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林野庁

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第1部 第3章 第2節 木材利用の動向(2)

(2)建築分野における木材利用

(建築分野全体の木材利用の概況)

我が国の建築着工床面積の現状を用途別・階層別にみると、1~3階建ての低層住宅の木造率は8割に上るが、4階建て以上の中高層建築及び非住宅建築の木造率はいずれも1割以下と低い状況にある(資料3-22)。このことから、住宅が木材の需要、特に国産材の需要にとって重要であるとともに、中高層及び非住宅分野については需要拡大の余地がある。

資料3-22 階層別・構造別の着工建築物の床面積

(ア)住宅における木材利用

(住宅分野は木材需要に大きく寄与)

我が国の新設住宅着工戸数は、昭和48(1973)年に過去最高の191万戸を記録した後、長期的にみると減少傾向にあり、平成21(2009)年の新設住宅着工戸数は、昭和40(1965)年以来最低の79万戸であった。平成22(2010)年以降、我が国の新設住宅着工戸数は4年連続で増加した後、平成26(2014)年は前年比9%減の89万戸となったが、平成30(2018)年は前年比2%減の94万戸となっている。

木造住宅の新設住宅着工戸数についても、昭和48(1973)年に112万戸を記録した後、全体の新設住宅着工戸数と同様の推移を経て、平成30(2018)年は前年比1%減の54万戸となっている。また、新設住宅着工戸数に占める木造住宅の割合(木造率)は、平成21(2009)年に上昇して以降はほぼ横ばいで、平成30(2018)年は57%となっている(資料3-23)。そのうち、一戸建住宅における木造率は90%と高い水準にある(平成30(2018)年)。一方、共同住宅では18%となっている。その中で、木造3階建て以上の共同住宅の建築確認棟数は近年増加しており、平成25(2013)年の755棟から、平成30(2018)年には3,604棟となっている(資料3-24)。平成の初期と比較すれば全体として減少はしているものの、住宅分野は依然として木材の大きな需要先である。


我が国における木造住宅の主要な工法としては、「在来工法(木造軸組構法)」、「ツーバイフォー工法(枠組壁工法)」及び「木質プレハブ工法」の3つが挙げられる(*68)。令和元(2019)年における工法別のシェアは、在来工法が77%、ツーバイフォー工法が21%、木質プレハブ工法が2%となっている(*69)。在来工法による木造戸建て注文住宅については、半数以上が年間供給戸数50戸未満の中小の大工・工務店により供給されたものであり(*70)、中小の大工・工務店が木造住宅の建築に大きな役割を果たしている。


(*68)「在来工法」は、単純梁形式の梁・桁で床組みや小屋梁組を構成し、それを柱で支える柱梁形式による建築工法。「ツーバイフォー工法」は、木造の枠組材に構造用合板等の面材を緊結して壁と床を作る建築工法。「木質プレハブ工法」は、木材を使用した枠組の片面又は両面に構造用合板等をあらかじめ工場で接着した木質接着複合パネルにより、壁、床、屋根を構成する建築工法。

(*69)国土交通省「住宅着工統計」(令和元(2019)年)。在来工法については、木造住宅全体からツーバイフォー工法、木質プレハブ工法を差し引いて算出。

(*70)請負契約による供給戸数についてのみ調べたもの。国土交通省調べ。



(住宅分野における国産材利用拡大の動き)

住宅メーカーにおいては、米マツ等の外材の価格上昇の影響もあり、国産材を積極的に利用する取組が拡大している(事例3-3)。

また、平成27(2015)年3月には、ツーバイフォー工法部材のJASが改正(*71)され、国産材(スギ、ヒノキ、カラマツ)のツーバイフォー工法部材強度が適正に評価されるようになった。さらに、九州や東北地方においてスギのスタッド(*72)の量産に取り組む事例がみられるなど、国産材のツーバイフォー工法部材の安定供給体制も整備されつつある(*73)。

これらの取組により、これまであまり国産材が使われてこなかったツーバイフォー工法において、国産材利用が進んでいる。

事例3-3 住宅メーカーによる国産材利用拡大に向けた取組

三菱地所ホーム株式会社は、森林資源の適正な利用と林業の持続的かつ健全な発展を図るため、これまで構造用合板や土台において国産材を採用してきた。

平成27(2015)年ツーバイフォー工法部材のJAS規格の改正、構造計算指針等の改定など、輸入材以外でもツーバイフォー工法の設計がしやすい環境が整ってきたこと、JAS規格品を安定的に調達できるルートを構築できたことから、平成30(2018)年11月以降の受注物件から、ツーバイフォー工法による新築注文戸建住宅において、壁枠組の縦枠及び上下枠に国産材を全棟標準採用(注1)した。同社の試算によると、1棟当たりの国産材使用率は82%(注2)を達成することとなる。

