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林野庁

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第1部 第 I 章 第4節 新たな森林管理システムの構築に向けた川上と川下の連携

新たな森林管理システムの構築に向けては、川上側で森林の経営管理の集積・集約化を図るだけではなく、木材の需要側である川下側との連携を図ることが不可欠である。以下では、生産流通構造改革として川上から川下までの連携を進めることについて、川上から川下までを通じたサプライチェーンの再構築や新たな担い手による林業への参入、今後の需要のターゲットである非住宅分野への需要拡大に必要な品質・性能の確かな製品の供給等に触れながら記述する。


(世界の丸太の需給動向と国産材の可能性)

世界の丸太の需給動向をみると、丸太の大部分を輸入している中国は、10年前は世界中の丸太輸入量の約25%を占めていたが、現在では約38%を占めるほどに増加している。また、ロシアによる丸太輸出税の引上げや、東南アジア各国による伐採規制の強化など、丸太の供給を抑制する動きもあり、10年前に比べて全世界の丸太輸出量は約6%程度減少している。

こうした世界的な情勢の中、我が国は利用期に達した多くの人工林資源を有している。このため、川上から川下までの連携を図り、こうした人工林資源を有効に活用することで、世界の丸太需給の影響を極力受けることなく、木材加工や更にその下流の分野にまでつながる林業の成長産業化の実現につなげていくことが求められる。


(川上と川下の連携の必要性)

木材の需給動向をみると、我が国の木材需要量は昭和48(1973)年をピークに長期的には減少傾向で推移してきた(*84)。今後、急速な高齢化と人口減少が進むと推計されていることから、木材需要の大幅な増加を見込むことが困難な情勢にある中で、国産材供給力の拡大期を迎えるため、そのミスマッチの解消が必要となる。

また、木材供給量の多くは輸入製品で賄われており、国産材由来の木材製品は、輸入製品との厳しい価格競争にさらされている。

木材関連産業は、伐採、運搬、木材加工にとどまらない、家具の製造・販売、住宅建築などの裾野の広い産業である。林業と木材関連産業の連携がより一層図られていけば、林業は、地域経済の重要な柱になり得るものである。

こうしたことから、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立を進める上で、森林所有者と林業経営者、木材加工業者、流通業者、木材の需要者といった川上から川下に至る多様な主体の連携を図っていくことが有効である(*85)。


(*84)林野庁「木材需給表」

(*85)規制改革推進会議農林ワーキング・グループ「林業の成長産業化と森林資源の適切な管理のための提言」(平成29(2017)年11月6日)



(川上と川下をめぐる現状)

林業と木材関連産業には、様々な主体が関わっている。川上に位置する者としては、森林所有者や、実際の森林管理方針を策定して丸太生産や造林・保育といった施業を行う林業経営者が存在しており、それぞれの役割を重複して担う者が存在する一方で、森林の経営管理に関する方針を作成する者が不在である場合などがある。川中に位置する者としては、原木市場等の丸太の流通に関わる業者や、製材、単板・合板、チップ等の加工業者、製品市場・木材問屋等の木材製品の流通や需要者への販売に関わる業者、製材品等にプレカット加工を施すプレカット事業者等が存在している。川下に位置する者としては、工務店・住宅メーカー等の需要者が存在している。また、丸太から製品まで幅広い木材取引に関与する商社や、森林所有者でありながら川中の製材工場や工務店・住宅メーカーである者など、川上から川下に至る複数の立場を有している者も存在する。


(サプライチェーンの再構築)

川上側の林業と川中・川下側の木材関連産業の連携強化を進め、流通コストの削減や木材需要の拡大を図るためには、(ア)川上から川下までを網羅し、かつ長期・大ロットでの事業展開が可能な事業者を軸とした、マーケットインの発想に基づくサプライチェーンの再構築の促進、(イ)情報通信技術(ICT)の利活用を徹底することによる森林調査や施業に関する計画立案の高度化、市場情報のサプライチェーンを通じた共有による作業効率や付加価値の抜本的向上、(ウ)サプライチェーンに携わる多様な担い手や消費者が、森林の機能、成長段階、利用状況等を把握、理解できるような情報の整理、集約が図られるようにすることも必要である(*86)。

川上側の取組としては、航空レーザ計測データ等を用いることにより、人工林資源の蓄積量だけではなく、それぞれの単木に至るまでの位置情報や地形データ等を事前に把握することで、現地調査の負担を軽減し、効率的に木材生産計画や路網整備計画を作成することも可能である。さらに、ハーベスタ等の高性能林業機械の採材等を行うアタッチメント部にセンサーを取り付けることで、生産された材の長さや径、曲がりなどの情報を取得することもできる。こういった情報を情報通信技術(ICT)を用いて、川下側の木材需要に関する情報と関連付けることができれば、木材生産・流通の効率化につながる可能性がある(*87)。

このように、新たな技術を活用した情報の共有化を図りながら、製材業者と木材需要者の連携の在り方や、それらの間に介在している、原木・製品市場や木材問屋、商社など様々な主体の関わり方について検討を加え、流通コストの削減に向けた取組を進めていく必要がある。


(*86)規制改革推進会議農林ワーキング・グループ「林業の成長産業化と森林資源の適切な管理のための提言」(平成29(2017)年11月6日)

