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林野庁

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第1部 第 II 章 第3節 森林保全の動向(2)

(2)治山対策の展開

(山地災害への対応)

我が国の国土は、地形が急峻かつ地質がぜい弱であることに加え、前線や台風に伴う豪雨や地震等の自然災害が頻発することから、毎年、各地で多くの山地災害が発生している。

平成28(2016)年は、4月に熊本県を中心とした広範囲で地震が発生し、被害箇所2,185か所、被害額約396億円の林野関係被害が発生した。

また、8月に相次いで上陸した「台風第7号」、「台風第11号」、「台風第9号」及び「台風第10号」の影響により、東日本から北日本を中心に大雨や暴風となった。特に北海道と岩手県では、記録的な大雨となり、岩手県久慈市(くじし)では最大24時間降水量231mm(アメダス観測値)を記録した。また、9月には「台風第16号」により、西日本を中心に大雨となり、宮崎県日向市(ひゅうがし)では最大24時間降水量578mm(アメダス観測値)を記録した。

これらの地震や豪雨等により、大規模な山腹崩壊等が多数発生し、平成28(2016)年の山地災害による被害は約956億円に及んだ(資料 II -25)。

林野庁では、山地災害が発生した場合には、初動時の迅速な対応に努めるとともに、二次災害の防止や早期復旧に向けた災害復旧事業等の実施等に取り組んでいる。また、熊本地震等の大規模な災害が発生した場合には、市町村への職員派遣や、被災都道府県等と連携したヘリコプターによる上空からの被害状況調査等の支援も行っている(*73)。

このほか、北海道では、流木被害の軽減に資するため、林業関係団体、水産関係団体、林野庁等が連携して調査等への取組を進めている。


(*73)平成28(2016)年度に発生した自然災害及び林野庁の取組については、トピックス(6ページ)を参照。



(治山事業の実施)

国及び都道府県は、安全で安心して暮らせる国土づくり、豊かな水を育む森林づくりを推進するため、「森林整備保全事業計画」に基づき、山地災害の防止、水源の涵(かん)養、生活環境の保全等の森林の持つ公益的機能の確保が特に必要な保安林等において、治山施設の設置や機能の低下した森林の整備等を行う治山事業を実施している。平成26(2014)年には「国土強靱(じん)化基本計画」が策定され、国土保全分野等の国土強靱(じん)化の推進方針として、治山施設の整備等のハード対策と地域におけるソフト対策を効率的・効果的に組み合わせて総合的に進めることなどの治山事業の推進が位置付けられた。

治山事業は、「森林法」で規定される保安施設事業と、「地すべり等防止法(*74)」で規定される地すべり防止工事に関する事業に大別される。保安施設事業では、山腹斜面の安定化や荒廃した渓流の復旧整備等のため、施設の設置や治山ダムの嵩(かさ)上げ等の機能強化、森林の整備等を行っている。例えば、治山ダムを設置して荒廃した渓流を復旧する「渓間工」、崩壊した斜面の安定を図り森林を再生する「山腹工」等を実施しているほか、火山地域においても荒廃地の復旧整備等を実施している(事例 II -7)。地すべり防止工事では、地すべりの発生因子を除去・軽減する「抑制工」や地すべりを直接抑える「抑止工」を実施している。

これらに加え、地域における避難体制の整備等のソフト対策と連携した取組として、山地災害危険地区(*75)を地図情報として住民に提供するとともに、土石流、泥流、地すべり等の発生を監視・観測する機器や雨量計等の整備を行っている。

近年、短時間強雨の発生頻度が増加傾向にあることに加え、地球温暖化に伴う気候変動により大雨の発生頻度が更に増加するおそれが高いことが指摘されており(*76)、今後、山地災害の発生リスクが一層高まることが懸念されている。このような中、平成26(2014)年8月に発生した広島県での土砂災害等を受け、平成27(2015)年6月に、内閣府の中央防災会議(*77)の下に設置された「総合的な土砂災害対策検討ワーキンググループ」が取りまとめた「総合的な土砂災害対策の推進について」では、治山事業について、森林の適切な整備・保全に向け、山地災害危険地区の的確な把握、土砂流出防備保安林等の配備、治山施設や森林の整備を着実に進めるなど、山地災害による被害を防止・軽減する事前防災・減災に向けた対策を推進していく必要があるとされている。

