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第1部 第 I 章 第3節 新たな森林管理システムの構築の方向性(3)

(3)森林の経営管理を集積していく上での条件整備

(ア)所有者不明森林への対応

(所有者不明森林の現状)

我が国の森林では、材価の下落等により森林から収益が得られず費用だけがかさんでいること等から、所有森林に対する関心も低下しており、相続に伴う所有権の移転登記がなされず、所有者不明森林も生じている。

平成28(2016)年度に地籍調査(*60)を実施した地区における土地の所有者等について国土交通省が集計した調査結果によると、不動産登記簿により所有者の所在が判明しなかった土地の割合は筆数ベースで全体の約20%であり、特に森林については、25%を超えている(資料 I -11)。

また、平成28(2016)年度末時点での地籍調査の進捗状況は宅地で54%、農用地で73%であるのに対して、森林では45%にとどまっている(*61)。

所有者不明森林では、適切な森林の経営管理がなされないばかりか、施業の集約化を行う際の障害となり、森林の経営管理を集積していく上での大きな課題となっている。


(*60)「国土調査法」(昭和26年法律第180号)に基づき、主に市町村が主体となって、一筆ごとの土地の所有者、地番、地目を調査し、境界の位置と面積を測量する調査。

(*61)国土交通省ホームページ「全国の地籍調査の実施状況」



(森林法上の所有者把握の取組)

森林所有者の特定については、平成23(2011)年の「森林法(*62)」の改正(*63)により、平成24(2012)年4月から、新たに森林の土地の所有者となった者に対して、市町村長への届出を義務付ける制度(*64)が開始され、それまでの「国土利用計画法(*65)」による届出(*66)に加えて、相続による異動や、1ha未満の小規模な森林の土地の所有者の異動も把握することを可能とした。また、平成28(2016)年5月の「森林法」の改正(*67)により、市町村が森林の土地の所有者、境界測量の実施状況等を記載した林地台帳を作成し、その内容の一部を公表する仕組み(*68)を設けている。林地台帳は平成30(2018)年度末までに整備することとされており、林地台帳の活用により、林業事業体等が施業の集約化に取り組む際に、森林所有者の所在を把握しやすくなることが期待されている。


(*62)「森林法」(昭和26年法律第249号)

(*63)「森林法等の一部を改正する法律」(平成23年法律第20号)

(*64)「森林法」第10条の7の2」

(*65)「国土利用計画法」(昭和49年法律第92号)

(*66)「国土利用計画法」第23条

(*67)「森林法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第44号)

(*68)「森林法」第191条の4から第191条の6まで



(所有者不明森林の整備等を行うための制度)

また、所有者不明森林における整備を進めるため、平成23(2011)年の「森林法」の改正により、早急に間伐を行うことが必要な森林について、森林所有者を確知することができない場合でも間伐の代行等が可能となるよう、都道府県知事の裁定により、間伐の対象となる立木に所有権を設定し、間伐等の施業の代行等を実施することを可能とした(要間伐森林制度)(*69)。

さらに、平成28(2016)年5月の同法の改正により、平成29(2017)年4月からは、共有林の所有者の一部が不明で共有者全員の同意が得られない場合に、都道府県知事の裁定手続等を経た上で、立木の持分の移転及び土地の使用権の設定を行い、伐採・造林を行うことを可能とした(共有者不確知森林制度)(*70)。

これらの制度は、都道府県知事の裁定により、立木の所有権の設定や、立木の持分の移転及び土地の使用権の設定を行うものであり、これまでは都道府県が慎重に運用を行っているために実績が上がっていないという課題が生じていることから、所有者不明森林において適切な森林の経営管理が行われるようにすることが求められている。このため、新たな森林管理システムにおいては、確知されている共有者が市町村に共有林の経営管理を委ねようとしている中で、共有者の一部が確知できない森林については、都道府県知事の裁定を要することなく、市町村に森林の経営管理を集約できるような仕組みにすることが必要である。また、所有者の全部が判明していない場合や、所有者が確知されている場合であっても森林の適切な経営管理に同意が得られない者が存在し、市町村への経営管理の集約が必要かつ適当と認められる場合には、都道府県知事の裁定手続等を経た上で森林の経営管理を集約できるような仕組みにすることが必要である。その際、確知されていなかった所有者や共有者が、後から市町村への経営管理の集約を取り消すことができる仕組みにすることも重要である。


