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屋久島森林生態系保全センター

世界自然遺産保全緊急対策事業(森林モニタリング調査の概要)

森林生態系モニタリング調査報告書の概要

森林生態系モニタリング調査は平成5年の世界自然遺産の登録以来、原生的な自然環境を求めて入り込み者が急増し登山道の侵食荒廃、周辺植生の後退等が各所で見られ、原生的な森林生態系に重大な悪影響を及ぼしていることから、世界遺産地域における森林環境保全管理のための基礎資料とすることを目的に、「世界自然遺産保全緊急対策事業」の一環として平成8年度から実施しているものです。

年度

調査項目

調査内容

調査結果と今後の対応

平成17年度

植生垂直分布調査

(ア)屋久島北部の植生垂直分布調査

北部は、他の地域より冬季の温度が低く、その影響で、イスノキが、標高の低い海岸林から出現している。また、天然性のスギやツガが、標高260m付近の低標高地から出現している。下層植生の植被率が少ない。暖温帯林から温帯林へ移行する標高は、おおむね700~800m前後である。藩政期に標高600m以上にてヤクスギの伐採が行われており、切株が多く残されている。

(イ)標高別植生リストの作成

地域別の植生比較を行っているが、気象が相違し地域別の植生垂直分布も相違していることが判明しつつある。今後も継続しより明確にすることが望まれる。一方、追跡調査を行い、経年的な植生変化の把握、林分の発達段階や衰退、更新状況を他の環境要因(異常気象や地球温暖化、酸性雨、動物による食害等)との関連、また、人為的要因(登山者による踏圧等)との関連性を明確にしていくことが必要である。

平成16年度

(1)ヤクタネゴヨウ分布調査

(ア)自生地調査

西部地域、破紗岳南斜面、高平岳南斜面の3地域に自生があるが、近傍のクロマツ林(民有林)でマツ材線虫病被害がみられるので、飛び火による被害の拡大が懸念される。

(イ)西部地域群落の分布状況調査

西部地域の自生地を対象に5年前の分布状況との比較を行ったが、大きな変化はみられなかった。ただし瀬切滝上流左岸岸壁上、大川林道法面下岸壁上に、新たな群落があるとの情報を有識者等からいただいた。瀬切の群落は幼齢木を多く含む群落である。また、大川林道の群落は成木で構成され結実している個体があるとの情報である。

(ウ)群落プロットモニタリング調査

各群落の優先種や群集、出現植生には、あまり大きな変化はみられなかった。また階層構造の状況もほとんど変わらなかった。しかし、草本層だけをみると、明らかに出現種や本数が少なくなっており、低木や草本等下層植生に対するヤクシカ食害の痕跡が頻繁にみられた。また、ヤクタネゴヨウの稚樹も食害を受けているとの有識者からの情報もあり、各プロットに2年以上の稚樹が見られなかったことからも、ヤクタネゴヨウにもヤクシカ食害による更新阻害が起きているものと思われる。

(エ)単木モニタリング調査

計68本(枯死木も含め)の単木モニタリング木の内、この5年間で変化がみられたものは3本である。いずれもマツ材線虫病によると思われる太枝枯れが進行しており、今後の経過が心配される。前回調査時にも確認されていたが現地の巡視を頻繁に行い、何らかの被害が予見された際には早急に対応を講じる必要がある。

(2)植生垂直分布調査

(ア)屋久島西部の植生垂直分布調査

5年前の調査結果と比較した結果、群落内の植生に大きな変化は見られなかった。草本層はヤクシカによる食害を受けており、優先種に多少の変化が見られた。以前は、サクラツツジやヒサカキ、タイミンタチバナなどの稚樹が優先していたが、今回はホソバカナワラビ、ウラジロ等のヤクシカが食害しないシダ植物が優先していた。標高0~100m程度には、ガジュマル、アコウの高木が出現し、100~500mには、マテバシイ、タイミンタチバナの高木が多く見られる。400~1,000mには、主にイスノキの高木が優先的に見られるが、320~760mの尾根部に限定すると、所々でヤクタネゴヨウが優先している。1,000m前後にはイスノキの大木が多く見られるが、1,100m前後になるとスギの高木が、1,200m前後ではツガの大木が優先的に見られる。森林限界(1,300m)付近では、湾曲したスギの亜高木が優先しているが、出現樹種の多様性は少なくなってくる。

