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第1部 第 II 章 第3節 森林保全の動向(1)

森林は、山地災害の防止、水源の涵(かん)養、生物多様性の保全等の公益的機能を有しており、その適正な利用を確保するとともに、自然災害、病虫獣害等から適切に保全することにより、これらの機能の維持及び増進を図ることが重要である。

以下では、保安林等の管理及び保全、治山対策の展開、森林における生物多様性の保全、森林被害対策の推進について記述する。


(1)保安林等の管理及び保全

(保安林制度)

公益的機能の発揮が特に要請される森林については、農林水産大臣又は都道府県知事が「森林法」に基づき「保安林」に指定して、立木の伐採や土地の形質の変更等を規制している(*69)(事例 II -6)。保安林には、「水源かん養保安林」をはじめとする17種類の保安林がある。平成27(2015)年度には、新たに約3万haが保安林に指定され、同年度末で、全国の森林面積の49%、国土面積の32%に当たる1,217万ha(*70)の森林が保安林に指定されている(資料 II -24)。特に近年は、集中豪雨等による山地災害が多発していることも踏まえ、「土砂流出防備保安林」、「土砂崩壊防備保安林」等の適正な配備を進めることとしている。

「京都議定書」のルールでは、天然生林の森林吸収量を算入する条件として、保安林を含む法令等に基づく保護措置及び保全措置が講じられている必要がある。このため、適切な保安林の管理及び保全は、森林吸収源対策を推進する観点からも重要である。

事例 II -6 農業や漁業を支える保安林

防風保安林と落花ぼっち(千葉県八街市)
防風保安林と落花ぼっち
(千葉県八街市)
魚つき保安林と長良川(岐阜県郡上市)
魚つき保安林と長良川
(岐阜県郡上市)

千葉県八街市(やちまたし)の南部地区では、179haの森林が「防風保安林」に指定されている。八街市のある下総(しもうさ)台地は年間を通じて風が強く火山灰が堆積した粒径の細かい土壌であるため、土埃が立ちやすく、乾燥しがちな場所となっている。そのため、畑の周囲にスギやマツを植栽することで、風による農作物への被害を軽減してきた。さらに、同地域は、文化庁が行った「農林水産業に関連する文化的景観の保護に関する調査研究(報告)(注1)」において、「八街市南部の防風保安林と落花ぼっち(注2)」として優れた畑地景観の一つに選定されており、本地域の「防風保安林」が果たす文化的な価値も評価されている。

また、平成28(2016)年7月、「GIAHS(ジアス)鮎の日」の制定(注3)にあわせて、世界農業遺産である「清流長良川(ながらがわ)の鮎」の指定区域の上流(岐阜県郡上市(ぐじょうし)白鳥町(しろとりちょう)長滝(ながたき))に位置する森林(約7.7ha)が、鮎等の魚類の生息と繁殖のために重要であるとして、「魚つき保安林(注4)」に指定された。当日は記念イベントが開催され、郡上漁業協同組合長による清流保全の決意表明、長滝地区の自治会への「魚つき保安林」指定証書の授与等が行われた。この「魚つき保安林」の指定により、長良川とその周辺の森林への関心がより一層高まり、森と川とのつながりが重要なものとして後世に引き継がれることが期待されている。

このように、保安林は、農業や漁業を支える上でも重要な役割を果たしている。

注1:農林水産業に関連する文化的景観の保存・整備・活用に関する検討委員会(平成15(2003)年6月12日)

2:掘り起こした落花生を乾燥させるために野積みしたもの。

3:平成27(2015)年12月に「清流長良川の鮎」が、世界農業遺産(GIAHS)に認定されたことを記念して、「世界農業遺産「清流長良川の鮎」推進協議会」が7月の第4日曜日を「GIAHS鮎の日」として制定した。なお、世界農業遺産(GIAHS)とは、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり形づくられてきた伝統的な農林水産業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケープ、生物多様性等が一体となった世界的に重要な農林水産業システムを国連食糧農業機関(FAO)が認定する仕組みであり、平成29(2017)年2月現在、我が国では8地域が認定されている。

4:水面に対する森林の陰影の投影、魚類等に対する養分の供給、水質汚濁の防止等の作用により魚類の生息と繁殖を助ける保安林のこと。


(*69)「森林法」第25条から第40条まで

(*70)それぞれの種別における「指定面積」から、上位の種別に兼種指定された面積を除いた「実面積」の合計。



(林地開発許可制度)

保安林以外の森林についても、工場用地や農用地の造成、土石の採掘等を行うに当たっては、森林の有する多面的機能が損なわれないよう適正に行うことが必要である。

このため「森林法」では、保安林以外の民有林について、森林の土地の適正な利用を確保することを目的とする林地開発許可制度が設けられている。同制度では、森林において一定規模を超える開発を行う場合には、都道府県知事の許可が必要とされている(*71)。なお、同制度に関する違反行為に対する罰則は、近年の違反件数の増加と違反行為の悪質化を受けて、平成28(2016)年5月の「森林法」の改正により、新たに懲役刑が措置されるとともに、罰金額の上限が引き上げられ、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金となった。

平成27(2015)年度には、3,725haについて林地開発の許可が行われた。このうち、工場・事業用地及び農用地の造成が2,454ha、土石の採掘が955ha等となっている(*72)。


(*71)「森林法」第10条の2

(*72)林野庁治山課調べ。平成26(2014)年度以前については、林野庁「森林・林業統計要覧」を参照。


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