(*69)「森林法」第10条の11の6

(*70)「森林法」第10条の12の2から第10条の12の8まで



(イ)境界不明森林への対応

我が国の私有林では、相続に伴う所有権の移転等により、森林の所在する市町村に居住し、又は事業所を置く者以外の者(不在村者)の保有する森林が増加している。不在村者の所有森林は私有林面積の約4分の1を占めており、そのうちの約4割は当該都道府県以外に居住する者等の保有となっている(*71)。

平成27(2015)年に農林水産省が実施した「森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」で、林業者モニター(*72)に対して森林の境界の明確化が進まない理由について聞いたところ、「相続等により森林は保有しているが、自分の山がどこかわからない人が多いから」、「市町村等による地籍調査が進まないから」、「高齢のため現地の立会ができないから」という回答が多かった(資料 I -12)。

このため、境界の明確化に向けた取組が所有者不明森林の所有者特定の取組とともに実施されており(*73)、森林の境界確認に空中写真と森林GISのデータを利用するなど、業務の効率化を図る取組も実施されている(事例 I -3)。

境界の明確化に向けた取組の一つとして地籍調査が行われているが、林地における実施面積の割合は平成28(2016)年度末時点で45%となっており、平成31(2019)年までに50%とすることが目標とされている。このような中で、林野庁と国土交通省は、森林境界明確化活動と地籍調査の成果を相互に活用するなど、連携しながら境界の明確化に取り組んでいる。

事例 I -3 境界の確認等におけるドローン(無人航空機)活用の取組

公益社団法人徳島森林(もり)づくり推進機構では、「儲(もう)かる林業のためのドローン技術による高精度森林情報整備事業」を実施している。同事業では、(ア)高齢者、不在村者等は現地での境界確認が困難、(イ)森林資源の把握と経済価値の判断が難しく、間伐等の手入れが遅れている森林が増加、(ウ)伐採後の確実な植林やシカ食害対策等の負担が大きい、(エ)森林は広域で急峻(しゅん)な地形が多く、調査や森林の見回りに多くの人員と時間が必要といった地域の課題解決のためにドローンの活用に取り組んでいる。

具体的には、ドローンでの空撮により林地の3次元データ等を取得し、既存のデータと組み合わせた図面の作成や、GPSを利用した自律飛行による情報収集等により、(ア)境界確認の効率化と林地の集約化の進展、(イ)手入れが遅れている森林の所有者への間伐等の働き掛け、(ウ)主伐の採算性の事前把握による確実な植林やシカ食害対策への対応、(エ)森林資源情報取得や定期的な森林監視の省力化につなげることとしている。

災害調査におけるドローン自律飛行の準備作業
災害調査における
ドローン自律飛行の準備作業
ドローンの空撮データから作成した3次元画像
ドローンの空撮データから
作成した3次元画像

(*71)農林水産省「2005年農林業センサス」なお、「2010年世界農林業センサス」以降この統計項目は削除された。

(*72)この調査での「林業者」は、「2010年世界農林業センサス」で把握された林業経営体の経営者。

(*73)境界の明確化の取組については、第 III 章(95-96ページ)を参照。



(ウ)路網整備の推進等

路網は、森林施業の効率的な実施のために必要不可欠なものであり、新たな森林管理システムにより効率的な森林の経営管理が行われる前提ともいえるものである。これまでも、路網作設に係る技術の蓄積や技術者の育成等を進め、路網整備の推進を図ってきたところであるが、「森林・林業基本計画」における林道等の望ましい延長の目安である33万kmに対して、同基本計画の策定時点の延長は19万kmにとどまっている。

このため、新たな森林管理システムにより、意欲と能力のある林業経営者へ森林の経営管理を集積・集約化させる地域に重点化して、路網整備の推進を図っていくことが必要である。

こうした路網の整備に当たっては、森林資源が充実した区域等において、路網ネットワークを形成するための基幹となる林道に加え、支線となる林業専用道(*74)や森林作業道(*75)をバランス良く配置することが重要である。

