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林野庁

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第1部 森林及び林業の動向 トピックス

1. 森林環境税(仮称)の創設

2. 日EU・EPA の交渉結果等

3. 「地域内エコシステム」の構築に向けて

4. 「日本美(うつく)しの森 お薦め国有林」の選定

5. 明治150年~森林・林業の軌跡~

6. 林業・木材産業関係者が天皇杯等を受賞


1. 森林環境税(仮称)の創設

平成29(2017)年12月に閣議決定された、「平成30年度税制改正の大綱」において、市町村が実施する森林整備等に必要な財源に充てるため、平成31(2019)年度の税制改正において森林環境税(仮称)及び森林環境譲与税(仮称)を創設することが決定されました。

森林の有する地球温暖化防止や、災害防止・国土保全、水源涵(かん)養等の様々な公益的機能は、国民に広く恩恵を与えるものであり、適切な森林の整備等を進めていくことは、我が国の国土や国民の命を守ることにつながります。しかしながら、林業の採算性の悪化、所有者や境界が分からない森林の増加、担い手の不足等により、近年、手入れが行き届いていない森林の存在が顕在化しています。森林環境税(仮称)は、こうした課題を解消し、森林の整備等を進めるために、国民一人一人が等しく負担を分かち合って我が国の森林を支える仕組みとして、創設されることとなりました。

振り返ると、森林の有する公益的機能の発揮に関する財源確保については、これまで長期間にわたり、政府・与党での検討や、関係者による働き掛けが続けられてきました。

農林水産省では、森林の水源涵(かん)養機能を確保するため、昭和61(1986)年度の税制改正において「水源税」の要望を行いました。その後、平成9(1997)年に採択され、平成17(2005)年2月に発効された「京都議定書(*1)」に基づき、温室効果ガスの排出削減目標の達成に向けた森林吸収量の確保に必要となる間伐等を推進するため、安定的な財源を確保する必要が生じたことから、平成16(2004)年以降、森林吸収源対策のための財源となる税を要望してきました。

他方、こうした財源の確保については、これまで国に対して地方から声が上げられ続けてきました。特に平成18(2006)年度以降は、多くの森林が所在する市町村を中心に結成された「全国森林環境税創設促進連盟(*2)」及び「全国森林環境税創設促進議員連盟(*3)」により、森林環境税の創設に向けた運動が展開されてきました。また、地方独自の財源確保の取組として、森林整備等を主な目的とした住民税の超過課税の取組も行われており、これまで37の府県において導入(*4)されています。

こうした中、平成27(2015)年12月の地球温暖化防止の新たな国際的枠組みである「パリ協定(*5)」の採択や、昨今の山地災害の激甚化等による国民の森林への期待の高まり等を受け、引き続き森林環境税の創設に向け、政府・与党を通じた検討が進められ、平成29(2017)年度の与党税制改正大綱において、森林環境税の創設に向けて「平成30(2018)年度税制改正において結論を得る」とされました。これを踏まえ、平成29(2017)年には、地方団体の意見を踏まえつつ、農林水産省において新たな森林整備の仕組みの検討を進めるとともに、総務省が地方財政審議会に設置した検討会において具体的な制度検討等が精力的に進められた結果、「平成30年度税制改正の大綱」における税創設の結論に至りました。

「平成30年度税制改正の大綱」においては、森林環境税(仮称)の課税は2024年度から、森林環境譲与税(仮称)の譲与は、農林水産省が検討している新たな森林管理システムの構築(*6)と合わせ平成31(2019)年度から行うこと、また、使途について、市町村は、間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用に、並びに都道府県は、森林整備を実施する市町村の支援等に関する費用に充てなければならないこと等が示されました。

