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東北森林管理局

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    【ヒバの特性】抗菌作用

      菌類には、カビやキノコ、酵母などが含まれます。私たちの生活において真菌類は食料品や医薬品の製造など様々な用途に使われ、自然界においても動植物の死骸を分解する重要な役割を持っています。
       その一方で、病気の原因や、ものを腐らせてしまう原因になることもあります。ヒバ材やヒバに含まれるヒノキチオールは、これらの真菌類に対して強い殺菌作用があることが分かっています。


    目次

    腐りにくい、耐朽性が高い
     ・木材腐朽菌

    かびにくい
     ・コウジカビ

    病原性の菌類や細菌類への抗菌作用を持つ
     ・幅広い真菌類、細菌類に対する殺菌作用を持つ
     ・人体へのダメージが比較的少ない
     ・薬剤耐性をもたれにくい
     ・医療現場への導入に向けたヒノキチオール利用の応用研究

    腐りにくい、耐朽性が高い

     木材腐朽菌

      木材を腐らせる分解者には、別項にて紹介したシロアリのほかに木材腐朽菌がいます。これらはキノコの仲間の真菌類が中心で
    、ナミダタケなどの木材腐朽菌も木材を腐らせて分解する大きな要因となっています。



    参考文献
    松岡昭四郎雨宮昭二庄司要作井上衛阿部寛内藤三夫. (1970). 浅川実験林苗畑の杭試験(3)各樹種の野外試験による耐朽性調査結果林業試験場研究報告, 232, 109-135.

    酒井
    温子岩本頼子, & 中村嘉明. (2005). 青森県産ヒバ材および石川県産アテ材の野外耐久性木材保存, 31(5), 207-213.

    今村祐嗣
    . (2000). 木材保存学入門日本木材保存協会(), 80.

    かびにくい

    コウジカビ

       ニホンコウジカビは麹菌とも呼ばれ、醤油味噌などの醸造製品をなどの生産にはなくてはならない存在です。一方でコウジカビの仲間には、食品などに生育する青カビや、発がん性物質など有害な毒素を分泌するものも存在します。これらの生物に対してもヒバは他樹種にくらべて強い抗菌活性を持つことが明らかになっています。



    参考文献
    岡部敏弘斎藤幸司, & 大友良光. (1988). 青森ヒバ(ヒノキアスナロ)油に関する研究青森県工業試験場業務報告書, 199-218.

    病原性の菌類や細菌類への抗菌作用を持つ

       これまでの数多くの研究成果により、ヒバに含まれる精油やヒノキチオールは、病原性の菌類、細菌類への抗菌作用を持つことが知られています。

       ヒノキチオールの殺菌作用に関する最初の知見は、1940年に旧台湾帝国大学教授の桂重鴻氏により発表された“ヒノキチオールが結核菌に対する顕著な殺菌作用と発育阻止作用を有する”という知見です。当時、結核は死に至る不治の病として治療法が確立されていない中、ヒノキチオールは貴重な治療薬として注目されました。

       終戦後、米国にて開発された工業的に大量生産が可能かつ即効性のあったストレプトマイシン等の抗生物質の登場によって、結核の治療薬として実用化には至りませんでしたが、ヒノキチオールは下記の理由により再び注目を集めています。

    ○ 幅広い真菌類、細菌類に対する殺菌作用を持つ
    ○ 人体へのダメージが比較的少ない
    ○ 薬剤耐性をもたれにくい

       以下では、研究事例を示しながらこれらのヒノキチオールの性質について説明し、医療現場への導入に向けたヒノキチオール利用の応用研究についても紹介します。


    ヒノキチオールの性質
    幅広い真菌類、細菌類に対する殺菌作用を持つ

       桂重鴻氏による結核菌に対する作用が明らかになったのち、多くの研究者によりヒノキチオールが結核菌を含む様々な真菌類、細菌類に対しての殺菌作用を持つことが明らかになりました。これらの知見を踏まえ、青森工業試験場の岡部敏弘氏によって主要な真菌類や細菌類に対するヒバ精油ならびにヒノキチオールの活性が調査されました。



    参考文献
    岡部敏弘斎藤幸司, & 大友良光. (1988). 青森ヒバ(ヒノキアスナロ)油に関する研究青森県工業試験場業務報告書, 199-218.

    岡部敏弘
    斎藤幸司, & 福井徹. (1944). メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対するヒノキチオールの抗菌活性木材学会誌, 40 (11), 1233-1238.



    ヒノキチオールの性質
    人体へのダメージが比較的少ない

    ~ヒノキチオールの安全性について~

       現在ヒノキチオールは食品添加物、薬品、化粧品等の幅広い用途にける使用が認められていますが、それが認められるまでには、各認定機関による評価や審査を受け、ヒノキチオール自体の安全性に加え、安全に利用できる分量などついても多くの調査によって確認するというプロセスがあります。
       例えば食品添加物として認められるには食品安全委員による評価が必要で、人の健康を損なうおそれのない場合に限っての使用とし、そのための成分の規格や使用の基準が定められています。



    ~精油の安全性について~

       精油は現在、一般に広く流通しており、各種販売店等で手軽に入手することができます。精油もヒノキチオール同様に強い抗菌性を持つ一方で人体への毒性が低いことが明らかになっていますが、近年、各種毒性評価が行われています。

       妊娠したラットにヒバ精油を経口投与した野田ら(2000)の実験では、ラットの体重1kgあたり母親に対しては0.1g母体内の胎児対しては0.3gまでは毒性を示さないと推定されています。
       上記試験を私たちに置き換えると、体重50kgの人が5g15gの精油を飲み干すようなもので、通常では行わない使い方です。しかし、私たちが気軽に入手できすばらしい可能性を秘めている精油にも、安全に使う配慮が必要であることを忘れてはいけません。

       安全な精油の使い方については、“ヒバとはにて紹介しています。


    参考文献
    野田勉, & 清水充. (2000). 抗菌剤ヒバ油の安全性試験 2. 催奇形性試験生活衛生, 44(2), 59-64.




