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林野庁

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第1部 第 II 章 第3節 森林保全の動向(3)

(3)森林における生物多様性の保全

(生物多様性保全の取組を強化)

平成24(2012)年9月に閣議決定した「生物多様性国家戦略2012-2020」は、「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)(*81)」で採択された「戦略計画2011-2020(愛知目標)」の達成に向けた我が国のロードマップであり、平成32(2020)年度までの間に重点的に取り組むべき施策の大きな方向性として5つの基本戦略を掲げるとともに、我が国における国別目標や目標達成のための具体的施策を示している(資料 II -26)。

林野庁では、「生物多様性国家戦略2012-2020」を踏まえて、生物多様性の保全を含む森林の多面的機能を総合的かつ持続的に発揮させていくため、適切な間伐等の実施や多様な森林づくりを推進している。この中で、森林施業等の実施に際して生物多様性保全への配慮を推進するとともに、「森林・山村多面的機能発揮対策交付金(*82)」により、手入れをすることによって生物多様性が維持されてきた集落周辺の里山林について、地域の住民が協力して行う保全・整備の取組に対して支援している。また、国有林野においては、「保護林(*83)」や保護林を中心にネットワークを形成する「緑の回廊(*84)」の設定を通じて、原生的な森林生態系や希少な野生生物の生育・生息の場となっている森林を保護・管理している。さらに、全国土を対象とする森林生態系の多様性に関する定点観測調査、我が国における森林の生物多様性保全に関する取組の情報発信等に取り組んでいる。

このほか、農林水産省では、植樹等をきっかけに、生物多様性に関する理解が進展するよう、環境省や国土交通省と連携して、「グリーンウェイブ(*85)」への参加を広く国民に呼びかけており、平成28(2016)年には、国内各地で約3万人が参加した(*86)。


(*81)生物多様性に関する国際的な議論については、82-83ページを参照。

(*82)「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」については、第 III 章(123-124ページ)を参照。

(*83)保護林については、第 V 章(186ページ)を参照。

(*84)緑の回廊については、第 V 章(187ページ)を参照。

(*85)生物多様性条約事務局が提唱したもので、世界各国の青少年や子どもたちが「国際生物多様性の日(5月22日)」に植樹等を行う活動であり、この行動が時間とともに地球上で広がっていく様子から「緑の波(グリーンウェイブ)」と呼んでいる。

(*86)農林水産省等プレスリリース「国連生物多様性の10年「グリーンウェイブ2016」の実施結果について」(平成28(2016)年12月1日付け)



(我が国の森林を世界遺産等に登録)

「世界遺産」は、ユネスコ(UNESCO(*87))総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(以下「世界遺産条約」という。)に基づいて、記念工作物、建造物群、遺跡、自然地域等で顕著な普遍的価値を有するものを一覧表に記載し保護・保存する制度で、「文化遺産」、「自然遺産」及び文化と自然の「複合遺産」の3つがある。

我が国の世界自然遺産として、平成5(1993)年12月に「白神(しらかみ)山地」(青森県及び秋田県)と「屋久島(やくしま)」(鹿児島県)、平成17(2005)年7月に「知床(しれとこ)」(北海道)、平成23(2011)年6月に「小笠原(おがさわら)諸島」(東京都)が世界遺産一覧表に記載されており、これらの陸域の大半が国有林野となっている(*88)。

林野庁では、これらの世界自然遺産の国有林野を厳格に保護・管理するとともに、固有種を含む在来種と外来種との相互作用を考慮した森林生態系の保全管理手法や、森林生態系における気候変動による影響への適応策の検討等を進めている(事例 II -8)。また、世界自然遺産が所在する地方公共団体では、国等と連携し、外来種対策を推進しているほか、モニタリング調査を実施し、自然環境の現状及び変化状況を把握している。

政府は、平成29(2017)年2月に、「奄美大島(あまみおおしま)、徳之島(とくのしま)、沖縄島(おきなわじま)北部及び西表島(いりおもてじま)」(鹿児島県及び沖縄県)を自然遺産として世界遺産一覧表へ記載するための推薦書をユネスコへ提出した。

