このページの本文へ移動

林野庁

メニュー


第1部 第 VI 章 第2節 原子力災害からの復興(4)

(4)損害の賠償

東京電力福島第一原子力発電所の事故による被害者の迅速、公正かつ適正な救済を図るため、文部科学省が設置した原子力損害賠償紛争審査会は、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」等を策定し、一定の類型化が可能な損害項目として、避難指示等に伴う損害に加え、出荷制限の指示等による損害やいわゆる風評被害を含め、農林漁業者等の賠償すべき損害と認められる一定の範囲の損害類型を示している(*59)。特に、同中間指針第三次追補においては、農林水産省等が協力しつつ実施した調査結果を参考にし、農林漁業・食品産業の風評被害について、同中間指針に示されている損害に一定の類型の損害を新たに追加するとともに、具体的な地域及び産品が明示されなかったものが、直ちに賠償の対象とならないというものではなく、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得ることを示している。このように、同中間指針等の類型に当てはまらない損害についても、個別の事例又は類型ごとに、同中間指針等の趣旨を踏まえ、かつ、その損害の内容に応じて、その全部又は一定の範囲を賠償の対象とするなど、東京電力ホールディングス株式会社に合理的かつ柔軟な対応を求めている。

林業関係では、これまで、避難指示等に伴い事業に支障が生じたことによる減収等について賠償が行われている。農林水産省が同社、関係県及び関係団体から聞き取りを行った結果によると、平成28(2016)年7月末までに総計約59億円の賠償が請求され、約56億円の賠償金が支払われている。

また、原木しいたけ等に関する損害賠償の請求・支払状況については、関係県からの聞き取りによると、平成29(2017)年3月末現在、請求額約301億円に対し、支払額は約288億円となっている。林野庁は、同社に対して、特用林産物生産者等への賠償金が適切かつ迅速に支払われるよう要請を行うとともに、生産者には、これまでの個別事例を踏まえた賠償の対象項目や請求方法等の周知に努めている。

避難指示区域内の森林(山林の土地及び立木)に係る財物賠償については、同社が平成26(2014)年9月から賠償請求を受け付けており(*60)、平成27(2015)年3月からは避難指示区域以外の福島県内の立木についても賠償の請求を受け付けている(*61)。


(*59)原子力損害賠償紛争審査会「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(平成23(2011)年8月5日)、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)(第一次追補)」(平成23(2011)年12月6日)、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第二次追補(政府による避難区域等の見直し等に係る損害について)」(平成24(2012)年3月16日)、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第三次追補(農林漁業・食品産業の風評被害に係る損害について)」(平成25(2013)年1月30日)、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第四次追補(避難指示の長期化等に係る損害について)」(平成25(2013)年12月26日)(平成28(2016)年1月28日改定)(平成29(2017)年1月31日改定)

(*60)東京電力プレスリリース「宅地・田畑以外の土地および立木に係る財物賠償について」(平成26(2014)年9月18日付け)

(*61)東京電力プレスリリース「福島県の避難指示区域以外の地域における立木に係る財物賠償について」(平成27(2015)年3月19日付け)



コラム 木材成分を原料とした新しいセシウム沈殿剤を発見

セシウムとPDCの錯体構造
セシウムとPDCの錯体構造

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所は、木材の主要成分の一つであるリグニン(注1)をばらばらに分解した後、微生物発酵により単一のPDC(注2)という物質を生産する技術の開発に取り組んできた。PDCは、プラスチックフィルムやポリウレタンシート、接着剤などの原料(プラットフォームケミカル)となる有用な物質である。

このPDCを大量に発酵生産するプロセスを開発する過程で、PDCにはアルカリ金属と錯体(注3)を形成し沈殿を生じる性質があることが分かった。さらに調べると、PDCは特にセシウムとの反応性が非常に高く、セシウムと優先的に錯体を形成し沈殿を生じることから、PDCは水の中から放射性セシウムを沈殿として除去することに適した性質を持つことが分かった。

同研究所では今後、この沈殿剤の実用化に向けて、PDCを高密度に固定した装置の設計や製造等を推進することとしている。


注1:リグニンについては、第IV章(162-163ページ)を参照。

2:2-ピロン-4,6-ジカルボン酸。「2-pyrone-4,6-dicarboxylic acid」の略。

3:金属イオンに金属ではない原子(配位子)が結合した化合物。

資料:国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所「季刊 森林総研」No.38(平成29(2017)年8月31日): 10-11.



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219