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第1部 特集 第2節 多様化する森林との関わり(1)


森林は、その自然条件や地域の実情に合った形で適切に整備・保全されることで、SDGsの様々な目標に貢献する。環境問題や地域活性化など持続可能性への関心の高まりから、林業・木材産業に加え、様々な主体による森林との多様な関わり方が広がりつつあり、これが森林の整備・保全や地域活性化にもつながっている。このことは、市民や企業の参画やパートナーシップを奨励するSDGsの精神とも合致している。

本節では、これらの森林との多様な関わりについて、森林の整備、森林資源の利用、森林空間の利用という分類を行った上で、関わり方の類型ごとに関係するSDGsの目標のアイコンを提示しながら、事例を中心に紹介する。

(1)森林の整備に関わる取組

森林は、その多面的機能の発揮を通じ、目標15を中心にSDGsの様々な目的に貢献している。また、森林は、様々な生物が生育し、土壌を保全し(目標15)、水を育み(目標6)、豊かな海を作り(目標14)、気候変動対策に貢献し(目標13)、山地災害を防止する(目標11)。

このように、森林が多面的機能を持つことについては、国民の間にも理解が広がりつつあり、現在、様々な主体が森林の整備にも関わるようになっている。


(ア)様々な主体による森林もりづくり活動

森林もりづくり活動の増加)

森林づくり活動の増加

森林の整備は主に森林所有者や林業経営体が主体となって実施している(*17)が、森林保全や地球温暖化等の環境問題への関心の高まり等から、非営利団体(NPO)や企業等の多様な主体による森林もりづくり活動が広がっている。

森林もりづくり活動を実施している団体や企業の数は、この10年で増加している(*18)。団体の活動としては、里山林等の身近な森林の整備・保全や森林環境教育に関するものが多い。また、企業の取組としては、職員に加え顧客や地域住民と一緒になって行う森林整備活動や、森林環境教育、森林もりづくり活動を行うNPOへの支援等がある。これらの活動の目的としては、社会貢献に加え、地域との交流を挙げる企業も多い(*19)。

具体的には、森林が水を育むことに着目し、水を原料とする飲料メーカーが森林整備を行う事例として、サントリーホールディングス株式会社では、「工場で汲み上げている地下水の2倍以上の水を森で育む」という目標を掲げ、令和元(2019)年時点で、この目標の達成に必要な約1万2千haの水源の森を守っている。この活動は、商品生産の持続可能性を守るための活動として位置付けられており、企業のブランド価値向上にも役立っている(事例 特-1)。

事例 特-1 飲料メーカーによる100年後を見据えた森づくり

サントリー関連施設での木材利用

サントリーホールディングス株式会社では、「水と生きる」という言葉を社会との約束に掲げて、平成15(2003)年から「サントリー天然水の森」の整備を始め、令和2(2020)年3月末現在、全国21か所約1万2千haの森林において間伐や植林等の森林整備に取り組んでいる。活動の背景には、主力商品であるビール・清涼飲料・ウイスキー等の生産に用いる地下水の安全・安心や持続性を守るためには、「水の製造所」である森の健全性を確保したいとの考えがあり、会社の基幹事業として位置付けられている。

森林整備に当たっては、どうすれば水源かん養機能の向上や生物多様性保全に寄与するかを明らかにするため、水文、地質、気象、植生や動物の生態等を専門家とともに調査している。これを踏まえて、森林ごとに100年先の目指すべき森の姿を定めた後、年度ごとの施業計画を策定している。

その施業は地元の森林組合や林業事業体に委託しており、森林・林業に関するノウハウを共有する機会を作り、地元の森林技術者の育成にも寄与している。

また、同社は、森林内で小学生向けの環境教育を実施する、森林整備により生産した間伐材を会社の施設の床材やテーブル等で活用するなど、多様な主体と連携し、森林整備から木材利用までを一体とした取組を行っている。


また、JX石油開発株式会社は、中条油業所(新潟県胎内たいない市)周辺の海岸林の保全に取り組んでいる(*20)。この地域では、海岸林が風、飛砂及び飛塩から住民の生活を守ってきた。しかし、松くい虫の被害による海岸林の荒廃が見られるようになったことから、平成10(1998)年から、社員のボランティア活動により松林の再生に取り組んできた。平成23(2011)年には、ボランティア活動を発展させる形で、胎内たいない市や中村浜なかむらはま地区と協定を結び「JX中条の森」を開設し、社員やその家族に加え、住民にも参加してもらいながら、アカマツやクロマツの植栽、保育作業を実施している。