今後、平成31(2019)年度の森林環境税(仮称)の創設に向け、新たな森林管理システムの検討とともに準備が進められていくこととなります。

森林吸収源対策に係る税制改正要望の推移
森林環境税(仮称)及び森林環境譲与税(仮称)の制度設計イメージ

(*1)京都議定書の詳細は、第 II 章(77-78ページ)を参照。

(*2)構成員は地方公共団体。

(*3)構成員は地方議会の議員。

(*4)地方公共団体による森林整備等を主な目的とした住民税の超過課税の取組状況の詳細は、第 II 章(53-54ページ)を参照。

(*5)「Paris Agreement」の日本語訳。詳細は第 II 章(78ページ)を参照。

(*6)新たな森林管理システムの構築の詳細は、第 I 章(25-32ページ)を参照。



2. 日EU・EPAの交渉結果等

日EU経済連携協定(日EU・EPA(*1))については、平成25(2013)年4月から交渉を開始し、これまで4年以上に及ぶ交渉を行ってきました。平成29(2017)年12月に、安倍総理大臣とEUのユンカー欧州委員会委員長は、日EU・EPAに関し、同7月6日の大枠合意以降5か月に及ぶ作業を経て交渉妥結に達したこと及び日EU・EPAの早期の署名・発効に向けて引き続き連携していくことを確認しました。

平成26(2014)年の我が国の構造用集成材等の輸入は、9,141千m3となっており、このうちEUからの輸入量は3,322千m3と約4割を占めています。例えば、EUから完成品で輸入される構造用集成材及びその半製品として輸入され、日本国内で完成品となるSPF(*2)製材の輸入量は3,075千m3と国内の生産量の約4分の1に及んでいます。こうした構造用集成材は、スギ等の国産材を原材料とする構造用集成材と直接競合するとともに、無垢の製材品の代替品としても競合しています。

このため、日EU・EPA交渉に当たっては、我が国の農林水産業の再生産を確保するため、その重要性に十分配慮し、粘り強く交渉に取り組んできました。とりわけ、構造用集成材、SPF製材等の主な林産物10品目の輸入については、関税の即時撤廃を回避し、7年の段階的削減の後8年目に撤廃することで合意しました。

EU側の関税については、ほぼ全ての品目で関税撤廃を獲得し、EU5億人の市場に向けた我が国農林水産物の輸出促進に向けた環境を整備することができました。主な林産物の現行の関税は6%~10%(合板等)であり、これらは即時撤廃されることとなります。

日EU・EPAでは、日本側の関税については、一定の撤廃期間を確保していることから、当面、輸入の急増は見込み難いものの、長期的には関税引き下げの影響が懸念されることから、川上から川下に至る総合的な体質強化等の検討が必要となっています。一方で、EU側の関税については、ほぼ全ての品目で関税撤廃を獲得していることから、輸出拡大に向けた取組も必要となっているところです。

また、平成28(2016)年2月に署名が行われた環太平洋パートナーシップ(TPP(*3))は、平成29(2017)年1月に米国がTPPからの離脱を宣言したため、米国以外の11か国はTPPの早期発効を追求することで合意し、同11月には大筋合意が公表され、平成30(2018)年3月には当初のTPP協定の範囲内の内容から成る「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(*4)」(TPP11協定)が署名されています。

こうした状況も踏まえ、平成27(2015)年11月25日に決定した「総合的なTPP関連政策大綱」を平成29(2017)年11月24日に改訂した「総合的なTPP等関連政策大綱(*5)」においては、木材加工施設の生産性向上支援、競争力のある品目への転換支援、効率的な林業経営が実現できる地域への路網整備、高性能林業機械の導入等の集中的な実施、原料供給のための間伐、木材製品の国内外での消費拡大対策、違法伐採対策を推進することとしています。

日EU・EPAにおける林産物交渉の結果(主な林産物10品目について)
主な現行関税率:5~6%(パーティクルボード・OSB)、4.8%(SPF製材)、3.9%(構造用集成材)

(*1)「Economic Partnership Agreement」の略。

(*2)「トウヒ(Spruce)、マツ(Pine)、モミ(Fir)類。主なものは北米及び欧州のパイン・スプルース、ニュージーランド及びチリのラジアータパイン、北洋のエゾマツ・アカマツ等。

(*3)「Trans-Pacific Partnership」の略。TPPについて詳しくは、第 IV 章(129ページ)を参照。

(*4)正式名称は 「Comprehensive and Progressive Agreement for  Trans-Pacific Partnership」。交渉参加国は、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア、メキシコ、カナダ及び日本の11か国。

