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盛岡森林管理署

「署長が語る!」

平成27年12月

盛岡森林管理署

署長  辻 祐司

1  盛岡に赴任して 

     今年の8月初旬、前任地の(国研)森林総合研究所林木育種センターのある茨城県日立市からここ盛岡市に到着しました。その日は、有名な「さんさ踊り」の最終日でした。アパートのカギの引き渡しを受けた不動産会社の店員さんからの勧めもあって、荷物が片付かないままその夜は見学に出かけました。北東北の短い夏を惜しむかのような激しい踊りは情熱的だと感じたことを覚えています。また、盛岡市は県庁所在地のうちで年平均気温が最も低いとのことですから、送別会などでは避暑地に転勤しますと言っていましたが、最高気温が35℃を超える猛暑日が続いたことには、驚きました。

さんさ踊り

さんさ踊り

    さて、盛岡森林管理署は盛岡の中心街からはずれた北山というところにあります。かつて署の貯木場や寮のあったところで、平成13年に盛岡城址の近くにあった場所から移転してきました。この北山と隣接する那須川町(私が住んでいる町)には、多くの寺院があります。江戸時代にこの地を治めていた南部氏が領内各地から有力な寺院を移して、北山の寺院群を形成したといわれています。市の中心から署に通じる寺町通り(旧国道455号線)は、盛岡の美しい街並みを代表し、日本の道100選にも選ばれています。

    また、盛岡最古の東顕寺(曹洞宗)の裏側には三石(みついし)神社があり、ご神体である3つの巨大な花崗岩(三石様)には「鬼の手形」の伝説があります。里の人を苦しめ旅人を脅かしていた鬼が三石の神様に懲らしめられ、「二度と来ない」と誓って三石に手形を押したというもので、「不来方」(「こずかた」と読み、盛岡の古い呼び名)や「岩手」の地名の由来とされています。さらに、鬼の退散を喜んだ里の人々が神様に感謝するため三石の周りで一日中踊ったのが、さんさ踊りの起源ともいわれています。

2 盛岡森林管理署の管轄区域と沿革       

    現在、盛岡森林管理署が管理経営する国有林野は、岩手町、盛岡市、滝沢市、雫石町、矢巾町、紫波町の2市4町に分布し、総面積が約6万2千ヘクタールとなっています。東北一の流域面積と長さを誇る北上川が管轄区域内のほぼ中央をゆったりと流れ、西側に奥羽山脈、東側に北上山地が連なっています。森林計画区域は北上川上流森林計画区です。盛岡市の中心街から北西方向に岩手県の最高峰で岩手片富士とも称される岩手山(2,038m)、北東方向には岩手山、早池峰山と三角関係にあったとの神話がある姫神山(1,124m)、南西には宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の舞台のモデルとされ、雲がかかると雨が降ると伝えられる南昌山(848m)、さらに、管轄区域を外れますが、南東には日本百名山の一つ数えられ、プレートの移動によって4億年以上前のゴンドワナ大陸から分離・移動した岩盤が露出してできた早池峰山がそびえています。 

岩手山

岩手片富士とも称される「岩手山」

岩手山と姫神山

岩手山と姫神山

    また、盛岡森林管理署の沿革をみると、明治初年の地租改正による官民有区分により南部藩の山林等が官林、官有地とされ、民部省から内務省所管、県知事への管理委任を経て、明治21年には農商務省の岩手大林区署が開設され岩手県一円が所管とされました。その後、大林区署の廃止等や署の前身である小林区署等の設置、分割、統合などが行われたようです。署長室にある歴代署長の名札では明治25年8月からの初代盛岡小林区署(派出所)長から始まり、私で54代目になります。近年の統廃合では、平成10年に雫石営林署、11年に岩手営林署が廃止、統合されました。平成23年には管轄区域の整序に伴い、八幡平市(馬淵川上流域)の国有林は岩手北部森林管理署に移管されています。   

3  岩手県の森林・林業・木材産業   

    本来であれば、盛岡署管内の特徴とするところですが、共通点が多いことなどから、ここでは岩手県全体のことを説明します。

    岩手県の森林・林業・木材産業の特徴として、まず思いつくのは、木質バイオマス資源の利用が盛んなことです。薪や木炭の生産量は全国一となっています。「薪割りスト」を自称する県職員の深澤光氏による「薪割り礼賛」(創森社)シリーズがありますし、私の住んでいる街中にあっても薪炭屋さんがあり、軒下に薪を積んでいる民家もみられます。木炭はクヌギやナラなどの黒炭ですが、特に、断面が菊の花のようなクヌギの黒炭は「菊炭」と称され、茶道などに使われる最高級なものもあります。また、岩手県調べ(平成25年度末)によると、チップボイラーの導入台数は全国1位の30台、ペレットストーブは1,767台、ペレットボイラーは53台と、それぞれ北海道に次いで2番目となっています。紫波町では、「オガールプロジェクト」の一環としてチップボイラーによる熱を公共施設や新たに開発した住宅地に供給する事業を行っています。さらに、木質バイオマス発電所も石炭混焼が1所、木質専焼が1箇所稼働し、加えて平成28年に稼働を予定している一戸町の発電所を含め4箇所の木質専焼の発電所設置計画等があります。

オガール地区

紫波町のオガール地区

     このように、木質バイオマス資源の利用が盛んな理由は、県土面積同様に森林面積が北海道に次で全国2位の約118万ヘクタール(総土地面積の77%)と広いなど、豊かな森林資源を背景とした冷涼な気候によるものだと思われます。