同社は、「合法木材、国産木材を積極的に活用した住宅仕様の採用」を促進し、持続可能な社会の実現に貢献していくとしている。


注1:一部商品を除く。

2:同社商品ONE ORDERによる試算。

資料:三菱地所ホーム株式会社プレスリリース「新築注文住宅事業における国産材の利用促進 壁枠組に国産材を全棟標準採用」(平成30(2018)年10月16日付け)


構造材の国産材使用率

(*71)「枠組壁工法構造用製材の日本農林規格の一部を改正する件」(平成27年農林水産省告示第512号)

(*72)ツーバイフォー工法における間柱。

(*73)取組の事例については、「平成30年度森林及び林業の動向」第4章第3節(2)の事例4-8(199ページ)を参照。



(地域で流通する木材を利用した家づくりも普及)

平成の初め頃(1990年代)から、木材生産者や製材業者、木材販売業者、大工・工務店、建築士等の関係者がネットワークを構築し、地域で生産された木材や自然素材を多用して、健康的に長く住み続けられる家づくりを行う取組がみられるようになった(*74)。

林野庁では、平成13(2001)年度から、森林所有者から大工・工務店等の住宅生産者までの関係者が一体となって、消費者の納得する家づくりに取り組む「顔の見える木材での家づくり」を推進している。平成30(2018)年度には、関係者の連携による家づくりに取り組む団体数は561、供給戸数は18,271戸となった(資料3-25)。


また、国土交通省では、平成24(2012)年度から、「地域型住宅ブランド化事業」により、資材供給から設計・施工に至る関連事業者から成るグループが、グループごとのルールに基づき、地域で流通する木材を活用した木造の長期優良住宅(*75)等を建設する場合に建設工事費の一部を支援してきた。平成27(2015)年度からは「地域型住宅グリーン化事業」により、省エネルギー性能や耐久性等に優れた木造住宅等を整備する地域工務店等に対して支援しており、平成31(2019)年3月現在、794のグループが選定され、約9,000戸の木造住宅等を整備する予定となっている。

総務省では、平成12(2000)年度から、都道府県や市町村による地域で流通する木材の利用促進の取組に対して地方財政措置を講じており、地域で流通する木材を利用した住宅の普及に向けて、都道府県や市町村が独自に支援策を講ずる取組が広がっている。平成30(2018)年8月現在、38府県と275市町村が、本制度を活用して地域で流通する木材を利用した住宅の普及に取り組んでいる(*76)。


(*74)嶋瀬拓也(2002)林業経済, 54(14): 1-16.

(*75)構造の腐食、腐朽及び摩損の防止や地震に対する安全性の確保、住宅の利用状況の変化に対応した構造及び設備の変更を容易にするための措置、維持保全を容易にするための措置、高齢者の利用上の利便性及び安全性やエネルギーの使用の効率性等が一定の基準を満たしている住宅。

(*76)林野庁木材産業課調べ。



(イ)非住宅・中高層分野における木材利用

(非住宅・中高層分野における木材利用の概要)

木造住宅については、近年55万戸程度で横ばいで推移しているものの、住宅取得における主たる年齢層である30歳代、40歳代(*77)の人口の減少(*78)や、住宅ストックの充実と中古住宅の流通促進施策の進展などにより、今後、我が国の新設住宅着工戸数は全体として減少する可能性がある。

このため、林業・木材産業の成長産業化を実現していくためには、中高層分野及び非住宅分野の木造化や内外装の木質化を進め、新たな木材需要を創出することが極めて重要である。

近年、新たな木質部材等の製品・技術の開発も進められてきており、中高層分野や非住宅分野で木材を利用できる環境が制度や技術面において整えられつつある。

例えば、建築物の木造・木質化に資する観点等から、「建築基準法」においては火災時の避難安全や延焼防止等のための、構造材としての木材の利用に対する制限について規模、用途、立地に応じて防耐火の基準が設けられているが、安全性を担保しつつ建築基準の合理化が進められている。