宮城県気仙沼けせんぬま市では、「森は海の恋人」というスローガンを掲げて、漁業関係者が中心となった森づくり活動を続けている(*21)。この活動は、昭和40年代から昭和50年代にかけて、気仙沼けせんぬま湾で赤潮が発生し、赤潮プランクトンを吸って赤くなったカキが廃棄処分を受けたことから始まったものである。この際、川によって運ばれる森の養分がカキの餌となる植物プランクトンを育んでいることなど、海における森林の重要性が認識された。毎年6月に植樹祭が実施されており、これまでに約3万本の落葉広葉樹の植樹が行われている。

社有林等で、絶滅危惧種等の保全に取り組む企業もある。国内各地に社有林を所有する王子グループは、絶滅危惧種の魚類(イトウ)や鳥類(ヤイロチョウ)の保護活動を公益法人等と協力して実施している(*22)。日本製紙株式会社は、公益法人と協働して鳥類(シマフクロウ)の生息地の保全と事業の両立に取り組む(*23)とともに、西表島いりおもてじまの国有林において、林野庁及びNPO法人のそれぞれと協働し、緊急対策外来種に指定されている植物(アメリカハマグルマ)の駆除活動を行っている。

また、このような民間企業による森林もりづくり活動は海外にも広がっている。楽器メーカーであるヤマハ株式会社は、自社製品に係る持続可能な原料の調達等を目指し、開発途上国での森林保全や整備を行っている(事例 特-2)。

事例 特-2 希少木材を持続的に利用するための、タンザニアでの森林保全活動

東アフリカを主要産地とする「アフリカン・ブラックウッド(通称グラナディラ)」という木は、高密度で硬く、音響的に優れた特性を持つ。このため、クラリネット、オーボエ等の木管楽器の材料として使用されてきたが、近年その資源量が減少しており、その生産の持続性が懸念されている。

ヤマハ株式会社は、この希少な木材を持続的に利用していくため、アフリカ東部のタンザニアで、FSC認証森林を管理運営している現地NGOと協力しながらアフリカン・ブラックウッドの資源量及び立地環境を調査し、楽器に適した良質材育成のための森林管理技術の開発等を行い、ノウハウを伝達している。さらに、地域社会が自発的に森林管理を行うことが重要と考え、木材調達及び植林事業により資源の有効活用及び保全を両立させ、現地住民の雇用創出・生計向上に寄与している。

このような活動により、アフリカン・ブラックウッドを中心とした森林の持続的管理体制の構築を図り、木管楽器の原料の安定的な調達を目指している。



(*17)森林保有の現状、林業経営体の動向について詳しくは、第2章第1節(2)111-117ページを参照。

(*18)団体数は平成18(2006)年から平成30(2018)年で1.8倍に、企業による森林づくりの実施箇所数は平成20(2008)年から平成30(2018)年で1.8倍に増加(詳しくは、第1章第2節(2)74ページを参照)。

(*19)企業の取組の目的について詳しくは、特集第3節の資料 特-21(32ページ)を参照。

(*20)JX石油開発株式会社プレスリリース「新潟県胎内市において森林保全ボランティア「JX中条の森づくり活動」を実施」(令和元(2019)年9月25日付け)

(*21)NPO法人森は海の恋人ホームページ

(*22)王子ホールディングス株式会社 (2019) 王子グループ統合報告書2019: 74

(*23)日本製紙株式会社 (2019) 日本製紙グループCSR情報2019: 37



(募金・資金提供による森林もりづくり、林業への寄与)

このような直接的な森林もりづくり活動への参画に加え、募金や資金提供を通じて企業や個人が森林もりづくりを支援する動きもみられる。例えば、昭和25(1950)年に始まった「緑の募金」には、平成30(2018)年に総額21億円の寄附金が寄せられ、森林の整備・保全等に活用されている(*24)。

