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北海道森林管理局

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    木質バイオマス資源の安定供給に向けた取組

    上川南部森林管理署(平成29年3月)

    上川南部森林管理署では、地域の課題解決に向けた様々な取り組みを行っており、今回は木質バイオマス資源の安定供給と低コスト造林の推進についてご紹介します。

    上川南部地域の現状

    上川南部森林管理署は南富良野町に位置し、管轄区域は上富良野町、中富良野町、富良野市、南富良野町、占冠村の1市3町1村に及びます。
    管内には、石狩山地、夕張山地および日高山脈が接する山岳地帯と、畑作地帯である富良野盆地が広がっています。また、山岳地帯は、日本海に注ぐ石狩川水系空知川と太平洋へ注ぐ鵡川水系鵡川の源流部となっています。
    その中には十勝岳、富良野岳、芦別岳、夕張岳などの雄大な山々が多く、優れた自然に恵まれていることから、大雪山国立公園や富良野芦別道立自然公園に指定されている地域が多くあります。
    また、自然景観に優れ、森林浴や自然観察、野外スポーツに適した森林として森林レクリエーションを楽しむことができます。


    富良野岳


    夕張岳

    当署管内の森林面積は国有林、道有林、市町村有林、私有林を含め16万9千ヘクタールであり、人工林率は26%です。
    国有林面積はその内の約68パーセントを占める11万5千ヘクタール、人工林率は26%となっています。

    課題解決に向けた取り組み(木質バイオマス資源の安定供給)

    活動の背景

    再生可能エネルギー源である木質バイオマスに大きな注目が集まっている現在、道内各地で木質バイオマス大規模発電施設の導入が計画されております。
    地元南富良野町では、熱利用を目的とした木質バイオマス利用施設が増加していることに加え、バイオマス発電施設への燃料供給を目的とした木質チップ工場が新設されたことから、資源の安定供給を求める声が強くなっています。
    また、同町では森林・林業の理想を求め、一般民有林の「目指すべき目標」や「進むべき方向」を定めるために有識者や関係者の方々と議論を重ねた『南富良野町森林・林業マスタープラン』を策定しています。
    町内の森林面積の多くを占める国有林としても、資源の安定供給やマスタープランの達成に協力すべく、地域と連携して木質バイオマス資源の有効利用に関する勉強会、現地検討を行っています。
    また、上川地域では、今後、木質バイオマス全体の需要量が大きく増えることへの対応が急務であり、必要な原材料を安定的に供給できるシステムの構築が必要であることから、森林管理署、上川総合振興局、市町村、森林組合、木質バイオマス需用者等により「上川管内木質バイオマス安定供給協議会」を設置し検討を行っています。
    当署としても木質バイオマスの熱利用、発電用燃料の安定供給に対応するため、南富良野町森林組合に導入されたバイオマス対応型フォワーダのより効率的な活用方法の検討、木質バイオマス資源の有効利用を考えた間伐の団地化に取り組んでいます。


    南富良野町小学校のバイマスボイラー

    バイオマス対応型フォワーダの活用方法の検討

    取り組みの概要

    地元南富良野町では、熱利用を目的とした木質バイオマス利用施設が増加していることに加え、バイオマス発電施設への燃料供給を目的とした木質チップ工場が新設されたことから、資源の安定供給を求める声が強くなっています。
    南富良野町森林組合がバイオマス対応型フォワーダを導入したことから、当署としてどのように対応していくべきかを様々な方向から検討を進めるため、平成26年6月に「上川南部森林管理署バイオマス検討プロジェクトチーム」を設置しました。
    メンバーは署長、森林技術指導官、資源活用担当者、業務グループの各森林整備官、各森林官です。


    バイオマス検討プロジェクトチーム会議


    バイオマス対応型フォワーダ現地検討会

    平成27年度にはバイオマス対応型フォワーダの集荷方法を検討するために、北海道立総合研究機構林業試験場、上川総合振興局、南富良野町、南富良野町森林組合と連携してバイオマス検討プロジェクトチーム会議を開催し、林地残材の販売可能性を見極めるために、バイオマス対応型フォワーダの功程調査を実施しました。
    作業システム毎に分析を行なった結果、コスト試算において約4,500円で土場に集積が可能であり、低い集積コストであることが立証できました。