また、技術面では、CLTや木質耐火部材に係る製品・技術の開発が進んでおり、実際の建築物への利用がはじまりつつある(*79)。


(*77)国土交通省「平成29年度住宅市場動向調査」

(*78)総務省「国勢調査」

(*79)CLTや木質耐火部材に係る製品・技術の開発について詳しくは、第3章第3節(9)210-212ページを参照。



(低層非住宅における木材利用の事例)

低層の非住宅建築は多くが鉄骨造で建築されているが、小規模建築では戸建て住宅と同様の工法で建設できるものもある。店舗等では柱のない大空間が求められる場合があるが、大断面集成材を使わず、一般流通材(*80)でも大スパンを実現できる構法の開発等により、材料費や加工費を抑え鉄骨造並みのコストで低層非住宅建築物を建設できるようになってきている。プレカット事業も営む住宅資材の総合商社である株式会社マルオカ(長野県長野市)は、令和元(2019)年5月に、さいたま市内の営業所を、一般流通材を用いた3階建て木造事務所に建て替えた。プレカット工場での特殊加工を必要としない一般流通材を用いることを前提にした設計や、建築主、設計者、工務店の密な連携により、建築工事費は鉄骨造でつくるのに比べ同等以下に抑えている。


(*80)ここでは、住宅用に生産・流通しているサイズと長さと樹種の製材品を「一般流通材」としている。



(中高層建築物等における木材利用の事例)

中高層建築物等については、一般的に高い防耐火性能が求められるが、一定の性能を満たせば、木造でも建築することが可能となる。

一般流通材を用いて建設することにより建設コストを低減している事例があり、特に体育館やドーム等では天井を高くするなどの対応で木質耐火部材を用いない取組がみられる。大分県立武道スポーツセンター(大分県大分市)では、一般流通材を用い、コストを抑えた上で、屋根を支える約70mの梁を実現した。大分県産のスギ製材を用い、設計により耐火基準を満たし無垢材のはりあらわしにした木造耐火建築物となっている。

一方で、多くの中高層建築物では、耐火部材を使うことで耐火建築物としている。令和元(2019)年8月に完成した長門ながと市役所本庁舎(山口県長門ながと市)は、準防火地域に木造と鉄筋コンクリート造によるハイブリット構造の5階建てで建設された。木材は全て長門ながと市産材で、1~5階まで全て耐火木構造とし、特に1階のはりに2時間耐火部材を用いたのは全国初となる。木造と鉄筋コンクリート造のハイブリット構造にすることで、建物の重量を全て鉄筋コンクリート造にした場合の約77%に軽量化している。

欧米を中心として、CLTを壁や床等に活用した中高層建築物が建てられ、カナダでは18階建ての学生寮が建てられている。CLTは施工の容易さなどの利点があり、我が国においても中高層建築物での利用が期待される。

平成31(2019)年2月に完成したPARK WOOD 高森たかもり(宮城県仙台市)は、木造と鉄骨造を組み合わせた国内初の高層10階建ての集合住宅で、2時間耐火構造の木質耐火部材を柱の一部に、CLTを床及び耐震壁に使用している。木造化による建物の軽量化で、地盤・基礎が合理化され、また同時にその軽量性による施工効率の向上で、鉄筋コンクリート造に比べ3か月程度の工期短縮が実現している。

非住宅・中高層分野での木材利用の事例
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コラム 建築基準法における木造建築物に係る防火関係規定の変遷

「建築基準法」(昭和25年法律第201号)では、建築物の火災から人命、財産を保護するため、各種の防火関係規定が定められている。

木造建築物についても、例えば、防火上重要な柱、はり、壁等の主要構造部については、火災による倒壊等による周囲の建築物への加害を防止するため、その規模に応じた規定が定められている。そのほかにも、不特定や多数の者が利用する建築物(店舗、学校、共同住宅等)については、建築物の倒壊や延焼の防止による在館者の避難安全の確保のため、また、都市部で指定される防火地域等における一定規模以上の建築物については、周囲の建築物への延焼等による市街地火災を防止するため、それぞれ、火災による火熱に対して一定の性能を有することが求められる。

防火関係規定は、木造建築物について、過去の火災の経験からその利用を制限してきた一方、木材利用の観点から、技術的に安全が確認できたものについて合理化が進められてきた(表)。

例えば、昭和62(1987)年の改正では、従来、一定規模(高さ13m等)を超える木造建築物は禁止されていたところ、火災時の燃え残り部分で構造耐力を維持できる厚さを確保する燃えしろ設計が導入され、一定の技術的基準に適合する大断面木造建築物が可能となった。

