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四国森林管理局

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    蔭地山点状複層林における研究者との現地検討会の概要

    令和4年12月13日
    愛媛森林管理署

     愛媛森林管理署は、令和4年11月2日(水曜日)、愛媛県西条市蔭地山国有林の点状複層林(1030い1林小班)(※)において、今後の施業方法を検討するため、森林総合研究所四国支所や愛媛大学農学部の研究者を招いて現地検討会を開催しました。
    その概要をご紹介いたします。

    (※)点状複層林とは、スギやヒノキ単層林を伐採率50%程度で抜き切りし、その跡地に下木を植栽した上下2段の複層林。

    ○愛媛森林管理署管内の点状複層林の現況と課題

     点状複層林は、四国森林管理局管内に約1,200haあり、そのうち愛媛森林管理署管内に約200ha存在します。その多くが下木を植栽してから30年近くが経過するため、上木の間伐による下木の光環境改善が必要な段階となっています。
     しかし、上木の伐採による下木の損傷の程度や光環境の改善の程度など不明な点が多く、これまで上木の間伐等の保育作業は十分に行われていませんでした。
     このため、四国森林管理局では、点状複層林における施業方法を検討するため、上木の伐採による下木の損傷の程度や光環境の改善の程度について調査を行うこととしました。

    ○試験プロット設定と伐採方法

     まず、令和3年度に嶺北森林管理署石原山国有林(高知県土佐町)の点状複層林において、上木の間伐後の(1)下木の損傷割合や(2)光環境の変化について調査を行いました。また、局内に存在する点状複層林の上木と下木の本数割合や林齢、自然条件などさまざまであり、今後の点状複層林の施業方法を検討するためには、様々な条件で多くの事例を収集する必要があることから、令和4年度には愛媛森林管理署蔭地山国有林の点状複層林において調査を行いました。
     愛媛森林管理署蔭地山国有林(1030い1林小班)の点状複層林の概要及び間伐方法は以下のとおりです。

    蔭地山国有林1030い1林小班の概要及び間伐方法

    林地面積 3.21ha
    樹種及び林齢 上木:スギ・ヒノキ 67年生  下木:ヒノキ 28年生
    上木・下木の本数(伐採前)(ha当たり) 上木:638本 下木:1,026本
    全本数に占める上木の割合:38%
    <参考:石原山点状複層林>
    上木:375本 下木:1,349本
    全本数に占める上木の割合:22%
    施業群 複層林施業群
    伐期齢 80年
    標高 750~970m
    間伐方法 通常の列状間伐の実施方法で幅4m(伐採率35%)
    集材方法 全木集材(枝付きの状態)
    ウインチ付グラップル(地引き方式)
    ○伐採後の下木の損傷割合

     下木は、その損傷の程度から10段階に区分しました((1)消失、(2)伐倒、(3)倒伏、(4)幹折れ、(5)傾斜、(6)梢端折れ、(7)樹皮剥離、(8)枝折れ(大)、(9)枝折れ(小)、(10)損傷なし)。このうち、10段階の(1)から(8)に該当する下木は損傷を受けたものとして集計し、損傷率を算出しました。また、損傷の程度が著しく、枯死に至ることが確実と考えられる下木は、予想枯死木として集計し、予想枯死率を算出しました。この結果、蔭地山点状複層林の損傷率は86%、予想枯死率は48%となりました。
     令和3年度に調査した石原山点状複層林の結果と比較すると、石原山国有林の損傷率は50%、予想枯死率は24%でしたので、蔭地山点状複層林の損傷率、予想枯死率は、石原山点状複層林の約2倍程度高い結果となりました。これは、蔭地山点状複層林が石原山点状複層林に比べて、全本数に占める上木の割合が高いこと(蔭地山:38%、石原山:22%)、集材方法の違いによるもの(蔭地山:全木集材(枝付きの状態)、石原山:全幹集材(伐倒後に枝払い))と考えられます。

    ○森林総合研究所四国支所や愛媛大学農学部の研究者の主な意見

    蔭地山点状複層林の今後の施業方法を検討するため、令和4年11月2日(水曜日)、森林総合研究所四国支所や愛媛大学農学部の研究者を現地に招き、現地検討会を開催しました。現地検討会では、研究者の方々から主に以下のご意見が出されました。