林野庁、環境省、鹿児島県及び沖縄県は、同推薦地について、有識者からの助言を得つつ、自然環境の価値を保全するために必要な方策の検討、保全管理体制の整備及び保全の推進等の取組を連携して進めている。

このほか、国有林野が所在する世界文化遺産として、近年では、平成27(2015)年7月に「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産の一つである「橋野(はしの)鉄鉱山・高炉跡」(岩手県)が世界遺産一覧表に記載されている。

世界遺産のほか、ユネスコでは「人間と生物圏(MAB(*89))計画」における一事業として、「生物圏保存地域(Biosphere Reserves)」(国内呼称:ユネスコエコパーク)の登録を実施している。ユネスコエコパークは、生態系の保全と持続可能な利活用の調和(自然と人間社会の共生)を目的として、「保存機能(生物多様性の保全)」、「経済と社会の発展」、「学術的研究支援」の3つの機能を有する地域を登録するものである。我が国では「志賀(しが)高原」(群馬県及び長野県)、「白山(はくさん)」(富山県、石川県、福井県及び岐阜県)、「大台ヶ原(おおだいがはら)・大峯山(おおみねさん)・大杉谷(おおすぎだに)」(奈良県及び三重県)、「屋久島(やくしま)・口永良部島(くちのえらぶじま)」(鹿児島県)、「綾(あや)」(宮崎県)、「只見(ただみ)」(福島県)及び「南アルプス」(山梨県、長野県及び静岡県)の7件が登録されている。平成28(2016)年9月、日本ユネスコ国内委員会は、「祖母(そぼ)・傾(かたむき)・大崩(おおくえ)」(大分県及び宮崎県)及び「みなかみ」(群馬県及び新潟県)をユネスコエコパークに推薦することを決定した(資料 II -27)。

林野庁では、これらの世界文化遺産、ユネスコエコパーク及びその推薦地域を含む国有林野の厳格な保護・管理等を行っている。

我が国のユネスコエコパーク

事例 II -8 小笠原(おがさわら)諸島世界自然遺産指定5周年の記念シンポジウムの共催

小笠原諸島の一部である父島
小笠原諸島の一部である父島
5周年記念シンポジウム
5周年記念シンポジウム

「小笠原諸島」は、平成23(2011)年に世界自然遺産として世界遺産一覧表へ記載された。

登録から5周年を迎えた平成28(2016)年に、関東森林管理局は、環境省関東地方環境事務所、東京都、小笠原村(おがさわらむら)とともに、「小笠原諸島世界自然遺産地域登録5周年記念シンポジウム」を開催した。

小笠原諸島では、世界自然遺産に登録された要因であるその固有の生態系を保全するため、固有の植物相を脅かすアカギ(注1)等の移入植物の駆除対策や、固有の昆虫相に重大な影響を及ぼしているグリーンアノール(注2)駆除対策、陸産貝類に壊滅的な影響を及ぼしているネズミの駆除対策等が展開されてきた。

今回のシンポジウムにおいては、このような保全に向けた取組の現状や取組の中で得られてきた新たな知見を参加者の間で共有した。また、第2部のテーマセッションでは、国内4つの世界自然遺産地域の町村長等が、「世界自然遺産地域ネットワーク協議会」の立ち上げを宣言した。

注1:南西諸島の在来樹種であり、20世紀初頭に木炭等の原料とするために小笠原諸島に持ち込まれた。成長が早く急速に分布域を広げ、アカギが占有し、暗くなった林内では、在来の植物の成長が抑制されてしまうため、駆除が進められている。

2:北米大陸等を原産とするイグアナ科の特定外来生物のトカゲであり、1970年代以降に小笠原諸島に人為的に持ち込まれた。その後、父島と母島の全域に分布を拡大し、オガサワラシジミ等の希少昆虫類を捕食して減少させている。


(*87)「United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization(国際連合教育科学文化機関)」の略。

(*88)世界自然遺産地域内の国有林野の取組については、第 V 章(187-188ページ)を参照。

(*89)「Man and the Biosphere」の略。


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