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林野庁

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第1部 第5章 第1節 復興に向けた森林・林業・木材産業の取組(3)

(3)復興への木材の活用と森林・林業の貢献

(応急仮設住宅や災害公営住宅等での木材の活用)

東日本大震災では、地震発生直後には最大約47万人の避難者が発生し、令和2(2020)年2月10日時点でも約4.8万人が避難生活を余儀なくされている。令和元(2019)年9月時点の避難者等の入居先は、建設型の仮設住宅は約600戸、借上型の仮設住宅は約3,000戸となっており、応急仮設住宅(*15)への入居戸数は減少し、恒久住宅への移転が進んでいる(*16)。

応急仮設住宅については、被災地の各県が平成25(2013)年4月までに約5.4万戸を建設したが(*17)、被災3県(岩手県、宮城県及び福島県)では、この4分の1以上に当たる約1.5万戸が木造で建設された(*18)。

「一般社団法人全国木造建設事業協会」では、東日本大震災における木造応急仮設住宅の供給実績と評価を踏まえて、大規模災害が発生した場合に、木造の応急仮設住宅を速やかに供給する体制を構築するため、各都道府県との災害協定の締結を進めている。同協会では、令和元(2019)年12月までに、36都道府県(*19)7市(*20)と災害協定を締結している。

また、災害時の木材供給について、地元の森林組合や木材協会等と協定を結ぶ地方公共団体もみられる。

一方、災害公営住宅(*21)については、令和元(2019)年9月末時点で、被災3県において約3万戸の計画戸数が見込まれている。「東日本大震災からの復興の基本方針」においては、津波の危険性がない地域では、災害公営住宅等の木造での整備を促進するとされており、構造が判明している計画戸数約2万9,800戸のうち、約8,900戸が木造で建設される予定である。令和元(2019)年9月末時点で、約2万9,400戸の災害公営住宅が完成しており、このうち約8,700戸が木造で建設されている(資料5-3)。

また、被災者の住宅再建を支援する取組も行われている。平成24(2012)年には、被災3県の林業・木材産業関係者、建築設計事務所、大工・工務店等の関係団体により「地域型復興住宅推進協議会」が設立された。同協議会に所属する住宅生産者グループは、住宅を再建する被災者に対して、地域ごとに築いているネットワークを活かし、地域の木材等を活用し、良質で被災者が取得可能な価格の住宅を「地域型復興住宅」として提案し、供給している(*22)。

このほか、非住宅建築物や土木分野の復旧・復興事業でも地域の木材が活用されている(*23)(事例5-2)。

事例5-2 被災地の木材を活用した施設の整備

令和元(2019)年9月、岩手県陸前高田りくぜんたかた市において、国、岩手県及び陸前高田市が整備を進めている高田松原たかたまつばら津波復興祈念公園内にある「道の駅 高田松原」が完成し、その利用が開始された。

「道の駅 高田松原」は、地域振興施設や津波の実写映像や遺物を展示する東日本大震災津波伝承館(いわてTSUNAMIメモリアル)から成り、エントランスや施設内部の内装には、岩手県産カラマツがふんだんに使用されている。また、壁面パネルは、木目や色目のバランスまで考えて1枚ずつ張られるなど、モダンなデザインとなっている。

また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の関連施設では、選手村ビレッジプラザに東北5県5市町注からスギ、カラマツ等が提供され、メインエントランスのはりや柱等に活用されている。

注:青森県、岩手県、秋田県、山形県、福島県、岩手県宮古市、宮城県登米市、秋田県大館市、山形県山形市、金山町。

資料:令和元(2019)年7月30日付けWeb東海新報1面、令和元(2019)年10月8日付け日刊木材新聞4面、令和元(2019)年12月16日付け河北新報、令和2(2020)年1月30日付け河北新報



(*15)「災害救助法」(昭和22年法律第118号)第4条第1項第1号に基づき、住家が全壊、全焼又は流失し、居住する住家がない者であって、自らの資力では住家を得ることができない者に供与するもの。

(*16)復興庁「東日本大震災からの復興の状況に関する報告」(令和元(2019)年11月22日)

(*17)国土交通省ホームページ「応急仮設住宅関連情報」

(*18)国土交通省調べ(平成25(2013)年5月16日現在)。

(*19)協定締結順に、徳島県、高知県、宮崎県、愛知県、埼玉県、岐阜県、長野県、愛媛県、秋田県、静岡県、広島県、東京都、香川県、神奈川県、三重県、大分県、千葉県、滋賀県、富山県、青森県、山梨県、熊本県、山口県、兵庫県、佐賀県、山形県、京都府、北海道、茨城県、長崎県、鹿児島県、和歌山県、福岡県、岡山県、大阪府及び福井県。

(*20)協定締結順に、兵庫県神戸市、岡山県岡山市、神奈川県横浜市、川崎市、相模原市、福岡県福岡市及び北九州市。

(*21)災害により住宅を滅失した者に対し、地方公共団体が整備する公営住宅。

(*22)地域型復興住宅推進協議会ほか「地域型復興住宅」(平成24(2012)年3月)。地域型復興住宅の供給とマッチングの取組については、「平成27年度森林及び林業の動向」第6章第1節(3)の事例6-3(196ページ)を参照。

(*23)土木分野での木材利用については、第3章第2節(2)189ページ、土木分野の復旧・復興事業での木材利用については、「平成25年度森林及び林業の動向」第2章第1節(3)45ページを参照。



(木質系災害廃棄物の有効活用)

