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住民参加のPDD作成

pra0CDM植林を実施するにあたり、最初の作業となるPDDの作成は、UNFCCCからの要求事項が多く用語も特殊であり、難易度の高い作業です。このため、PDDの作成において、その要求事項を満たすことに重点がおかれ、プロジェクト参加者となる住民がその作成に係わりづらくなっている一面があります。このツールではPDDの作成時点で取り残されがちな住民の意見を最大限に取り入れ、またプロジェクトデザインそのものを住民が主導となって行い、PDDを作成していくために、PRAと呼ばれる活動のツールを活用する方法を説明します。 

 

 

 

 PRAとは

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    PRAとはParticipatory Rural Appraisal、参加型農村調査法と呼ばれる、住民の参加を促し、住民主導となって彼ら自身の生活をよりよくしていくことを目指した概念です。これを言い換えると、住民が、自身で自分たちの生活や状況についての知識を共有し、意識を高め、分析し、そこから計画を作り、行動し、モニタリングを行って、最終的な評価を行う、住民主体の開発を実現するための手法であると言えます。

 

 

 

 

 PRAツールを活用してPDDを作成することの意義

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    AR-CDMプロジェクトを実施するためのPDD作成に当たって、PRAで用いられるツールを取り入れることは、そのPDDの作成に参加者となる住民がより深く係わることとなり、その実態や意見、希望が現状に沿って反映されます。同時にそのツールの実施、参加によって、PDD作成側と住民とのコミュニケーションの機会が増え、住民のプロジェクトへの理解が深まるという効果が期待されます。これによってプロジェクトへの住民の主体性が高まり、その実現及び持続性の向上に繋がります。

 

 

 

 

PRAの利点と欠点

PRAの利点

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    PRAは開発における住民の参加に最も重点をおいた手法です。そして住民の参加によって得られる利点として、効率性、有効性、持続性、自信、適用範囲の5つが挙げられます。すなわち、住民が主役となってプロジェクトを設計し、実行に移していくことにより、外部者が住民の生活スタイルや慣習を十分に理解せずに始めるプロジェクトよりも現状に沿った設計がなされるため、効率的で有効性があり、持続性も生まれます。また、住民自身が設計から携わることで、住民の自信となり、またプロジェクトの設計時点において、住民間で十分な検討がされることによって、プロジェクトによって生まれる利益が一部のエリート層にのみ渡ることがなく、より支援を必要としていると住民が判断する適切な層に配分することが可能となります。

 

 

 

 

PRAの欠点

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    PRAの成否は、ファシリテーターが自分の役割を正しく理解し、いかに上手に彼らの能力を引き出すことが出来るかにかかっているため、その起用には訓練を十分に積んだ人材が必要とされます。しかし、現状では良質なファシリテーターを獲得するのが難しいため、PRAツールを行うにあたって、適当な人材が得られない場合、事前にファシリテーターの養成訓練等を行う必要があります。
    PRAのツールは住民が主体となって進行していくため、必ずしも期待していた結果が得られるとは限りません。話し合いの方向性が期待とは違う方向にいってしまったり、遅々として進まないこともあります。このような場合も外部者が介入をすることは望ましくないため、PRAのツールを行う際には十分な時間的余裕を持って行う必要があります。

 

 

 

PRAツールを実施する際の注意点

PRAツールの実施結果の共有

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    各PRAツールはグループ単位で実施します。しかし、ツールによって得られた結果は、コミュニティ全体で確認され、共有される必要があります。このため、各ツールによって結果が得られた後、ツール実施グループはコミュニティ全体の場で結果を発表し、その結果の真偽を確認し、最終的なコミュニティとしての合意を得る必要があります。

 

 

 

 

 

PRAツール実施記録の保存

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    PDDは申請の後、指定運営機関(Designated Operational Entity、以下DOE)によって、認定を受ける必要があります。その認定の際に、PDDに記載されている内容の真偽を確認するため、それぞれの根拠の提出が要求されます。このため、各PRAのツールでの参加者リスト、成果物は必ず保存しておくこと、またPRAの結果はしばしば図や絵で示され、それをもとに討論することが多いため、その内容を文書として記録し、その記録を参加者と共有して、その内容が正しい旨を了承するサインを取り、その他の文書と共に保存しておくことが望ましいです。

 

 

 

 

PRAツール実施結果による根拠の提示方法

    DOEによる審査の際、記載された内容はその根拠の審議がチェックされます。この際、1つのことを証明するためには、十分な根拠が一つあれば良しとされます。反対に、1つの内容に対していくつも根拠をあげると、その全てをDOEは審査しなければならず、コストや時間が倍増してしまいます。このため、PRAのツールによって様々な情報を得ても、PDD上で根拠として全てを明示する必要はありません。
例:土地の適格性の証明が衛星画像及び、PRAのツールで確認された場合
→PDDには衛星画像で確認した旨のみを記載します。
    PRAツールによる結果は、あくまで当該国の行政機関等が所持しているデータがない場合にのみの利用に留めます。

 

 

 

  代表的なPRAのツール

コミュニティマップ(Mapping)

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    コミュニティマップは住民同士で話し合いをしながら、彼らの住むコミュニティの地図を作成していく作業です。作成者が地図の専門家ではなく、また縮尺等も細かく問われないため、住民にとって意味があり、重要であることが描かれやすく、住民の現状を反映した地図が得られます。コミュニティマップの基本はコミュニティ内の世帯の配置や社会インフラを描写していくものですが、PDDの作成において活用する場合はプロジェクトエリア予定地の利用状況を描写や水資源等の天然資源、森林/非森林地の境界を明確にするための描写、またデバウンドリーの有無を確認するために活用できます。

