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北海道森林管理局

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    十勝地域の民有林における低コストで効率的な施業の普及・定着に向けた取組




    十勝西部森林管理署
    森林技術指導官  秋葉  弘行


                                         ~列状間伐の普及と林地未利用材の効率的な搬出~


      十勝地域の一般民有林(※1)では、戦後の経済復興による木材需要の増大とともに造林事業が積極的に行われてきました。

      その樹種別割合はカラマツが圧倒的に高く74%を占め、次いでトドマツ11%と、カラマツが主体となっています。現在これらの人工林の多くは、本格的な利用期を迎えています。

      このような中、十勝西部森林管理署では、利用期を迎えた人工林の主伐、間伐及び再造林作業等が経済的かつ安全に実施できるよう、既に国有林で取り組んでいる低コストで高効率な施業(「列状間伐」等)が民有林にも普及・定着するよう技術支援等を行っています。

      一方、近年は新しい分野での木材利用として近隣地域で稼働した木質バイオマス発電所の燃料、農業分野では家畜飼料等としての「木質バイオマス」の需要が伸びてきています。主伐・間伐作業に伴って発生する林地未利用材(※2)の有効活用により木質バイオマス需要に応えていけるよう、試行錯誤している取組を紹介します。
     
    (※1)一般民有林…民有林(国有林以外の森林)の中でも、道有林を除いた個人・会社・市町村などが持つ森林。 
    (※2)林地未利用材…主伐や間伐により伐採された木材のうち、未利用のまま林地に放置されている切り捨て間伐材や末木、枝条など。

    1.列状間伐の普及・定着に向けた取組

    ( 1 )十勝地域の間伐作業の現状と課題

    (ア)地域の現状

      一般民有林関係者へのこれまでの聞き取りから、一般民有林では最終的な主伐に優良木生産を目的としている場合が多く、作業効率を重視した列状間伐は採用されず、作業方法は定性間伐(※3)を支持する森林所有者や林業事業体が多いことがわかりました。

      また、地域の林業事業体は、事業(経営)の規模が小さい場合が多く、高額な高性能林業機械の使用に消極的であると同時に、林業従事者の高齢化により、高性能林業機械のオペレーターのなり手が少ないようです。

    (※3)定性間伐…林木の密度・樹高・直径等から伐採率、立木の形質・形状や隣接木との関係を現地で確認しながら伐採木を選定する間伐。

    (イ)地域の課題

      地域の現状から次のような課題が浮かび上がってきました。

      1.定性間伐が支持される中、列状間伐のメリット(効率性・採算性の向上、安全性の向上)の普及啓発が進んでいないこと。

      2.高性能林業機械の導入や効率的な作業システムが確立されていない上、オペレーターの養成が追いついていないこと。  


    ( 2 )課題解決に向けた取組

      上記の2つの課題解決に向けた取組を紹介します。

      1‐1  的確なデータを提供するなど列状間伐のメリットの普及啓発に努める。 

      【表1】のとおり定性間伐と列状間伐を比較した場合、列状間伐が「生産性」に優れていると同時に、残存木の「損傷率」を抑えることができています。また、【図1】のとおり列状間伐は、選木に要する時間を省略でき、伐採・集材が容易になるとともに、高性能林業機械を用いた作業システムの導入により、安全性と生産性を高めることが可能です。一方、列状間伐では、形質等に関係なく立木が一定の列幅で伐採されるため、残存列の中には間伐(※4)効果が受けられない立木が残る場合があります。列状間伐のメリットを活かすため、特徴を十分に認識した上で取り組む必要があるとの啓発を行っています。

    (※4)間伐…林木の生育過程で林分内の密度を下げるために行う間引きのこと。林木同士の競合を緩和し、成長量の増大や林木の利用価値の向上、森林の有する諸機能の維持増進のために行う。


                                                                   【表1】


                                                                                   【図1】

      1‐2  広く民有林関係者に呼びかけ、国有林での列状間伐の現地検討会(事例紹介)を開催し、列状間伐への知識と理解を深めてもらう。

      当署では課題解決に向け、国有林の間伐現場にて、森林作業道作設から列状間伐及び集材の様子とともに、末木枝条の搬出の様子を実際に見学してもらい、何か一つでも参加者それぞれの担当事業に取り入れてもらうことを目的に、現地検討会を行っています。

      令和元年8月には「列状間伐及び末木枝条の有効利用に係わる現地検討会」を開催し、列状間伐の導入と列状間伐に伴って発生する末木枝条の木質バイオマス利用の促進のための事例紹介を行いました。当署からは列状間伐の特徴(優れた点・留意する点)や、木質バイオマスエネルギーの利用状況について説明を行い、それらを踏まえた質疑応答や意見交換を行いました。

      参加者からは「民有林の間伐との違いが分かった」、「間伐作業の効率や間伐材の付加価値の向上により山側への収益還元が必要」などの声が聞かれました。

      今後も関係者の方々のご協力をいただきながら、意見交換を行う場を継続的に設け、国有林が支援を行うことができる体制を構築していきます。



    現地検討会(意見交換)


    ハーベスタ(伐倒・枝払い・玉切り・集積が可能)による列状間伐作業

    2   丈夫で簡易な森林作業道等の路網整備が推進できるよう、現地検討会等を通じて高度な作設技術を備えたオペレーターの養成支援を行う。
     
      当署では列状間伐の推進とあわせて、効率的な作業システムを進めるため、丈夫で簡易な森林作業道等の路網整備を推進できるよう、高度な作設技術を備えたオペレーターの養成支援などを目的に、民有林関係者を対象とした現地検討会を開催しました。