東日本大震災では、地震と津波により、多くの建築物や構造物が破壊され、コンクリートくず、木くず、金属くず等の災害廃棄物(がれき)が、13道県239市町村で約2,000万トン発生した(*24)。このうち、木くずの量は、約135万トンであった。これらの災害廃棄物は、平成29(2017)年8月末時点で、福島県の汚染廃棄物対策地域を除く全ての地域において処理が完了している(*25)。

木くずについては、平成23(2011)年に環境省が策定した「東日本大震災に係る災害廃棄物の処理指針(マスタープラン)」では、木質ボード、ボイラー燃料、発電等に利用することが期待できるとされ、各地の木質ボード工場や木質バイオマス発電施設で利用された。


(*24)福島県の避難区域を除く。

(*25)環境省ホームページ「災害廃棄物対策情報サイト」、復興庁「東日本大震災からの復興の状況に関する報告」(平成30(2018)年11月30日)



(木質バイオマスエネルギー供給体制を整備)

「東日本大震災からの復興の基本方針」では、木質系災害廃棄物を活用したエネルギーによる熱電併給を推進するとともに、将来的には、未利用間伐材等の木質資源によるエネルギー供給に移行するとされるなど、木質バイオマスを含む再生可能エネルギーの導入促進が掲げられた。

また、平成24(2012)年に閣議決定された「福島復興再生基本方針」では、目標の一つとして、再生可能エネルギー産業等の創出による地域経済の再生が位置付けられた。このほか、「岩手県東日本大震災津波復興計画」や「宮城県震災復興計画」においても、木質バイオマスの活用が復興に向けた取組の一つとして位置付けられている。

これらを受けて、各地で木質バイオマス関連施設が稼動している(*26)。


(*26)木質バイオマスのエネルギー利用については、第3章第2節(3)189-194ページを参照。



(復興への森林・林業・木材産業の貢献)

「「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針」では、被災地は、震災以前から、人口減少、産業空洞化といった全国の地域にも共通する課題を抱えており、眠っている地域資源の発掘・活用、創造的な産業復興、地域のコミュニティ形成の取組等も通じて、「新しい東北」の姿を創造するとされている。

これらの課題の解決に向けては、林業・木材産業分野でも、森林資源の活用を通じた復興に向けた取組が行われており(事例5-3)、平成25(2013)年度から平成27(2015)年度までにかけて実施された復興庁の「「新しい東北」先導モデル事業」を通じた先導的な取組(*27)等も展開されてきた。また、「「新しい東北」復興ビジネスコンテスト」や「地域復興マッチング「結の場ゆいのば」」の開催等を通じ、被災地の産業復興に向けた取組が広がっている(*28)。

事例5-3 南三陸町みなみさんりくちょうにおける森林認証を活用した取組

宮城県南三陸町は、震災後、復興を目指して「森里海ひと いのちめぐるまち 南三陸」をスローガンに掲げ、自立分散型の持続可能な町づくりを目指し始めた。その中で、町内面積の8割を占める山林を地域の財産として持続可能な形で活用していくため、南三陸町では、町、森林組合、地元企業等からなる南三陸森林管理協議会を設立し、平成27(2015)年10月にFSC(注1)認証を取得した。

認証取得当時は、FSC認証材の認知度は低く、流通もほとんどない状態であったが、町役場庁舎を始め公共施設整備にFSC認証材を活用する取組を進める中で、FSC認証材の取扱業者も増え、町内だけでなく県の公共施設の椅子やテーブルに南三陸FSC認証材が採用されるなど、認知度も高まりつつある。

また、南三陸森林管理協議会では、南三陸町の林業や南三陸杉の周知を目的に、積極的に山林見学会や情報発信を行っている。その中で、FSC認証を軸に、地域性や様々な活動を通して発信することで、環境配慮に関心の高い企業や消費者等との新しいつながりが生まれている。

例えばスターバックス コーヒー ジャパン 株式会社では、南三陸町のFSC認証山林でのスタディーツアーに参加したことをきっかけに、宮城県内の一部店舗のテーブルや木製のアートフレームに南三陸町のFSC認証材を使用している。

また、株式会社ラッシュジャパンでは、「南三陸地域イヌワシ生息環境再生プロジェクト」のパートナー企業としての関わりをきっかけに、持続可能な調達の一環として南三陸杉のFSC認証材で作られた店舗什器じゅうきを採用している。

南三陸町は、牡蠣の養殖においてもASC認証(注2)を取得しており、同じ自治体でFSC認証とASC認証の2つの認証を持つという世界的に珍しい取組を行っている。山と海が連関する南三陸町ならではの特色として、山と海をつなぐ商品開発の可能性や、「南三陸」の地域ブランドのより強力な発信が期待されている。

注1:「Forest Stewardship Council」の略。森林認証について詳しくは、第1章第4節(1)97-99ページを参照。

2:ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)認証は、自然や資源保護に配慮しつつ、安全で持続可能な養殖事業を営んでいることを認める認証制度。

資料:佐藤太一 (2019) 森林認証を活用した南三陸町林業の動き. 森林技術, 930号: 8-11、FSCジャパンホームページ「南三陸認証取得支援プロジェクト」



(*27)詳しくは、「平成27年度森林及び林業の動向」第6章第1節(3)の事例6-4(197ページ)を参照。

(*28)「「新しい東北」復興ビジネスコンテスト」について詳しくは、「平成27年度森林及び林業の動向」第6章第1節(3)の事例6-5(197ページ)を参照。「地域復興マッチング「結の場(ゆいのば)」」について詳しくは、「平成28年度森林及び林業の動向」第6章第1節(3)208ページを参照。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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