
平成5年11月26日
環 境 庁
農林水産省
建 設 省
第1 事業の目標
タンチョウは、現在、北海道東部の湿地で繁殖し、冬期にはほとんどの個体が釧路地域で越冬している。一時は絶滅したものと考えられていたが、大正時代に十数羽が再発見されて以来、給餌等の成果により、個体数が増加してきており、平成5年現在、約600羽にまで回復した。しかし、本種の生息地、特に越冬地が北海道東部の一部の地域に集中していること、冬期の餌は給餌に依存していること等から、安定した存続が確保されたとは言えない状況にある。
本事業は、本種の生息のための諸条件を改善し、繁殖地及び越冬地の分散を図ることにより、本種の個体群の規模及び分布の拡大を図り、本種が自然状態で安定的に存続できるような状態になることを目標とする。
第2 事業の区域
北海道
第3 事業の内容
1 生息地における生息・繁殖条件の改善及び生息環境の整備
(1) 生息・繁殖条件の改善(給餌)
現状では冬期の餌が不足していることから、給餌を継続する。この際、飼料の安全性の確保、給餌に対する依存度の低減
及び農作物に対する被害防除の観点から、給餌量、給餌期間、給餌場所等の検討を行い、適切な給餌が実施されるよう
努める。
(2) 生息環境の整備
本種が自然状態で安定して生息、繁殖できるよう、湿地等の生息環境を維持し、改善するための整備を行う。
具体的には、その効果的な実施方法を検討しつつ、営巣・育雛の場として重要な湿地、越冬期にねぐら及び自然採餌地と
して利用されている河川や湧水池等について、生息環境の維持・改善を図る。
2 繁殖地及び越冬地の分散の促進
現在の分布域内では、繁殖の適地が不足しているとともに、冬期にはねぐらや給餌場への過度の集中の傾向がみられ、伝染
病の発生や農作物被害の拡大のおそれがあることから、繁殖地及び越冬地の分散を促進するための方策を検討し、関係者の
理解を得つつ、実施する。
3 飼育下での繁殖
伝染病等による野外の個体群の急激な減少に備えるために、適切な施設において繁殖を行い、飼育下での個体の集団の維
持、充実を図る。この際、飼育下で生まれた個体の生息適地への導入についても技術の開発を進める。
4 生息状況の把握のための調査
保護増殖事業の適切かつ効果的な実施のために、本種の分布、行動圏、生息・繁殖状況等に関して継続的な調査を実施す
る。また、標識の装着等により個体を識別し、性別、来歴等の個体の情報の収集・整備を進める。
5 その他
(1) 農作物に対する被害防除対策
繁殖期に入っても給餌場付近に残留する若鳥群による農作物の被害が生じているため、追い払い、自然採餌地への分散
の促進等の被害防除策を検討し、適切な対策を講ずる。
(2) 事故防止対策
特に多数の個体が集合する給餌場周辺において、送電線への接触や交通事故等の事故防止のため、関係者の理解と協
力を得つつ、施設の改善、注意標識の設置等の対策を講ずる。
(3) 傷病個体の取扱い
保護収容された傷病個体については、野外での生活が可能な状態に回復した場合は、放鳥場所の環境条件を検討し、原
則として野外へ帰すものとする。野生復帰が困難な場合は、飼育下での繁殖に活用する。
(4) 生息地における監視等
本種の生息、繁殖に悪影響を及ぼす行為を防止するため、必要に応じて、生息地における監視や制札、保護柵等の整備を
行う。
(5) 普及啓発の推進
本種の保護増殖事業を実効あるものとするためには、関係地域の住民や関係機関を始め広く国民の理解と協力が不可欠
である。そこで、本種の生息状況及び保護の必要性、保護増殖事業の実施状況等についての普及啓発を推進するととも
に、地域の自主的な保護活動の展開が図られるよう努める。
(6) 事業者間の連携の確保
本事業の実施に当たっては、それぞれの事業者において、相互の連携が図られ、全体として事業が効果的に推進される
よう努める。
お問合せ先
計画保全部計画課ダイヤルイン:050-3160-6283