また、平成10(1998)年の改正では、性能規定化によって木造の耐火建築物が可能となり、主要構造部の木材を防火被覆等により耐火構造とする方法のほか、設計上の工夫により、耐火性能検証法や大臣認定による高度な検証法を用いる方法が位置付けられた。これらの検証法は天井への延焼を防ぎやすい広い空間のある体育館やドーム建築で採用されることが多い。

直近では、平成30(2018)年の改正において、耐火構造等としなくてよい木造建築物の規模について、高さが13m以下から16m以下へ見直されるなどした。また、耐火構造等とすべき場合でも、延焼範囲を限定する防火の壁等の設置などの消火の措置の円滑化により、主要構造部について、木材をそのまま見せる「あらわし」とすることが可能となった。さらに、防火地域等において、耐火建築物とする方法に加え、外壁や窓の性能を高めること等により、内部の柱やはり等に木材を「あらわし」で利用する方法も可能となった。

これまで、建築基準法における防火関係規定等の合理化により、建築物に木材を利用できる範囲が拡大されてきた。今後、これらに基づき、都市部の中高層建築物や低層非住宅建築物等における木造化・木質化の一層の促進が期待される。


表 木造建築物における防火関係規定の主な変遷

(改修時における内外装木質化の事例)

新しく建築物を建てる場合だけでなく、建物の大規模改修に合わせて施設を木質化する例もみられる。

おりづるタワー屋上展望台「ひろしまの丘」(広島県広島市)は、都市部の鉄筋コンクリート造のビルを大規模改修し、内装や外装に木材を効果的に使用することで、新たな観光施設としてリニューアルした。床材に熱処理したヒノキ材、天井に不燃化処理したスギ材を使用し、耐久性や防耐火に対応している。


(非住宅分野における木材利用の課題)

中高層等の大規模な建築物において木材利用を進めるに当たっての課題としては、大断面集成材の使用や耐火建築物とすることによりコストがかかり増しになることや、まとまった量の地域材を活用して施設整備を行う場合に材の調達に時間を要することがあること、建築物の木造化・内装等の木質化に関する充分な知識・経験を有する設計者が少ないこと等が挙げられる。

地域材の調達に関しては、住宅に用いられる一般に流通している木材を用いて建築する試みがみられている。また、大断面集成材などで特注となる場合は、産地と結びついて、着工前の早い段階から集材している例がみられる。特に公共建築物で地元の木材を使いたい場合で大規模な製材所がないときは、材の調達が難しいが、地元の林業や木材産業が結びついて、まとまった量を確保している事例がみられる(事例3-4)。

また、一般社団法人中大規模木造プレカット技術協会は、一般流通材とプレカット技術を活用した経済的かつ地域の事業者が参加できる中大規模木造づくりの仕組みの整備や、中大規模木造に求められる技術の開発・標準化及びその普及に取り組むとともに中大規模木造建築普及のための設計・施工技術者の育成や支援を実施している。

事例3-4 「タニチシステム」を活用した地場産業の活性化に向けた取組

令和元(2019)年7月、山形県高畠町たかはたまちに木質部分の99%を町産のスギで作った町立図書館が開設された。

建築工事では、工事業者が材料調達と施工をあわせて工事を行う場合が多い。特に、公共案件では、年度内に建材を調達する必要があり、原木から建築部材に加工する納期が間に合わず、全ての部材を地域材で賄うことは困難である。

本プロジェクトでは、地域経済の活性化のために、原木供給、製材及び加工を地域で担うことにこだわり、谷知たにち大輔氏(注1)が、地域の事業者延べ17業者と交渉し、流通コーディネートや、品質・コスト・納期の管理に加えて、関係者のモチベーションの向上にも取り組んだ。また、地域材の活用率向上やコスト削減のために、施工場所を選んで節あり材を意匠で使うなど歩留まりの向上に向けた工夫を行い、全ての事業者が適正な価格で仕事をできるようにした。

木材流通システムの最適化を通じて地場産業の活性化や人と人の絆の再構築を目指す「タニチシステム(注2)」は、今後の地域材の有効活用モデルとして注目されている。


注1:パワープレイス株式会社ウッドデザイナー

2:武蔵野美術大学造形構想学部若杉浩一教授が命名。


タニチシステムの概要

(木材利用に向けた人材の育成、普及の取組)

