国際シンポジウム「温帯林・亜寒帯林における生物多様性の保全と調和した林業経営とそのモニタリング」
林野庁は、令和6(2024)年12月9日(月曜日)に、「温帯林・亜寒帯林における生物多様性の保全と調和した林業経営とそのモニタリング」を開催しました。
1. 開催日時・場所
日 時:令和6(2024)年12月9日(月曜日)13時00分~17時15分
場 所:九段会館テラス (東京都千代田区)
形 式:対面・Web併用
2. シンポジウムの結果概要
(1) 背景・目的
世界の木材需要は2050年までに大幅に増加することが予測されています。しかし、気候変動の影響により森林は病虫害や林野火災等の攪乱に対し脆弱になっており、生物多様性と調和した多様で強靭な森林づくりの重要性が高まっています。
本シンポジウムでは、各国及び国際機関等の専門家と共にモントリオール・プロセス*が設定した持続可能な森林経営の指標のうち「生物多様性の保全」に関するモニタリング手法や参加国の林業経営における生物多様性への配慮に関する優良事例及び課題等を共有し、国際協調の下に「生物多様性の保全と調和した林業経営」を促進していくための契機とすることを目的としています。
*モントリオール・プロセスは、持続可能な森林経営のための基準・指標の作成やデータ収集等に協力する温帯林・亜寒帯林を有する12か国の取組。参加国は、世界の温帯林と亜寒帯林の90%、世界の森林の49%、世界の人工林の59%を占めている。人工林の割合が高く、多くの国で木材生産量の継続的な増加が見込まれている。参加国は、アルゼンチン、豪州、カナダ、チリ、中国、日本、メキシコ、ニュージーランド、韓国、ロシア、米国、ウルグアイ。
シンポジウムは、二つの基調講演と二つのテーマ別のパネルディスカッションで構成されました。
(2) 開会挨拶
主催者を代表し、林野庁の長﨑屋森林整備部長は、我が国における森林生物多様性の保全に資する取組として「森林生態系多様性基礎調査」による森林モニタリング、国有林における保護林や緑の回廊の設定及び「森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針」の策定等を紹介し、適切な基準・指標に基づくモニタリングの継続と得られたデータ・知見を森林機能をさらに高める施策に結び付けていくことの重要性について言及しました。
(3) 基調講演1「生物多様性とモントリオール・プロセス」
ニュージーランド第一次産業省の上級政策分析官のラタ・ムダ氏が、「生物多様性とモントリオール・プロセス」と題した基調講演を行いました。
ラタ氏は、モントリオール・プロセスを代表して、林業経営において生物多様性を主流化するために生態系・種・遺伝子ㇾベルでの生物多様性に良い影響を与える森林政策、計画、プロジェクト及び投資への優先度を高めることや生物多様性の保全への配慮を日頃の森林経営及び長期的な森林計画に入れ込むこと、及びこれらの取組のためには正確なデータ収集と充分な分析能力が必要であることを指摘し、モントリオール・プロセス参加各国における生物多様性指標の活用状況や課題について共有しました。加えて、ニュージーランドにおける生物多様性戦略を紹介し、多くの在来種及び固有種が植林地で発見されていること、及び土壌の生物多様性の理解が今後の新たな探求領域であることに言及しました。
基調講演1 ラタ・ムダ氏 プレゼンテーション資料(PDF : 4,729KB)
(4) 基調講演2「温帯林・亜寒帯林における森林生物多様性と林業経営」
森林総合研究所の研究ディレクターの佐藤保氏が、「温帯林・亜寒帯林における森林生物多様性と林業経営」と題した基調講演を行いました。
佐藤氏は、日本の森林概況と「森林生態系多様性基礎調査」によるモニタリング結果を紹介し、我が国においては針葉樹人工林で木材生産をしながら、生物多様性の保全を考えることが重要であることを指摘し、主伐時に樹木や倒木、枯死木を残す保持林業により、従来の森林施業に比べて生物多様性を含めた様々な機能を増強できる可能性に言及しました。加えて、ユネスコの自然遺産登録地である沖縄島北部で外来種マングースの駆除事業によって固有種が回復した事例を紹介し、非在来種が現地の生態系に与える影響とその回復には時間がかかることに言及しました。
(5) パネルディスカッション1 「生物多様性と調和した林業経営やモニタリングの優良事例の共有」
- ジンピン・レイ博士
モントリオール・プロセスリエゾン担当官、中国林業アカデミー持続可能な林業研究センターディレクター
発表要旨(PDF : 312KB)
プレゼンテーション資料(PDF : 3,405KB) - カサンドラ・プライス氏
オーストラリア農林漁業局 国際森林政策ディレクター代理
発表要旨(PDF : 315KB)
プレゼンテーション資料(PDF : 2,206KB) - グラハム・スティンソン氏
カナダ天然資源省森林情報ディレクター(オンライン参加)
発表要旨(PDF : 321KB)
プレゼンテーション資料(PDF : 1,312KB) - ガストン・マルティネス氏
ウルグアイ農牧水産省林業総局(オンライン参加)
発表要旨(PDF : 372KB)
プレゼンテーション資料(PDF : 2,706KB) - 中川博之氏
野村不動産ホールディングス株式会社 サスティナビリティ推進部長
発表要旨(PDF : 376KB)
プレゼンテーション資料(PDF : 2,801KB)
(6) パネルディスカッション2「国際機関及びヨーロッパからの生物多様性を含む持続可能な森林経営に関する視点の共有」
- シルビア・アブルスカト氏
フォレスト・ヨーロッパ リエゾンユニット政策アドバイザー
発表要旨(PDF : 326KB)
プレゼンテーション資料(PDF : 750KB) - 高田実氏
国連森林フォーラム(UNFF)次長
発表要旨(PDF : 349KB)
プレゼンテーション資料(PDF : 2,282KB) - エワルド・ラメットシュタイナー氏
国連食糧農業機関(FAO)林業部次長
発表要旨(PDF : 308KB)
プレゼンテーション資料(PDF : 2,990KB)
(7) おわりに
閉会に当たり、林野庁海外林業協力室の谷本室長から、本シンポジウムでは、生物多様性の保全と調和した林業経営に向けた各国・国際機関等の取組や課題が共有されると共に、森林及びその変化を理解するための基準・指標の設定や継続した森林モニタリングの重要性が共有され、国際的に生物多様性保全に対する関心が高まっている中で、本シンポジウムが今後の取組の一助になることを祈念する旨、閉会挨拶がありました。
(8) 現地視察と森林総合研究所での意見交換
シンポジウム翌日10日(火曜日)には野村不動産ホールディングス株式会社の協力を得て、同社が東京都奥多摩町に保有する「つなぐ森」を訪ね、同社が外部の専門家や地域の協力を得ながら生態系管理計画を策定し、木材生産と生物多様性の共生を図っている森林を視察しました。
また、11日(水曜日)には、森林総合研究所が主催した研究者との意見交換が行われました。
3. 関連資料
お問合せ先
森林整備部計画課海外林業協力室
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