    検討会の様子
    研究者らと現地検討会の様子

    (意見)

    • 調査プロットの下木は28年生であるが、平均樹高4m、平均胸高直径7cmであり、成長が悪い(写真(1))。下木は、これまでの28年間、暗いところに適応した葉を出してきた。弱い光でも枯れないように成長を押さえ、ぎりぎりのところで成長と消費のバランスをとってきた。そのような下木は、光があたっても新たな葉を出す余力はないのではないか。広葉樹であれば、既存の葉を落葉させ、新しい葉を出すことで明るい環境に適合することができるが、針葉樹はすぐにそのようなことはできない。28年生で平均樹高4m程度であれば、補植により新しい苗木を植えた方がその後の成長を期待できるのではないか。
    • 明るくなったところから広葉樹が侵入してくる可能性は大いにある。下木の成長を考えた場合、4mの伐採幅では狭い。
    • 当該地の森林帯は、中間温帯林(モミ・ツガを主体にブナ・シデ・カエデ類・ケヤキ等が生息)から冷温帯林(ブナ・ミズメ・ナラ・カエデ類・ウラジロモミが生息)への移行帯。周辺にはミズナラ、イヌシデ、アカシデなどが生息している。ミズナラの種子はドングリであるが、動物が遠方へ運んでくれる。シデ類は風が運んでくれる。当地の下層にはササが繁茂していないため、広葉樹の天然更新が期待できる。
    • 現在までの下木の成長具合を見ると、今後、下木の良好な成長は期待できないと思われる。良好な成長を期待できない下木に対して、損傷率を過度に気にする必要はないと考えられる。
    • 雪害で梢端部が折れている木が見られる(写真(2))。また、枝が枯れ上がっている上木が見られ、上木が混んでいることを示している。このように上木が混んでいる中で下木の成長は難しい。点状複層林の造成に当たっては、上木の本数を減らすことが必要。
      下木の状況写真(1)調査プロットにおける下木の状況 雪害による梢端部の折れ
      写真(2)雪害による梢端部の折れ
    • 土壌を見ると、表土が浅い(写真(3))。台風による根返りした木や作業道法面の土壌断面を見ると、礫が多く土壌が浅いのが分かる(写真(4))。また、林内の広葉樹の侵入状況から考えても(写真(5))、スギ、ヒノキを造林する適地ではないことが分かる。このような場所は、本来の植生に戻していくべき。
      土壌の状況
      写真(3)調査プロットの土壌の状況
      根返り木の根と礫質土壌
      写真(4)根返り木の根と礫質土壌
      広葉樹の侵入状況
      写真(5)広葉樹の侵入状況
    ○愛媛森林管理署が考える蔭地山点状複層林の今後の施業方法

    蔭地山点状複層林は、上木が多いために下木の成長が極端に悪い状況です(下木28年生で平均樹高4m、平均胸高直径7cm)。また、この森林は標高が高く(750~970m)、積雪地でもあり、スギ・ヒノキの雪害が散見されます。
     蔭地山点状複層林の今後の施業方法については、現在のところ、四国森林管理局が定める「複層林施業実施要領」において、下木30年生時に上木を全て伐採し、下木50年生時に現在の下木の下に更に植栽をする施業体系(ヒノキ普通林モデル(大径材生産林以外)となっていますが、上述の理由により、現在の下木が将来の上木になるのは極めて困難であると考えています。
     一方、当該点状複層林の周辺には、シデ・ミズナラ等の広葉樹が多く生息し、下層にササの繁茂がないため、広葉樹の天然更新が期待できます。
     単層林の間伐は5年以内に林冠がうっ閉することが必要であり、伐採幅を広くすることが難しいですが、点状複層林は単層林と異なり、上木を伐採しても一定程度の下木が存在します。こうした点状複層林のメリットを活かし、間伐時の伐採幅を広くすることで、広葉樹の天然更新を促すことが可能と考えています。
     こうしたことから、愛媛森林管理署は、蔭地山点状複層林の今後の施業として、現地の自然条件等を踏まえ、上木の間伐時に伐採幅を広くとる間伐を行うことで広葉樹の天然更新を促し(伐採幅は上木の樹高程度を検討)、徐々に当該地本来の植生に戻していく施業を進めることが適当であると考えます。

    お問合せ先

    愛媛森林管理署
    ダイヤルイン:089-924-0550