このページの本文へ移動

林野庁

メニュー

第1部 第3章 第1節 木材需給の動向(5)

(5)木材輸出対策

(我が国の木材輸出は年々増加)

我が国の木材輸出は、中国等における木材需要の増加及び韓国におけるヒノキに対する人気の高まり等を背景に、平成25(2013)年以降増加傾向にある。令和元(2019)年の木材輸出額は、ほぼ横ばいの346億円となった。

品目別にみると、丸太が147億円(前年比1%減)、製材が60億(前年比1%減)、合板等が65億円(前年比10%減)となっており、これらで全体の輸出額の約8割を占めている。特に丸太の輸出額は、輸出額全体の約4割を占めており(資料3-15)、このうち、中国・韓国・台湾向けが98%を占めている。

また、輸出先を国・地域別にみると、中国が159億円で最も多く、フィリピンが74億円、韓国が29億円、米国が27億円、台湾が19億円と続いている(資料3-15)。中国向けについては、輸出額の約7割を丸太が占めており、主にスギが輸出されて梱包材、土木用材及びコンクリート型枠かたわく用材等に利用されている。韓国向けについては、輸出額の約6割を丸太が占めており、主にヒノキが輸出されて内装材等に利用されている。フィリピン向けについては、輸出額の約8割を合板等が占めている。米国向けについては、輸出額の約4割を製材が占めており、近年は、べいスギ(*60)の代替材需要に応じたスギ製材の輸出が伸びている。


(*60)ウェスタン・レッド・シダー(ヒノキ科クロベ属)の通称。



(木材輸出拡大に向けた方針)

平成28(2016)年5月に、政府の「農林水産業・地域の活力創造本部」は、「農林水産業の輸出力強化戦略」を取りまとめた。同戦略では、林産物のうち、スギ・ヒノキについて、丸太中心の輸出から、我が国の高度な加工技術を活かした製品の輸出への転換を推進するとともに、新たな輸出先国の開拓に取り組むこととした。

また、同戦略に基づく取組を更に具体化するため、輸出戦略実行委員会(*61)林産物部会は、平成29(2017)年6月に、中国、韓国、台湾及びベトナムを対象とした「木材・木材製品の輸出拡大に向けた取組方針」を取りまとめた。同方針では、各国・地域別に、木材輸出の現状と課題を整理した上で、輸出のターゲット(品目・対象者)を絞り込み、輸出拡大に向けた取組の方向性と内容を示した(資料3-16)。

令和2(2020)年3月には、農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議が開催され、新たな農林水産物・食品の輸出額を令和12(2030)年に5兆円とする目標などが示された。


(*61)オールジャパンでの農林水産物・食品の輸出促進の司令塔として設置された委員会であり、農林水産物の輸出に取り組む民間団体や関係省庁で構成される。



(木材輸出拡大に向けた具体的な取組)

林野庁では、輸出力強化に向けて、日本産木材製品のブランド化の推進、日本産木材の認知度向上、内外装材などターゲットを明確にした販売促進等に取り組んでいる。

まず、日本産木材製品のブランド化の推進として、中国の「木構造設計規範」の改定に向けた取組を進めてきた。中国ではこれまで、我が国の「建築基準法(*62)」に相当する「木構造設計規範」において、日本の在来工法である木造軸組構法(*63)の位置付けと日本産のスギ、ヒノキ及びカラマツの構造材としての規定がなされておらず、同国において構造部材として日本産木材を使用することや木造軸組構法による建築が困難な状態であった。このため、平成22(2010)年から、関係団体や国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所等の日本側専門家が連携し、同規範の改定作業に参加してきた。その結果、平成29(2017)年11月に同規範の改定が公告され、平成30(2018)年8月1日に「木構造設計標準」として施行された。改定に当たっては、日本産のスギ、ヒノキ及びカラマツの基準強度と木造軸組構法が盛り込まれており、これらの樹種を構造材として使った同構法の住宅建設が中国で可能となった。現在、日中の木材関係者等が共同で、設計・施工に当たっての現場向けの具体的な指針である「木構造設計手引」の作成に取り組んでいる。また、施行後第1号となる木造軸組住宅が、中国の大連で建設されている(事例3-1)。