(*5)「総合的なTPP等関連政策大綱」について詳しくは、第 IV 章(164ページ)を参照。



3. 「地域内エコシステム」の構築に向けて

日本の森林は、山村における林業生産活動を通じ、国民への木材・木材製品の供給源となるとともに、かつては、山村の住民にとって薪や木炭等の燃料の供給源でもありました。昭和30年代後半の「エネルギー革命」以降、こうした燃料の利用は少なくなり、山には間伐材・林地残材が残される状況が続いてきましたが、近年、木質バイオマスが再生可能エネルギーの一つとして再び注目されています。

特に平成24(2012)年7月から「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)(*1)」が導入され、間伐材・林地残材等由来の木質バイオマスの利用量が増加するとともに、木質バイオマス発電施設も増加し、地域の雇用にもつながっています。

このような中、大規模な木質バイオマス発電施設の増加に伴い燃料材の輸入が増加しているほか、間伐材・林地残材を利用する場合でも燃料の製造コストや、送電線設置の負担が大きくなるといった状況にあります。こうした状況を改善しつつ、地域の森林資源を再びエネルギー供給源として見直し、集落内で完結する比較的小規模で、集落の維持・活性化につながる低コストなエネルギー利用をどのように進めていくかということが喫緊の課題となっています。また、これらに加え、木材利用等マテリアルの活用が重要であり、需要先に対して地域の木材を安定的かつ効率的に供給する体制を確保する必要があります。

このため、農林水産省及び経済産業省は、両省の大臣の合意により、副大臣及び大臣政務官による共同研究会を設置し、森林資源をマテリアルやエネルギーとして地域内で持続的に活用できるようにするため、担い手確保から発電・熱利用に至るまでの「地域内エコシステム(*2)」の構築を目指して、平成28(2016)年12月から平成29(2017)年6月にかけて検討を行ってきました。研究会では、国内における木質バイオマスの利用の状況、オーストリアなど海外における事例、国内における木質バイオマス利用の先進事例についてヒアリングを行った上で、自由な意見交換を行いました。その結果として、木質バイオマスの新たな施策である「地域内エコシステム」の具体的な内容について整理し、日本の山村地域において同システムの実証、普及及び展開が図られていくよう、平成29(2017)年7月に報告書「『地域内エコシステム』の構築に向けて~集落を対象とした新たな木質バイオマス利用の推進~」を取りまとめました。

同報告書では、同システムは、集落を主たる対象とし、行政を中心とした地域の関係者から成る協議会が主体となって、地域への還元利益を最大限確保するため、効率の高い熱利用や熱電併給等を行うものとして整理しました。「地域内エコシステム」構築に向けた今後の取組として、農林水産省及び経済産業省の現行施策において先行的なモデル事業を実施した上で、事業終了後、当該事業の成果や課題を検証し、平成30(2018)年度以降の取組に反映することとしています。

「地域内エコシステム」の考え方

「地域内エコシステム」の類型

「地域内エコシステム」の構築に向けた取組

(*1)再生可能エネルギーの固定価格買取制度 (FIT)の詳細は、第 IV 章(179-180ページ)を参照。

(*2)「エコシステム」とは一般に「生態系」を指すが、ここでは「環境に配慮したシステム」の意味として使用している。



4. 「日本美(うつく)しの森 お薦め国有林」の選定

林野庁では、平成28(2016)年3月30日に「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」(議長:内閣総理大臣)により策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」を踏まえ、平成29(2017)年度より国有林の「レクリエーションの森(*1)」を核とした山村地域における観光地域づくりの取組を推進することとしています。