木造建築物の設計を行う技術者等の育成も重要であり、林野庁では、国土交通省と連携し、平成22(2010)年度から、木材や建築を学ぶ学生等を対象とした木材・木造技術の知識習得や、住宅・建築分野の設計者等のレベルアップに向けた活動に対して支援してきた(*81)。平成26(2014)年度からは、木造率が低位な非住宅建築物や中高層建築物等へのCLT等の新たな材料を含む木材の利用を促進するため、このような建築物の木造化・木質化に必要な知見を有する設計者等の育成に対して支援している。都道府県独自の取組としても、木造建築に携わる設計者等の育成が行われている。

また、CLT等の製造を行っている製材工場が設計に協力し、木材利用を進めている例がある。


(*81)一般社団法人木を活かす建築推進協議会「平成25年度木のまち・木のいえ担い手育成拠点事業成果報告書」(平成26(2014)年3月)



(国産材の利用拡大に向けた取組の広がり)

建築物の施主となる企業等が、我が国の森林資源の有効活用や山村地域の振興といった観点から都市の木造化・木質化をテーマとしたシンポジウムを開催するなど、国産材利用の気運が高まってきている。このような中で、林業・木材産業に関わる金融機関、企業、団体及び大学研究機関が連携し、木材利用の拡大に向けた調査・研究・制作活動等を通じて各種の課題解決を図る取組が実施されている。

平成28(2016)年に、農林中央金庫が事務局となり、木材利用拡大に向けた各種課題の解決を図る「産・学・金」のプラットフォームとして、「ウッドソリューション・ネットワーク」が設立された。ウッドソリューション・ネットワークでは、(ア)構造材への利用の拡大、(イ)内装材への利用の拡大、(ウ)木材バリューチェーンにおける「川上」・「川中」・「川下」の相互間理解の深化に関する3つの分科会において、調査、研究、制作活動等を実施し、令和元(2019)年8月には、民間企業の経営層に向けて木造建築の意義やメリット、事業用建物の木造建築事例を紹介したアプローチブック(*82)を発行した。

平成30(2018)年には、全国知事会において国産木材活用の推進を目指すプロジェクトチームが結成され、都道府県(平成31(2019)年2月現在、45都道府県が参画)が連携して、新たな国産木材の需要の創出に向けた調査、研究を進めるとともに、国への提案・要望活動を行っていくこととされた(*83)。調査、研究を行う個別テーマの一つとして「ブロック塀から木塀への転換」などが例示されており、東京都を始めとした複数の自治体で、木塀設置に向けた取組が実施されている。塀への木材利用の取組については、林野庁においても、住宅及び非住宅の外構部について、木質化を実証的に行う取組に対し支援を行っているほか、木材関連団体において、木塀の標準的なモデルや仕様を公表する動きが出てきている。

平成31(2019)年2月に、民間企業(建設事業者、設計事業者、施主等の木材の需要者)や関係団体、行政等が連携し、非住宅分野における木材利用促進に向けた懇談会である「ウッド・チェンジ・ネットワーク」を立ち上げ、需要サイドとしての木材利用を進めるための課題・条件の整理や、建築物への木材利用方策の検討等を進めている。同年4月には第2回会合が開催され、参加企業等が中心となって、低層小規模、中規模ビル、木質化の別にノウハウの共有等の取組を進めることとなった。令和2(2020)年3月の第3回会合では、今までワーキング・グループで検討した内容や各メンバーのウッド・チェンジの取組について情報共有し、民間非住宅建築物において更なる木材利用の取組を進めることとした。

さらに、令和元(2019)年11月には、公益社団法人経済同友会が中心となって、国産材利用拡大を目指すネットワーク組織「木材利用推進全国会議」が発足した。同会議には、各地経済同友会、都道府県、市町村、金融各社を含む企業・団体など、植林・伐採から木材加工、設計、施工、国産材の活用に至る全てのステークホルダーが連携することで、「木」を起点として、経済合理性と持続可能性を両立する豊かな地域社会の実現を目指すこととしている。


(*82)ウッドソリューション・ネットワーク「非住宅木造推進アプローチブック「時流をつかめ!企業価値を高める木造建築~持続可能な木材利用を経営戦略に取り込もう~」」(令和元(2019)年8月)

(*83)全国知事会ホームページ「平成30年10月11日 「国産木材活用プロジェクトチーム会議」の開催について」



(ウ)公共建築物等における木材利用

(法律に基づき公共建築物等における木材の利用を促進)