事例3-1 「木構造設計標準」施行後第1号となる木造軸組住宅を建設

平成30(2018)年8月1日に「木構造設計標準」が施行されてから第1号となる木造軸組住宅が、中国の大連に建設中である。

第1号として建てられている物件は、木造3階建て75坪2棟で、必要な資材としてヒノキ集成材、スギ無垢材及び国産材合板等121m3が日本から輸出された。

日本企業がプロジェクトの中心となって全体のコーディネートを行い、現地では現地企業も協力して建設が進められている。この取組では、中国のニーズに合った日本産プレカット部材の製作や日本産プレカット部材に関する効率的な輸出流通経路の調査及び構築、見学会等が行われている。

このほか、中国の南京において木造軸組住宅の建設に関する現地講習会が開催され、日本産プレカット材を用いた実習が実施されるなど、中国での日本産木材の利用拡大に向けた取組が行われている。

資料:令和元(2019)年12月10日付け日刊木材新聞8面



日本産木材の認知度向上としては、海外における展示施設の設置や展示会への出展、モデル住宅の建築・展示に対する支援を行っている。具体的には、ベトナムのホーチミンや台湾の台北に、日本産木材製品の常設展示施設を開設し、同施設を拠点とした日本産木材製品のPR、商談会の開催、地域の木材市場の情報収集等の取組や、中国や台湾において開催される製材や内装材、家具、合板、LVL(*64)等の建築・建材に係る展示会への出展、中国等における日本産木材を使った木造軸組モデル住宅やモデルルームの設置など、日本産木材製品の展示・PR活動に対する支援を行った。

ターゲットを明確にした販売促進としては、輸出先国バイヤーの日本への招へいによる意見交換会・セミナーの開催や工場見学、輸出先国の木材加工・販売業者と日本の輸出業者による商談会の開催等を支援している。

また、新たな輸出先国開拓のため、有望な輸出先と考えられる国・地域を対象として、日本産木材・木材製品の輸出ポテンシャル等に関する市場調査を支援している。

平成29(2017)年度は、米国及びインド、平成30(2018)年度は香港、シンガポール、イギリス、フランス及びオランダに対する輸出ポテンシャル調査の支援を行った。令和元(2019)年度には、イギリス、フランス、オランダ、ロシア、UAE、オーストラリア、ベトナム、インドネシア、台湾及びインドに対する植物検疫条件や流通・販売規制等に関する調査を行うとともに、米国及び韓国に対する輸出向け木材製品の規格検討に向けた調査への支援を実施している。

米国については、住宅フェンス用にスギの利用が進むなど、木材製品の輸出が伸びており、今後、一層の輸出拡大が期待されることから、令和2(2020)年1月、米国のラスベガスにおいて日本産木材製品をPRするため展示会への出展を行った。

インドについては、近年、木材の輸入量が増加しており、潜在市場が大きいことが分かったため、令和2(2020)年2月にインドのベンガルールにおける展示会に出展し、日本産木材製品のPRを実施した。

また、EU等に向けては、デザイン性の高い木製家具・建具を始めとする日本の木材製品をフランスやドイツにおいてPRする取組や、新たな木質材料であるCLT(直交集成板)等の輸出のためのPR活動に対して支援した。

さらに、近年は、今後の国内需要の減少を見据え、輸出に取り組もうとする事業者が増える中、単独の企業では輸出に取り組むリスクや負担が大きいことから、企業同士が連携して行う輸出向け製品の開発や試作、海外への製品PR、バイヤーの開拓等の取組についても支援している。

これらの取組に加え、林野庁では、各地における林産物の輸出に向けた取組事例を収集・整理し、「林産物の輸出取組事例集~日本産木材を世界へ~」として取りまとめて紹介している。

