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第1部 第 II 章 第3節 森林保全の動向(4)

(4)森林被害対策の推進

(野生鳥獣による被害の状況)

近年、野生鳥獣による森林被害面積は減少傾向にあるものの、野生鳥獣の生息域の拡大等を背景として、シカ等の野生鳥獣による森林被害は依然として深刻な状況にある。平成28(2016)年度の野生鳥獣による森林被害面積は、全国で約7千haとなっており、このうち、シカによる被害が約8割を占めている(資料 II -23)。


シカによる被害として、造林地の植栽木の枝葉や樹皮が被食されることにより、生長の阻害や枯死等が発生しているほか、立木の樹皮が剥がされることにより、立木の枯損(こそん)や木材としての価値の低下等が発生している。

シカによる被害が深刻となっている背景として、個体数の増加や分布域の拡大が挙げられる。平成29(2017)年8月に公表された環境省によるシカの個体数の推定結果によると、平成27(2015)年度末の北海道を除くシカの個体数(*83)の推定値(中央値)は約304万頭となっており(*84)、平成25(2013)年度末との比較で初めて減少に転じている可能性が明らかになったものの、平成27(2015)年度の捕獲率を維持した場合、2023年度の個体数(中央値)は約359万頭まで増加すると予測されている(*85)。また、シカの分布域は、昭和53(1978)年度から平成26(2014)年度までの36年間で約2.5倍に、直近の平成23(2011)年度から平成26(2014)年度までの3年間では約1.2倍に拡大しており、全国的に分布域の拡大傾向が続いている。特に北海道・東北地方や北陸地方において急速に拡大している(*86)(資料 II -24)。また、環境省が作成した密度分布図によると、関東山地から八ヶ岳(やつがたけ)、南アルプスにかけての地域や近畿北部、九州で生息密度が高い状態であると推定されている(*87)。

資料II-24 ニホンジカ分布域

シカの密度が著しく高い地域の森林では、シカの食害によって、シカの口が届く高さ約2m以下の枝葉や下層植生がほとんど消失している場合や、シカの食害を受けにくい植物のみが生育している場合があり(*88)、このような被害箇所では、下層植生の消失や単一化、踏み付けによる土壌流出等により、森林の有する多面的機能への影響が懸念されている。

その他の野生鳥獣による被害としては、ノネズミは、植栽木の樹皮及び地下の根の食害により、植栽木を枯死させることがあり、特に北海道におけるエゾヤチネズミは、数年おきに大発生し、大きな被害を引き起こしている。クマは、立木の樹皮を剥ぐことにより、立木の枯損(こそん)や木材としての価値の低下等の被害を引き起こしている。


(*83)北海道については、北海道庁が独自に個体数を推定しており、平成27(2015)年度において約49~55万頭と推定。

(*84)推定値には、266~352万頭(50%信用区間)、224~456万頭(90%信用区間)といった幅がある。信用区間とは、それぞれの確率で真の値が含まれる範囲を指す。

(*85)環境省プレスリリース「全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果について(平成29年度)」(平成29(2017)年8月31日付け)

(*86)環境省プレスリリース「改正鳥獣法に基づく指定管理鳥獣捕獲等事業の推進に向けたニホンジカ及びイノシシの生息状況等緊急調査事業の結果について」(平成27(2015)年4月28日付け)

(*87)環境省プレスリリース「改正鳥獣法に基づく指定管理鳥獣捕獲等事業の推進に向けた全国のニホンジカの密度分布図の作成について」(平成27(2015)年10月9日付け)

(*88)農林水産省(2007)野生鳥獣被害防止マニュアル -イノシシ、シカ、サル(実践編)-:40-41.



(野生鳥獣被害対策を実施)

野生鳥獣による森林被害対策として、被害の防除のため、森林へのシカ等の野生鳥獣の侵入を防ぐ防護柵や、立木を剥皮被害から守る防護テープ、苗木を食害から守る食害防止チューブ(*89)の設置等のほか、新たな防除技術の開発等が行われている(*90)。

このような中で、林野庁では、森林整備事業により、森林所有者等による間伐等の施業と一体となった防護柵等の被害防止施設の整備等に対して支援を行っている。

また、被害をもたらす野生鳥獣を適正な頭数に管理する個体群管理のため、各地域の国有林、地方公共団体、鳥獣被害対策協議会等によりシカ等の計画的な捕獲や捕獲技術者の養成等が行われているほか、わなや銃器による捕獲等についての技術開発も進められている(*91)(事例 II -7)。

平成25(2013)年12月には、環境省と農林水産省が「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を取りまとめ、捕獲目標を設定(ニホンジカ、イノシシについて、2023年度までに個体数を半減(*92))するとともに、その達成に向けた捕獲事業の強化、捕獲事業従事者の育成・確保等を推進することとした。シカ、イノシシの捕獲頭数は増加傾向にあり、平成27(2015)年には、シカ58万頭、イノシシ55万頭が捕獲されている(*93)。