このため、平成28(2016)年度から、山地災害危険地区の再調査に取り組むとともに、緊急的・重点的に予防治山対策を実施するための新たな事業を創設するなど、事前防災・減災対策としての治山対策を強化したところである。また、集落等に近接する山地災害危険地区や重要な水源地域等において、保安林の積極的な指定、治山施設の設置や機能強化を含む長寿命化対策、荒廃森林の整備、海岸防災林の整備等を推進するなど、山地災害による被害の防止・軽減に向けた総合的な治山対策により地域の安全・安心の確保を図る「緑の国土強靱(じん)化」を推進することとしている。

事例 II -7 平成28(2016)年6月の熊本県の梅雨前線に伴う豪雨災害における治山施設の効果

平成28(2016)年6月20日の夜から21日の朝にかけて、東シナ海から接近した梅雨前線上の低気圧が九州北部を通過した影響で前線活動が活発となり、熊本県を中心に大雨となった。

この大雨により、林野関係では、熊本県で、林地荒廃208か所、治山施設被害13か所など甚大な被害が発生した。

熊本県阿蘇市(あそし)三久保(みくぼ)字丸藪(あざまるやぶ)地区では、この大雨により山腹崩壊が発生し崩壊土砂が流下したものの、熊本県が整備した治山ダム群(平成17(2005)年度及び平成18(2006)年度施工)7基が、渓床勾配を緩和(注1)し、山脚(注2)を固定したことにより、斜面の崩壊を抑制し、下流域への土砂流出を抑制した。これらの結果、この地区を山地災害から保全することができた。

注1:治山ダムの上流側に土砂が堆積し、渓流の傾斜が緩やかになること。

2:山のすそのこと。

治山ダムによる土砂流出の抑制効果(熊本県阿蘇市三久保字丸藪地区)
治山ダムによる土砂流出の抑制効果(熊本県阿蘇市三久保字丸藪地区)

(*74)「地すべり等防止法」(昭和33年法律第30号)

(*75)平成24(2012)年12月末現在、全国で合計18万4千か所が調査・把握され、市町村へ周知されている。

(*76)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書統合報告書(2014年11月)による。

(*77)内閣総理大臣をはじめとする全閣僚、指定公共機関の代表者及び学識経験者により構成されており、防災基本計画の作成や防災に関する重要事項の審議等を実施している。



(海岸防災林の整備)

我が国は、周囲を海に囲まれており、海岸線の全長は約3.4万kmに及び、各地の海岸では、潮害や季節風等による飛砂や風害等の海岸特有の被害が頻発してきた。このような被害を防ぐため、先人たちは、潮風等に耐性があり、根張りが良く、高く成長するマツ類を主体とする海岸防災林を造成してきた。これらの海岸防災林は、潮害、飛砂及び風害の防備等の災害防止機能の発揮を通じ、地域の暮らしと産業の保全に重要な役割を果たしているほか、白砂青松(はくしゃせいしょう)の美しい景観を提供するなど人々の憩いの場ともなっている。

このような中、東日本大震災で、海岸防災林が一定の津波被害の軽減効果を発揮したことが確認されたことを踏まえ、平成24(2012)年7月に中央防災会議が決定・公表した「防災対策推進検討会議最終報告」、同会議の「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」と「津波避難対策検討ワーキンググループ」の報告の中で、海岸防災林の整備は、津波に対するハード・ソフト施策を組み合わせた「多重防御」の一つとして位置付けられた(*78)。

これらの報告や林野庁により開催された「東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会」が示した方針(*79)を踏まえ、林野庁では都道府県等と連携しつつ、被災状況や地域の実情、地域の生態系保全の必要性に応じた再生方法等を考慮しながら、東日本大震災により被災した海岸防災林の復旧・再生を進めるとともに、全国で飛砂害、風害及び潮害の防備等を目的として、海岸防災林の整備・保全を進めている(*80)。


(*78)中央防災会議防災対策推進検討会議「防災対策推進検討会議最終報告」(平成24(2012)年7月31日)、中央防災会議防災対策推進検討会議南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ「南海トラフ巨大地震対策について(最終報告)」(平成25(2013)年5月28日)、中央防災会議防災対策推進検討会議津波避難対策検討ワーキンググループ「津波避難対策検討ワーキンググループ報告」(平成24(2012)年7月18日)

(*79)林野庁プレスリリース「今後における海岸防災林の再生について」(平成24(2012)年2月1日付け)

(*80)東日本大震災により被災した海岸防災林の再生については、第 VI 章(203-205ページ)を参照。


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