優れた自然景観を有するなど、観光資源としての潜在的魅力があり、観光庁や環境省の施策、農泊と連携した取組が可能となる全国93か所のレクリエーションの森を、有識者の意見を踏まえ「日本美(うつく)しの森 お薦め国有林」として選定しました。これらの中には、世界自然遺産であり、太古の歴史を有する屋久杉に触れることのできる「屋久島(やくしま)自然休養林」や、登山者数世界一であり多くの都民等が親しむ首都の野外博物館ともいえる「高尾山(たかおさん)自然休養林」、神秘的な然別(しかりべつ)湖のほとりにあり、美しい星空が印象的な「然別(しかりべつ)自然休養林」、ブナの幹と雪のイメージから白い森と呼ばれる「温身平(ぬくみだいら)風致探勝林」、森林浴発祥の地として知られる「赤沢(あかさわ)自然休養林」、昔日の面影をしのばせる山城跡と付近の街道散策が楽しい「高取山(たかとりやま)風景林」、ヤナセスギの巨木と林業の歴史をたどる「千本山(せんぼんやま)風景林」など、多様な魅力を持つ国有林が含まれています。この「日本美(うつく)しの森 お薦め国有林」については、標識類やホームページの情報の多言語化や、景観を確保するための伐採、施設整備等の重点的な整備を進めるとともに、地元の方々による様々なイベント開催等も通じ、その魅力を更に磨き上げ、より多くの方が日本の美しい森林景観を味わえるよう、地域の方々の協力のもと、取り組んでいくこととしています。

林野庁では、こうした取組と併せ、近年の都市部やインバウンド等のニーズに合わせて、ビジネスとして成り立つ観光・交流プログラムを創出するため、地域が抱える様々な悩みや課題に応える機会として、「森林資源を活用した観光推進に向けたマッチングセミナー」を開催しました。また、日本各地の森林において撮影された森林景観の美しさ、生命のすばらしさ、体験による感動など、森の魅力を伝える写真を表彰する「わたしの美(うつく)しの森フォトコンテスト」も実施しました。

このように、森林をより身近なものとして親しんでもらうためのきっかけづくりを行うとともに、地域資源・観光資源としての森林がより活用され、山村の活性化にもつながるよう取組を進めているところです。

全国の主な「美しの森 お勧め国有林」

(*1)林野庁では、優れた自然景観を有し、森林浴や自然観察、野外スポーツ等に適した国有林を「レクリエーションの森」に設定し、国民に提供。平成29(2017)年4月現在、全国983か所で設定。



5. 明治150年~森林・林業の軌跡~

平成30(2018)年は、明治元(1868)年から起算して満150年となります。

現在では、世界で有数の森林国と言われ、スギやヒノキを中心とした充実した森林資源を有する我が国ですが、明治時代から戦中・戦後まもなくにかけては、造林未済地いわゆる「ハゲ山」の状態の土地が150万haに上り、各地で大規模な山地災害や水害が発生しました。これらの荒廃の進んだ森林において、先人達が造林や保育を行うなど、様々な過程を経て、今日の姿があります。こうした歴史を振り返ることは、戦後に植栽された人工林が利用期となるなど、森林資源を活用し循環利用していく転機を迎えている今、100年150年先の森林・林業を思い描くための重要な機会となり得るものです。


(我が国の林政の確立)

明治政府は、明治2(1869)年に版籍奉還、明治4(1871)年に社寺上地(しゃじじょうち)を行い、これにより藩有林、社寺有林が明治政府に編入され、国有林が成立しました。また、明治9(1876)年から林野の官民有区分(*1)を実施し、我が国の森林についての近代的所有権の確立を進めましたが、当初は、森林の保全については十分な対策が講じられませんでした。その後、明治30(1897)年には「森林法(*2)」を制定し、保安林制度の創設等によって、本格的に森林の伐採が規制されるようになりました。

また、明治32(1899)年には「国有林野法」等を制定し、「国有林野特別経営事業」により、無立木状態の荒廃地への植栽等が積極的に行われるとともに、大正4(1915)年には「保護林設定ニ関スル件」が通達され、大正8(1919)年の「史跡名勝天然記念物保存法」や昭和6(1931)年の「国立公園法」の制定に先駆け、日本の貴重な森林植生の保護・管理を図る取組も始まりました。この頃の国有林は農林省山林局所管の国有林、宮内省帝室林野局所管の御料林及び内務省北海道庁所管の国有林に分かれており、この状況は昭和22(1947)年の林政統一(*3)まで続きました。


(*1)山林原野等官民所有区分処分方法(明治9年1月29日地租改正事務局議定)