平成28(2016)年には、「森林法」が改正され、「市町村森林整備計画」等において、鳥獣害を防止するための措置を実施すべき森林の区域(鳥獣害防止森林区域)を設定し、区域を明確にした上で鳥獣害防止対策を推進することとされた。

このような中で、林野庁では、森林整備事業において、野生鳥獣の食害等により被害を受けている森林を対象に、囲いわな等による鳥獣の誘引捕獲に対して支援を行っている。また、被害が深刻な地域において、必要なノウハウの蓄積や捕獲体制の整備等のため、モデル的に捕獲等を実施する取組を行っている(資料 II -25)。

資料II-25 囲いわなによるシカの捕獲

また、国有林及び周辺地域における農林業被害の軽減・防止へ貢献するため、森林管理署等が実施するGPSや自動撮影カメラ等によるシカの生息・分布状況調査の結果を地域の協議会に提供し、共有を図るとともに、国有林においても、野生鳥獣被害対策として、関係者等と連携しながら効果的な手法の実証、防護柵の設置、被害箇所の回復措置、シカの捕獲等に取り組んでいる(*94)。

また、農林水産省においては、平成28(2016)年の「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(*95)」の一部改正を受け、捕獲した鳥獣の食品(ジビエ)としての利活用推進等に取り組んでいる。

このほか、野生鳥獣の生息環境管理の取組として、例えば、農業被害がある地域においては、イノシシ等が出没しにくい環境(緩衝帯)をつくるため、林縁部の藪(やぶ)の刈り払い、農地に隣接した森林の間伐等を行うとともに、地域や野生鳥獣の特性に応じて針広混交林や広葉樹林を育成し生息環境を整備するなど、野生鳥獣との棲(す)み分けを図る取組が行われている。

事例 II -7 スマートフォン等で簡単にシカの目撃情報等の提供ができるシステムを開発

国立研究開発法人森林整備・研究機構森林総合研究所は、愛知県森林・林業技術センター、国産GISメーカーの株式会社マップクエストと共同で、同センターが愛知県内で運用してきた関係職員や市民からシカの目撃や被害の情報を集めるシステムを発展させ、スマートフォン等で簡単にシカの目撃情報等の提供ができるシステム「シカ情報マップ」を開発した。

同システムは、シカの出没や植栽木の食害を見かけた際に、スマートフォン等により「シカ情報マップ」のウェブページにアクセスしてその情報を入力し、地図上に表示するシステムで、森林・林業の関係者にとどまらず、誰でもその情報提供が可能となっている。また、全国の情報の入力・閲覧が可能であることから、各地における目撃や被害の情報収集が進めば、隣接する地方公共団体の状況を把握することも可能となっている。

同システムにより収集した多くの情報は、全国的なシカの分布拡大や被害の将来予測、地域的な出現予測を行うアプリの基礎データとして活用されるほか、効率的なわな設置場所の検討等に利用することもできる。このため、同システムは、GISを活用してシカの分布拡大問題に取り組む住民ネットワークの創出を促すものと期待される。

シカ情報マップのウェブページ
シカ情報マップのウェブページ
目撃情報、被害情報の確認が可能
目撃情報、被害情報の確認が可能

(*89)植栽木をポリエチレン製等のチューブで囲い込むことにより食害を防止する方法。

(*90)「平成28年度森林及び林業の動向」19ページを参照。

(*91)「平成28年度森林及び林業の動向」18-19ページを参照。

(*92)環境省プレスリリース「全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果について(平成29年度)」(平成29(2017)年8月31日付け)によると、ニホンジカについて、2023年度に平成23(2011)年度の個体数の中央値で半数以下にするためには、平成28(2016)年度以降に平成27(2015)年度の捕獲率(推定個体数に対する捕獲数の割合)の約1.9倍の捕獲を続ける必要があると予測されている。

(*93)環境省調べ。シカの捕獲頭数は、北海道のエゾシカを含む数値。

(*94)国有林野での取組について詳しくは、第 V 章(192-193ページ)を参照。

(*95)「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」(平成19年法律第134号)



(「松くい虫被害」は我が国最大の森林病害虫被害)

「松くい虫被害」は、体長約1mmの「マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)」がマツノマダラカミキリ等に運ばれてマツ類の樹体内に侵入することにより、マツ類を枯死させる現象(マツ材線虫病)である(*96)。

我が国の松くい虫被害は、明治38(1905)年頃に長崎県で初めて発生し(*97)、その後、全国的に広がった。これまでに、北海道を除く46都府県で被害が確認されている。

松くい虫被害量(材積)は、昭和54(1979)年度の243万m3をピークに減少傾向にあり、平成28(2016)年度はピーク時の5分の1程度の約44万m3となったが、依然として我が国最大の森林病害虫被害となっている(*98)(資料 II -26)。