我が国では、戦後、火災に強いまちづくりに向けて耐火性に優れた建築物への要請が強まるとともに、戦後復興期の大量伐採による森林資源の枯渇や国土の荒廃が懸念されたことから、国や地方公共団体が率先して建築物の非木造化を進め、公共建築物への木材の利用が抑制されていた。このため、現在も公共建築物における木材の利用は低位にとどまっている。一方、公共建築物はシンボル性と高い展示効果があることから、公共建築物を木造で建設することにより、木材利用の重要性や木の良さに対する理解を深めることが期待できる。

このような状況を踏まえて、平成22(2010)年10月に、木造率が低く潜在的な需要が期待できる公共建築物に重点を置いて木材利用を促進するため、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(*84)」が施行された。同法では、国が「公共建築物における木材の利用の促進に関する基本方針」を策定して、木材の利用を進める方向性を明確化する(*85)とともに、地方公共団体や民間事業者等に対して、国の基本方針に即した取組を促す(*86)こととしている。

平成29(2017)年6月には、同法施行後の国、地方公共団体による取組状況を踏まえ、同基本方針を変更し、地方公共団体は、同基本方針に基づく措置の実施状況の定期的な把握や木材利用の促進のための関係部局横断的な会議の設置に努めること、国や地方公共団体はCLT、木質耐火部材等の新たな木質部材の積極的な活用に取り組むこと、3階建ての木造の学校等について一定の防火措置を行うことで準耐火構造等での建築が可能となったことから積極的に木造化を促進すること等を規定した。

国では、23の府省等の全てが同法に基づく「公共建築物における木材の利用の促進のための計画」を策定しており、地方公共団体では、全ての都道府県と1,741市町村のうち92%に当たる1,601市町村が、同法に基づく「公共建築物における木材の利用の促進に関する方針」を策定している(*87)。

このほか、公共建築物だけでなく、公共建築物以外での木材利用も促進するため、森林の公益的機能発揮や地域活性化等の観点から、行政の責務や森林所有者、林業事業者、木材産業事業者等の役割を明らかにした条例を制定する動きが広がりつつある。令和2(2020)年1月末時点で、17県及び7市町村(*88)において、木材利用促進を主目的とする条例が施行されている。また、12道県及び18市町村(*89)が森林づくり条例等に木材利用促進を位置付けている。そのほか、5府県と1市(*90)で地球温暖化防止に関する条例に、温室効果ガスの吸収及び固定作用の観点から、適切な森林整備のための木材利用促進を位置付けており、3県と21市町村(*91)において地域活性化等に関する条例の中で、木材利用促進を位置付けている(*92)。


(*84)「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(平成22年法律第36号)

(*85)「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」第7条第1項

(*86)「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」第4条から第6条まで

(*87)方針を策定している市町村数は令和2(2020)年3月末現在の数値。

(*88)岩手県、秋田県、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、兵庫県、岡山県、広島県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、徳島県三好市、高知県四万十町、梼原町、熊本県湯前町、山江村、宮崎県日南市、日之影町。

(*89)北海道、宮城県、長野県、岐阜県、静岡県、三重県、滋賀県、奈良県、和歌山県、福岡県、宮崎県、鹿児島県、北海道弟子屈町、石川県金沢市、岐阜県関市、揖斐川町、愛知県豊田市、新城市、設楽町、東栄町、豊根村、兵庫県丹波篠山市、鳥取県若桜町、島根県津和野町、岡山県津山市、鏡野町、西粟倉村、愛媛県久万高原町、高知県梼原町、長崎県対馬市。

(*90)群馬県、山梨県、岐阜県、京都府、熊本県、京都府京都市。

(*91)山形県、山口県、熊本県、北海道芦別市、日高町、下川町、美深町、津別町、雄武町、置戸町、岩手県紫波町、久慈市、秋田県北秋田市、滋賀県長浜市、東近江市、島根県隠岐の島町、山口県山口市、岩国市、萩市、徳島県上勝町、高知県梼原町、熊本県小国町、多良木町、南阿蘇村。

(*92)林野庁調査「「木材利用促進に関する条例の施行・検討状況の調査について」の結果について」(令和2(2020)年3月25日)



(公共建築物の木造化・木質化の実施状況)

国、都道府県及び市町村が着工した木造の建築物は、平成30(2018)年度には2,340件であった。このうち、市町村によるものが1,923件と約8割となっている(*93)。同年度に着工された公共建築物の木造率(床面積ベース)は、13.1%となった。また、「公共建築物における木材の利用の促進に関する基本方針」により、積極的に木造化を促進することとされている低層(3階建て以下)の公共建築物においては、木造率は26.5%であった(資料3-26)。さらに、都道府県ごとの木造率については、低層で5割を超える県がある一方、都市部では低位であるなど、ばらつきがある状況となっている(資料3-27)。


