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北海道森林管理局

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    上川地域における造林・保育のコスト縮減に向けた取組について

      上川中部森林管理署の管理区域は、北海道のほぼ中央部、石狩川の上・中流部に位置し、旭川市・鷹栖町・東神楽町・当麻町・比布町・愛別町・上川町・東川町・美瑛町の1市8町に及びます。
      地域の基幹産業は稲作等の農業が中心ですが、旭川市を中心として家具、紙・紙加工品製造業など木材に関連する産業も盛んです。また同市では道内外の広葉樹材等が集まる、道内で唯一の銘木市が定期的に開催されます。

      管内西部の旭川市街地周辺にある嵐山・神居自然休養林や外国樹種見本林は四季折々の森の景色などを楽しむことができ、市民の憩いの場として親しまれています。また、管内東部には、大雪山系の山々がそびえ、道内有数の火山地帯であることから、山地災害防止効果の発揮が求められている地域でもあります。

    地域の課題と民有林との連携

      平成25年から上川総合振興局と上川管内に所在する上川北部森林管理署、上川南部森林管理署、空知森林管理署北空知支署、森林技術・支援センター、旭川事務所、当署の6署等で「上川地域林政連絡会議」を設置し、上川管内における森林・林業に関する情報・意見交換を通じて、地域の課題解決に向けて連携しています。

      管内の重点課題としては、木質バイオマスの利用拡大や主伐・再造林の増加を背景とした、「木質バイオマスの安定供給」や「林業の省力化・低コスト化」があり、当署では「造林・保育の省力化・低コスト化」に向けた実証事業を実施し、その技術の普及提案に努めています。


    上川地域林政連絡会議の様子

    造林・保育に係る省力化及びコスト削減に向けた普及・提案の歩み

      上川中部森林管理署では、平成28年度から「造林・保育にかかる省力化及びコスト削減」に取り組んでいます。

    一貫作業システムの導入・コンテナ苗の活用

      平成28年度においては、伐採・搬出作業と同時並行して地拵やコンテナ苗植付を行う一貫作業システムの導入によるコスト削減をテーマにコンテナ苗の特性や植栽方法についての理解を促進するため現地検討会を開催しました。検討会では一貫作業やコンテナ苗を導入した事業の現地を見学したほか、コンテナ苗の植栽体験を実施しました。


    職員によるコンテナ苗と植栽器具の解説


    植栽体験の様子

      地域の森林・林業関係者にコンテナ苗の植栽器具を実際に使用してもらい、その使用感等についての意見を伺いました。その中で「(コンテナ苗の植栽器具を)初めて使ったが、使いやすかった」、「柄をもう少し長くした方が更に使いやすくなる」など今後の改良に繋がるアイディアがありました。

      開催後、植栽器具の開発等を手がける事業者にお知らせしたところ、「今後の改良の参考になる」とのお話をいただき、器具の改良に向けて地域を越えた連携ができました。

    下刈回数の見直し

      平成29年度には、育林経費の低減に向けた取組の1つとして、下刈の省力化に向けた現地検討会を開催し、地域の森林・林業関係者でその可能性について検討しました。
      下刈にかかるコストは育林経費における保育コストの多くを占め、その削減が大きな課題となっています。検討会では下刈省略を実施する予定地を見ていただき、意見交換しました。
      参加者からは、「下刈の省力化についての理解が深まったが、今後、下刈を省略した現地を継続的にモニタリングし、その結果を検証していくことが必要」との意見がありました。


    現地検討会の様子

    地拵・植付までの一貫作業システムにおける多様な地拵方法

      平成30年度には、更新伐(誘導伐)後の地拵について、より効率的で下刈の省略に繋がる方法を検討するため、従来の「人力地拵」を対照区とし、ベースマシンに「一般的なバケット」、「グラップルレーキ」、「全回転格子バケット」という3種類のアタッチメントを装着した3通りの施工を実施し、それぞれの作業効率や地拵後のクマイザサ等の根茎除去効果を比較しました。
      結果は、作業効率については一般的なバケットを使用した場合が「人力地拵」の5倍と最も効率が良く、根茎除去効果については、苗木の生長にも最も影響を及ぼすクマイザサ等の根茎がどの程度除去されているかを確認したところ、全回転格子バケットが約8割除去できることがわかりました。


