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第1部 第 VI 章 第1節 復興に向けた森林・林業・木材産業の取組(3)

(3)復興への木材の活用と森林・林業の貢献

(応急仮設住宅や災害公営住宅等での木材の活用)

東日本大震災では、地震発生直後には最大約47万人の避難者が発生し、平成29(2017)年9月14日時点でも約8万人が避難生活を余儀なくされている。平成29(2017)年9月1日時点の避難者等の入居先は、建設型の仮設住宅は約1.0万戸、借上型の仮設住宅は約1.2万戸となっており、応急仮設住宅への入居戸数は減少し、恒久住宅への移転が進められている(*16)。

応急仮設住宅(*17)については、被災地の各県が平成25(2013)年4月までに約5.4万戸を建設したが(*18)、被災3県(岩手県、宮城県及び福島県)では、この4分の1以上に当たる約1.5万戸が木造で建設された(*19)。

「一般社団法人全国木造建設事業協会」では、東日本大震災における木造応急仮設住宅の供給実績と評価を踏まえて、大規模災害が発生した場合に、木造の応急仮設住宅を速やかに供給する体制を構築するため、各都道府県との災害協定の締結を進めている。同協会では、平成29(2017)年12月までに、29都道府県(*20)と災害協定を締結している。

また、災害時の木材供給について、地元の森林組合や木材協会等と協定を結ぶ地方公共団体もみられる。

一方、災害公営住宅(*21)については、平成29(2017)年9月末時点で、被災3県において約30,000戸の計画戸数が見込まれている。「東日本大震災からの復興の基本方針」では、「津波の危険性がない地域では、災害公営住宅等の木造での整備を促進する」とされており、構造が判明している計画戸数約29,700戸のうち、約8,800戸が木造で建設される予定である。平成29(2017)年9月末時点で、約26,500戸の災害公営住宅が完成しており、このうち約7,400戸が木造で建設されている(資料 VI -3、事例 VI -2)。

事例 VI -2 CLTパネル工法による復興公営住宅が完成

平成30(2018)年2月、福島県いわき市常磐下湯長谷(じょうばんしもゆながや)地区に、CLTパネル工法(注1)による復興公営住宅(注2)が完成し、同3月に入居を開始した。同工法によるものとしては国内最大規模の3階建ての共同住宅であり、燃えしろ設計により1時間準耐火構造とした。今回完成した2棟の延べ面積は4,419m2で、2,295m3のCLTを含む合計2,512m3の木材を使用している。

同住宅は、大工・工務店などの民間事業者が建設した住宅を県が買い取る「福島県買取型復興公営住宅整備事業」により迅速かつ円滑な整備を図るとともに、同工法を採用することで、CLTの普及促進や施工ノウハウの蓄積を図っている。また、建設については、福島県内の建設会社など7社により構成される「ふくしまCLT木造建築研究会」が担った。

CLTパネル工法の採用により、一般的な鉄筋コンクリート住宅の6割程度にまで工期が短縮されており、早期の住宅供給に貢献した。また、CLTのもつ断熱性等の特性により、快適な居住環境を実現している。


注1:耐力壁など構造上主要な部分にCLTを用いる建築工法。

2:原子力災害により故郷を離れて暮らす被災者の生活基盤となる住宅として福島県が整備する災害公営住宅。

資料:平成29(2017)年12月15日付け河北新報ニュース


クレーンによるCLT壁パネルの据付け
クレーンによるCLT壁パネルの据付け

CLTパネル工法により建設された復興公営住宅
CLTパネル工法により建設された
復興公営住宅

また、被災者の住宅再建を支援する取組も行われている。平成24(2012)年2月には、被災3県の林業・木材産業関係者、建築設計事務所、大工・工務店等の関係団体により、「地域型復興住宅推進協議会」が設立された。同協議会に所属する住宅生産者グループは、住宅を再建する被災者に対して、地域ごとに築いているネットワークを活かし、地域の木材等を活用し、良質で被災者が取得可能な価格の住宅を「地域型復興住宅」として提案し、供給している(*22)。

このほか、非住宅建築物や土木分野の復旧・復興事業でも地域の木材が活用されている(*23)(事例 VI -3)。

事例 VI -3 復興拠点施設を木造で整備

岩手県大槌町(おおつちちょう)は、平成30(2018)年2月に、町の中心地域である御社地(おしゃち)地域に、東日本大震災前に同地域にあった「御社地ふれあいセンター」「大槌町立図書館」等の機能を集約した「大槌町文化交流センター」(愛称:おしゃっち)を建設した。新施設は、木造3階建ての図書館を含む複合施設で、延べ面積は約2,200m2となっている。設計については、ワークショップ等を通じて町民の意見、要望が反映されているほか、1階に多目的ホールとエントランスホール、2階に音楽部門と会議部門、3階に図書部門が主に配置され、階ごとの用途が明確化されている。