(*2)当時の「森林法」は、「総則」、「営林ノ監督」、「保安林」、「森林警察」、「罰則」、「雑則」の6章から成っていた。「営林ノ監督」では、荒廃のおそれ等があるとき営林の方法を指定することができる旨規定し、「保安林」では、9種類の保安林を規定した。「森林警察」では、素材生産業者等に、林産物に使用する記号印章の所轄警察署への届出義務等を規定した。

(*3)宮内省所管の御料林と内務省所管の北海道国有林が農林省に移管され、林野庁が「国有林野事業」として一元的に管理経営することとなったこと。「国有林野事業」は「国有林野事業特別会計法」に基づき実施されてきた。



(明治期から戦前における森林・林業・木材産業の位置付け)

我が国では、古来、森林資源を建築用材、薪炭等の燃料、農業用の肥料、家畜の餌等として利用してきました。江戸時代を迎える頃になると、森林伐採が盛んになり、森林資源の枯渇や災害の発生が深刻化するなどにより、幕府や各藩によって森林を保全するための取組が行われるようになりました。

明治時代になると、近代産業の発展に伴って、工事の足場や杭、鉱山の坑木、電柱、枕木、梱包用材等、様々な工業用の用途にも木材が使われるようになりました。当時、鉄道用の枕木やマッチの軸木等は主要な輸出品目となっており、明治43(1909)年における輸出量は枕木約30万m3、マッチ用軸木約4,000トン、木炭約12,000トンとなる(*4)など、我が国の外貨獲得に貢献していました。また、クスノキから抽出される樟脳(しょうのう)は、当時重要な工業製品であったセルロイド(*5)の原料であり、木材由来の工業用品として、盛んに生産され、輸出もされていました。

この間、木材の伐採量については、明治末期から大正時代にかけて5,000万m3から8,000万m3程度に増加しましたが、昭和初期には5,000万m3程度に減少するとともに、荒廃地の復旧や森林再生の取組も進められました。しかしながら、昭和10年代に入ると、戦争の拡大に伴い、軍需物資として大量の木材が供給され、我が国の森林は著しく荒廃しました。


(*4)農商務省山林局「山林公報」

(*5)硝酸セルロースに樟脳を混ぜて熱し圧縮した熱可塑性の樹脂。燃えやすい。おもちゃ・文房具等に用いられた。



(戦後復興と資源の再造成)

終戦後には、主要な都市が戦災を受けた中で復興用資材が必要とされるとともに、その後の高度経済成長期においても、建築・建設用の資材や紙・パルプ用の原料として、大量の木材が必要とされました。この間の木材の伐採量は昭和30年頃には7,000万m3以上に上っており、特に国有林野事業では社会的要請に応える形で多くの木材を供給しました。また、旺盛な木材需要に応えるため、木材輸入の自由化も進められました。この間は、森林の伐採を進める一方で、人工林の造成も進められ、昭和30年代を通じて、拡大造林(*6)を含めた人工造林は毎年約40万haにも上りました。当時は、伐倒作業にはチェーンソーが使われていたものの、苗木の運搬、植付、下刈り等の保育といった一連の作業は当然ながら人力で行われており、先人たちの果て無き努力がつぎ込まれてきました。


(*6)広葉樹林の伐採跡地等への針葉樹の植栽。



(林業の採算性悪化と森林の有する公益的機能への期待)

昭和50年代からは、円高の進行等により輸入材の価格下落に伴って国産材の材価も下落し、林業の採算性は悪化していきました。また、造成された人工林も、その多くが間伐等の保育作業を必要とする段階であり、主伐による収入が見込めない状況が長く続きました。これらの要因により、森林所有者の積極的な経営を行う意欲の低下等により手入れ不足に陥ってしまった森林が増加し、その公益的機能の発揮にも支障をきたすおそれが生じるようになりました。そうした状況にあって、平成13(2001)年には「林業基本法」を「森林・林業基本法(*7)」に改正し、当時の政策目標であった林業の発展に加えて、森林の多面的機能の持続的発揮を新たに政策目標として位置付け、必要な森林整備が果たされるよう努めてきました。また、国有林野事業についても採算性の悪化や自然保護運動の高まり等の国民の要請を踏まえ、平成10(1998)年に公益的機能を重視した管理経営への転換を行いました。さらに、平成25(2013)年には、こうした役割が民有林への貢献とともに確実に果たせるよう、それまでの企業特別会計から一般会計へと移行しました。