    左:一般的なバケット  右上:グラップルレーキ  右下:全回転格子バケット


    機械別の地拵作業功程及び根茎除去効果の比較※画像をクリックすると別ウィンドウで開きます。

      これらの結果を踏まえ現地検討会を実施し、近隣市町村、森林組合等事業体、指導林家、研究機関、上川総合振興局など100名を超える森林・林業関係者が一堂に会する中、大型機械地拵の下刈省略や作業功程の向上に対する有効性を紹介するとともに、地域の林業事業体が保有する機械等それぞれの実情に適合した下刈省略が期待できる地拵方法について普及提案しました。

      また、併せて、本事業を請け負った林業事業体が試行錯誤しながら独自開発した植付作業用のアタッチメントのデモンストレーションが行われました。これは、大型機械で複数の植穴を同時に掘削するもので、これを使用することにより人力での工程は、その穴にコンテナ苗を置いた後、苗木の周囲を填圧するだけとなるため、従来の一般的な植付作業と比べ、大幅な省力化と効率化が図られるものと期待できます。


    植付作業用アタッチメントのデモンストレーション

      参加者からは、「各区分の表土の状態を実際に確認できた」、「植栽後の苗木の活着・成長、下層植生の回復について継続調査とその結果の紹介をしてほしい」、「様々な機械の実演により、それぞれの特徴がわかった」、「効率的な造林・保育への可能性を感じた」、「多くの参加者との情報交換等ができよい刺激になった」など多くの意見をいただき、本検討会が、地域関係者の造林・保育コスト縮減の手法や技術についてより理解を深める機会になったのではないかと考えています。

    大型機械による多様な地拵方法ごとのコンテナ苗の植付作業効率

      上記の地拵を行った場所において、地拵方法ごとの植付の作業効率を検証するためそれぞれの施工区にカラマツのコンテナ苗を植栽し、その作業功程を比較しました。


    左上:届けられたコンテナ苗  左下:運搬のためのカゴ  右:植栽後のコンテナ苗

      結果は、大型機械により末木枝条やクマイザサの根茎の除去、地表面の耕耘が適度に行われたため、作業効率が4~6割アップし、植栽工程だけで約2万円のコスト縮減効果があることが確認できました。

    機械(地拵方法)別の植付け作業功程の比較※画像をクリックすると別ウィンドウで開きます。


    機械(地拵方法)別の地拵から植付までの経費の比較※画像をクリックすると別ウィンドウで開きます。

      本年2月には、これらのことを道内多くの方々が集まる「北の国・森林づくり技術交流発表会」で発表させていただいたところです。今後は、苗木の生長等をモニタリングしながら、下刈作業の必要性の判断等について検討していくこととしています。


    地域での活動について

      上川地域を含む道北地区は広大で、森林・林業・木材産業関係者は、振興局・森林室、市町村、森林管理署、事業者等数多く存在します。当署はこれらの方々と、各地域林政連絡会議や市町村林政連絡会議等の各種会議や現地検討会を通じて情報交換する中で、地域の課題やそれに対する取組状況を共有しています。
      本文でご紹介してきたように上川地域では「林業の低コスト化・省力化・軽労化」に取り組んでいますがこの背景には、主伐後の再造林や初期保育にかかる経費が多くかかることや担い手不足等多くの課題が山積されており、簡単には解決できませんが、各森林管理署等は、様々な方法でこの地域課題を解決するため、日々、国有林が有する施業技術等の実用化やその普及提案を進めています。

      当署においても、「造林・保育に係る省力化及びコスト縮減に向けた普及・提案」を地域課題(重点取組事項)に定め、3年が経過したところです。特にこの1年は、署内に設置した民有林支援サポートチームのコアメンバーで議論を重ねた基本方針や期間ごとの目標を示したロードマップに基づき、現場で微調整を繰り返しながら、この課題に取り組んできたところです。その結果として施行技術の普及提案のために開催した現地検討会には、非常に多くの方々にお集まりいただく等、当署の取組が地域に浸透し始めたことを感じました。

      地域が抱える問題は、短期間で解決できるものもあれば、解決までに長い年月を要するものもあります。このため、短期間で解決できる課題については、日常業務の中で早期に解決を図り、解決までに長時間を要するものは、組織で計画的に考え、職場内外での合意形成から協力体制が必須となります。もちろん、これらのことは到底一人でできることではありませんから、効率的に進められるよう近隣森林管理署等の森林技術指導官や署内職員と連携していくことにしています。
      今はまだまだ発展途上ですが今後も地域の方々のお役に立てるよう、できることから少しずつ進めていきたいと考えています。


    「上川地域国有林野等所在市町村長有志協議会」にて

    上川中部森林管理署 地域林政調整官 川﨑 文圭

    お問合せ先

    上川中部森林管理署

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