また、これと併せて、こうした林業経営者が行う間伐等が優先的に実施されるようにするとともに、この新たなシステムの構築が見込まれる地域を中心として、高性能林業機械(*76)の導入を重点的に推進するなど、こうした林業経営者の育成を支援していくことが必要である。さらに、「伐採と造林の一貫作業システム」の普及による効率的な再造林や、情報通信技術(ICT(*77))やドローン等の新技術の活用による施業の効率化を推進していくことも重要である。


(*74)普通自動車(10トン積程度のトラックに相当)や林業用車両の走行を想定。林業専用道について詳しくは、第 III 章(97ページ)を参照。

(*75)フォワーダ等の林業機械の走行を想定。森林作業道について詳しくは、第 III 章(97ページ)を参照。

(*76)高性能林業機械の導入状況については、第 III 章(98-99ページ)を参照。

(*77)「Information and Communication Technology」の略。



(エ)人材の育成

新たな森林管理システムを進める上では、森林の経営管理に長期的・広域的な視点に立って関わることのできる「森林総合監理士(フォレスター)」や、森林の経営管理の集積・集約化の実務を担うことが期待される「森林施業プランナー」の育成を図ることが重要となる。また、「森林総合監理士(フォレスター)」に関しては、技術水準の向上や、先進的な活動を普及させるためのネットワーク構築等の取組も必要となる。さらに、こうした者が森林そのものの取扱いだけに関わるのではなく、生産された丸太の流通等に関する知見も持ち、川上から川下までの連携を進めていく役割を担うことも期待される。

実際の森林の経営管理を担うこととなる林業経営者においては、「「緑の雇用」事業(*78)」等を活用して新規就業者の確保を図るほか、施業の効率化等を図りつつ長期間にわたって事業を行っていく観点から、高度な知識と技術・技能を有する林業労働者を安定的に育成(*79)することが必要となってくる。


(*78)「「緑の雇用」事業」について詳しくは、第 III 章(102ページ)を参照。

(*79)高度な知識と技術・技能を有する林業労働者の育成について詳しくは、第 III 章(103-105ページ)を参照。



(オ)市町村の体制の整備

新たな森林管理システムの下では、市町村が意欲と能力のある林業経営者に森林の経営管理を委ね、又は市町村自らが森林管理を行うことになる。一方で、1,000ha以上の私有人工林を有する市町村にあっても、専ら林務を担当する職員が0~1人程度の市町村が約4割を占める(*80)など、施策を展開するための体制が十分でない市町村も多い。

市町村が主体となった森林の経営管理の集積・集約化及び公的管理の事務を進めるためには、こうした体制の整備が必要であることから、国や都道府県による支援や、「森林総合監理士(フォレスター)」等の技術者の「地域林政アドバイザー(*81)」としての活用のほか、近隣市町村と協議会を構成し、共同実施に向けた連携等を進めていくことが重要である。また、「地方自治法(*82)」では市町村の求めに応じて、都道府県が事務の代替執行を行うことができるようになっているが、さらに、都道府県の発意により、市町村の同意を条件として、都道府県による事務の代替執行を行うことができるようにすることも必要である。


(*80)総務省「平成28年地方公共団体定員管理調査」

(*81)森林・林業に関して知識や経験を有する者を市町村が雇用することを通じて、森林・林業行政の体制支援を図る制度。平成29年度に創設され、市町村がこれに要する経費については、特別交付税の算定の対象となっている。

(*82)「地方自治法」(昭和22年法律第67号)



(カ)国有林野事業との連携

国有林野事業においては、その組織、技術力及び資源を活用し、林業の成長産業化に貢献することとしており(*83)、民有林における新たな森林管理システムが効率的に機能するよう、民有林と隣接する国有林における林道の相互接続や伐採木の協調出荷、林業の低コスト化に向けた技術普及など、民有林との連携をさらに強化する必要がある。

また、市町村が集積・集約した森林の管理を担うこととなる意欲と能力のある林業経営者に対する国有林野事業の受託機会の増大への配慮や、国有林野事業で把握している林業経営者の情報を都道府県や市町村に対して提供するなどの取組も進めていくことも重要である。


(*83)国有林野事業における林業の成長産業化への貢献については、第 V 章(194-199ページ)を参照。




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