 

 

 

地域史(Historical Event)

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    地域史は、住民が思い起こした出来事を年代順に並べていきます。歴史的な事実を取り上げるのではなく、住民自身が重要と捉え思い起こした、コミュニティ、個人、組織の歴史的な出来事を明らかにします。これによって、コミュニティが過去の出来事について重要だと捉えていることを抽出し、コミュニティの現在の問題を歴史的視野から理解することが可能となります。PDDの作成においてはプロジェクトエリア予定地及びその周辺の環境条件や、現在コミュニティで活用されている技術、土地の権利状況や土地の適格性の評価、環境影響及び社会経済影響等を記載する際に反映されます。

 

 

 

 

動向変化マトリックス(Matrix of the trend and changing)

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    動向変化マトリックスは傾向分析とも呼ばれる。コミュニティにおけるある変化に注目し、時間の局面を掘り下げていくために使われます。具体的にはコミュニティないにおける収穫高や人口、家畜の数、森林面積、耕地面積、雨量等について、その動向を住民の視点から分析していくことができます。このツールによって、PDDで記載しなければならないプロジェクトエリア予定地及びその周辺の環境条件やコミュニティで活用されている技術、土地の適格性の評価、環境影響及び社会経済影響等についての情報を入手することが出来ます。

 

 

 

 

季節カレンダー(Seasonal Calendar)

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    季節カレンダーは、コミュニティの年間を通した活動分析を行うツールで、特に農村地域の人々にとって重要です。季節カレンダーによって、コミュニティの繁忙期や比較的余裕のある時期、経済的に苦しい時期や出稼ぎ等に出る時期、またそれらの時期と雨季と乾季、村での行事の関連性等が明確になります。PDDの作成においては、プロジェクト活動の開始時期や活動計画の策定、追加性の証明等を分析していく際に重要となるデータとなります。

 

 

 

 

 

 

因果関係図(Cause Effect Diaglam)

     因果関係図は、ある事象や活動、課題の原因に焦点を当てて、それらの相互的つながりを視覚的に描くことによって、そこから結果を分析します。原因と結果を明確にし、問題解決の改善策を計画するために使われる手法です。PDDの作成においては追加性や環境影響および社会経済影響の分析に活用することが出来ます。

 

生活福祉ランキング(Well-being Ranking Method)

    生活福祉ランキングは世帯やコミュニティを、収入、財産など認知可能な生活福祉の基準をもとに、順位付けや分類を行うためにしばしば使われるPRAの手法です。この分類によってプロジェクトのターゲットとなるグループを認識し、プロジェクト活動よる利益がターゲットグループに届くかどうかを検討することが出来ます。PDDの作成においては、プロジェクト参加者の決定や社会経済影響分析等に係るデータが入手できます。

 

トランセクト(Transect)

   

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    トランセクトは一般的に、コミュニティマップの中でも資源マップと呼ばれる自然資源に焦点を当てたマップを作成した後に、三角検証として行われ、自然資源の管理に使われることが多いツールです。実際にターゲット地域を歩いて情報を集め、事前に作成したコミュニティマップの妥当性を確認し、実際と違う場合は訂正を行いながら、現状を把握し、課題や可能性を評価していきます。PDDの作成においては、環境条件の記載や土地の法的権利、土地の適格性、環境評価分析等で必要となるデータを入手することが出来ます。

 

 

 

 

  PRAツールの実施例

フィリピン  カウスワガン村での事例

    目的: PRAツールを利用した土地の適格性の証明

    2012年9月、フィリピンのボホール島トリニダ市カウスワガン村にて、2011年に作成されたSSC-AR-CDMのPDDに記載されている土地の適格性を証明するために同村にてPRAアクティビテイを行いました。
土地の適格性の証明のために選んだツールは右のとおりです。
    PRAツールの実施の10日前から現地に入り、村に対するPRAツール実施の目的と概要の説明、開催日程及び場所の決定、当日のスケジュールの打ち合わせ、住民への告知、またファシリテーターの選定と訓練、市役所職員へのオブザーバーとしての参加依頼等の準備を行いました。ファシリテーターは隣の市で活動する市の非常勤職員2人とNGO職員1人を採用しました。
    当日は朝の9時から開会式を行い、村のリーダーに開会のあいさつをお願いしました。1日目は3つのグループに分かれ、3人ファシリテーターが1人ずつかくグループにつき、それぞれコミュニティマップ、コミュニティ年表、土地利用の動向変化アクティビテイを行い、午後にそれぞれの活動結果の発表を行いました。
    2日目には、1日目の結果をもとにトランセクトを行い、プロジェクトバウンデリー内を歩いて、1日目に作成した地図との整合性を確認し、最終的な総合討論で、土地の適格性について証明できることが合意されました。
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  PRAのツールを用いたPDD作成

  • プロジェクト活動の目的と概要記載のための情報収集
  • 土地の適格性証明
  • CDM植林推進のための実施体制つくり
  • リーケージの抽出と対策
  • CDM植林地の土地権利確保
  • 方法論の適用の証明のための情報収集
  • 追加性の証明のための情報取集
  • 住民参加によるモニタリング
  • プロジェクト期限とクレジット期間設定のための情報収集
  • 環境影響分析と評価情報収集
  • 社会経済影響分析と評価情報収集
  • ステークホルダーからのコメント収集

お問合せ先

森林整備部計画課海外林業協力室

ダイヤルイン:03-3591-8449

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