     また、林業活動も活発で、平成26年の素材生産量は、1,398千m3で北海道、宮崎県に次いで全国3位です。針葉樹材の主な樹種はスギ、アカマツ、カラマツで、広葉樹材は302千m3と北海道に次いで全国2の生産量です。

     特に、アカマツは、「南部アカマツ」といわれ岩手県の木となっています。また、県北の久慈地方の「侍浜松」、北上川上流部岩手町の「御堂松(みどうまつ)」、県南の東磐地方にある「東山松(とうざんまつ)」などのブランドがあり、かつては住宅用の梁などの建築用材や土木用材、さらには寺社仏閣用材として使われていましたが、現在は松くい虫被害が広まっていることに加え、需要が少なくなっていることが課題となっています。なお、アカマツ林が多いことから、マツタケの生産量も長野県に次いで全国2位となっています。

     さらに、農林水産省の「木材需給報告書(平成25年)」等で岩手県内の木材加工場をみると、原木処理量が年間おおむね1万m3以上の規模の大きい製材工場、集成材工場、合板工場、チップ工場、製紙工場合わせて40工場ほどが稼働し、県内の素材需要量は、平成21年の1,233千m3に比べ、平成25年1,262千m3、26年1,295千m3と増加傾向にありますから、岩手県の木材産業も充実しつつあるといえます。

4  林業の成長産業化

    さて、現在林野庁では、林業を成長産業化するため木材需要の創出と国産材の安定供給に取り組んでいます。林業の成長産業化により、地域の木材関連産業と新たな雇用の場をつくって地方創生につなげていくのが目標です。木材需要の創出については民有林行政を支援して行く一方で、森林を直接管理・経営している国有林の第一の課題は国産材の安定供給となります。 

   また、全国の人工林1千万haの約半分以上が50年生以上の伐採可能な林齢に達し、国内の森林資源は利用期に達しています。このため、従前の間伐の推進に併せて主伐を拡大して国産材を安定供給して行こうという方向になっています。これは、平成25年5月に改正された間伐等特措法においても、温暖化の吸収源対策としての間伐の推進に加え、主伐後の再造林に成長に優れた特定母樹から増殖された苗木の植栽を基本にしたところにも表われています。

    木材を安定的に供給するためには、持続可能な林業経営を確立することが重要だと考えています。そのためには、管理経営する森林の林齢構成の平準化に加え、収入の確保と支出を抑えるための低コスト化がカギとなります。

    まず、木材価格が国際価格となって低迷し今後も上昇が望めない現状において、林業収入を確保するためには、森林から産出される資源を山に放置することなく、丸太のみならず末木枝条を含めたすべてを収入につなげていくことが大切です。このためには、新たな木材需要の開発や搬出の効率化、流通の改善などが必要です。

     次に、林業の低コスト化については、たとえば、伐採搬出の生産性を向上させるとともに利用間伐区域を広げるための列状間伐の実施、伐採・造林の一括発注による地拵えコストの削減、植え付けの効率化を図るためのコンテナ苗の活用、植え付け本数の削減や成長の早い苗木の植栽等による下刈り回数の削減などです。林業の低コスト化は、シカによる植栽木の食害問題(特に県南地域)等があって難しい面もありますが、持続可能な林業経営を確立するためには避けて通れない課題ですので、率先して取り組みたいと考えています。

5 次期森林計画での新たな取組   

     現在樹立の作業を行っている平成28年度からの次期森林計画においては、間伐材積も増えますが、大幅に増えるのは主伐材積です。主伐材積の大半は分収造林、分収育林の契約満期によるものですが、アカマツ林の樹種転換のための伐採も含まれています。

     松くい虫被害を受けたアカマツ林を他の樹種に変えるための樹種転換が行われていますが、この場合は、現在も岩手県内で松くい虫被害が北上している状況を阻止することを目的に、未被害のアカマツ林の樹種転換を行うものです。アカマツがない空白地帯(防除帯)を一定幅造ることでマツノザイセンチュウを媒介するマツノマダラカミキリムシの移動を妨げることになります。造成場所は、岩手県が設定している被害の拡大を防止するための被害防除監視帯の北側で、松くい虫被害が発生しないとされる自然抑制限界値(MB値:月平均気温15℃以上の累積値)以下を示す岩手町の丹藤川の北に位置する四日市国有林と国道4線を挟んだ子抱国有林を考えています。

     また、樹種転換の施業としては、主伐後にササが多く天然更新が望めないためにカラマツを植えるところ、侵入している広葉樹の萌芽更新を図るところ、アカマツの択伐を行い広葉樹の天然更新を図るところなど、伐って植えるだけではない多様な森林づくりを推進することとしています。

     さらに、この樹種転換によって、建築用材としてのアカマツ、原発事故の影響で供給不足になっているシイタケ原木としてのコナラ材、ミズナラ材、木質バイオマス発電所に使えるバイオマス資源などを地域に供給できると考えています。

    未被害地の樹種転換は、国の森林を直接管理経営している国有林だからこそできることだと思っています。樹種転換によって造成する防除帯を効果のあるものとし、地域に少しでも貢献できればと考えていますので、樹種転換を予定している国有林に隣接している県有林や私有林をはじめ地域住民の皆様方のご理解、ご協力をお願い致します。

 

 

<参考資料>

・「岩手県の歴史散歩」(山川出版)

・「もりおかの歴史散歩」(東北堂)

・「いわて木質バイオマスエネルギー利用展開指針(平成27年3月)」(岩手県)

・「岩手の森林・林業概要(平成27年9月)」(岩手県)など

お問い合わせ先

盛岡森林管理署
〒020-0061
岩手県盛岡市北山二丁目2番40号
Tel 019(663)8001 Fax 019(663)8172

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