地域と連携した課題の解決に向けて
網走南部森林管理署
森林技術指導官 清水 亜広
網走南部森林管理署管内の概要
網走南部森林管理署はオホーツク総合振興局管内の南東側に位置し、東側は知床半島、南側は阿寒湖、屈斜路湖、摩周湖に接するまでの網走市、斜里町、清里町、小清水町、大空町、美幌町、津別町の7市町にまたがる約136,000haの国有林を管轄しています。
管内の国有林には、知床国立公園、阿寒摩周国立公園、網走国定公園、斜里岳道立自然公園に指定されている地域があり、小清水原生花園、神の子池、藻琴山、美幌峠、知床峠、斜里岳、羅臼岳などの風光明媚な観光地も数多くあります。また、知床半島には来年度に登録から20周年を迎える知床世界自然遺産地域の森林も含まれています。
藻琴山(頂上は美幌町) 神の子池(清里町)
管内の現状と課題
地域では伐期を迎えた人工林伐採による更新地が増加する一方、林業の担い手不足が深刻化しています。特に造林・下刈作業の森林整備については、炎天下での人力作業となるため重労働となり、作業員の確保が難しく、高齢化が進んでいます。
このため、森林整備の省力化についての情報提供や、施業方法の普及拡大に向け地域と連携した取り組みが必要となっています。
課題解決に向けた取組内容
1. リモコン式草刈機の功程調査
これまで人力で行われていた下刈作業機械化の推進と、下刈機械を効果的に使用するための地拵・植栽仕様の確立に向けて、林業低コスト化推進チームを立ち上げ、令和3年度に、植付段階から乗車式機械下刈に適した仕様で試験地を設け、令和4年度より功程調査を行ってきました。
また、令和6年度からは、乗車式機械からリモコン式草刈機へ変更して功程調査を実施しています。
2. 無人航空機(ドローン)による苗木運搬
これまで苗木運搬は、車両で持ち込まれた苗を人力で植栽エリアまで担ぎ上げて一時収集し、更にその場から植栽のポイントまで手持ちで小運搬していました。
この工程をドローン運搬に置き換えることで、植栽作業の効率化と作業員の軽労化、省力化につながると考え、林業用ドローンを導入した林業事業体と連携し、植付時の苗木運搬をドローンと人力での運搬距離・時間など比較・検証を行いました。
ドローンによる苗木運搬
3. 生長量比較試験地の設定
下刈り回数の削減による造林作業の省力化に向け、リモコン式草刈機で刈高違いの苗の生長比較調査を行っています。 プロットは(ア)リモコン式草刈機刈高高め(イ)リモコン式草刈機刈高低め(ウ)人力の刈払機(エ)未実行の4列の1年間の生長量を調査しました。
調査を開始して間もないということもあり、一定の方向性を見出すまでには至っていませんが、民有林へ普及していくためには更なる実証データの蓄積が必要と考えていることから、今後も継続して調査を実施してまいります。

生長量比較試験地
取り組みの成果と今後の課題
下刈の機械化について、乗車式機械・リモコン式刈払機の功程調査結果は人力の刈払機より時間やコストはかかり増しになるものの、労働の軽労化になりました。今後は植付の仕様を機械に合わせることにより低コスト化・軽労化が図られると考えています。
また、当署において複数年にわたり、リモコン式草刈り機の現地検討会を実施したことで、複数の林業事業体が機械の導入につなげられたと考えています。引き続き、事業実績に基づいた情報を現地検討会等で発信し、民有林への普及拡大につなげ ます。
リモコン式刈払機現地検討会 乗車式機械での下刈
ドローンによる苗木運搬の功程調査については、直線距離で移動できることにより移動時間が短縮できましたが、植栽面積が狭かったことで運搬全体に対する積込み時間の割合が多くなりました。現場作業員からは「苗木運搬をしないことで、身体の負担が軽減された」などの声もあり、軽労化の可能性を見出せたことから、今後は苗木の必要数を検討し、苗木束を落とすポイントをプログラムするなど、効率化に向けて更なる検証を行います。
今後も、北海道や各市町の林務担当者等に対して、情報交換しながら連携して調査結果や関係情報などを伝達・共有するなど、効率的な森林整備への地域理解の醸成に努めてまいります。
その他の取り組み
1. 耕地防風保安林整備
網走南部森林管理署管内には延長約146kmの耕地防風保安林があり、隣接する土地所有者等から毎年のように、トラクターが枝にぶつかる、GPSが木で遮られる等様々な要望が寄せられていました。そこで令和3年より、適正な保安林管理を目的に林縁を伐採して管理道を設置する耕地防風保安林整備を始めました。この整備にあたり、国有林境界の管理を含めて隣接する土地所有者の理解と協力を得るため、関係者間との調整と合意形成に努めています。
この取組は周辺3町での注目が高く、今までに現地検討会などを開催しています。今年度は3町農民組織研修会で説明・現地見学会を行いました。
現在、清里町のみの整備ですが、今後は斜里町や小清水町にも拡大していくこととしていることから、当該知見を活かしつつ、民有林の整備にも普及していけたらと考えています。
3町農民組織研修会現地見学会
2. 海岸防災林整備
海岸防災林は、強風・塩分・飛砂・津波などから人々の生活を守る森林です。管内には小清水町に位置する止別海岸防災林があり、オホーツク海に沿って、濤沸湖の河口付近から斜里町の境界付近まで、その延長は15.7kmにも及びます。北西側の大部分が草地で、小清水原生花園として地域住民だけでなく、訪れた観光客にも親しまれています。
止別海岸防災林の整備事業は昭和12年から開始し、一時は41haまで造成したものの、昭和40年に5haまで減少しました。そこで、有識者の指導を受けながら技術向上に努め、防風垣や樹種の検討・土壌改良を繰り返し、80年以上取り組んできたことにより、現在は71haまで造成しています。近年、幼齢林分(※)の生育不良や高齢林分の下枝枯れが確認されており、令和4年に林況調査を実施しています。今後は調査結果をもとに、高齢林分の現況を把握し、適切な保育作業等を実施してまいります。
※林分:樹種、林齢、立木密度、生育状態等がほぼ一様である一団地の森林
止別海外防災林
国有林フォレスターとしての想い
近年は高齢化と少子化の影響により、様々な場面で担い手不足が加速しており、林業も高齢化と担い手不足が深刻化しています。これらの諸課題に対処していくためには、作業の機械化を図りつつ、効率的で効果的な森林整備の推進が必要です。
今後もオホーツク総合振興局や森林室、各市町、森林組合などの林業関係者と連携し、情報交換しながら課題解決に向け取り組んで参りたいと考えています。
お問合せ先
網走南部森林管理署
ダイヤルイン:050-3160-5775