国の機関による木材利用の取組状況については、平成30(2018)年度に国が整備した公共建築物等のうち、同基本方針において積極的に木造化を促進するものに該当するものは98棟で、うち木造で整備を行った建築物は77棟であり、木造化率は78.6%であった。また、内装等の木質化を行った建築物は169棟であった。

林野庁と国土交通省による検証チームは、平成30(2018)年度に国が整備した、積極的に木造化を促進するとされている低層の公共建築物等98棟のうち、各省各庁において木造化になじまないと判断された建築物21棟について、各省各庁にヒアリングを行い、木造化しなかった理由等について検証した。その結果、施設が必要とする機能等の観点から木造化が困難であったと評価されたものが13棟、木造化が可能であったと評価されたものが8棟であった。木造化が可能であったと評価された8棟はおおむね自転車置場、車庫等の小規模な建築物であり、林野庁及び国土交通省では、これらについても木造化が徹底されるよう、各省各庁に対して働き掛けを行っていくこととしている。

これらの検証結果も踏まえ、平成30(2018)年度には、積極的に木造化を促進するとされている低層の公共建築物等のうち木造化が困難であったものを除いた木造化率は、90.6%となった(資料3-28)。


低層の公共建築物については、民間事業者が整備する公共建築物が全体の6割以上を占めており、さらにその内訳をみると、医療・福祉施設が約8割となっている。今後、公共建築物への木材利用の一層の促進を図る上で、国や地方公共団体が整備する施設のみならず、これらの民間事業者が整備する施設の木造化・内装等の木質化を推進するための取組が必要である。このため、平成30(2018)年度と令和元(2019)年度の2年間にわたり、一般社団法人木を活かす建築推進協議会が医療・福祉施設における木材利用促進のための事例を収集するとともに、用途に応じた木材利用の基礎的な情報や留意事項等をとりまとめ、「木を活かした医療施設・福祉施設の手引き」を作成した(*94)。


(*93)国土交通省「建築着工統計調査2018年度」

(*94)一般社団法人木を活かす建築推進協議会ホームページ「木を活かした医療施設・福祉施設の手引き」



(公共建築物の木造化・木質化における発注・設計段階からの支援)

林野庁では、公共建築物等の木造化・木質化の促進のため、地方公共団体等に木造化・木質化に係る事例やデータを幅広く情報提供している。

平成29(2017)年2月に作成した「公共建築物における木材利用優良事例集」では、近年建設された公共建築物における木材利用のモデル的な事例を収集・整理して紹介している。

このほか、木造公共建築物等の整備に係る支援として、木造建築の経験が少なく設計又は発注の段階で技術的な助言を必要とする地域に対し専門家を派遣して、発注者、木材供給者、設計者、施工者等の関係者と連携し課題解決に向けて取り組む事業を行った。同事業の結果、木材調達や発注に関するノウハウ等を得ることができた(*95)。また、保育園建物と小学校建物について、木造と他構造のコスト比較等を行い、その結果、保育園建物については、木造と鉄骨造(木造と同等の内装木質化を実施)を比較した場合、スパンの小さい保育室では木造の方が安く、スパンの大きい遊戯室では同等の工事費となることが分かった(*96)。小学校建物については、2教室と中廊下、2階建てを基本単位として、木造と鉄筋コンクリート造(内装木質化)のコストを比較した場合、木造の工事費の方が安くなることが分かった(*97)。


(*95)一般社団法人木を活かす建築推進協議会ホームページ「木造公共建築物等の整備に係る設計段階からの技術支援事業成果物「木造化・木質化に向けた20の支援ツール」」、「地域における民間部門主導の木造公共建築物等整備推進 報告書」

(*96)一般社団法人木を活かす建築推進協議会ホームページ「平成28年度木造公共建築物誘導経費支援報告書」

(*97)一般社団法人木を活かす建築推進協議会ホームページ「平成29年度木造公共建築物誘導経費支援報告書」



(学校の木造化を推進)

学校施設は、児童・生徒の学習及び生活の場であり、学校施設に木材を利用することは、木材の持つ高い調湿性、温かさ、柔らかさ等の特性により、健康や知的生産性等の面において良好な学習・生活環境を実現する効果が期待できる(*98)。

