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林野庁

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第 I 章 成長産業化に向けた新たな技術の導入

1. 林業の成長産業化と新たな技術の必要性

(1)林業の成長産業化に向けての課題

我が国の森林資源は利用期に本格的に移行している一方で、林業は、小規模零細な森林所有構造の下、施業集約化や路網整備、効率的な作業システムの導入の立ち後れ等により、依然として生産性が低い状況。

今後とも林業が持続的に山村地域の振興等に貢献していく上で、「林業の成長産業化」を実現することが大きな課題。



(2)新たな技術の導入の必要性

林業の成長産業化を実現していくためには、主伐・再造林等の林業の生産性を向上させるとともに、これまで国産材の利用が低位であった分野における新たな木材需要の創出を図っていくことが必要。

その基礎となるのが新たな技術の開発や導入であり、これにより、従来の手法では得られないような生産性の向上や収益を生み出すことが可能に。森林所有者等に収益が還元されることで、林業の再生産がより促進されることに。

林野庁は、新たな「森林・林業基本計画」を踏まえて、平成29(2017)年3月に「森林・林業・木材産業分野の研究・技術開発戦略」を改定。



2. 林業の新たな技術の導入

(1)林業の生産性向上のための技術

(ア)伐採と造林の一貫作業システム

主伐期を迎えた人工林について公益的機能の発揮に支障が及ばないよう留意しつつ、適切な主伐を進めるともに、引き続き人工林として維持する森林については、植栽による再造林とその後の保育作業を着実に実施する必要。そのためには、造林に要する経費を縮減する新たな技術の導入が課題。

伐採から地拵(ごしら)え・植栽までを一体的に実施する「伐採と造林の一貫作業システム」は、従来の手法よりも、労働投入量を大きく縮減することが可能。

国有林野事業が率先して「伐採と造林の一貫作業システム」の有効性の実証や普及を推進。

国立研究開発法人森林総合研究所等で「伐採と造林の一貫作業システム」の実証研究が進展。

「伐採と造林の一貫作業システム」を導入していく上で、従来の裸苗(はだかなえ)は植栽の適期が限られていたことが課題となっていたが、コンテナ苗の導入により植栽の適期が拡大。このため、コンテナ苗の普及についても取組が進展。

「伐採と造林の一貫作業システム」の仕組み          「伐採と造林の一貫作業システム」と従来の手法との労働投入量比較


(イ)コンテナ苗の大量生産技術

主伐とその後の再造林の増加が見込まれる中で、コンテナ苗を低コストで安定的かつ大量に生産できる体制を整備する必要。このため、コンテナ苗の培地詰(ばいちづ)め等の自動化による効率的な大量生産技術の開発に取り組み。国内の林業関連会社においては、機械化されたコンテナ苗生産施設を整備するなど、その増産に向けた取組も開始。

コンテナ苗の生産コスト縮減に向けては、種子をコンテナに直接播種し、移植作業に要する手間を省くことが有効。このため、発芽率の高い種子を判別する新たな技術として、近赤外光によって判別する方法を開発。

コンテナ苗生産のコスト比較

データ(エクセル:11KB)
         コンテナ苗と裸苗


(ウ)低密度での植栽と優良品種の開発

地拵(ごしら)えや植付作業、下刈り作業の省力化による経費の縮減が課題となる中で、低密度での植栽に注目。現在、林野庁や都道府県では、低密度での植栽の導入に向けた課題の検証を進め、その成果に基づき、施業体系の整備に取り組み。

国立研究開発法人森林総合研究所林木育種センターでは、成長や材質等に優れた第二世代精英樹(エリートツリー)の開発を進め、間伐等特措法に基づく「特定母樹」の指定に貢献。林木育種を高速化させる「前方選抜」や「ゲノム育種」にも取り組み。

特定母樹に指定されたエリートツリーの初期成長(5年生)          林木育種における「前方選抜」のイメージ


(エ)早生樹種の導入に向けた技術

家具材やフローリング材は、表面に傷がつきにくい硬さが求められ、広葉樹材を活用。近年、国内外の資源量の減少等から広葉樹材生産への関心が高まり。一般に長期の育成期間を要することや、通直な用材生産が難しいことが課題。

このため、センダンやチャンチンモドキなど、短期間で成長し早期に収穫が期待できる広葉樹の早生樹種への関心が高まり。通直材を生産するための芽かきをはじめとする施業技術について、地域において実証的な取組が進展。

また、強度がある針葉樹の早生樹種として、コウヨウザンの活用に注目。萌芽更新が可能なため再造林経費を縮減できる可能性。今後は、未解明な部分も多い育種技術や造林技術等の確立に取り組む必要。