    南富良野町森林組合が導入したバイオマス対応型フォワーダのベースマシン(M社製)
    • バイオマス対応型フォワーダ

    作業路網の発達に伴い、フォワーダによる用材(丸太)の運搬性能の向上が求められています。同様に、林業バイオマスの運搬においても低コスト化を目指したフォワーダの性能向上が不可欠であり、加えて端材・枝葉・チップなど形状がばらばらであり、嵩張る林業バイオマスを可能な限り積載しなければなりません。そこで、用材を積載する機能はそのままに、嵩高い末木や枝葉などをできるだけ多く積載するため、荷台フレームが伸縮し、横方向および上方向から圧縮することによって積載量を確保することができる圧縮機能を装備したバイオマス対応型フォワーダを開発しました(写真3)実際の作業現場において林業バイオマスを荷台に満載する試験(写真4)を行った結果、2.2~3.3トンの積載が可能であることが確認されました。
    これらの機械を用いることによって、用材とバイオマスという森林資源を統合的に扱うトータル収穫作業システムが確立でき、安価な原料供給、供給量の安定化により、森林資源の利用率増加だけでなく、林業収益性の改善も期待できます。


    写真3 バイオマス対応型フォワーダ(林業バイオマスを荷台フレームで圧縮できる)


    写真4 林業バイオマス圧縮運搬作業

    ※森林総合研究所 平成23年度研究結果より引用



    功程調査の内容

    功程調査では、間伐を行った際に発生した作業道脇に積まれた林地残材の搬出について、バイオマス対応型フォワーダと一般的なフォワーダの作業時間と運搬重量を調査し集積コストを以下項目について比較しました。

    作業の仕組み

    前処理
    積込み
    運搬
    荷下ろし
    巻立て

    使用機械

    バイオマス対応型フォワーダ
    クローラダンプ
    グラップルローダ(先山)
    グラップルローダー(土場)

    作業仕組

    パターンA:全ての作業を、バイオマス対応型フォワーダが行う。
    パターンB:積み込みをグラップルローダ、運搬と荷下ろしをバイオマス対応型フォワーダが行う。
    パターンC:グラップルローダとクローラダンプで行う。

     

    功程・費用の比較については、積み込みから荷下ろしまでバイオマス対応型フォワーダのみで行うパターンA(経費ADTあたり3,857円)が、効率的かつ経済的であることがわかりました。
    バイオマス対応型フォワーダは、搭載グラップルによる積載重量が少なかったものの、功程、費用の面から見てみると優位であること、グラップルローダーを使用しない、バイオマス対応型フォワーダ1台で作業を行うことで人件費を削減でき、運搬作業の功程が高いことを立証できました。
    なお、集積に要する経費の単位ADTあたり3,857円のADT(風乾重)とは自然乾燥させた状態の重さをトン単位にしたもので、間伐から功程調査までの期間において自然乾燥されたものとしてこの単位を使っています。
    この調査結果のADTあたり3,857円に間接費と末木枝条等林地残材の購入費を加え、絶乾比重0.7を乗じて立方メートルあたりに換算すると約4,500円となり、燃料用チップの原料としても活用されている製紙用原料材の販売価格と比べて低価格であるため、バイオマス対応型フォワーダを活用したこの作業システムは事業として利益を生むことができ林地残材を販売し有効利用できる結果となりました。



    今後の取り組みと課題

    この調査結果を集材システムとして取りまとめ「北の国・森林づくり技術交流発表会」、市町村森林計画推進チーム会議や上川地区バイオマス安定供給協議会において広く公開しています。
    今後はバイオマスフォワーダの活用に向けて、圧縮機能が十分発揮されるよう、搭載グラップルでの積み込み方法の改善が必要であること、グラップルが1台のみの作業仕組みや、機械運搬等の間接費も含めたコストの比較が必要だと考えています。
    特に、長い枝条のままでバイオマス対応フォワーダに積込むと荷台から飛び出してしまうため前処理の省力化が今後の課題であり、搭載グラップルを使って全ての作業が行うことが可能になれば効率的なシステムと言えます。

