このページの本文へ移動

林野庁

メニュー

第1部 第5章 第2節 原子力災害からの復興(3)

(3)安全な特用林産物の供給

東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の拡散は、農林水産物への汚染を引き起こし、東日本地域におけるきのこや山菜等の特用林産物の生産にも大きな影響を及ぼしている。

きのこ等の食品中の放射性物質については、都道府県等による検査の結果、厚生労働省が定める基準値を超え、さらに地域的な広がりがみられた場合には、原子力災害対策本部長が関係県の知事に出荷制限等を指示している。令和3(2021)年3月26日現在、13県194市町村で、22品目の特用林産物に出荷制限が指示されている。


(食品中の放射性物質の基準値)

厚生労働省は、平成23(2011)年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故直後に、食品中に含まれる放射性物質の「暫定規制値」を設定した。同規制値のうち、「野菜類」、「穀類」、「肉・卵・魚・その他」に係る放射性セシウム濃度は500Bq/kgとされた(*67)。きのこ等の主な特用林産物は「野菜類」に該当するものとして、500Bq/kgの暫定規制値が適用されることとなった。

平成24(2012)年4月に、厚生労働省は、食品の安全と安心を一層確保するため、新たに食品中の放射性物質の「基準値」を設定した。新たな基準値では、「一般食品」の基準値は100Bq/kgとされ、きのこ類等の特用林産物については「一般食品」の基準値が適用されることとなった。また、乾燥きのこ類など、水戻しを行ってから食べる乾燥食品については、原材料の状態と水戻しを行った状態で、「一般食品」の基準値を適用することとされた(*68)。


(*67)「放射能汚染された食品の取り扱いについて」(平成23(2011)年3月17日付け食安発0317第3号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知)

(*68)「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の一部を改正する省令」(平成24年厚生労働省令第31号)、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令別表の二の(一)の(1)の規定に基づき厚生労働大臣が定める放射性物質を定める件」(同厚生労働省告示第129号)及び「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件」(同厚生労働省告示第130号)



(きのこ原木や菌床用培地等の指標値)

農林水産省は、平成23(2011)年10月に、きのこ原木と菌床用培地に関する放射性セシウム濃度の「当面の指標値」を150Bq/kgに設定して、都道府県や業界団体に対し、同指標値を超えるきのこ原木と菌床用培地の使用・生産・流通が行われないよう要請を行った(*69)。

平成24(2012)年4月には、きのこ原木等に関する新たな調査の結果と食品中の放射性物質に係る新たな「基準値」の設定を踏まえて、きのこ原木と菌床用培地に関する「当面の指標値」を改正した。新たな「当面の指標値」は、きのこ原木とほだ木(*70)については50Bq/kg、菌床用培地と菌床については200Bq/kgとした(*71)。


(*69)「きのこ原木及び菌床用培地の指標値の設定について」(平成23(2011)年10月6日付け23林政経第213号林野庁林政部経営課長・木材産業課長等連名通知)

(*70)原木にきのこの種菌を植え込んだもの。

(*71)「「きのこ原木及び菌床用培地の当面の指標値の設定について」の一部改正について」(平成24(2012)年3月28日付け23林政経第388号林野庁林政部経営課長・木材産業課長等連名通知)、「「きのこ原木及び菌床用培地の当面の指標値の設定について」の一部改正について」(平成24(2012)年8月30日付け24林政経第179号林野庁林政部経営課長・木材産業課長等連名通知)



(きのこの放射性物質低減に向けた取組)

林野庁は、原木きのこの安全性を確保するため、きのこ原木等に係る放射性物質の継続的な調査や放射性物質低減に向けた栽培管理方法の構築に取り組んできた。

平成25(2013)年には、原木きのこの生産再開に向けて、「放射性物質低減のための原木きのこ栽培管理に関するガイドライン」を策定し、全国の都道府県に周知した(資料5-11)。同ガイドラインでは、生産された原木きのこが食品の基準値を超えないようにするための具体的な栽培管理方法として、指標値以下の原木を使用すること、発生したきのこの放射性物質を検査することなどの必須工程のほか、状況に応じて原木・ほだ木を洗浄することなどを示している。

資料5-11 放射性物質低減のための原木きのこ栽培管理に関するガイドラインの概要

出荷制限が指示された地域については、同ガイドラインを活用した栽培管理の実施により基準値を超えるきのこが生産されないと判断された場合、地域の出荷制限は残るものの、ほだ木のロット単位(*72)での出荷が可能となる。

原木しいたけについては、令和3(2021)年3月26日現在、6県93市町村で出荷制限が指示されている(*73)が、このうち6県65市町村でロット単位での出荷が認められるなど、生産が再開されている。

林野庁では、安全なきのこ等の生産に必要な簡易ハウス等の防除施設や放射性物質測定機器の整備等を支援するとともに、風評の払拭に向けて、きのこ等の特用林産物に関する放射性物質の検査結果や出荷制限・解除の情報等をホームページで迅速に発信している。


(*72)原木の仕入先や植菌時期ごとのまとまり。

(*73)2県3市町で出荷制限が解除されている。



(きのこ原木の放射性物質検査の簡易化に向けた取組)

同ガイドラインの実施が始まった当初、きのこ原木の放射性セシウム濃度の計測に当たっては、チェーンソー等を用いて原木のサンプルからおが粉を採取し、これを検査機器で計測する方法がとられた。しかしこの破壊検査では検査に時間がかかり、検査箇所数の大幅な増加や効率化が望めないことなどが課題となっていた。

林野庁では、指標値以下のきのこ原木の円滑な供給に資するよう、平成25(2013)年度から、原木のままで放射性物質の検査が可能な非破壊検査機の実用化に向けた取組を進めてきた。この結果、実用可能な一定の精度が認められたことから、一部の県で原木林の汚染状況の把握などに活用されている。

また、近年、研究機関の取組により、立木の状態で放射性セシウム濃度を測定する伐採前判定方法も開発されている。さらに令和2(2020)年には、土壌の交換性カリウム量が多いほどコナラの放射性セシウム吸収が少なくなるという研究結果が公表された。

なお、「当面の指標値」を超えたため使用できなくなったほだ木等については、平成27(2015)年度から、焼却施設において、放射性物質濃度の測定を行うことで、安全性を確認しながら処理が進められている。


(きのこ原木の安定供給に向けた取組)

東日本大震災以前には、きのこ原木は、各県における必要量のほとんどが自県内で調達されていたものの、他県から調達される原木については、半分以上が福島県から調達されていた。その多くは阿武隈あぶくま地域で生産されていたが、この地域を中心に「当面の指標値」を超えるきのこ原木が多く発生したため、きのこ原木の生産が停止し、現在も生産が回復していない。

きのこ原木の生産量の大幅な減少に伴い、多くの県できのこ原木の安定調達に影響が生じたことから、林野庁では、平成23(2011)年度から、有識者、生産者、流通関係者等から成るきのこ原木の安定供給検討委員会(*74)を開催し、需要者と供給者のマッチングを行ってきた(*75)。近年、マッチングが必要なきのこ原木量は減少傾向にあることから、原木きのこの生産者が自ら原木を調達できることが多くなっていると考えられる(資料5-12)。


しかし、きのこ原木のマッチングにおいては、令和2(2020)年9月末時点で、供給希望量37万本のうちコナラが約9割を占めている一方、供給可能量32万本のうち約6割がクヌギ等となっており、樹種別にみるとミスマッチが生じている状況にある。林野庁では、引き続き、供給希望量の多いコナラを主体に供給可能量の掘り起こしを行うこととしている。また、日本特用林産振興会では、「西日本産クヌギ原木を使用した東日本での原木しいたけ栽培指針」を作成し、しいたけ生産者等に周知することにより、クヌギを用いた栽培方法の普及にも取り組んでいる。

なお、令和3(2021)年3月に閣議決定された「「第2期復興・創生期間」以降における東日本大震災からの復興の基本方針」では、原木しいたけ等の特用林産物の産地再生に向けた取組を進めるとともに、しいたけ原木生産のための里山の広葉樹林について伐採・更新による循環利用が図られるよう計画的な再生に向けた取組を推進することとされており、林野庁では引き続き利用可能なきのこ原木林の調査や伐採及び伐採後のぼう芽更新木の調査等への支援を行うこととしている。


