理する「PEFC認証」の2つがあり、平成30(2018)年12月現在、それぞれ2億96万ha(*152)、3億947万ha(*153)の森林を認証している。このうちPEFC認証は、世界37か国の森林認証制度との相互承認の取組を進めており、認証面積は世界最大となっている。

我が国独自の森林認証制度としては、一般社団法人緑の循環認証会議(SGEC/PEFC-J(*154))が管理する「SGEC認証」がある。平成28(2016)年6月には、SGEC認証とPEFC認証との相互承認が実現し、SGEC認証を受けていることで、PEFC認証を受けた木材及び木材製品として取り扱うことができるようになった。

また、認証材は、外見は非認証材と区別がつかないことから、両者が混合しないよう、加工及び流通過程において、その他の木材と分別して管理する必要がある。このため、各工場における木材及び木材製品の分別管理体制を審査し、承認する制度(CoC(*155)認証)が導入されており、平成30(2018)年12月現在、FSC認証、SGEC認証、PEFC認証のCoC認証は、世界で延べ4万7千件以上の取得がなされている(*156)。


(*149)「World Wide Fund for Nature」の略。

(*150)「Forest Stewardship Council」の略。

(*151)「Programme for the Endorsement of Forest Certification」の略。

(*152)FSC「Facts & Figures」(2018年12月3日)

(*153)PEFC「PEFC Global Statistics:SFM & CoC Certification」(2018年12月)

(*154)「Sustainable Green Ecosystem Council endorsed by Programme for the Endorsement of Forest Certification schemes」の略。

(*155)「Chain of Custody(管理の連鎖)」の略。

(*156)FSC「Facts & Figures」、PEFC「PEFC Global Statistics:SFM & CoC Certification」



(我が国における森林認証の状況)

我が国における森林認証は、主にFSC認証とSGEC認証によって行われており、平成30(2018)年12月現在の国内における認証面積は、FSC認証が約41万ha、SGEC認証は約189万haとなっている(資料2-42)。森林面積に占める認証森林の割合は、欧州や北米の国々に比べて低位にある(資料2-43)。CoC認証の取得件数については、我が国でFSC認証が1,396、PEFC認証が195、SGEC認証は370となっている(*157)。


平成27(2015)年に農林水産省が実施した「森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」で、林業者モニター(*158)に対して森林認証の取得に当たり最も障害と思われることについて尋ねたところ、「森林認証材が十分に評価されていないこと」、「森林の所有規模が小さく、取得しても十分に活用できないこと」、「取得時及びその後の維持に費用がかかること」という回答が多かった(資料2-44)。また、消費者モニターに対して森林認証という言葉の意味やロゴマークの認知度について尋ねたところ、「「森林認証」の言葉を知らないし、ロゴマークも見たことがない」との回答が66.9%で最も多かった。これらの結果から、認証森林の割合が低位にとどまってきた要因として、森林所有者等にとって認証の取得・維持に費用がかかること、消費者の森林認証の制度に対する認知度が低く理解が進んでいないため、認証材の選択的な消費につながってこなかったことが考えられる。このため、林野庁では、森林認証制度や森林認証材の普及促進や、森林認証材の供給体制の構築に向けた取組に対して支援している。


「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」では、同大会の組織委員会が発表している「持続可能性に配慮した木材の調達基準」において、認証材は、調達基準への適合度が高いものとして原則認めることとされており、森林所有者や事業体による森林認証取得への後押しとなることが期待される。

そのような中、平成30(2018)年1月には、青森県立五所川原(ごしょがわら)農林高等学校の生徒が主体となって、同校の実習林において森林認証を取得し、森林認証制度の普及促進にもつながる取組として注目されている(事例2-7)。

事例2-7 高校生が主体となって森林認証を取得

青森県立五所川原(ごしょがわら)農林高等学校は、森林科学科の学生が主体となって準備を進め、平成30(2018)年1月に同校の実習林20haにおいて森林管理協議会(FSC)の森林認証を取得した。当該森林認証を審査した機関によると、高校生が主体となって同認証を取得するのは世界初であるとされている。

さらに、平成30(2018)年10月には認証森林の木材を使った製品を作る際の加工・流通過程における分別管理体制の認証制度であるCoC認証を取得した。これにより認証材で製作した製品を市場に出すことができるようになり、生徒たちが実習林の木材を利用して製作したスマートフォンのスタンドの販売等を行っている。

これらの取組を通じて持続可能な森林経営を実践しながら学んでいる。


(*157)FSC「Facts & Figures」、PEFC「PEFC Global Statistics:SFM & CoC Certification」、SGEC/PEFC-J「SGEC/PEFC認証企業リスト(CoC)」

(*158)この調査での「林業者」は、「2010年世界農林業センサス」で把握された林業経営体の経営者。


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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