早生樹種の施業技術研究のイメージ


(オ)鳥獣被害対策のための新たな技術

個体数の増加や分布域の拡大を背景に、シカによる森林被害が深刻化。「被害防除」と「個体数管理」等に取り組んでいるが、新たな技術の開発と導入が不可欠。

「被害の防除」として、シカに侵入されても造林地全体への被害が拡大する危険性を回避することができるパッチディフェンス等が開発・導入。

「個体数管理」として、給餌で誘引したシカの群れ全頭を捕獲する「誘引狙撃」が新たに導入されたほか、移動運搬や組み立てが容易な「簡易囲いわな」や、情報通信技術(ICT)を活用した効果的なわな捕獲の事例も。

事例 情報通信技術(ICT)を活用したわな捕獲施設の開発

株式会社アイエスイー(三重県伊勢市)は、ICTを活用したシカのわな捕獲施設を開発。

わな捕獲施設にはカメラが設置され、パソコンや携帯電話にその時点の映像が配信される仕組み。また、専用のホームページで操作することで自動でわなが作動してシカ等を捕獲できるシステムも装備。

太陽光発電で作動するため、地形等の条件を問わずに設置することが可能であり、錯誤捕獲が生じるおそれも低減することが期待。


(カ)高性能林業機械の開発

林業機械を地形等作業現場の条件に応じて適切に組み合わせて配置することで、作業システム全体の生産性向上を図ることが重要。今後は生産される木材の大径化が見込まれるほか、複雑な地形から高密度で路網を開設できない箇所も多い状況。

このため、林野庁では、複雑な地形に対応し重量のある木材を集材できる効率的な架線系作業システムの構築に向けた林業機械(タワーヤーダ等)の開発に取り組み。

炎天下や急斜面等の厳しい労働条件で行われる林業作業の安全性や生産性の向上を図るため、ロボット技術を活用して、無人で走行するフォワーダや丸太の品質を自動判別できるハーベスタ等の新たな林業機械の開発にも取り組み。

事例 複雑な地形に対応したタワーヤーダ等の開発

林野庁は、我が国の複雑な地形に対応した中距離集材の架線系作業システムに活用できるタワーヤーダ、自走式搬器及びオートフックを開発。

タワーヤーダは、ワイヤーロープを巻き取るドラムを4つ備え、地形に合わせた複雑な索張りへの対応が可能。

自走式搬器は、小型化された高性能エンジンを搭載することで、走行速度や木材の吊り上げ能力を改良。

オートフックは、荷掛けしたロープをリモコン操作で取り外しできるようにすることで、作業の迅速化や安全性の向上が可能に。

開発されたタワーヤーダ
開発されたタワーヤーダ
          開発された自走式搬器
開発された自走式搬器
          開発されたオートフック
開発されたオートフック


(2)情報通信技術(ICT)の活用

(ア)森林情報の整備

施業の集約化や路網整備を進めていく前提条件として、地域における森林資源量、地形情報、境界情報、所有者情報等の森林情報を効率的に把握していくことが重要。

これまで、森林GIS(地理情報システム)が導入され、森林情報を利活用。森林GISに登載される情報を継続的に更新し、精度を向上させていく必要。また、異なる組織に所属する関係者同士が森林情報を共有できるような仕組みを構築する必要。

これらを踏まえ、クラウド技術によって地方公共団体及び林業事業体が情報を相互に共有・利活用するため、標準仕様を作成するとともに、森林クラウドを新たに開発。

森林資源量の計測技術の開発も進展。地上レーザの照射によって、樹高や胸高直径、曲がり等の情報を3 D化して正確に把握する技術が実用化。航空レーザ計測により、急峻地等の立入りが困難な箇所等においても林地の亀裂や林地崩壊を含む地形把握が可能に。

森林クラウドのイメージ(森林情報高度利活用技術開発事業の概要)

事例 平成28年熊本地震における山地災害調査での航空レーザ計測の活用

林野庁は、被災状況を迅速に把握するため、航空レーザ計測を活用。把握した林地の亀裂(紫線)や崩壊(赤色)の箇所について、関係地方公共団体に情報提供するとともに、ホームページで公表。



(イ)林業経営や木材流通への情報通信技術(ICT)の活用

林業を効率的に経営していく上で、出材可能な木材の数量や品質を即座に把握したり、需要の変動に応じて木材の出荷量を調整できる生産管理手法の導入が必要。近年は、ICTを活用した在庫管理システムの開発や生産管理手法の導入が進展。

木材の流通には、森林所有者から素材生産業者、木材流通業者、製材工場等、建設事業者まで広範な事業者が関わり、需給情報の共有が困難になりがち。需給のマッチングを円滑化することが課題。近年は、木材流通において、ICTを活用しつつ、森林情報や出材可能な木材の数量に関する情報を統合させ、効率的な木材流通を実現しようとする事例も。

ソフトウェア開発の分野においても林業への関心が高まり。プログラマー等がチームを組み、特定のテーマに対してアイデアを出し合いながら集中的にソフトウェアを開発して内容を競う「ハッカソン」が林業の技術開発をテーマに開催されることも。