3階に図書館を配した木造建築物については、避難上の安全を確保するため、平成27(2015)年6月に改正建築基準法が施行されるまでは「耐火建築物」としなければならなかったが、同法の施行により、一定の延焼防止措置を講じた「1時間準耐火構造の建築物」とすることが可能となり、木造での整備が容易になった。新施設はこれを受けて燃えしろ設計による準耐火構造で建設されたもので、スギは町産材、その他のカラマツ等は約半数で県産材を使用し、木の香りがあふれる親しみやすい空間を創出した。

3階の図書館においては柱から樹状にアーチを架けていく「樹状方杖架構」を、公園に面する正面側においては連続する「門型アーチ架構」を用いるなど、複雑な架構で支え合う構造とし、「一人ひとりが手を取り合って支えよう~わたしたちの井戸端~」というコンセプトを表現している。


資料:大槌町「広報おおつち」平成29(2017)年2月号: 8-9.、平成29(2017)年10月13日付け日刊木材新聞1面、平成29(2017)年11月23日付け日刊木材新聞4面


正面側の連続門型アーチ架構
正面側の連続門型アーチ架構
図書館の樹状方杖架構
図書館の樹状方杖架構

(*16)復興庁「東日本大震災からの復興の状況に関する報告」(平成29(2017)年11月)

(*17)「災害救助法」(昭和22年法律第118号)第4条第1項第1号に基づき、住家が全壊、全焼又は流失し、居住する住家がない者であって、自らの資力では住家を得ることができないものに供与するもの。

(*18)国土交通省ホームページ「応急仮設住宅関連情報」

(*19)国土交通省調べ(平成25(2013)年5月16日現在)。

(*20)協定締結順に、徳島県、高知県、宮崎県、愛知県、埼玉県、岐阜県、長野県、愛媛県、秋田県、静岡県、広島県、東京都、香川県、神奈川県、三重県、大分県、千葉県、滋賀県、富山県、青森県、山梨県、熊本県、山口県、兵庫県、佐賀県、山形県、京都府、北海道及び茨城県。

(*21)災害により住宅を滅失した者に対し、地方公共団体が整備する公営住宅。

(*22)地域型復興住宅推進協議会ほか「地域型復興住宅」(平成24(2012)年3月)。地域型復興住宅の供給とマッチングの取組については、「平成27年度森林及び林業の動向」196ページを参照。

(*23)土木分野での木材利用については、第IV章(177ページ)、土木分野の復旧・復興事業での木材利用については、「平成25年度森林及び林業の動向」45ページを参照。



(木質系災害廃棄物の有効活用)

東日本大震災では、地震と津波により、多くの建築物や構造物が破壊され、コンクリートくず、木くず、金属くず等の災害廃棄物(がれき)が、13道県239市町村で約2,000万トン発生した(*24)。このうち、木くずの量は、約135万トンであった。これらの災害廃棄物は、平成27(2015)年3月末時点で99%が処理され、福島県の2市町を除く12道県237市町村において処理が完了した(*25)。

木くずについては、平成23(2011)年5月に環境省が策定した「東日本大震災に係る災害廃棄物の処理指針(マスタープラン)」では、木質ボード、ボイラー燃料、発電等に利用することが期待できるとされ、各地の木質ボード工場や木質バイオマス発電施設で利用された。


(*24)福島県の避難区域を除く。

(*25)環境省ホームページ「災害廃棄物対策情報サイト」



(木質バイオマスエネルギー供給体制を整備)

「東日本大震災からの復興の基本方針」では、木質系災害廃棄物を活用したエネルギーによる熱電併給を推進するとともに、将来的には、未利用間伐材等の木質資源によるエネルギー供給に移行するとされるなど、木質バイオマスを含む再生可能エネルギーの導入促進が掲げられた。

また、平成24(2012)年7月に閣議決定された「福島復興再生基本方針」では、目標の一つとして、再生可能エネルギー産業等の創出による地域経済の再生が位置付けられた。このほか、「岩手県東日本大震災津波復興計画」や「宮城県震災復興計画」においても、木質バイオマスの活用が復興に向けた取組の一つとして位置付けられている。

これらを受けて、各地で木質バイオマス関連施設が稼動している(*26)。


(*26)木質バイオマスのエネルギー利用については、第IV章(178-182ページ)を参照。



(復興への森林・林業・木材産業の貢献)

「「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針」では、被災地は、震災以前から、人口減少や産業空洞化といった全国の地域にも共通する課題を抱えており、眠っている地域資源の発掘・活用や創造的な産業復興、地域のコミュニティ形成の取組等も通じて、「新しい東北」の姿を創造するとされている。

これらの課題の解決に向けては、林業・木材産業分野でも、森林資源の活用を通じた復興に向けた取組が行われており(事例 VI -4)、平成25(2013)年度から平成27(2015)年度にかけて実施された復興庁の「「新しい東北」先導モデル事業」を通じた先導的な取組(*27)等も展開されてきた。また、「「新しい東北」復興ビジネスコンテスト」や「地域復興マッチング「結(ゆい)の場(ば)」」の開催等を通じ、被災地の産業復興に向けた取組が広がっている(*28)。