    木質バイオマス利用を視野に入れた団地化

    道内の木質バイオマス発電施設の建設・稼働が進む中、国有林に対しても相当規模の木質バイマス資源の安定供給が求められていることから、当署としては、伐捨間伐とせざるを得ないものを相当程度含む林分を対象に、路網からの距離と平坦地形を考慮して間伐物件を団地化し、木質バイオマス資源向けを想定した立木システム販売を予定しています。
    このような団地化を行うにあたっては、南富良野町、南富良野町森林組合、地元事業体とでバイオマス資源化に向けたイメージの共有、課題、問題点の把握を行うため現地勉強会と情報交換会を行いました。
    現地勉強会では需要者側より「列状間伐の伐採幅4mでは作業効率が低いため5~6メートル幅を要望」「小面積な民有林で普及の進んでいない列状間伐を普及させるためには施業面積の団地化(まとまり)が必要ある」などの意見が出され、今後解決していくべき地域課題が見えてきました。


    木質バイオマス資源現地勉強会


    南富良野町森林・林業に関する情報交換会

    課題解決に向けた取り組み(低コスト造林の推進)

    国有林・民有林ともに主伐期を迎えた人工林が、今後急速に増加すると見込まれる再造林地において、確実な更新を確保していくために再造林の低コスト化の実現が課題となっています。
    こうした中、再造林の低コスト化に向けた4つの取組を当署の国有林で実施しています。

    1. 「伐採と造林の一貫作業」
    2. 「コンテナ苗」
    3. 「低密度植栽」
    4. 「天然更新」

    伐採と造林(コンテナ苗植栽)の一貫作業

    一貫作業とは、伐採と造林の事業を一括発注し、全体の作業効率を向上させようとするものです。
    伐採で用いるグラップル(木材を掴んで荷役を行う)という機械を造林作業でも活用することができるため、伐採と造林で別々に機械運搬していたものをまとめることができ地拵コストを約2割削減できます。
    苗木はコンテナ苗を活用します。
    コンテナ苗は、根鉢が付いているために重くて嵩張り、裸苗よりも運搬に労力を必要とすることが課題でしたが、伐採で用いるフォワーダ(玉切りした短幹材をグラップルで荷台に積んで運ぶ集材専用の自走式機械)を活用して植栽箇所まで運搬することによって課題を解決することが可能です。
    コンテナ苗をフォワーダに積み下ろしする作業の功程調査を行って苗木運搬経費を試算したところ、人力で運搬する場合と比べて約8割削減できる結果が得られ、根鉢の損傷率も少なくなりました。


    グラップルによる地拵


    フォワーダによるコンテナ苗木運搬

    コンテナ苗(特殊な形のコンテナ容器を使って育てた根鉢(土曜日)付きの苗木)

    伐採と造林を効率的に行うために一貫作業を行う場合であっても、裸苗では植栽適期が春と秋に限定されてしまうデメリットがあります。
    一方コンテナ苗は裸苗の適期以外でも植栽できるとされているため、作業期間が長く設定できると考えられます。
    そこでコンテナ苗の特性を活かし、またその事実を検証するため夏期に植栽を試みて、その後の活着率と生長量を調査してきました。
    活着率調査の結果はトドマツは、98.7%、カラマツも、94.5%という好成績を示していて夏期植栽が十分可能であると考えます。
    以上のことから、コンテナ苗の使用により植付時期を拡大することができ、これは一貫作業において有効であると言えます。
    生長量調査の結果は根元径も苗長もトドマツ・カラマツ共に順調に大きくなっています、特にカラマツの平均の苗長は80cmに達し、競合する草本類と同程度以上のものが大半です、どちらの樹種も今年度は下刈を実施しておりませんが、カラマツは来年度以降も不要となる可能性があり、下刈の省略化が期待できます。