事例 「3D森林情報システム」の開発と木材トレーサビリティへの活用

株式会社woodinfo(ウッドインフォ)は、地上からのレーザ照射や、これによって得られたデータを解析して林内の地形や立木の位置、胸高直径、樹高、曲がり具合等の情報を三次元化する「3 D森林情報システム」を開発。

秩父地方では、このシステムを活用して、住宅メーカーと林業事業体の間で木材のトレーサビリティを構築する取組が進展。住宅メーカーは、効率的な木材の確保が可能になるとともに、林業事業体も不要な在庫を持つ必要がなくなり、林業経営の効率化が図られることに。

また、兵庫県朝来市の木質バイオマス発電所では、このシステムを木材輸送に活用。兵庫県森林組合連合会が入力した木材の数量や位置、出荷希望時期を参照して、木質バイオマス発電所が、木材を発電所まで効率的に輸送できるようにトラックを配車。



(3)木材需要の拡大に向けた技術

(ア)非住宅分野における木材利用技術

新設住宅着工戸数の約半分が木造の一方、中高層建築物や非住宅分野における木材利用は低位。これらの分野を対象とした新たな木材製品・技術の開発と実用化が進展。

CLT(直交集成板)の活用により、木造の中高層建築物の建築が進むことが期待。林野庁の支援によりCLTの実証的建築物の建築やCLT生産体制を整備。平成29(2017)年1月には、「CLTの普及に向けた新たなロードマップ~需要の一層の拡大を目指して~」が公表。

所要の性能を満たす木質耐火部材を用いれば、木材を利用した大規模な建築物等の建設が可能に。各地で木質耐火部材を使用した建築物の建設が進展。

木質耐火構造の方式


(イ)国産材の利用が低位な部材の利用拡大に向けた技術

構造用合板については、曲がり材や小径材から単板を製造することが可能なスピンドルレス式ロータリーレースの開発等を背景に国産材の利用が急拡大。また、南洋材製品が大半を占める型枠(かたわく)用合板についても、国産材の活用に向けた技術開発や実証試験が進展。

国産材の利用が低位な横架材の利用拡大に向け、乾燥技術の向上や心去(しんさ)り等による品質向上に取り組み。また、一般流通材を用いたトラス梁(ばり)や縦ログ工法等の開発・普及も。

事例 地域材を原料とする型枠用合板の強度の実証

日本合板工業組合連合会は、土木工事やマンション等の建設工事にカラマツやヒノキ等の地域材を使用した型枠用合板を用いて、その性能の実証に取り組み。

その結果、地域材を使用した型枠用合板は、従来の南洋材型枠用合板と比較しても、強度、耐久性等について遜色のない品質や性能を有していることを実証。



(ウ)木質バイオマスの利用に向けた技術

木質バイオマスのエネルギー利用に向けては、竹を燃料として利用する技術等を開発。

軽量かつ高強度等の特性を有する新素材として期待されるセルロースナノファイバー(CNF)について、林野庁では、スギや竹を原料とし、中山間地域に適応した小規模・低環境負荷型の製造技術や利用技術の開発を支援。

また、国立研究開発法人森林総合研究所等において、化学構造がある程度一定な改質リグニンや、これを原料として高い耐熱性等をもつハイブリッド膜等の製造技術の開発が進展。



(4)花粉の発生を抑える技術

国民病とも言われる花粉症への対策が課題。スギ、ヒノキの花粉を飛散させない優良品種(花粉症対策苗木)の開発や、スギの雄花だけを枯死させる菌類を活用したスギ花粉飛散防止剤の開発が進展。



3. 新たな技術導入のための条件整備

新たな技術のうちその有効性が実証されたものについては、積極的に普及を進めていく必要。 都道府県による「林業普及指導事業」や国による研修・普及活動に加え、行政機関、研究機関、業界団体等が連携して普及に取り組む必要。

新たな技術を導入できる人材を有する経営力のある林業事業体等の育成が重要。近年は、林業大学校をはじめ就業前の若手林業技術者育成の動きが活発化。また、林野庁では、高度な知識と技術・技能を有する林業労働者の育成にも取り組み。

技術開発等を促進していく上で、国民の理解を得ていくとともに、民間投資を促進していく観点からも、林業の成長産業化や木材利用の意義、地球温暖化対策における森林や木材利用が果たす役割について理解を得ていくことが不可欠。

事例 ICT 等の新たな技術を活用できる人材の育成

国立大学法人鹿児島大学は、素材生産の現場における高度な技術者の養成を目的として、専門職向け公開講座を実施しているところ。

同講座では、低コストで確実な造林技術や新しい架線系作業システムの習得に加え、航空レーザ計測や地上からのレーザ照射によって森林資源を把握する技術等の習得についての講義や演習を実施。

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
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