(イ)標高別植生リストの作成

平成15年度

(1)動物生息等文献調査

屋久島全域

屋久島における各種の動物研究調査をもとに、屋久島の森林環境等生態系との関連をモニタリングする基礎とするための文献調査を実施し、リストを作成した。

(2)植生垂直分布調査

尾之間・湯泊周辺の標高200m地点から鈴岳・鳥帽子岳周辺の標高200m~1,600m地点及び大川・田代海岸林(31~32、38~39、43~45、49~54、60林班)

尾之間・湯泊周辺の標高200m地点から鈴岳・鳥帽子岳周辺の標高1,600m地点までの植生垂直分布を、標高差200m毎に調査し、登山者等による植生への影響及び荒廃植生の垂直方向における植生復元動態を検討した。また、屋久島東西の海岸林植生を検討するため、大川の滝風景林及び田代が浜風景林(いずれも標高3~5m地点)の植生を調査した。

(3)高層湿原モニタリング調査

花之江河及び小花之江河(22・82林班)

花之江河及び小花之江河の現況調査(流入推積土砂量調査と植生プロット調査)を実施し、平成12年度調査との比較検討を行い、湿原保全対策事業(平成13~14年度に実施)の効果を把握するとともに、今後の課題を検討した。

平成14年度

(1)入込み者の実態調査

屋久島世界自然遺産地域

屋久島世界自然遺産地域における利用動向の現状を調査し、過去(平成4~10年)の調査結果との比較検証を行い、そこからあきらかとなった課題・問題点との対応策の検討を行った。

(ア)屋久島入島者、観光客数の把握

(イ)自然休養林の利用実態

(ウ)登山届の集計と解析

(エ)その他のデータの収集

(2)植生垂直分布調査

大王杉付近から宮之浦岳山頂まで(18~19、97~99、228~230林班)

大王杉周辺の標高1,200m地点から宮之浦岳山頂の標高1,936mまでの植生の垂直分布を標高差200m毎に調査し、自然植生の垂直分布を把握するとともに、登山者等による森林生態系への影響等を検討するため、登山道周辺の衰退樹木のモニタリングを行った。

(3)縄文杉の経過観察調査

縄文杉周辺付近(99林班)

平成11・12年度に実施した縄文杉の樹勢及び植生回復事業における樹勢回復状況及び周辺植生の回復状況、並びに周辺土壌の回復調査(土壌動物調査も含む)を実施し、事業効果を検証するとともに、今後の課題等を考察した。

平成13年度

(1)入込み者による生態系への影響調査

花之江河・小花之江河湿原に関する調査

12年度の提言に基づき、登山道の整備計画、湿原の基礎調査を実施。登山道の整備計画は、小花之江河から淀川口方向216m間と、小花之江河から花之江河に向かう124m間について、土砂流失防止、貯砂対策等生態系保全に配慮した整備計画とした。また、湿原の基礎調査として、水位観測、土壌、植生水生動物について調査を行った。

(2)植生の垂直分布調査

 

愛子岳東斜面の垂直分布調査

11年度に実施した国割岳西側斜面の植生分布調査結果と比較すべく、愛子岳東斜面の植生垂直分布の実態を明らかにした。

(標高200~1,000m)

標高差200m毎に0,05haのプロット設定し、林床層から高木層までの全植生調査を実施。低標高では、国割岳西側斜面に比べて愛子岳東側斜面の高木層・低木層の発達が顕著であった。国割岳西側斜面に比べて愛子岳東側斜面のほうが一般に植被率が高く、標高800mから温帯林の要素の高い種が多く出現していた。また、稚樹の出現状況は愛子岳が多く、垂直分布の推移に現れている。

平成12年度

入込み者による生態系への影響調査

(ア)花之江河・小花之江河の現況調査

現地検討を含む検討委員会実施し、地形地質、気候、水質、入り込み者数、の概況調査及び、湿原区域の水流,植生群落分布、固定プロット内の植生、土砂の堆積状況、土砂の発生源の現況調査を行う。

(イ)平成9年度調査時点との比較

急激な変化は見られないものの、流入する土砂の影響で湿原範囲の減少、植生の変化等がみられる。また、湿原内の木道による環境変化の危険性がある。

(ウ)今後の対応についての提言

恒常的土砂堆積地については、湿原全体の環境に影響を与えない程度の土砂除去、発生源である登山道のあり方や流入防止設計調査、湿原内木橋の詳細な検討調査等について保全対策を提言。

平成11年度

(1)植生の垂直分布調査

国割岳の植生垂直分布調査

標高差200m毎に0,1haのプロット設定。林床層から高木層までの全植生調査。

(標高0~1,000m)