      現地検討会では、林業事業体に高性能林業機械を使用した枝払いと玉切り作業、支障木を伐倒しながらの森林作業道作設、末木枝条の積込運搬のデモンストレーションを行ってもらいました。民有林関係者からは「高性能林業機械の効率性が良い。傾斜は何度くらいまで可能なのか、燃費はどのくらいなのか。」といった質問等があり、高性能林業機械による森林作業道作設などに関心を持っていただくことができました。


    フェラバンチャー(伐倒・集積が可能)付きバケットによる森林作業道の作設
     

    3  まとめ
     
       以上の取組によって、列状間伐のメリットの普及・啓発及び効率的な作業システムの確立とオペレーターの養成支援を進めてきました。これらとともに、関係者間において、情報共有を行うことも重要です。

      「十勝地域林政連絡会議」では令和元年度の民国連携した取組予定と取組結果等について計2回、十勝総合振興局林務課及び森林室との意見交換等を実施しました。また、管内市町村が開催する「市町村森林整備計画実行管理推進チーム会議」では、市町村林務担当者、森林組合、林業事業体などと一緒に国有林で実施している、「低コストな列状間伐」及び「一括発注での低コスト造林」や、市町村森林整備計画策定にあたっての一般民有林の取り扱い等に対する助言等に関わってきました。

      更に、各市町村へ出向いての「林政連絡会議」では、「北海道森林管理局の重点取組事項」や「今年度の十勝西部森林管理署事業概要」について説明し、意見交換を行いました。

      市町村首長及び担当者からは「針広混交林の造成はコスト的にどうか、技術的な指導をお願いしたい。また、森林環境譲与税の使途のアドバイスをして欲しい。」「200年の超長伐期化のイメージが浮かばない。木材として使用できるのか。」「下刈ゼロを目指しているができるのか。」等々の質問意見をいただきました。

      これらについては、主伐実行箇所で行っている天然木更新を活用した針広混交林への誘導、草本類の発生を抑制(地拵えで笹等の根茎を切断)することや初期成長のよい苗木を植栽することによる下刈の省力化などの取組について説明し理解してもらいました。
    今後も民有林関係者との意見交換を行う場を活用し、国有林ができる支援を継続していきます。
     
     
     市町村との林政連絡会議                                                                                森林整備計画実行管理推進チーム会議




       





       

    十勝地域林政連絡会議

    2.林地未利用材の有効活用と木質バイオマス需要への対応

    ( 1 )十勝地域の林地未利用材の活用の現状と課題

    (ア)地域の現状

      小径木主体の人工林については、木材としての利用が見極めない場合、切り捨ての間伐を行い未利用のまま林地に放置してきました。また、伐採に伴って発生する末木や枝条は林地に残してきました。(表2参照)



                                                        【表2】


    (イ)地域の課題

      これまで十分利用がなされてこなかった林地未利用材を地域の燃料用チップなどの木質バイオマスエネルギー利用施設へ供給に資するための取組を強化し、森林資源の再利用、いわゆる「カスケード利用」を推進して行かなければなりません。しかし、現在は林地未利用材の集荷・搬出に取り組む単独の事業としては効率性の観点から成り立たないのが現状です。

      実際に稼働している現場では本体事業(主伐・間伐作業)の合間に集積、通勤用トラックで最終土場(木質バイオマス工場搬出車両が到達可能な地点)までの搬出と言う実態であり、更なる効率的な販売方法の工夫が必要です。


    ( 2 )課題解決に向けた方向性

      一般民有林においても林地未利用材の販売を行っていますが、一定のまとまりがあり、搬出しやすい現場であれば、木質バイオマス関係の事業者への販売も可能ですが、そうはならない現場が大半を占めているようです。今後は、林地未利用材の集荷を前提とした作業システムの構築が重要となります。

      また、国有林では、林地未利用材の集荷・搬出に取り組む事業者に向けて林地未利用材の発生情報(集材を伴う未利用材・集材不要の未利用材)を北海道森林管理局ホームページで提供しています。
    URL  https://www.rinya.maff.go.jp/hokkaido/apply/publicsale/koubai/jouhou_biomass/index.html
    これにより、未利用材の集荷・搬出に取り組む事業体の拡大を図られればと思います。

      これまで実施してきた現地検討会での意見交換の中で、「フォワーダの空き時間を利用して末木枝条の収集・運搬、通勤用トラックの活用による自社土場への搬入など、効率的な作業システムの構築が必要である」との問題意識を共有できました。 いただいた意見をもとに、より民有林にとってメリットを感じられるような作業システムを提案・普及できるよう引き続き取り組んで参ります。


    フォワーダ(集材が可能)による末木枝条積込・運搬

    3.国有林フォレスターとして

      当署の森林技術指導官となり2年目を迎えました。

      これまでは、業務部門・総務部門と各種業務に携わって来ましたが、その時期に経験した現場での経験及び市町村との打ち合わせの経験が現在に多少なりとも生かされているのではと思っているところです。

      今後はその経験を更に活かしながら、会議及び現地検討会等はもとより、様々な場面において関係する皆様と連携を図りながら業務を進めていきたいと考えています。当地域において、直ぐには解決出来ない難しい課題もありますが、これからも関係者の皆さんと手をとりながら、地域の森林・林業の発展に寄与したいと考えていますのでよろしくお願いします。


    十勝西部森林管理署  森林技術指導官  秋葉  弘行

            

    お問合せ先

    十勝西部森林管理署

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