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林野庁

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第1部 第 I 章 第3節 新たな森林管理システムの構築の方向性(2)

(2)意欲と能力のある林業経営者への森林の経営管理の集積

(ア)森林所有者自らが森林の経営管理ができない森林の市町村への経営管理権限の集積

現状でも個別に森林所有者の同意や確認を得れば、林業経営者が林業経営の集積・集約化を図ることは可能である。しかしながら、森林所有者の所有意思等が低い中、その取組は困難さを増している。

林業経営者が、一定のまとまりのある森林の集積・集約化を行うことができなければ、林道の開設等にも影響することが想定され、効率的な林業経営を実施していくことは難しくなる。

こうしたことから、森林所有者自らが適切な経営管理を行うことができない森林については、新たな森林管理システムを通じて、意欲と能力のある林業経営者に一定期間林業経営を委ねられるようにすることが必要である(資料 I -10)。

そして、計画的な伐採を行いつつ、伐った後には再造林を行い、適切な保育作業を実施していくことや、長伐期化を目指して間伐を繰り返すといった、循環的な林業経営を行っていくことが必要である。

また、こうした林業経営者に林業経営を委ねることで、高い生産性と収益性を実現させ、森林所有者や林業従事者の所得を向上させ、地域での雇用を確保し、山村地域の活性化にもつなげることができる。さらには、計画的な伐採を行うことで、川下と連携した安定的な丸太の供給を図り、競争力を強化していくことも可能となる。

資料I-10 新たな森林管理システム

(イ)意欲と能力のある林業経営者の育成

林業経営には、森林組合や企業、個人事業主、林家など様々なプレーヤーが存在しているが(*56)、「森林・林業基本計画」においては、林業経営の主体として、森林経営計画の作成を担う「持続的な林業経営の主体」と、効率的かつ低コストな施業を実施し得る「効率的な施業実行の主体」を位置付けている。新たな森林管理システムにおいては、この両者とも市町村が森林の経営管理を委ねる候補となり得ることから、その育成を図っていく必要がある。

森林所有者から、継続して林業経営を受託する主体には、(ア)森林所有者・林業従事者の所得向上につながる高い生産性や収益性を有すること、(イ)主伐後の再造林の実施体制を有するなど林業生産活動の継続性を確保できることなど、効率的かつ安定的な林業経営を実現できることが求められている。また、林業事業体によって伐採や搬出のみならず、再造林を促すような独自のガイドラインを作成するといった取組も進められてきたところであり、こうした取組が広がっていくことが求められている(事例 I -2)。

このような取組が林業経営の主体に求められることを踏まえて、市町村が森林の経営管理を委ねる林業経営者として経営改善の意欲を有すること、関係事業者と連携するなどして丸太生産や造林・保育の実行体制を確保できること、伐採・造林に係る行動規範の策定などに取り組むことが可能であること等を考慮し、市町村からの推薦も踏まえて選定した者を都道府県が公表することとし、このような者を、地域の実情に応じて育成・確保することが重要となる。具体的には、このような林業経営者として、森林組合や素材生産業者、自伐林家等が対象になると見込まれる。

事例 I -2 伐採搬出ガイドラインサミット

宮崎県の素材生産事業体を中心に平成15(2003)年に設立された「ひむか維森(いしん)の会」は平成20(2008)年に自らが素材生産を行う際の「伐採搬出ガイドライン」等を策定し、素材生産に係る環境負荷の低減や、再造林支援を促すなどの取組を進めてきた。さらに、平成23(2011)年には、外部に設置した第三者委員会とともに環境配慮や資源循環(主伐後の再造林)、労働安全に関する所定の基準を審査し認証する「責任ある素材生産事業体」制度を発足させるなど、素材生産業が社会的責任に応えることを広める取組を進めている。

また、同会ではこうした取組の全国への普及にも努めており、岩手県や島根県、鹿児島県でも同会の「伐採搬出ガイドライン」をベースとしたガイドラインを策定し、運用する動きが出てきている。同会では、こうした活動の更なる活性化を目指し、平成29(2017)年9月に、「伐採搬出ガイドラインサミットin宮崎・九州」を開催した。このサミットでは、全国から73の事業体等が参加し、同会のこれまで10年間の取組や、全国各地の活動状況が報告されたほか、環境配慮等を盛り込んだ伐採搬出時のガイドラインの九州全域への展開を目指す新たな連携協議会の設置等について、大分県、熊本県、宮崎県、鹿児島県の素材生産事業体の団体が協力して取り組むことが宣言された。

連携協議会の設置について宣言
連携協議会の設置について宣言
サミット参加者による伐採現場視察
サミット参加者による伐採現場視察

(*56)林業経営の動向について詳しくは、第 III 章(87-93ページ)を参照。



(ウ)自然的条件等が不利な森林の適切な管理

(自然的条件が不利な人工林の管理)

林業経営者に委ねることが期待される森林については、持続的な林業経営が成り立つことが前提となっている。しかし、市町村が森林所有者から経営管理に関する権利を取得した森林の中には、自然的条件が不利で、経済ベースで自立した林業経営を継続的に実施することが難しい人工林も含まれる。森林は、林業経営の適否にかかわらず、国民一人一人にとってかけがえのない多様な公益的機能を有していることから、自然的条件が悪く、林業経営が成り立たない森林を、積極的な経営の意思を有していない森林所有者に任せているのでは、適切な経営管理がなされずに森林の有する公益的機能の発揮に支障を来してしまうことになる。

このため、新たな森林管理システムでは、このような林業経営が成り立たない森林は、市町村による公的管理により適切な施業を実施していく必要がある。この際には、間伐を繰り返したり、育成単層林として維持するのではなく、管理コストが小さくなるよう、育成複層林等への転換を進めることが望ましい。

「森林・林業基本計画」においても、急傾斜の森林又は林地生産力の低い森林については、広葉樹の導入等により針広混交の育成複層林等に誘導することとしており、そうした森林は370万haに上る(*57)とされている。

また、この新たな森林管理システムの構築を契機として、森林の有する公益的機能が十分に発揮されるよう、市町村が自らの事業として実施する森林整備等に必要な財源に充てるため、国民一人一人が負担を分かち合って、国民皆で森林を支える仕組みとして森林環境税(仮称)を創設するとの内容が「平成30年度税制改正の大綱(*58)」において取りまとめられている。


(*57)森林・林業基本計画における平成27(2015)年の育成単層林の面積は1,030万haであり、うち350万haが育成複層林に、20万haが天然生林に誘導される森林となっている。

(*58)平成29(2017)年12月22日閣議決定。詳しくはトピックス(2-3ページ)を参照。



(天然林の適切な維持・管理)

新たな森林管理システムは、主に民有林の人工林を念頭に置いたシステムであるが、人工林とともに森林全体としての多面的機能を発揮する天然林についても、適切な維持・管理を行う必要がある。このため、市町村も含めた様々な主体によって、奥地の天然林については引き続き天然力を活用して維持が図られるようにするとともに、里山林については、竹林化が進んでいるところもみられており、期待される多面的機能に応じた手入れが実施されることが求められる(*59)。


(*59)里山林の保全管理の取組については、第 III 章(120ページ)を参照。




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