地方公共団体においても、輸出促進のための協議会等を設置し、地域の企業同士の連携による共同出荷体制を構築する動きや、海外で日本の木造軸組構法の住宅建築セミナーを開催するなど、木材製品の輸出促進に向けた動きが広がっている(事例3-2)。

事例3-2 東南アジアへの木材輸出に向けた取組

奈良県御杖村みつえむらでは、主要産業である林業を活かした村の持続的な振興を目指して、タイに木材を輸出するプロジェクトを進めている。

平成30(2018)年に始動した同プロジェクトでは、大学関係者や設計事務所のほか日本の建材メーカーが参加し、御杖村からタイへの木材輸出と併せて、タイ人技術者・大工の育成を行うこととしている。

令和元(2019)年にはタイで建築学を専攻する学生を村内に受け入れ、木造軸組構法の座学や実技研修、モデルハウス建築現場での視察研修を通して、木造建築の技能習得を図った。

令和2(2020)年2月には、タイのバンコクで村産材を使った木造ショールームを完成させた。村では、そのショールームを活用し、木造建築物に対するイメージアップにつなげ、将来的に村産材を使ったタイ向けの木造住宅の普及を目指し、木材の輸出につなげたいと考えている。

資料:川又英紀 (2019) 木材不足のタイに売り込め 日本の在来木造を伝え、村の林業再生狙う. 日経アーキテクチュア, 10月10日号:76-79.



(*62)「建築基準法」(昭和25年法律第201号)

(*63)木造住宅の工法について詳しくは、第3章第2節(2)178ページを参照。

(*64)「Laminated Veneer Lumber」の略で、木材を薄く剥いた単板を3枚以上、繊維方向が平行になるよう積層接着した製品のこと。


コラム 新型コロナウイルス感染症への対応

新型コロナウイルス感染症については、令和元(2019)年12月に中国で肺炎患者の集団発生が報告されていたが、令和2(2020)年1月以降、日本でも感染者が確認され、世界で感染が拡大している。

我が国の経済・産業に影響が及んでおり、林業・木材産業分野においても木材の需要や流通への影響が生じている。感染の拡大により中国国内で移動が制限され、経済活動が停滞したことで、中国向けの丸太輸出が滞るとともに、同国からの住宅設備機器等の資材入手が困難となったため、住宅業界において工期延長や着工遅れが発生しており、今後の木材需要の不透明感が増している。また、きのこ類については、小学校等の臨時休校による給食休止に伴うキャンセルが発生するなどの影響が生じている。

このような状況を受けて、林野庁では、令和2(2020)年3月に、林業・木材産業関連事業者が雇用する従業員に新型コロナウイルス感染症の患者が発生した時に、業務継続を図る際の基本的なポイントをまとめたガイドラインを策定し、関係者に周知している。

新型コロナウイルス感染症の影響を受けている林業者等に対しては、株式会社日本政策金融公庫の農林漁業セーフティネット資金等の実質無利子・無担保等貸付けによる資金繰り支援を措置している。また、独立行政法人農林漁業信用基金において、実質無担保等により債務保証を行うとともに保証料を実質免除する措置を講じている。加えて、厚生労働省が措置した小学校休業等対応助成金等について、雇用保険等に未加入である林業経営体等についても、林野庁が事業所証明を行うことで助成の対象となるよう措置した。学校給食休止に伴い未利用となったきのこ等については、食品の通販サイトを通じた販売の支援を行っている。

国有林においても、各森林管理局に設置されている国有林材供給調整検討委員会での意見を踏まえ、供給調整が必要とされる地域において、販売済みの立木の伐採・搬出期限を1年延長する措置を講じ、市況に応じた供給調整を可能とした。今後も、各地域での状況の推移を見つつ、機動的に対応することとしている。

さらに、資金繰り支援の拡充、滞留している原木の保管費用等の支援、やむを得ない事情により行き場のなくなった大径材を付加価値の高い木材製品に転換するための加工施設整備への支援、公共施設等の木造化・木質化への支援、輸出力の維持・強化に向けた海外販路の開拓等への支援を行うこととしている。


森林・林業・木材産業への支援事業

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader