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中部森林管理局

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    「檜皮の森」森林整備協定の取組について

    「檜皮葺き(ひわだぶき)」とは

    長野県長野市 善光寺

    「檜皮葺き」は日本固有の屋根葺き技術で、起源は飛鳥時代とされ、現在、多くの国宝や重要文化財等の屋根に使用されており、約30年の周期で葺き替えが行われています。主な檜皮葺き屋根は、長野市の善光寺や京都市の清水寺、広島市の宮島厳島神社、島根県出雲大社などがあり、全国で約700棟もの建造物に使われています。

    「檜皮(ひわだ)」とは

    「檜皮」は屋根葺き用にヒノキから採取した樹皮であり、樹齢80年以上のヒノキの立木から採取し、およそ10年の間隔で採取が可能です。

    採取方法は特殊なヘラを使い形成層と樹皮との間に差し込み剥離させ、ぶり縄を用いて立木に登りながら樹皮を剥ぎ取るという技法です。
    採取時期は7月下旬から翌年4月下旬までの水分流動の少ない時期に行います。採取可能樹齢は80年から180年程度とされています。初回に採取される檜皮は「荒皮」と言われ屋根葺き用として使用できるのは3~5割程度ですが、2回目以降10年周期ほどで採取される檜皮は「黒皮」と言われ、良質でほぼ全部が利用できます。

    森林整備協定

    檜皮葺き屋根に使用される檜皮を採取する職人を原皮師(もとかわし)と呼びますが、昭和50~60年頃には原皮師の減少と高齢化は檜皮葺き関係者の中でも憂慮する状況となるとともに、檜皮葺き屋根の修理に必要な檜皮も慢性的な不足が問題となり、その文化と技術の継承が問題となっています。

    森林整備協定調印式(平成14年)

    このため、公益社団法人全国社寺等屋根工事技術保存会から要請があり、檜皮屋根の資材となる檜皮の安定供給と原皮師育成の研修、協定締結者の連携・協力により「檜皮の森」の維持管理を円滑に実施することを目的として、木曽森林管理署南木曽支署と森林整備協定を締結しました。主な活動としては、関連林道の除草、採取地までの歩道整備等を行っています。

    場所:賤母国有林702林班他(木曽郡南木曽町)、面積:71.36ha

    原皮師の育成

    平成28年研修生査定会の様子

    平成11年度より保存会として檜皮採取技能者(原皮師)の養成研修に取り組んでいます。平成28年度に南木曽支署管内で年一回の技術向上を目的とした査定会が行われました。
    原皮師については、技術の習得に10年、熟練になるには20年以上必要となり、プロとしての原皮師となれるのは全体の2割ほどです。現在、原皮師として活躍されている保存会会員の方は全国で25名です。

    森林環境教育


    地元小学生見学

    地域の小学校、高校、林業大学校等が檜皮採取見学を通じ、日本の伝統技術・文化財にふれあう取組として、原皮師を講師に見学会を行ってきました。令和4年度に実施した森林教室に参加した小学生児童は、6m以上もの高いところで作業することや、ヒノキの皮がきれいに剥がれることに驚いた様子でした。

    平成23年に行った地元高校生の見学時の様子が中日新聞(平成23年11月3日付け)に取り上げられ、令和3年度には長野県林業大学校生が見学に訪れました。見学者からは「採取の様子が間近で見ることができて、採取方法や道具の使用方法が勉強になった。」「将来の供給量がどうなのか関心がある。」「文化財の建築物に関心が持てるようになった。」「10年経てば皮が再生し再び採取できることに驚いた。」などの感想が出されました。

    新聞記事(平成23年11月3日付け)

    林業大学校生見学

    檜皮採取実績

    これまでの20年間にわたる檜皮採取の実績は人員は400人弱、延べ4,300人程度の人が作業を行ってきました。本数は3回目の採取木も含めて延べ17,000本程度実施しています。数量は平成23年度から2回目以降の採取となり、技術の向上と併せて採取量が増加したこともあり、約7万キログラム(70トン)程度の檜皮を採取しています。
    屋根に葺く目安として、一坪あたり150キログラム必要になるので、20年間の採取量7万キログラムは善光寺本堂一棟分の葺替えに必要な数量を採取することができたということになります。

    立木等への影響

    剥皮後の立木等への影響については、成長への影響、材質への影響の2点が懸念されたことから、現地で経過観察を行いました。
    まず、檜皮採取後の経年変化を比較しました。剥皮から1ヶ月後、1年後、2年後、3年後、10年後の樹幹の様子です。
    1ヶ月後は3回目の採取、1年後から10年後は2回目の採取を行っています。写真は同一林木ではありませんが、いずれの林木も特に外見上、樹勢の衰えもなく成長している状況が確認できます。
    また、令和3年12月にドローンで林分全体を撮影しましたが、葉の色からも健全な状態であることが確認できます。
    これらの観察の結果、立木、材質への影響については、皮を剥いだことと樹脂が漏れ出たことによる影響はないと思われます。
    先行研究で発表されていますが、剥皮木、対象木の直径成長に差はないとされております(2012、門松ら)。また、伝統的な檜皮採取技法により皮を剥いだ立木への影響はないとされていますが(2015、斉藤ら)、今後も観察を続けていきます。材質についてはあと100年観察を継続し、木材として活用されるときに証明がなされるものと思います。

    取組成果と今後の展望

    協定締結から20年間の取組み成果については次のとおりです。
    1.安定的・良質な檜皮採取については森林整備協定の継続による資源の確保と国有林をフィールドとして提供してきました。
    2.継続的に職人の育成に協力してきました。
    3.森林環境教育に尽力してきました。
    4.檜皮採取の安全性や効率性を踏まえた森林整備活動のバックアップを行ってきました。
    以上の4点については今後も継続していきます。
    今後の課題としては、現在、クマ剥ぎ等の被害はあまり発生していませんが、採取木にクマ剥ぎ等の被害が発生した場合は早急な対応を行うこととしています。
    今後の展望としては、檜皮はSDGsとして持続可能な資源の活用であり、日本の伝統技術としてユネスコ無形文化遺遺産に登録された世界遺産でもあるので未来に継承していくためPRを強化し普及啓蒙していくこととしています。
    私たちは歴史と文化を継承してこられた先人たちの功績に敬意を表し、20年の節目を契機に檜皮採取技術の継承と森林整備活動を継続して取り組んでいきたいと考えています。

    【参考文献・引用文献】
    門松昌彦ほか檜皮採取がヒノキの直径成長に与える影響[北海道大学演習林研究報告68巻1号P.39-46(2012)]
    斉藤幸恵ほか檜皮採取によりヒノキ材の木部性質は変わるか[木材学会誌Vol.61No.1.P.25-32 (2015)]

    お問合せ先

    木曽森林管理署南木曽支署

    担当者:森林整備官(経営・育成)
    ダイヤルイン:0264-57-2400