    ヒノキチオールの性質
    薬剤耐性を持たれにくい

       病原性の細菌などを殺したり、その増殖を抑制したりする働きを持つ「抗生物質」ですが、近年、従来抗生物質が効かない“薬剤耐性(AMR)”を持つ細菌が世界中で増えています。
       薬剤耐性菌が増えると抗生物質が効かなくなることから、これまでは感染、発症しても適切に治療すれば軽症で回復できた感染症が、治療が難しくなって重症化しやすくなり、さらには死亡に至る可能性が高まります(内閣府 2020)。
       ヒノキチオールは、ヒノキチオールに対する薬剤耐性を獲得されにくいことで知られています。




    参考文献
    渡邊正二郎. (1953). 不飽和 7 員環化合物の実験的及び臨牀的研究-15. 新潟医学会雑誌, 67(10), 938-944.

    内閣府
    . (2020). 政府広報オンライン“抗菌薬が効かない「薬剤耐性(AMR)」が拡大!一人ひとりができることは?
    https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201611月02日.html2020年12月09日閲覧



    医療現場への導入に向けたヒノキチオール利用の応用研究

       ここまでヒノキチオールがもつ有用な性質について紹介しましたが、医療現場においてその性質を活かしたヒノキチオールの新たな利活用の可能性を示す研究も行われています。

    MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
       MRSAは、抗生物質として一般的に使われるメチシリンをはじめとする多くの薬剤に対し薬剤耐性を示す黄色ブドウ球菌をさします。
       MRSAは通常の黄色ブドウ球菌と病原性に大きな違いがないため、健康で正常な免疫機能を持つ人には無害の場合が多いですが、大きな手術後など身体の免疫抵抗性が低下した人が感染すると、抗生物質による治療が困難になるため重症化するリスクも高くなります。そのため、“難治性院内感染”として現在の医療現場における課題となっています。



    参考文献
    岡部敏弘斉藤幸司, & 福井徹. (1994). メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対するヒノキチオールの抗菌活性木材学会誌40(11), 1233-1238.

    斎藤
    幸司岡部敏弘福井徹, & 稲森善彦. (1997). メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対するヒノキチオールの抗菌活性( 2 )医療環境消毒への適用木材学会誌, 43(10), 882-891.



    薬剤耐性肺炎球菌
       ヒノキチオールは薬剤耐性を持つ肺炎球菌に対する効果が分かっているほか、肺炎球菌によって引き起こされる肺炎の重症化リスクを低減する効果を持つことが明らかになっています。


       なお、上記内容は下記リンクの新潟大学のプレスリリースの研究論文を元に執筆し、論文責任著者の同大学   寺尾教授の校閲を受け作成しました。

    新潟大学プレスリリース“植物由来成分が肺炎球菌を殺菌することを明らかにしました
    https://www.niigata-u.ac.jp/news/2019/56234/

    新潟大学プレスリリース“植物成分のヒノキチオールで肺炎球菌による肺炎を治療-新潟大学院生らが報告、薬剤耐性菌にも効果-”
    https://www.niigata-u.ac.jp/news/2020/78772/


    参考文献
    Domon, H., Hiyoshi, T., Maekawa, T., Yonezawa, D., Tamura, H., Kawabata, S.,  & Terao, Y. (2019). Antibacterial activity of hinokitiol 
    against both antibiotic - resistant - and susceptible pathogenic bacteria that predominate in the oral cavity and upper airways. 
    Microbiology and immunology, 63(6), 213-222.

    Isono, T., Domon, H., Nagai, K., Maekawa, T., Tamura, H., Hiyoshi, T., & Terao, Y. (2020). Treatment of severe pneumonia by hinokitiol 
    in a murine antimicrobial-resistant pneumococcal pneumonia model. Plos one, 15(10), e0240329.



    ナノヒバ油の作成と利用
       ヒバ油は水に解けづらく乳化剤を用いても分離しやすい性質を持つため、適正な濃度に希釈することが難しく、利活用に大きな制約がありました。
       しかし、ヒバの微粒子化と乳化剤等との最適な調合率を調整した“ナノヒバ油”の開発によって、ヒバ油希釈利用が可能になり、白癬菌治療剤などさまざまな場面での利活用が期待されています。


    参考文献
    岡部敏弘小野浩之, & 小舘澄枝. (2012). 青森ひば材からの樹木抽出成分「青森ヒバ油」におい・かおり環境学会誌, 43(2), 128-137.

    独立行政法人日本原子力研究開発機構
    地方独立行政法人青森県産業技術センター, & 国立大学法人弘前大学. (2013). 特許第5364883.

    中根明夫& 澤谷優. (2012). ナノヒバ油による病原体防除の検討(3)病原体防除効果の検討.



    お問合せ先

    下北森林管理署

    ダイヤルイン:0175-22-1131