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林野庁

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第1部 第 I 章 第1節 我が国の森林管理をめぐる課題(1)

我が国が有する約1,000万haの人工林は、その多くが主伐期を迎えるなど資源は充実している。一方で、人工林の成長量に比べて、丸太の供給量は必ずしも大きくはなく、資源の循環利用がなされているとは言い難い状況にある。以下においては、こうした我が国の森林管理をめぐる状況と課題や新たな森林管理システムを構築する必要性について、欧州の代表的な林業国であるオーストリアとの比較を通じて記述する。


(1)森林の多面的機能の発揮に向けた望ましい姿の実現に向けて

森林は樹木の根が土砂や岩石等を固定することで、土砂の崩壊を防ぐとともに、その表土が下草、低木等の植生や落葉落枝によって覆われることで、雨水等による土壌の浸食や流出を防ぐ機能を果たしている。間伐等の施業が適切に実施されることにより、樹木とその根が大きく太く成長し、光が差し込むことで様々な植物等が地表を覆い、山腹崩壊や土砂流出を防止する機能が向上する。逆に、森林の適正な管理が行われなければ、上流部の山地災害のみならず、下流部における洪水・浸水被害も増加し、都市部の住民も含めた国民の生命、財産が毀損される危険性が上昇する。

また、森林の樹木は、大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素として貯蔵する役割を果たしている。我が国が国際的に約束した温室効果ガスの削減目標は、人為的に適正に管理された森林が温室効果ガスを吸収する量を見込んだ上で設定されたものである。このため、仮に、適正な森林の管理が行われなければ、国際公約が守れなくなり、国際社会からの信認が低下するリスクにさらされることとなる。

一方で、戦後に積極的に造成された人工林は年々蓄積が増加しており、森林資源を有効活用することで、木材等生産機能を発揮することも大いに求められる時期を迎えている。

このような働きを始めとして、森林は、地球温暖化防止、災害防止・国土保全、水源涵(かん)養、木材等の物質生産等の多面的な機能を有しており、広く、国民一人一人に恩恵を与えている。さらに、森林はこれらの多面的機能を重複しながら同時に発揮しており、各種公益的機能の一層の発揮が求められる森林や、木材等生産機能の発揮が特に期待される森林など、その森林が置かれた各種の条件に応じた望ましい姿に誘導されるなどしながら健全な状態で維持されていかなければならない。

このためには、間伐を繰り返し実施するなど森林の適切な整備・保全を図ることはもちろん、経済的に活用できる森林については、主伐・再造林を実施することによって循環的に森林を利用し続けていくことが重要である。私有林の人工林(約670万ha)の約3分の1は既に集積・集約化し経営管理されているものと推計される。このため、今後はそれ以外の森林について、新たな仕組みの導入により経営管理の集積・集約を促進し、林業経営に適した森林(約3分の1)は意欲と能力のある林業経営者により林業的利用を継続し、林業経営に適さない森林(約3分の1)は、市町村の管理により自然に近い森林に誘導していくことが求められる。持続可能な森林の経営は国際社会全体においても共通の認識となっており、我が国においても積極的な林業経営により林業の成長産業化を実現するとともに、森林の有する公益的機能を将来に向けて持続的に発揮させていかなければならない。



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