このため、文部科学省では、昭和60(1985)年度から、学校施設の木造化や内装の木質化を進めてきた。平成30(2018)年度に建設された公立学校施設の22.6%が木造で整備され、非木造の公立学校施設の50.5%(全公立学校施設の39.1%)で内装の木質化が行われている(*99)。

文部科学省は、平成27(2015)年3月に、大規模木造建築物の設計経験のない技術者等でも比較的容易に木造校舎の計画・設計が進められるよう「木造校舎の構造設計標準(JIS A3301)」を改正するとともに、その考え方、具体的な設計例、留意事項等を取りまとめた技術資料を作成した。また、平成28(2016)年3月には、木造3階建ての学校を整備する際のポイントや留意事項をまとめた「木の学校づくり-木造3階建て校舎の手引-」を作成した。さらに、平成31(2019)年3月には「木の学校づくり-その構想からメンテナンスまで(改訂版)-」を、令和2(2020)年3月には「木の学校づくり 学校施設等のCLT活用事例」を作成した。

これらにより、地域材を活用した木造校舎や3階建て木造校舎の建設が進むだけでなく、木造校舎を含む大規模木造建築物の設計等の技術者の育成等が図られることにより、学校施設等での木材利用の促進が期待される。

また、文部科学省では、平成11(1999)年度以降、木材活用に関する施策紹介や専門家による講演等を行う「木材を活用した学校施設づくり講習会」を全国で開催し、林野庁では後援と講師の派遣を行っている。

さらに、文部科学省、農林水産省、国土交通省及び環境省が連携して行っている「エコスクール・プラス(*100)」において、農林水産省では内装の木質化等の支援(令和元(2019)年度は1校が対象)を行っている。


(*98)林野庁「平成28年度都市の木質化等に向けた新たな製品・技術の開発・普及委託事業」のうち「木材の健康効果・環境貢献等に係るデータ整理」による「科学的データによる木材・木造建築物のQ&A」(平成29(2017)年3月)

(*99)文部科学省ホームページ「公立学校施設における木材の利用状況(平成30年度)」(令和元(2019)年12月20日)

(*100)学校設置者である市町村等が、環境負荷の低減に貢献するだけでなく、児童生徒の環境教育の教材としても活用できるエコスクールとして整備する学校を「エコスクール・プラス」として認定し、再生可能エネルギーの導入、省CO2対策、地域で流通する木材の導入等の支援を行う事業であり、令和元(2019)年度には47校が認定されている。平成29(2017)年度に「エコスクールパイロット・モデル事業」を改称したもので、同事業における文部科学省との連携開始年度は、農林水産省が平成14(2002)年、国土交通省が平成24(2012)年、環境省が平成28(2016)年からとなっている。



(土木分野における木材利用)

土木資材としての木材の特徴は、軽くて施工性が高いこと、臨機応変に現場での加工成形がしやすいことなどが挙げられる。

土木分野では、かつて、橋や杭等に木材が利用されていたが、高度経済成長期を経て、主要な資材は鉄やコンクリートに置き換えられてきた。

しかし、近年では、国産材針葉樹合板について、コンクリート型枠かたわく用、工事用仮囲い、工事現場の敷板等への利用が広がっているほか、木製ガードレール、木製遮音壁、木製魚礁、木杭等への木材の利用が進められている。

このような中、「一般社団法人日本森林学会」、「一般社団法人日本木材学会」及び「公益社団法人土木学会」の3者は、平成19(2007)年に「土木における木材の利用拡大に関する横断的研究会」を結成し、平成25(2013)年3月に「提言「土木分野における木材利用の拡大へ向けて」」を発表している(*101)。平成29(2017)年3月には、土木分野での木材利用の拡大の実現に向けた取組を進める中でみえてきた解決すべき課題に対処するため、土木分野における木材利用量の実態を把握すること等について、「提言「土木分野での木材利用拡大に向けて」-地球温暖化緩和・林業再生・持続可能な建設産業を目指して-」を発表している(*102)。


(*101)土木における木材の利用拡大に関する横断的研究会ほか「提言「土木分野における木材利用の拡大へ向けて」」(平成25(2013)年3月12日)

(*102)土木における木材の利用拡大に関する横断的研究会ほか「提言「土木分野での木材利用拡大に向けて」-地球温暖化緩和・林業再生・持続可能な建設産業を目指して-」(平成29(2017)年3月22日)



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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