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四国森林管理局

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    エリートツリー、大苗、普通苗の植栽による下刈省力化試験現地検討会の概要

    令和5年10月25日
    愛媛森林管理署

    〇エリートツリー、大苗、普通苗の植栽による下刈省力化試験地について

     日本の森林・林業施策の基本的な方針等を定める新たな森林・林業基本計画が令和3年6月に閣議決定され、現在、従来の施業等を見直し、開発が進みつつある新技術を活用して、伐採から再造林・保育に至る収支のプラス転換を可能とする「新しい林業」の取組みが推進されています。具体的には、ドローン等による苗木運搬、伐採と造林の一貫作業や低密度植栽、エリートツリー等を活用した造林コストの低減等の取組を積極的に推進する必要があります。
     愛媛森林管理署は、令和元年に愛媛県林業研究センターからエリートツリーの提供を受けたことを契機に、エリートツリーや大苗の植栽が下刈回数の軽減になるかどうかを検証する下刈省力化試験地を令和元年、小田深山国有林に設定しました。植栽から3年余りが経過し、エリートツリーや大苗の成長量や下刈回数の軽減可否が明らかとなりました。エリートツリーの成長量結果は苗木を提供していただいた愛媛県にフィードバックし、民国が連携して新しい林業を推進する必要があります。
     そのため、愛媛森林管理署は、エリートツリーを提供していただいた愛媛県林業研究センターの西原研究指導室長を招いて、愛媛県や地元の内子町、地元の林業事業体(内子町森林組合、久万広域森林組合等)などが参加した現地検討会を令和5年10月12日に開催いたしました(参加者50名)。

     
    〇現地検討会の概要
    (1)試験結果の概要

    下刈省力化試験地の調査・とりまとめを担当した小田第二森林事務所の森林官が試験結果の概要を説明しました。試験結果のポイントは以下の4点です。

    (ア)エリートツリーの樹高成長

     エリートツリーは万能ではない。適地を選んで植栽することが重要。小田深山国有林のような高標高(1,000m)で積雪のある条件下ではエリートツリーの能力は十分に発揮されない(普通苗より低い樹高成長にとどまる)。

    (イ)大苗を植栽する場合の留意点

    倒伏しないしっかりした苗木を選択することが重要。

    (ウ)下刈回数の軽減

     翌年にササ丈を脱する見通しならば、下刈は当年まで(翌年の下刈は行わない)。

    (エ)ノウサギ被害と被害木の生存率

     根元径が6mm以上でコンテナの容量が300ccの苗木はノウサギ被害に強い。


    現地検討会資料(PDF : 3,731KB)



    森林官説明

    試験結果を説明する小田第二森林事務所の森林官

    参加者

    植栽木の成長状況を確認する参加者

    (2)現地での意見交換会の概要

    (ア)エリートツリーの樹高成長が普通苗より低い理由

     エリートツリーの樹高成長が普通苗よりも低い理由について、西原室長は、1,000m近い標高で積雪のある場所であるため、根曲がりが多く発生し、また、成長できる期間が短くなった可能性があること、前生樹は73年生で20mを下回る樹高であり、土地生産力が高い林地とはいえない場所であること、土壌は層位がはっきりしていない未熟土と思われ、A層と推定できる層が薄いこと(標高が高く尾根に近い場所でよくみられる土壌)、などがエリートツリーの成長に影響したと考えられると説明しました。

    (イ)大苗の育苗

     西原室長は、「今回使用されたような一般的な大苗は、コンテナの大きさは150ccであることから、普通苗と同じ密度で育苗し、若干徒長したものではないか。大苗は、水と肥料を多く施用することで仕立てることが可能と思われる。そのため、組織が柔らかい。育苗密度を低くしてハウスの外で育てると木質化しやすくなる。」と説明しました。また、育苗密度を疎にし、2年間の育苗期間で根元径8~10mm、苗高120cmの大苗(根鉢容量は1000cc)を生産した自らの経験を紹介するとともに、大苗の苗高は100cmが現実的(また副次的効果として、ニホンジカが生息する宇和島市にある愛媛県の試験地では、植栽時の苗高が100cmを超える苗では、シカの頂芽食害を免れることができた)と説明しました。更に、「育苗期間を3年とすれば木質化した苗を生産することが可能であるが、コストがかかる。」とも指摘しました。

    (ウ)ノウサギ被害とコンテナの大きさ

     エリートツリーのノウサギ被害木の生存率が100%である理由について、西原室長は、「小田深山国有林に植栽したエリートツリーは、育苗期間中、上長成長をしすぎたためハウスの外に出して上長成長を止め、直径成長と木質化を促した。こうした育苗期間中の措置がノウサギ被害を減らし、300ccという根鉢の大きさが被害後の生存率が高くなった理由ではないか。」と説明しました。
     参加者から、「ハウスの外に出して木質化等を行った期間はどのくらいか。」との質問が出され、西原室長は、「夏から山出しする秋までの期間(約4か月程度)ハウスの外に出しておいた。」と回答しました。
     また、参加者から、「根元径が1cm以上ある苗木ならばノウサギの食害を防げるが、根元径を1cm以上の苗木を生産するとなると、現在の苗畑施設の改良を伴うため、容易なことではない。」との指摘がありました。
     更に、参加者から、「コンテナの大きさによって苗木の成長に差があるのか。」との質問が出され、西原室長は、「他県の研究や調査によると、コンテナの大きさは、150ccでも300ccでも差がないとされている。自分(西原)は両方のコンテナを使っているが、乾燥、ネズミ食害、気象害等のリスクが高い場所に植栽する場合には、300ccコンテナの方が安心がもてる。」と回答しました。

    意見交換会

    現地での意見交換会の様子(右から2人目が西原室長)

      愛媛森林管理署は、今回の試験結果の詳細を四国森林管理局が主催する四国森林・林業研究発表会において発表するとともに、愛媛県の民有林に対して情報共有を行っていく予定です。