(*74)平成25(2013)年度までは「きのこ生産資材安定供給検討委員会」、平成26(2014)年度からは「安全なきのこ原木の安定供給体制構築に係わる検討委員会」と呼称。

(*75)「平成24年度森林及び林業の動向」第2章第3節(2)61ページを参照。



(栽培きのこの生産状況)

平成24(2012)年の東日本地域におけるしいたけ生産量は、東日本大震災以前の平成22(2010)年の40,664トンから30%以上減少して27,875トンとなり、平成25(2013)年の生産量も28,906トンであった。

平成24(2012)年以降、東日本地域におけるしいたけの生産量は回復傾向にある。原木しいたけの生産量については、現在も平成22(2010)年の50%以下にとどまる一方、菌床しいたけの生産量については、おおむね東日本大震災前の水準にまで回復している(資料5-13)。


東京電力福島第一原子力発電所の事故直後に落ち込んだきのこの栽培は、生産者等の様々な努力により徐々に再開・拡大されてきた。生産者の中には、きのこの栽培管理を徹底した上で、きのこの高付加価値化に取り組み、ブランドを展開している例もある(事例5-6)。

事例5-6 徹底した安全管理できのこのブランドを守る

いわき市のブランド農産物「いわきゴールドしいたけ」を生産する農事組合法人いわき菌床椎茸組合(福島県)は、東日本大震災の後一時は出荷停止に追い込まれたが、いち早く放射線量の検査体制を確立しブランド化を図ったことで、生産・販路拡大に成功している。

同組合では、徹底した室内管理による菌床栽培を行い、おが粉・菌床・生しいたけの各段階において、自治体による放射線量検査だけでなく、納品業者と協力しながら独自の検査を行って、安全なしいたけの生産に注力してきた。取引先の仕入れ担当者に対し、早い時期の施設見学を促し、生産工程や検査結果の全てを開示することで信用を獲得してきた。

また、6次産業化にも取り組んでおり、風評被害に悩む県内企業と共同で、しいたけを使ったうどんやピクルス等の新商品を開発・販売している。試作を繰り返して誕生した「いわきゴールド椎茸焼酎」はヒット商品となり、ブランド力の向上にもつながった。今後も一層提携企業の幅を拡げ、新たなしいたけの魅力を伝える商品の開発に努める予定である。

同組合は、2015年には需要拡大に応じて新施設を設立し、年間生産量を500トンから1,000トンに倍増させた。現在では、青森県から関西まで19都府県に販路を拡大している。

資料:林野庁「放射性物質の現状と森林・林業の再生―復興・再生を目指して-2019年度版」
   復興庁「岩手・宮城・福島の産業復興事例30 2018-2019 想いを受け継ぐ 次代の萌芽~東日本大震災から8年~」
   いわきの逸品ホームページ「いわき菌床椎茸組合」




また、きのこの産地再生に向け、関係者の連携、協力による技術交流やイベント等が各地で行われてきた。平成26(2014)年には、岩手県において、県内の原木しいたけ生産者、関係団体、種菌メーカー、市町村の職員等により、「いわての原木しいたけ産地再生の集い」が開催され、関係者が一丸となってしいたけ産地再生に向け取り組んでいくことが確認された。さらに、令和元(2019)年8月には、東日本原木しいたけ協会などでつくる実行委員会が主催となり、「全国・原木しいたけサミット」が開催され、先進的な栽培方法や、消費拡大の取組について話し合われるとともに、安心・安全な原木しいたけの生産拡大などの宣言が採択された。


(野生きのこ、山菜等の状況)

野生きのこや山菜等の特用林産物については、令和3(2021)年3月26日現在、野生きのこ、たけのこ、くさそてつ、こしあぶら、ふきのとう、ぜんまい等18品目に出荷制限が指示されている。

出荷制限の解除は、原子力災害対策本部が定める「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」において、放射性物質の検査結果が安定して基準値を下回ることが確認できた場合にできるとされている。

なお、野生きのこについては、全体を1品目として出荷制限が指示されているが、解除に当たっては、平成26(2014)年から、種類ごとに解除できることとされている。

林野庁は、野生のきのこ、山菜等の出荷制限の解除が円滑に進むよう、平成27(2015)年に「野生のきのこ類等の出荷制限解除に向けた検査等の具体的運用について」を通知し、具体的な検査方法や出荷管理について関係都県に周知した。このような中で、野生きのこの出荷制限の解除も進みつつある。一方、近年でも新たに出荷制限が指示される品目もあり、安全な特用林産物を出荷していくため、今後も検査等を継続していく必要がある。