(*7)「森林・林業基本法」(昭和39年法律第161号)



林業が外貨獲得のための重要な産業であった明治時代、荒廃した森林の再生のみならず、今日に至る人工林の造成が進められた昭和時代、そして、林業の成長産業化が期待される現在、このような歴史的経緯も踏まえ、今後も我が国の森林が有する公益的機能と物質生産機能の持続的な発揮に向けて、森林・林業施策の推進に努めていく必要があります。


運材に用いられる修羅(しゅら)の様子(明治時代後期、高知県内)
運材に用いられる修羅(しゅら)の様子
(明治時代後期、高知県内)

6. 林業・木材産業関係者が天皇杯等を受賞

林業・木材産業の活性化に向けて、全国で様々な先進的取組がみられます。このうち、特に内容が優れていて、広く社会の賞賛に値するものについては、毎年、秋に開催される「農林水産祭」において、天皇杯等三賞が授与されています。ここでは、平成29(2017)年度の受賞者(林産部門)を紹介します。

天皇杯 出品財:技術・ほ場(苗(びょう)ほ) 林田 喜昭(はやしだ よしあき)氏 宮崎県児湯郡(こゆぐん)川南町(かわみなみちょう)

林田氏は、昭和55(1980)年に家業の林田農園を引き継ぎ、スギ挿し木苗を中心に、宮崎県の中でもトップクラスの規模となる、スギの挿し付け本数約37万本の規模で苗木生産を行っています。通常より小型の穂木(ほぎ)(*1)から苗木生産を可能とする技術の確立や、新たな育苗技術であるMスターコンテナ苗の実用化に向けたマニュアル作成等、育苗技術の高度化に取り組んでいます。こうした技術的工夫のほか、挿し穂の挿し付け時期を露地苗とコンテナ苗で分散させ、年間労務が平準化するよう調整するなどの経営的工夫も行うことで、優良苗木を大量かつ安定的に供給しています。


(*1)挿し木や接ぎ木に用いられる枝条。この場合は挿し穂として、生産される苗の原料となる。

内閣総理大臣賞 出品財:経営(林業経営) 森下 廣隆(もりした ひろたか)氏 静岡県浜松市(はままつし)

森下氏は28歳で所有山林164haの経営を引き継ぎ、間伐を主体とした長伐期施業(*1)により、柱用材や梁用材などの優良大径材を育成し、年間600m3程度伐採しています。経営目標として、森林と人間社会が有機的に調和し、健全な森林生態系を維持することのできる恒常的・永続的・安定的な森林経営を掲げ、地域の森林所有者と連携しながら、施業集約化と高密度路網の整備等による丸太生産の効率化を図るとともに、森林認証を取得するなど森林生態系に配慮した経営に取り組むことで、森林生態系に配慮した低コスト林業を実践しています。


(*1)通常の伐採年齢(40~50年程度)のおおむね2倍程度に相当する林齢(80~100年)で主伐を行う林業の施業。

日本農林漁業振興会会長賞 出品財:経営(林業経営) 東河内(ひがしごうち)生産森林組合(代表:長野 豊彦(ながの とよひこ)氏) 兵庫県宍粟市(しそうし)

東河内生産森林組合は、昭和46(1971)年に組合員199名、保有森林750ha(地区の38%の面積)として森林経営を開始し、森林資源の充実とともに平成19(2007)年より利用間伐を行い収益を上げています。路網整備に当たり、安価で長期間にわたって維持管理費用の低減が可能な「鉄鋼スラグ」を用いた簡易舗装工法に取り組むとともに、1年間の自然乾燥により含水率を落とすことで木材の高付加価値販売に取り組んでいます。森林経営の収益は、地域のイベント等の地域活動に活用されており、地域住民の山づくりによる収益が地域づくりに還元されています。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219