 

(2)ヤクタネゴヨウの保全

分布域及び群落分布調査・群落地の植生調査

分布域及び生育地の環境などについて調査、保全対策の基礎資料とする。

(3)屋久島西部海岸地域の利用

利用状況・現状把握・今後の課題

年間500人に満たない状況で、自然環境に与える影響はほとんどないといえる。森林及び利用施設の管理・整備にはあまり問題はなく、ゴミの投棄等利用者のマナー向上を図る必要がある

(4)水質調査

林外雨と渓流水の水質調査

森林生態系に及ぼす酸性雨の影響調査を行うため、継続して水質モニタリングを行う。

林外雨のpHは標高が高いほど高く、EC値は逆である。秋季と冬季はpHが低く、高いEC値を得たことは北西風により運ばれた大陸起因の降下物であることが考えられる。

平成10年度

(1)屋久島国有林の森林施業

(ア)国有林の現状

(イ)国有林の森林施業

(ウ)国有林の利用

(エ)今後の森林施業

国有林におけるこれまで取り組んできた森林施業、森林、森林資源の利用状況等について調査し、今後の森林施業ついての方向付けを調査。

(2)屋久島における天然林施業

(ア)天然林施業の考え方

(イ)小面積皆伐施業について

(ウ)群状択伐施業について

(エ)施業方法ついての検討

群状択伐、小面積皆伐箇所の天然更新状況を調査することにより、今後の森林施業方法等のあり方を検討。

(3)水質への影響調査

林外雨と渓流水の水質調査

平成9年度に引き続き調査。

火山や大陸起源の酸性降下物が、本土並みの酸性雨であることを示唆。

平成9年度

(1)入り込み者の実態調査

(ア)屋久島観光の歴史と近年の動向

8年度に引き続き調査データを追加し、入り込み者の実態調査を行う。入り込み者は一過性の可能性も考えられるが、長期的に見れば現水準を維持すると考えられる。

(イ)森林地帯の利用実態

(ウ)屋久島観光の全体像と森林の観光利用

問題点としては、踏み荒らしによる裸地化が増加しているなかで、入山規制や施設の改善が必要である。

(エ)入り込み者による問題点と自然環境悪化防止のための方策

入り込み差が増加している実態から、定期的なモニタリングが必要である。

(2)入込み者による生態系への影響調査

(ア)植生への影響調査

登山道及びその周辺の植生への被害調査を実施するとともに湿原植物リストの作成等を行う。

(イ)水質への影響調査

調査結果、湿原植生は単純で蘚苔類が大部分を占めている。 調査時期が晩秋であり、データの充実を図るためにも追加、継続してのモニタリングが必要である。

林外雨、渓流水の水質モニタリングを前年度に引き続き行う。

平成8年度

(1)入込み者の実態調査

(ア)屋久島観光の歴史と近年の動向

屋久島全体の観光歴史と近年の入り込み者の動向を調査すると供に、各種アンケート等の収集分析を行った。

(イ)自然休養林の利用動向

 

(ウ)登山者に関する調査

遺産地区への入り込みは一定の増加を見せ減少する可能性は今のところない。

(エ)森林の観光利用

 

(オ)入り込み者による問題点と自然環境悪化防止のための方策

問題点として、登山者が一時期集中、歩道の踏み荒らしによる裸地化が増加している。

(2)入り込み者による生態系への影響調査

(ア)植生への影響調査

大株歩道は利用者が多く蘚苔類も生育していない状態である。淀川歩道についても、歩道から流出した土砂が湿原に堆積、植生の変化が見られる。人工的に植生を回復することは難しく陽光の通る木道を設置するのが得策である。裸地化した箇所については、木道かデッキ等の設置が必要でないか。また,植物の盗栽防止と帰化植物等の侵入・生育区域拡大阻止を図るため定期的なモニタリングが必要である。

(イ)森林土壌への影響調査

森林土壌への影響調査については、ウイルソン株・縄文杉周辺における入り込み者による踏み圧等について森林内との比較、影響等について調査。新たな踏み圧にる森林土壌変化の防止、縄文杉周辺のヘドロ状土壌除去及び排水が必要である。

(ウ)水質への影響調査

予想される入り込み者増大による水質への影響を解析するため、モニタリング初期値を得ること。本土並みの酸性雨が降っている。

水質に及ぼす影響を解析するためには継続的なモニタリングが必要であると提言。

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