松くい虫被害の拡大を防止するため、林野庁では都府県と連携しながら、公益的機能の高いマツ林等を対象として、薬剤散布や樹幹注入等の予防対策と被害木の伐倒くん蒸等の駆除対策を併せて実施している。また、その周辺のマツ林等を対象として、公益的機能の高いマツ林への感染源を除去するなどの観点から、広葉樹等への樹種転換による保護樹林帯の造成等を実施している(*99)。地域によっては必要な予防対策を実施できなかったため急激に被害が拡大した例もあり、引き続き被害拡大防止対策が重要となっている。

全国的に松くい虫被害が広がる中、マツノザイセンチュウに対して抵抗性を有する品種の開発も進められてきた。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センターは、昭和53(1978)年度から、松くい虫被害の激害地で生き残ったマツの中から抵抗性候補木を選木して抵抗性を検定することにより、平成28(2016)年度までに429種の抵抗性品種を開発してきた(*100)。各府県では、これらの品種を用いた採種園が造成されており、平成27(2015)年度には、これら採種園から採取された種子から約193万本の抵抗性マツの苗木が生産された(*101)。

松くい虫被害木の処理については、伐倒木をチップ化する方法等もあり、被害木の有効活用の観点から、製紙用やバイオマス燃料用として利用されている例もみられる。


(*96)「松くい虫」は、「森林病害虫等防除法」(昭和25年法律第53号)により、「森林病害虫等」に指定されている。

(*97)矢野宗幹 (1913) 長崎県下松樹枯死原因調査. 山林公報, (4):付録1-14.

(*98)林野庁プレスリリース「「平成28年度森林病害虫被害量」について」(平成29(2017)年9月27日付け)

(*99)林野庁ホームページ「松くい虫被害」

(*100)林野庁研究指導課調べ。

(*101)林野庁整備課調べ。



(ナラ枯れ被害の状況)

「ナラ枯れ」は、体長5mm程度の甲虫である「カシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)」がナラやカシ類等の幹に侵入して、「ナラ菌(Raffaelea quercivora)」を樹体内に持ち込むことにより、ナラやカシ類の樹木を集団的に枯死させる現象(ブナ科樹木萎凋病)である(*102)。文献で確認できる最古のナラ枯れ被害は、昭和初期(1930年代)に発生した宮崎県と鹿児島県での被害である(*103)。ナラ枯れの被害量は、平成22(2010)年度の約33万m3をピークに減少しており、平成28(2016)年度はピーク時の4分の1程度の約8万m3となっているものの、前年度に比べて被害量が増加している地域もある。また、新たに青森県と長崎県で被害が確認され、平成28(2016)年度に被害が確認されたのは32府県となった(*104)(資料 II -27)。

ナラ枯れ被害の拡大を防止するためには、被害の発生を迅速に把握して、初期段階でカシノナガキクイムシの防除を行うことが重要である。このため林野庁では、被害木のくん蒸及び焼却による駆除、健全木への粘着剤の塗布やビニールシート被覆による侵入予防等を推進している。


(*102)カシノナガキクイムシを含むせん孔虫類は、「森林病害虫等防除法」により、「森林病害虫等」に指定されている。

(*103)伊藤進一郎, 山田利博 (1998) ナラ類集団枯損被害の分布と拡大(表-1). 日本林学会誌, Vol.80:229-232.

(*104)林野庁プレスリリース「「平成28年度森林病害虫被害量」について」(平成29(2017)年9月27日付け)



(林野火災は減少傾向)

林野火災の発生件数は、短期的な増減はあるものの、長期的には減少傾向で推移している。平成28(2016)年における林野火災の発生件数は1,027件、焼損面積は約384haであった(資料 II -28)。

一般に、林野火災は、冬から春までに集中して発生しており、ほとんどは不注意な火の取扱い等の人為的な原因によるものである。林野庁は、昭和44(1969)年度から、入山者が増加する春を中心に、消防庁と連携して「全国山火事予防運動」を行っている。同運動では、入山者や森林所有者等の防火意識を高めるため、都道府県や市町村等へ、全国から募集し選定された山火事予防運動ポスターの配布等を通じ、普及啓発活動が行われている(*105)。


(*105)林野庁プレスリリース「平成30年全国山火事予防運動の実施について」(平成30(2018)年2月19日付け)



(森林保険制度)

森林保険は、森林所有者を被保険者として、火災、気象災及び噴火災により森林に発生した損害を塡補する総合的な保険である。森林所有者自らが災害に備える唯一のセーフティネットであるとともに、林業経営の安定と被災後の再造林の促進に必要不可欠な制度である。

本制度は、平成26(2014)年度までは「森林国営保険」として国自らが森林保険特別会計を設置して運営してきたが、平成27(2015)年度から国立研究開発法人森林研究・整備機構(*106)が実施している(*107)。

森林保険制度に基づく保険金支払総額は、平成28(2016)年度には7億円であった(資料 II -29)。


(*106)移管された平成27(2015)年4月1日時点は、国立研究開発法人森林総合研究所。

(*107)森林国営保険の移管について詳しくは、「平成26年度森林及び林業の動向」の80ページを参照。




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