(薪、木炭、木質ペレットの指標値の設定)

林野庁は、平成23(2011)年に、調理加熱用の薪と木炭に関する放射性セシウム濃度の「当面の指標値」を、それぞれ40Bq/kg、280Bq/kg(いずれも乾重量)に設定し(*76)、都道府県や業界団体に対し、同指標値を超える薪や木炭の使用、生産及び流通が行われないよう要請を行っている。

木質ペレットについても、平成24(2012)年に、放射性セシウム濃度に関する「当面の指標値」を、樹皮を除いた木材を原料とするホワイトペレットと樹皮を含んだ木材を原料とする全木ペレットについては40Bq/kg、樹皮を原料とするバークペレットについては300Bq/kgと設定した(*77)。

なお、これらの指標値は、燃焼灰が一般廃棄物として処理可能な放射性濃度を超えないよう定められた。


(*76)「調理加熱用の薪及び木炭の当面の指標値の設定について」(平成23(2011)年11月2日付け23林政経第231号林野庁林政部経営課長・木材産業課長連名通知)

(*77)林野庁プレスリリース「木質ペレット及びストーブ燃焼灰の放射性セシウム濃度の調査結果及び木質ペレットの当面の指標値の設定等について」(平成24(2012)年11月2日付け)


コラム 利用可能なきのこ原木林の判定に役立つ研究

福島県は阿武隈あぶくま地方を中心に、きのこ栽培に⽤いる原⽊の⽣産が盛んで、他県にも多くの原木を供給していた。東日本大震災以降、原⽊の放射性セシウムが50Bq/kgを超えたために原⽊⽣産が停⽌してしまった地域は、阿武隈地方を始め福島県内の多くの生産地、また周辺の県にも及んでいる。こうした地域の原⽊きのこ⽣産者の、「地元の原⽊を利⽤したい」という要望に応えるため、これまで各種研究が行われてきた。

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所は、平成28(2016)年から平成29(2017)年の冬季に、放射能汚染されたきのこ原⽊採取⽤のコナラぼう芽林34か所において、コナラによる放射性セシウム吸収に対する⼟壌要因の影響を明らかにするために当年枝(注1)と土壌の調査を行った。

放射性セシウムが蓄積している深さ5cmまでの⼟壌について、化学性及びセシウム137量(注2)を測定し、コナラ当年枝に含まれるセシウム137濃度との関係を調査した。その結果、⼟壌中の交換性カリウム(注3)の量がコナラ当年枝のセシウム137濃度に大きく影響し、交換性カリウム量が多いとコナラ当年枝のセシウム137濃度が低くなることが分かった。また、⼟壌の交換性セシウム137量が多い場所ではコナラ当年枝のセシウム137濃度が⾼い傾向があり、コナラのセシウム137吸収には⼟壌のセシウム137総量よりも交換性のセシウム137量の⽅が影響していることも分かった。

コナラの放射性セシウム吸収を決める主要な要因は土壌の交換性カリウム量であるという当研究結果に基づき、今後、きのこ原木林として利用可能なコナラ林を判定するために、土壌の交換性カリウムの情報を活用した新たな手法の開発が期待される。

注1:その年に新たに伸びた枝。カリウムやセシウムは、植物の成⻑部位で濃度が⾼くなるので、当年枝は⼟壌からのセシウム137吸収の指標となる。

2:セシウム137は、⼟壌中では⼤部分が粘⼟鉱物や有機物に吸着あるいは固定されている。このうち、交換性セシウム137は、セシウム137総量の数%を占め、植物に吸収されやすい性質がある。

3:⼟壌中に含まれるカリウムのうち、植物が吸収可能なもの。カリウムは根からの吸収でセシウムと競合するため、放射性セシウムの吸収抑制効果がある。

資料:国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所プレスリリース「コナラの放射性セシウム吸収を決める土壌のカリウム ―利用可能なきのこ原木林判定への新たな手がかり―」(令和2(2020)年10月28日付け)




お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader