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青森森林管理署

「署長が語る!」

平成27年11月

青森森林管理署

署長 飯田喜章

1  青森ヒバの特長など 

    我が国のヒバは、8割以上が青森県に生育しているが、これらは「青森ヒバ」と呼ばれ、天然秋田スギ、木曽ヒノキと並んで日本三大美林の一つになっている。

    森林調査データによると、青森県内で約5万4千ヘクタール、約130万立方メートルの蓄積がある。特に津軽半島と下北半島に多く分布し、青森森林管理署管内には、そのうちの約3割ほどが分布している。

     ヒバは、発芽して、旺盛な成長を開始するまでには、長い年月を要し、暗い林内でも、成長を続けることができる生命力を持っている。北国の厳しい気象条件の下で風雪に耐えながら長い年月をかけて育った青森ヒバは、年輪が緻密で美しく、芳香を放つことで知られる。また、他の針葉樹に比べ、細菌やカビ、ダニ、シロアリを寄せ付けず、腐りにくいという優れた性質がある。

 

ヒバの稚樹

暗い林内で成長を続けるヒバの稚樹

    この性質を生かし、弘前城、中尊寺金色堂、青森市森林博物館(旧青森営林局庁舎)、斜陽館(太宰治の生家)をはじめ、伊勢神宮(三重県)、伏見城(京都府)、出雲大社(島根県)、錦帯橋(山口県)、首里城(沖縄県)など日本各地の著名な建築物の築造等に際し、青森ヒバが使用されている。そもそも藩政時代以前から、海運を利用し、日本海沿岸各地に出材されていたようである。

青森市森林博物館

青森市森林博物館

    当然のように北陸地方にも多く出材していたが、現在、北陸地方には「能登アテ」と呼ばれるヒバ林が分布している。この能登アテの由来には、もともと地生していた天然林から苗木をとり成林したとの在来説と、奥州から持ち込まれたとの渡来説がある。渡来説にも諸説あり、奥州藤原氏が能登半島に来訪した際に、源義経が生前愛でていたヒバの苗木を2本持ってきてこれが起源となった説や、ヒバ苗木の移出を禁じていた津軽藩に加賀藩主の前田公が農民に変装した藩士を忍び込ませ、ヒバ苗木を持ち帰らせたものが起源となった説などがある。

    藩政時代には、既に輪島の漆器の木地や金沢の家屋の小羽板として使われていたようであり、由来の真偽のほどは不明だが、津軽から運び込まれた青森ヒバが時を経て地域の伝統や文化の形成に欠かせないものとなっているとすると、大いなるロマンを掻き立てる。

ヒバの家具

ヒバを用いた家具

 

 2 天然ヒバとふれあえる眺望山       

    このような青森ヒバの天然林に間近に接することができる場所が青森市内にある。青森市内から車で約40分ほどのところ、津軽半島南部に位置する眺望山(ちようぼうさん)は、海抜高143メートルほどの山であるが、青森ヒバの美林がうっそうと茂った天然の樹海となっている。また、青森ヒバ以外にも樹齢100年を超えるヒノキ、カラマツ、スギなどの針葉樹や、ナラなどの広葉樹と様々な樹種も見ることができる。 

位置図

眺望山位置図

    眺望山の名称は、大正7年(1918年)に当地を訪れた農商務省山林局長(現在の林野庁長官)が山頂から眼下に望まれる陸奥湾、青森市街地、周囲の山並みを賞賛し、名付けたとされている。かつては、しばしば山火事被害が発生したため、地元では「焼山」と呼ばれていた時期もあり、未だに黒く炭化したヒバの伐根を見ることができる。

    国有林では、地元関係者等の協力も得ながら、山火事防止などに努めた結果、樹木が生い茂り、緑を取り戻していった。その一方、当時の眺望が失われることとなり、惜しまれる声も聞かれたが、平成22年3月に、高さ19メートルの展望台が設置され、再び陸奥湾、八甲田山等の眺望が楽しめるようになっている。(実際の眺望は是非ご自身の目で確かめて欲しい。)

    現在、眺望山の中には、青森ヒバを保護するため伐採などを行わずに手つかずの状態で管理している区域(保護林)と、青森ヒバを守り育てるためにはどのような伐採等を行うべきかを試験研究するための区域(試験地)が設定されており、学術研究のために利用される場所にもなっている。

 

(1)  保護林(眺望山ヒバ植物群落保護林)

     保護林とは、動植物の保護や遺伝資源の保存等を目的として設定された国有林である。この制度は、自然公園法の前身である国立公園法(昭和6年)や、文化財保護法の前身である史跡名勝天然記念物法(大正8年)の制定に先駆け、大正4年に独自に発足させたものであり、以来、国有林では目的に適う区域を保護林に設定し、保全・管理を進めている。

     眺望山では、保護林制度発足間もない大正7年(1918年)に、津軽半島のヒバ天然林を保存して、ヒバの配置や構成、成長の過程を観察し、森林施業の指針とすること等を目的に「眺望山ヒバ植物群落保護林」(現在の名称)が設定されている。

保護林の看板

保護林の看板 

     設定後、伐採等は行わずに自然の推移に委ねた管理を行ってきたため、現在は、樹齢180年から300年生の森林となっており、一部には形質の悪い立木も見られるものの、おおむね原生林に近い「ヒバ」純林で、大径木が多い。また、うっ閉して陽光の射入がほとんどないため、林内は暗く、下層植生は耐陰性の強いツルアリドウシ、ツルリンドウ等のほかヒバ稚幼樹が生育している。

保護林の様子

ヒメホテイラン

保護林の様子(老齢の大径木が多い)

林内に生育するヒメホテイラン

(2)  試験地(穴川沢ヒバ成長量試験地)

     眺望山には、択伐(抜き伐り)によるヒバ林の変化、成長の経過等を明らかにするとともに、生産性が高く、永続的に収穫できるヒバ林を創りあげることを目的に「穴川沢ヒバ成長量試験地」が設定されている。

     この試験地は、ヒバの試験地の中で最も古く、大正3年(1914年)に設定され、大正14年(1925年)には、隣接地に第2試験地も設けられた。

     試験地設定後、前者の第1試験地では6回、第2試験地では5回の択伐を行い、ヒバの成長量の変化等を調査観察してきた。現在の森林の状況をみると、林内はおおむね稚樹から大径木までの多段林型をなし、適度な陽光があるため、下層植生も比較的豊富な状態となっている。また、調査期間中に、択伐によりヒバ材が産出され、有効に活用されている。

試験地の様子

試験地の様子(若木が数多く育っている)

     この試験地について、上記の保護林と比較した興味深い調査結果が出ている。

成長比較

試験地と保護林の成長量比較

     上述のとおり、両試験地では、択伐を繰り返すことによって、調査期間内で保護林を伐採したのと同等程度の量(約500~600立方メートル)のヒバ材を産出したが、残った立木は特段損なわれることもなく、成長を続けていることがうかがえる。

     一方、保護林では、伐採を行わなかったものの、材積の増加がほぼ止まった状況にある。生育している限り立木の成長が止まることはないことから、林内では成長に見合う量の枯死木が同時に発生しているものと推察される。

     以上のことから、青森ヒバは、木材利用の観点からみれば、定期的に択伐を行うことにより、永続的に木材を収穫できる可能性があることが分かり、現在、青森ヒバ林での伐採は、この択伐による方法が基本となっている。

     100年も前にこのことを見越して試験地を設定した先輩諸氏の林野技官としての卓越した見識に頭が下がる思いである。

 

4  おわりに 

    余談になるが、筆者の親族は、能登の出身であり、幼少期に訪れた親戚宅や町中に漂っていた香りは、ヒバ(能登アテ)のそれであったことが、林野庁に勤めるようになって初めて知った。人間の五感の中で記憶と強く結びついているのは嗅覚と言われているが、ヒバは、筆者にとって郷愁を誘う樹木であり、青森森林管理署に勤務することになったことも、縁のようなものを感じている。

   今回紹介を割愛したが、東北森林管理局では、青森県内のスギ林のうち古くはヒバ林だった箇所を、徐々に元のヒバ林に復元していく取組を始めることとしている。短期間で成果が出るものではないが、未来を見据えた夢のある取組だと思っている。

   青森ヒバは、我が国の貴重な森林資源であり、また、地元で大切にされている樹木である。このような青森ヒバを貴重な木材資源として有効に活用しつつ、大事に守り育て、さらには今より良い状態で次世代に引き継いでいくことが、我々の使命と考え、日々取り組んでいるところである。

    機会があれば青森市にある眺望山に訪れ、直接青森ヒバの生命力に触れて頂ければ幸いである。

ヒバの幼樹

未来を担うヒバの幼樹

(参考)
◎ 眺望山へのアクセス(URL参照)

     http://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/policy/business/management/hozen/kyuuyourin-tyoubouzanA.html

 

◎ 眺望山ヒバ植物群落保護林
   1.位  置:青森市大字内真部字内真部山国有林8林班は1・は2・に小班、9林班は・に小班
   2.設  定:大正7年(1918年)
   3.面  積:44.81ha
   4.林  齢:約250年(180~300年)

 

◎ 穴川沢ヒバ成長量試験地
   1.位  置:青森市大字内真部字内真部山国有林13林班ほ・へ小班
   2.設  定:大正 3年(1914年)  第1試験地

                      大正14年(1925年)  第2試験地
   3.面  積:1.10ha  第1試験地

                       8.15ha  第2試験地
   4.林  齢:約190年

 

お問い合わせ先

青森森林管理署
〒038-0011
青森市篠田3丁目22-16
TEL 017-781-0131 FAX 017-766-3775

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