また、企業が基金を設立するなどして、個々の森林組合やNPO等に直接支援する例もあり、森林の整備・保全活動に対しての寄附に加え、森林整備を担う人材育成への支援を行う例もみられる。岩手県の釜石かまいし地方森林組合は、バークレイズグループから支援を受け、「釜石かまいし大槌おおつちバークレイズ林業スクール」を平成27(2015)年から令和元(2019)年まで開講した(*25)。このスクールでは、地域の森林を総合的にデザインできる人材を育成する観点から、マーケティングやIT等もカリキュラムに組み込まれている。このため、近隣地域の林業関係者のスキルアップのみならず、受講後に林業団体・企業にU・Iターンしたり、林業関係のNPO法人を設立したりする者もみられるなど、森林整備の人材育成に広く寄与している。

さらに、企業活動により排出される二酸化炭素を埋め合わせるため、森林経営活動等による吸収量をクレジットとして購入する取組も、間接的な森林もりづくり活動として行われている(*26)。


(*24)詳しくは、第1章第2節(2)76-77ページを参照。

(*25)釜石地方森林組合ホームページ「釜石・大槌バークレイズ林業スクール」

(*26)詳しくは、第1章第2節(2)77ページを参照。



(イ)他分野の企業と林業との協働

(イ)他分野の企業と林業との協働

SDGsでは、パートナーシップや協働による問題解決のアプローチを推奨しているが、自社の得意分野を活かして、林業分野の労働力不足や効率化等の課題解決に関わる企業も出てきている。


(他業種の技術・知見を活かした取組)

林業機械の開発や森林資源情報の把握の分野において、他業種の技術・知見が活用されつつある。

例えば、レーザ計測等による森林資源情報の把握については、測量関連企業やIT関連企業が技術開発を行っており、地上型のレーザ計測システムについても、ロボットやITの技術を持つ企業が開発し、実用化している。

また、林業機械メーカーであるイワフジ工業株式会社においても、AIの開発を行っている企業と協力して、架線集材作業を自動で行う機械など作業の安全性確保や効率化に資する機械の開発を進めている。

産学官が連携してプロジェクトを実施している例もあり、長野県の北信州森林組合では、信州大学、長野県、アジア航測株式会社等とともに、平成28(2016)年12月に産学官連携コンソーシアムを立ち上げ、情報通信技術(以下「ICT」という。)を活用したスマート林業の推進と普及に取り組んでいる。具体的には、森林所有者及び境界データが入ったGISを基に、航空レーザ計測、ドローン等のICT技術で取得した様々なデータを組み合わせ、収穫計画等の実務に応用している。このような取組の結果、採材計画の作成時間が従来の3分の1に短縮され、森林所有者への利益還元につながるなどの成果をあげている(*27)。

また、石川県は、平成26(2014)年2月にコマツと石川県森林組合連合会との3者協定を締結し、森林資源調査でのドローンの活用や、伐木造材時に丸太の材積等を自動計測するIoTハーベスタの活用等の検証を進めている。また、空中写真から作成した3D画像を境界の確認に用いることにより、確認作業にかかる日数の削減を目指している。

林野庁においても、令和元(2019)年度、林業人材とICTなど異分野の人材がチームを作って造林分野の課題解決のためのビジネスプランを競う課題解決型事業共創プログラム「Sustainable Forest Action」を実施した。このプログラムでは、参加チームが約2か月間、新たなビジネスモデルの検討を行った上で、発表会において優秀と認められたチームに対し、プロトタイプ開発や実証等の事業化へ向けた更なる活動を支援している(*28)。


(*27)林野庁(2019)平成30年度スマート林業構築普及展開事業事例集: 3.

(*28)詳しくは、第2章第1節(4)の事例2-4(137ページ)を参照。



(林業コンサルタント)

森林資源が充実し伐採量が増加する一方、高齢化により熟練の林業従事者が退職していく中で、経営を効率化し生産性を上げることは重要であり、自社の強みを活かし、この観点からコンサルティングのニーズを開拓している企業もある。

住友林業株式会社は、自ら手掛ける森林経営で培った経験とノウハウを活用し、市町村や民間企業に対して、ICTの導入支援や森林整備計画の作成、地域材のサプライチェーン構築等のコンサルティングを行っている。林業・木材産業に特化したコンサルタント企業も活動しており、例えば株式会社古川ちいきの総合研究所は、立地・規模・ブランドの視点で地域資源を分析し、市町村の林業を活かしたビジョンの策定、林業・木材産業に関わる企業(事業体)の経営力の向上、人材育成、採用・定着、商品開発、独自販路の開拓等の支援をしている。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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