青森ひばの不思議
昔から「総ひば造りの家には、蚊が3年間は入らない」と言われてきました。またひば材の土台は腐りにくく、シロアリの被害も受けないことも知られています。その秘密は、ひばの中にヒノキチオールなどの薬効成分が多く含まれているためです。木材全体にその効力があり、切断・加工してもその効果は薄れませんし、天然のものですから薬害の心配もありません。
また、ひば材の木目が緻密で美しいのは、2百年、3百年という長い年月をかけてゆっくりと成長した木だからです。長い風雪に耐えた天然木ならでは、強度と独特の明るい色つやが「青森ひば」の特徴です。
なぜシロアリに強いのか
「家屋のガン」といわれるシロアリ。建物の土台や柱、筋かいなどの、材表面は食べ残して内部を食害するため、発見が難しく、気づいた時は手遅れというケースが多いのです。他のほとんどの木がシロアリの被害を受けるのに対して、「青森ひば」はシロアリを寄せつけません。 これは、「青森ひば」に含まれる「メタノール可溶成分」によるものとされています。「青森ひば」と「青森ひばからメタノールを抽出した残渣物」を比較実験したところ、「青森ひば」の方は120時間でシロアリが死滅し、残渣物にはシロアリが積極的に近づき食害したことからも証明されました。
シロアリは、木造の湿気密閉建物ほど好むといわれますが、他のどんな木材よりもシロアリに強い「青森ひば」を適所に使用することで、被害を防ぐことができます。このことは、宮崎大学中島教授の試験結果でも明らかになっています。
なぜ驚異の耐朽力があるのか
平泉の中尊寺金色堂は、約890年前にひば造りで建てられ、今もなおその姿を残しています。そのほかにも、青森県の弘前城や岩木山神社楼門、石川県因託寺・本光寺など「青森ひば」を使用した古い建築物が東北・北陸地方に数多く残っています。
また、青森県下北半島の猿ヶ森には、約800年前に大津波によって埋もれ木になった、ひばの埋没林があります。この埋もれ木が腐朽しているのは表面2cmほどで、中は今でも製材として使えるものがほとんどです。
このように、「青森ひば」は驚くほど腐りにくく耐朽力があるのですが、これは、揮発性物質のヒノキチオールとシャメールBという成分が含まれているためです。この成分は、木材腐朽菌に対して強い殺菌力を持ち、腐朽菌の成長を止める力も持っています。
しかも、ヒバ材は、比較的堅く、圧縮力に対しても抵抗力が大きいことから、古くから重要建築用材として用いられてきたのです。
主要木材の性質
樹 種 |
木口面 硬 さ (kg/m2) |
気乾比重 |
圧縮強さ(kg/㎠) |
曲り強さ(kg/㎠) |
せん断強さ(kg/㎠) |
平均 収縮 率(%) |
ヒ バ | 4.0 | 0.41 | 400 | 750 | 75 | 0.12 |
ヒノキ | 3.7 | 0.41 | 400 | 750 | 75 | 0.12 |
ス ギ | 3.2 | 0.38 | 350 | 650 | 60 | 0.10 |
アカマツ | 4.3 | 0.53 | 450 | 900 | 95 | 0.16 |
カラマツ | 3.5 | 0.53 | 450 | 800 | 80 | 0.14 |
トドマツ | 2.5 | 0.42 | 330 | 650 | 65 | 0.14 |
・気乾比重とは、気乾比重=気乾時の重量気乾時の容積(気乾状態の標準として、わが国では含水率15%が用いられる)。
・圧縮、曲げ、せん断の強さとは、木材が破壊する限度の荷重を材の単位面積当たりの大きさで表したもの。
・平均収縮率とは、生材の時の長さを基準として、含水率が15%まで下がった時の縮み量や全乾まで乾燥した時の縮み量の100分率。
なぜ湿気に強いのか
温暖で多湿な日本の気候条件は、木材腐朽菌にとって好環境です。また、最近は省エネが叫ばれ、密閉式住宅を志向していますから、木材腐朽菌にとってますます好条件になっています。ところが「青森ひば」には強力な殺菌力を持つヒノキチオールとシャメールBという成分がありますから、湿気の強いところでも腐りません。
下の腐朽菌に対する腐朽度表からも、「ひば」がいかに腐りにくい木であるかがわかります。
建物の濡れ縁、軒周り、ベランダ、風呂、風呂場、雨がよく当たる場所や水回りの部分でも「青森ひば」は威力を発揮します。
建築用木材の腐朽菌「ワタグサレタケ」に対する腐朽度平均値表
なぜ緻密で美しく狂いがないのか
他の種類の木は、30年~50年で成木となりますが、「青森ひば」は100年たってようやく青年期を迎えます。現在利用されているひば材は、樹齢およそ200年~250年のものがほとんどです。
雪の多い地方でなければ育たないといわれる「青森ひば」は、北の厳しい風雪に耐えながら、ゆっくり年輪を重ねます。長い年月をかけてじっくりと成長した「青森ひば」は、緻密で狂いが少なく、木目も美しい木材になるのです。
昔から、「ひのき舞台を踏む」という言葉通り、歌舞伎や能、狂言などの所作舞台の素材は、ずっと「ひのき」が使われてきました。昭和57年に、青森市文化会館が新築された時、「ひのき舞台」ならぬ「ひば舞台」が誕生しました。柿(こけら)落としで「三番叟」を踊った歌舞伎の中村富十郎さんは、木の質やツヤから、「ひのき」と比べて全く遜色がないと絶賛しています。所作舞台の大事な条件、「踏んだ時の音の切れの良さ」は、むしろ「ひば」の方が優れているともいわれます。
お問合せ先
東北森林管理局青森事務所
ダイヤルイン:017-781-2117