事例 VI -4 復興に向けた森林認証の活用

町有林での施業の様子
町有林での施業の様子

福島県古殿町(ふるどのまち)は、平成29(2017)年3月に、町有林約25haに対する森林認証(注1)を取得した。同町はこれまで、町産スギ材の強度調査や、東京都港区との協定に基づく「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度(注2)」等を通じて、「古殿杉」のブランド化や販路の拡大、地球温暖化対策への貢献等に積極的に取り組んできた。これまでの取組に加え、町有林に対する森林認証を取得することにより、自然環境への配慮や、合法伐採木材の流通及び利用の動き(注3)への対応、森林施業における安全の確保等を更に進めていくことを目指している。

また、同町では、町有林以外の森林の所有者や木材産業関係者に対しても森林認証への参画を働き掛けるとともに、引き続き他の自治体等とも協力しながら、認証材の需要の拡大に取り組んでいる。これらの取組により、雇用の創出や就業の安定を通じた地域の発展、木材の安定供給を通じた木材産業の発展など、復興への森林・林業・木材産業の貢献が期待される。


注1:森林認証については、第 II 章(75-77ページ)を参照。

2:「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」について詳しくは、「平成23年度森林及び林業の動向」の61ページを参照。

3:合法伐採木材の流通及び利用の促進については、第 IV 章(137-140ページ)を参照。

資料:古殿町SGEC-FM認証森林管理方針書(平成30(2018)年1月改定)


(*27)詳しくは、「平成27年度森林及び林業の動向」197ページを参照。

(*28)「地域復興マッチング「結(ゆい)の場(ば)」」について詳しくは、「平成28年度森林及び林業の動向」208ページを参照。「「新しい東北」復興ビジネスコンテスト」について詳しくは、「平成27年度森林及び林業の動向」197ページを参照。



コラム 林業との関わりを通じた「鉄と魚とラグビーのまち」釜石の復興

平成27(2015)年7月、岩手県釜石(かまいし)市の「橋野(はしの)鉄鉱山」を含む「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」が世界文化遺産に登録された(注1)。周辺に広がる森林は、製鉄の原料となる鉄鉱石や高炉の燃料となる木炭の生産地として、明治期の我が国の近代国家づくりを支えた。高炉場跡(構成資産)や周辺景観が、貴重な観光資源として復興に貢献することが期待されている。

近代製鉄の黎明に際しても森林・林業が貢献していた一方で、平成28(2016)年からは、地域材と市内で加工した鉄を組み合わせた家具「mori-to-tetsu」(森と鉄)のプロジェクトが、釜石地方森林組合(注2)によって進められている。市内の建築家がデザインし、木と鉄の加工・組立ても地域内で完結させており、「鉄のまち」釜石の歴史と資源を伝える取組となっている。

同森林組合は、復興に向けた多くの取組の中で、住宅資材のほか、養殖筏(いかだ)の資材に向けた木材の供給も行ってきた。平成29(2017)年12月には、同5月に同市内の半島部で発生した林野火災を受けて「豊かな森と豊かな海をつなぐシンポジウム~林野火災の森林復旧に向けて~」を岩手県等と共に主催するなど、「魚のまち」釜石の豊かな森と海を次世代につないでいくための取組を行っている。

平成31(2019)年には、ラグビーワールドカップ日本大会のうち2試合が市内の新スタジアムにおいて開催される。このスタジアムでは、同森林組合の働き掛けもあり、ベンチの一部などで間伐材が利用される見通しとなっており、「ラグビーのまち」釜石の住民や子供たちが地域の豊富な森林資源を身近に感じることへの期待が込められている。

同森林組合は、このほかにも、外国企業の支援を受けた林業スクールの開講を通じた次世代の地域リーダーの育成や、森林体験プログラムの事業化等にも取り組んできた。平成29(2017)年11月には、これらの森林を活用した震災復興と地域貢献の取組が評価され、「ディスカバー農山漁村(むら)の宝(注3)」(第4回選定)の特別賞(プロデュース賞)に選定された。

このような、被災地の自立につながり地方創生のモデルとなる復興の取組が、今後も森林・林業・木材産業によって実現されることが期待されている。


注1:世界遺産等に登録されている我が国の森林について詳しくは、第 II 章(62-64ページ)を参照。

2:同森林組合の被災からの事業再開に向けた取組については、「平成24年度森林及び林業の動向」46ページを参照。

3:詳しくは第 III 章(119-120ページ)を参照。

資料:東北森林管理局ホームページ「明治日本の産業革命遺産に係る世界遺産委員会諮問機関による評価結果及び勧告について」、林野庁「RINYA」平成29(2017)年2月号: 3-9.、農林水産省プレスリリース「「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」(第4回選定)のグランプリ及び特別賞の選定結果について」(平成29(2017)年11月22日付け)


橋野鉄鉱山の遠景
橋野鉄鉱山の遠景
 「mori-to-tetsu」(森と鉄)
「mori-to-tetsu」(森と鉄)


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