    苗長1メートル以上のカラマツ


    コンテナ苗

    低密度植栽

    植栽本数を減らして低コスト化に繫がるか検証するため、ヘクタールあたりの植栽本数をトドマツでは1,800本と900本、カラマツでは1,500本と750本での植栽を実施しました。
    一般的な本数を植栽した場合と、低密度植栽した場合の施業体系を想定して主伐までのトータルコストを試算し、どの程度の違いが生まれるのかを比較しました。
    トドマツの場合、裸苗を3,000本植栽するパターンを基準として、一貫作業によりコンテナ苗を用いる場合の3パターンを比較したところ、地拵から間伐までのコストは最終的には基準に対して1,800本で16パーセント、900本では58パーセントのコストカットが見込めました。
    カラマツの場合、裸苗を2,500本植栽するパターンを基準として、それとコンテナ苗を用いた場合の3パターンを比較したところ、コンテナ苗は裸苗の3倍の単価であることが影響して1,500本まで本数を減らしても植栽経費は下がりませんでした。
    最終的には基準に対して1,500本では4パーセント、750本では44パーセントのコストカットを見込めました、低密度植栽はこのようなコスト面の他、色々なメリットが期待される一方でデメリットも報告されているところですので、今後も生長調査を継続し検証していきたいと考えています。

    天然更新

    表土を剥ぎ取ることで笹類を根茎ごと除去(地がき)し植栽を行わず付近の立木から自然に種子が落ち発芽を待つ更新(天然下種更新)は、苗木代等の経費を削減でき低コスト化に繫がることが期待されています。
    カラマツ林帯状伐採箇所において、天然更新しやすい環境を作るためにはB層(表土の下にある、下層土と呼ばれる層)を露出させる地がきが必要であるとの、林業試験場道東支場からの助言を参考にして表土を除去した地がきを実施しました。
    この結果、翌年春には実生((みしょう)とは、種子から発芽したばかりの植物)が確認でき、秋には20メートル近くまで大きくなっている個体もありました。
    また、伐採した当時は種子が豊作でなかったことから、周辺の母樹に着果を促進する技術とされている環状剥皮を行いました、これには、北海道育種場の指導を受けながら、森林技術・支援センターと当署職員協同で実施し、その効果についても検証していくことになっています。


    B層を露出させる地がき

    このように4つの取組を効果的に組み合わせることで、デメリットが解消され、再造林の低コスト化へ前進していくことができるものと考えます。
    得られた成果を次の事業に反映させながら、これらの解決再造林の低コスト化に向けた取組を推進していきます。

    国有林フォレスターとして

    市町村の森林づくりのマスタープランを確実に実行していくために組織されている「市町村森林整備計画実行管理推進チーム」において当署の国有林をフィールドを使ってコンテナ苗植栽現地勉強会を開催するなど振興局上川南部森林室と連携して関係市町村担当者、森林組合、指導林家、青年林業士等を対象にコンテナ苗の説明と各種植付器具のよる植栽体験を実施したことにより、関係市町村担当者、森林組合等にコンテナ苗の種類や植栽上のメリット等を認識してもらえることができました。
    また、木質バイオマス検討プロジェクトチーム会議を開催して、伐採・再造林における資源の有効活用・低コストと民有林林業への普及・啓発を図るため、上川総合振興局、管内市町村、富良野森林組合、南富良野森林組合、北海道森林管理局、旭川地区の森林管理(支)署、林業事業体、旭川地方森林整備事業協同組合、道立林業試験場、森林総合研究所等を対象に現地検討会を企画して準備を重ね、9月下旬に開催予定でしたが、台風10号による大きな被害のため中止とせざるを得ませんでした。
    現地検討会において配布予定の説明資料については関係機関に送付するとともに、推進チーム会議の中で説明、発表を行ったことにより、関係市町村担当者、森林組合等に木質バイオマスの効率的な集材に関して関心を持ってもらえたと思います。


    森林整備計画実行管理推進チーム現地研修


    占冠村との林政連絡会


    上川南部森林管理署
      森林技術指導官  国沢修




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    お問合せ先

    上川南部森林管理署

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