(*87)情報通信技術(ICT)を用いた林業経営の効率化の取組については、第 III 章(100-101ページ)を参照。



(新たな担い手による林業への参入)

製材工場や木材市場等による森林の購入や経営委託など、新たな担い手による林業への参入への動きがみえ始めている。これらの川中に位置する者が、川下に位置する需要者のニーズを的確に把握した上で、しっかりとした森林の管理方針を策定することは、まさにマーケットインの発想に基づくサプライチェーンの再構築につながる好事例といえる。

このように、川上の主要な関係者である森林組合との連携や加工・流通の合理化を図りつつ、高付加価値な木材市場を切り開くべく、市場に即応した林業経営への進出を行う加工事業者や、その逆の、市場を見据えた川下事業への展開を図る林業経営者など、林業の成長産業化に向けた担い手となるべき者に政策資源を重点化していくことが必要である(事例 I -4)。

事例 I -4 伊万里(いまり)木材市場の取組

株式会社伊万里木材市場は佐賀県伊万里市に本社を、福岡県、大分県、鹿児島県に営業所を持ち、約54万m3(平成28(2016)年)の原木(丸太)を取り扱う木材市場である。また、同社では、森林整備や原木の安定供給のためのサプライチェーンの構築など、川上から川下までの様々な事業に取り組んでいる。

同社では、ハウスメーカーが求める品質や性能の確かな製材品やツーバイフォー部材等の新たな需要にマッチした原木の供給力を高めるため、原木の取扱量を更に伸ばしていく目標を有している。このため、原木調達の強化を目的として、森林の管理経営を長期間受託する取組を開始している。

例えば、契約期間を40~50年とする「長期山づくり経営委託契約」を森林所有者と結び、森林の管理経営の実務を同社と協力素材生産業者が実施するなどしている。これは、契約期間中に間伐や主伐により生産された原木を同社が全量買い取り、この間の収益を育林の費用に積み立てた上で森林所有者に還元することにより、主伐・再造林を進めながら、安定的な原木の調達に加え、山元への収益の還元も行うことができる仕組みである。

伊万里木材市場本社
伊万里木材市場本社
経営委託を受けた森林の様子
経営委託を受けた森林の様子

(品質・性能の確かな製品供給)

間伐材等の小径材であっても合板の原料に利用できる技術の開発や、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の導入により木質バイオマスによる発電施設の整備が進んでいることなどから、近年B材(*88)、C材(*89)の需要は増加している。一方で、A材(*90)の需要については、既に我が国の人口は減少局面に入っており、主要な需要先である住宅の着工戸数の伸びは期待できない。さらには、品質・性能の面で信頼を得られている集成材が構造材として大きなシェアを占めており、製材の原料となるA材であっても、集成材・合板向けとしてB材並みの安価な価格で取引される傾向がある。このため、山元への収益還元の観点から、A材の需要拡大対策に取り組む必要がある(資料 I -13)。

A材を原料とする製材の新たな需要先として期待されるのは、現状では木造率が低位にとどまっている非住宅建築物であるが、こうした建築物は大規模であることが多く、設計時に厳密な構造計算が求められる。構造計算を行う際には、品質・性能の確かなJAS製品(*91)を用いることになるが、製材のJASの格付け率は非常に低位である(*92)。したがって、非住宅分野におけるA材の需要拡大のためには、JAS製材品を安定的に供給していく必要がある。


(*88)明確な定義や基準はないが、一般には、やや曲がりのある原木や間伐材等の小径木の丸太のことを指し、主に合板用に利用される。

(*89)明確な定義や基準はないが、一般には、枝条や曲がった原木のことを指し、主にチップ用に利用される。原木の買取価格は一般的には最も安い。

(*90)明確な定義や基準はないが、一般には、通直な原木のことを指し、主に製材用に利用される。原木の買取価格は一般的には最も高い。

(*91)「日本農林規格等に関する法律」(昭和25年法律第175号)(JAS法)に基づく登録認証機関から認証された者(認証事業者)による木材製品のこと。詳しくは、第 IV 章(148-149ページ)を参照。

(*92)JAS制度に基づく認証を取得した事業者の割合については、第 IV 章(148-149ページ)を参照。



(新たな仕組みに向けた検討)

平成29(2017)年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」において、「林業所得の向上のための林業の成長産業化の実現と森林資源の適切な管理のため新たな仕組みを検討し、年内に取りまとめること」とされた。その後、同11月には「規制改革推進に関する第2次答申」(規制改革推進会議)において、森林・林業改革として今後取り組むべき規制改革項目として「新たな森林管理システムに関する事項」が掲げられている。

これらを受けて、同12月には「農林水産業・地域の活力創造プラン」(農林水産業・地域の活力創造本部)が改訂され、「新たな森林管理システムの構築と木材の生産流通構造改革等」を位置付け、「林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立を図るため、市町村が林業経営の集積・集約化を行う新たな森林管理システムの構築に向けて、次期通常国会に関連法案を提出すること」とされている。

また、国有林については、林野庁において、民間事業者が長期・大ロットで伐採から販売までを一括して行う手法の提案募集・検証が進められており、その成果を活かした民間活力の更なる導入についての検討を開始することとされている。

川上から川下挿絵


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